転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

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エピローグ

8-16 弓を呼ぶ

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 話題が一段落つくと、墨砥ぼくとは大慌てで作業場を出ていった。康乃やすのから剛太ごうたに継承された藤生ふじきの力を確認するためである。
 図らずも父親に置いていかれた瑠深るみは少し場違いな気もしたが、八雲やくもに声をかけた。
 
「それで、新しい弓はできそうなの?」
 
「うむ。この二つのやじりを使ってぬえの妖気と慧心弓けいしんきゅうの神気を硬鞭こうべんから取り出す算段はついた」
 
 すると横から皓矢こうやが少しウキウキしながら口を挟む。
 
「弓本体はどうするんです?」
 
「まさか、一から作る……の?」
 
 はるかも薄々勘付いていた不安を口にした。
 
「それが希望ならそうするが、三ヶ月以上かかる」
 
「やっぱり……」
 
 がっかりと肩を落とした永の横で鈴心すずねも残念そうにしていた。
 
「そんなにかかるものなんですね」
 
「竹曲げて、糸張ればいいだけなのにか?」
 
 蕾生らいおの迂闊な認識に、永が烈火の如く怒った。
 
「ライくん、なんてこと言うの!大昔の野蛮人じゃないんだよ!?職人さんへの侮辱です、謝りなさい!」
 
「す、すいません……」
 
 だが八雲は涼しい顔で言ってのける。
 
「別に構わないが、一から作るのは最終手段だな」
 
「他に方法があるんですか?」
 
 鈴心の問いに八雲は軽く頷いた。
 
「ここは眞瀬木ませきが誇る武器工房だ。あらゆる武器の基礎まで作成したものは常にストックがある」
 
「え、じゃあ、弓も!?」
 
「もちろんだ。仕上げだけを残して作ってあるものが数本ある」
 
「うひょー!」
 
 永はいつになく興奮しており、蕾生は思わず一歩引いてしまった。実はさっき怒られたのがだいぶ効いている。
 
 両手を上げて喜ぶ永に、八雲は工房の奥を促した。
 
「その中にお前の手に馴染むものがあればそれを譲ろう、こっちだ」
 
 永はスキップでも踏むような足取りで八雲についていく。
 奥の間は完全に倉庫化しており、所せましといろいろな道具が置いてあった。
 
 弓や杖、それから短剣などの武器はもちろん、衣服や一見日用品に思える皿や花瓶などあらゆる物品が棚に敷き詰められていた。
 それでも雑然とした感じはなく、埃っぽさも感じられない。清浄な空気が満ちていた。
 
「これは、壮観だね」
 
「すごいです。全部八雲さんが作ったんですか?」
 
 そこに入るなり、皓矢と鈴心は棚をぐるりと見回して感嘆の声を上げる。
 しかし、八雲は平然と頷いただけだった。
 
「そうだが。弓はここだ」
 
 倉庫部屋の奥、棚の中に整然と立てられた数本の弓があった。永はそこに近づいて溜息を漏らす。
 
「わあ、結構ありますね。どれがいいんだか……?」
 
「まず真っ直ぐ立って目を閉じ、精神を集中しろ。そうすると見えてくるものがある」
 
「はあ……」
 言われて永は背筋を伸ばし、目を閉じた。
 
「……」
 屋内なのに空気が綺麗だ。心が落ち着いていくのがわかる。
 
「……」
 目を閉じているけれど、何かが見えた。小さな灯りが呼んでいる。
 
「……あ」
 
 永はそこで目を開けて、棚の中から迷いなく一本の弓を取り出した。
 まだそれは剥き出しの竹だったが、不思議と手に馴染む感覚があった。
 
「これ、気になるなあ」
 
「ふむ、それか。さすがだ」
 
「え?」
 
 八雲は無表情だが、その言葉は確実に満足しているようだった。それで永は期待を込めて次の言葉を待つ。
 
「それは去年作ったものだが、最近では一番納得した出来のものだ」
 
「やった……」
 
 永は手にした弓に既に愛着のようなものを感じていた。
 
「さすがハル様です」
 
 鈴心も喜びながら永を褒め、蕾生も永ならこれくらいは当然と言わんばかりに大きく何度も頷いた。
 
「では早速始めましょう。すみませんが僕もあまり時間がなくて……」
 
 腕まくりで皓矢が八雲を促すと、八雲も振り返って静かに頷く。
 
「む。そうか、そうしよう」
 
「わくわく!」
 永は擬音をわざわざ声に出して、期待満面の笑みで二人を見ていた。







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