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第995回。松山座「田上百花繚乱」第五試合(ノーカット版)

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第五試合せみふぁいなる
CHANGO選手
寧々∞D.a.i選手
VS
葛西純選手
前田誠選手
の、タッグマッチ30分1本勝負。

この試合に出場しているCHANGO(チャンゴ=スペイン語で「サル」という意味)選手も私の先輩で、座長と一緒に寮でお世話になった方です。
バスに乗って市場に連れてって頂いたら、まさにその時に警察の手入れが来て店がぜーんぶ向こうの方から
バタバタバタバタ!
と一斉に閉店して、さっき買ったチュロス屋さんも閉まってて
オイオイこれ食って大丈夫なのか!?
ってなったのはいい思い出です。
普段は無口で大人しく、おっとり話してあまり大きな声も出さない優しい先輩でした。が、リングに上がると豹変。ズルくて憎たらしくてチョコマカ動き回って試合の邪魔をしたり、流れを変えたり、味方にいたら頼もしいけど絶対テキにしたら厄介なタイプのルチャ・ドールに。
パートナーには寧々∞D.a.i選手。美人男性ストリッパー、女装の麗人というのはこの方のためにある言葉みたいなひとです。近くを通るといい匂いがする。
小仲選手の時にも触れた己を磨く戦いという意味では、寧々選手の場合やはりその美貌のキープも一つ重要な要素となっているわけで。
アンチエイジングどころか若返ってるような気さえします。
美人でカッコよくて可愛いという三拍子そろった異色のプロレスラー。
この美獣コンビは中々の強敵だと思います。
入場してくるなりスプレーをシューシューするCHANGO選手。あれは殺虫剤だろうか…?

対するはデスマッチのカリスマ、生きる伝説、秋葉原のファイヤーデスマッチ以来の大ファンである葛西純選手。あのゴウゴウと燃える炎の中でミスター・デンジャーこと松永光弘さんをパートナーに黒パンツ一丁で出場しただけでも今考えたら凄いのに、ザンディグとニック・ケイジを相手にトラックから飛び降りた、あの瞬間が文字通り目に焼き付いています。
そんな葛西選手のパートナーには新潟プロレスのエース、シマ重野選手を破って第8代新潟無差別級王者に君臨した前田誠選手。
カリスマと新チャンピオンの揃い踏みがセミファイナルで実現。
確かに豪華なタッグだ、でも正直言えば先輩だから持ち上げるわけじゃないけどメキシコでデビューし日本各地で場数を踏んでるCHANGO選手と寧々選手のコンビネーションや経験の差が如実に出た時に、葛西純選手だけではタッグマッチは勝てないと踏んでいた。
実際に試合が始まるとCHANGO選手が葛西選手を挑発。
「スプレーをチェックしろよ!」
と流石にアイテムは目ざとく見つけると
「お前なんか体、傷だらけじゃねえか!」
「これは生まれつきだ!気にしてるんだよ!!」
「なんか、ごめんな!」
と丁々発止のやり取りを展開。この二人は噛みあうかもしれない…リング上でじっくりとお互いの力量を確かめ合い、サルみてえな顔だな、と意気投合?してお互いにタッチ。
注目の新チャンピオン・前田選手が登場。かなり引き締まったボディにシンプルなタイツ。チームカラーがオレンジで選手もカラフルな新潟プロレスにおいて異色の選手かもしれない。
試合では手厳しい攻撃で寧々選手を攻め立てるが、やはり機を見て反撃させると脆さが出た気はします。倒れるときに他の選手の上に崩れるように乗っかっちゃったり、少しバタついているように見受けられた部分もありました。

リングって上がってみると意外と広くて、でも転んだり倒れたりするとすぐロープに当たっちゃって結構怖い。何気なくバンバン飛んだり跳ねたりしてるけど、実は自分の立ち位置や相手・ロープ・コーナーポストとの距離、空間が正確に把握できてないと試合どころじゃないのです。ロープからロープに走る練習を延々とやったことが少しだけあるけど、そうやってあらゆる動作、身のこなしを体得しなければプロレスリングは出来ないのです。
だからリングに上がってるだけでもプロレスラーは十分凄い。
だけど新チャンピオンなんだし、もっと堂々としていて欲しかったかな、とも思います。
とかく見た目が派手で、何かと技の数や動きの華やかさを逆に批判するオールドファンというかすでに外野になってる連中は、しかしこうした前田誠選手みたいに地味と言われていた技を自分のものとして試合に活かし人気を得ている選手のことは知らないか、アツくなって最近のプロレスは~と始まった時には忘れちゃってるか、知らんふりしてるかで話題に出ない。
猪木さんだって馬場さんだって長州さんだってタイガーマスクだって、あの頃は派手で新しいプロレスラーだったんだぞ。だからもうその時点で
最近のプロレスは学芸会だのお遊戯会だのいう誹謗中傷
は全くもって的外れ、本当に筋違いの言いがかり以外の何物でもないと断言できる。
昔のプロレスばっかり良かった良かった言う人は、今でも少なくない。どこにでもいる。前田誠選手の試合ぶりは、そういう昔ながらのスタイルが好きな人にもいいと思うし、逆に言えば現在(いま)のプロレスにある意味で安心しているファンの人にも、プロレスリング本来の激しさ、怖さ、痛みをより浮き上がらせてくれるのではないかと思います。もっとシンプルで、堂々とすれば、鈴木みのる選手みたいな感じになるのではないかと…。
そういう強大なライバル、壁は団体に欠かせない存在でもあるわけですし、この試合である意味で異質な対戦相手、そしてパートナーと遭遇した前田選手の今後には非常に期待が持てると思います。

葛西選手はと言えばマイペースで、お客さんにCHANGOコールを要求しておいて
うるせえ!
と凄んだり、寧々選手の応援をしている最前列のファンのとこにおりてきて
「だぁれの応援をしてんだあ!?」
と迫ったり。というか私の隣の女性ファンのとこに来たのでフツーにビビりました。
試合もCHANGO選手と寧々選手の合体攻撃、さらにCHANGO選手の見事なプランチャ・スイシーダを耐えきってリング内へ。
中指を立てて挑発するも、その指をガブリと噛まれ悶絶。
「指、とれるじゃねえか!」
って確か葛西選手、ちょっと前にホントにちぎれかかってたような…しかも中指だったよな…
改めてデスマッチのカリスマの偉大さを痛感する一幕でした。
その後はコーナーポストのカバーを外して、アオーレ長井レフェリーを巻き込んでのぶつけ合いを経て、一度はCHANGO選手がリバースタイガードライバーを堪えるものの(この技も平成インディープロレスファンにはアツい技です)
最後はズバリと決めてコーナーに登って
シェー!
そして
シュワッチ!
のパールハーバースプラッシュで葛西選手が勝利。

王者とカリスマはお互いにリスペクトを表しリングを降りました。
寧々選手のスピード感やCHANGO選手のズルさ、前田選手のテクニックと手厳しさ、そして葛西選手の千両役者ぶり。
渾然一体を成すセミファイナルでした。

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