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6.章魚焼風流記 前編
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ビックリした。屋台の商いなんてのはホントに色んなお客が来るもんだが……まさかホントにモノホンのサムライが来るとはね
「拙者にも、其れを一つ所望いたす」
いまビニール製の庇の下で、そんな風な言い回しでたこ焼きを買いに来ているのは紛れもないサムライだった。世界のミフネが椿三十郎のロケ中に抜け出して、役になりきったままオヤツを買いに来たと言われても納得しかねない。そんぐらいサムライ
「あの、ソースとマヨネーズはおかけしても? 青のりとカツブシはセルフですので」
そしてこのシロー、おれの相棒も相棒で全く動じることなく接客している。まあ、シローの場合は本人も本物の死神だったうえに一度おれの命を狙って奪おうとしてたのが気が付きゃたこ焼きの屋台を切り盛りしているんだから、自分の方がよっぽどなんだろうが……
「鰹節か、かたじけない」
細いが節くれだって固そうな指先で、タッパーウェアに入った鰹節をむんずと掴んでパラパラっとかけて満足そうなサムライ。それで、心配なのは
「三百円で御座いやす」
つい古典落語のアキンドみてえな口調になっちまう。果たしてお勘定は払えるのか、時間を聞かれたら気を付けねえと
「む、勘定であるか」
オイオイ、ホントに一文銭とか一分銀とか出さないでくれよ……
「銭が細かい、手を出してくれ。失礼仕る」
ひい、ふう、みい……と革の財布から取り出したのはちゃんと十円玉だった。でも、三百円全部十円玉で払うつもり? いいけど……
「いま何時だ」
「おっと、時そば かい?おサムライさんよ」
「お見通しであったか」
「まさかと思ってたらホントにやるんだもんよ」
「こりゃ一本とられたわい」
呵々と笑ったサムライは顎髭をざりりと撫でながら残りの勘定を百円玉と五十円玉を交えて済ませた
「なあ、おサムライさんはホントに武士なのかい?」
「如何にも」
「どっから来たの?」
「三河国であるが」
地元民かよ。まあ県知事からしてコスプレしてるからあながちあり得なくはねえか
「手前は神田詩郎、そちらのお名前は……?」
「拙者、酒井正次郎親保と申す」
あら、存外フツーの名前だぞ、絶対もっと十文字八宝斎とか言うと思ってた。おお、しかし流石に食いっぷりがいいな。箸の使い方も綺麗だし、あっという間にハフハフ言って平らげちまった。お腹、空いてたんだなあ
「酒井殿、お味の方は如何で御座ったか」
「まこと美味なることこのうえなし」
「そりゃよかった! おサムライさんにも気に入ってもらえてうれしいや」
「馳走であった、それでは御免」
「おっと、ソイツは捨てておくよ。また来てくんな」
食い終わったパックを受け取ってゴミバケツに放り込むと、なんだかウソみたいな話に思えて来て思わず吹き出してしまった
「ふ、ふふっ」
「くっくっく……」
「はーっはっはっは!」
「アハハハ!!」
「おいシロー、聞いたか。ホントにおサムライさんだったぞ」
「まあ死神も居るぐれえだ、サムライだって居るだろ。しかし可笑しかったな」
それにしても、だ。幾ら不景気で追い詰められてる人も居るったってド平日の真っ昼間から世界のミフネ顔負けのサムライが闊歩しているとなると、いよいよ世も末か……一体何処をどうぶつけたらサムライになって街を歩いて公園の屋台でたこ焼きなんか食おうと思うんだろうか。不思議な人も居たもんだ
「アンタあのサムライがホンモノだと思うかい?」
「ええー? さあーな。シロー、おめえは?」
「俺は案外ああいう奴はホントに寛永五年ぐらいから来ちまったんじゃねえかと思うんだけどよ」
「バカ言えー、アイツちゃんと百円玉で勘定してったぜ?」
「そらアンタ郷に入っては郷に従えって昔から言うだろ」
じゃるり……
「おっと、お客さんだよ。シロー」
ぐじゅるじゅる……
「へい、いらっしゃいやし!」
コイツ、まだお江戸ごっこが名残ってやがる。まったくしょーがねえ……な……?
「むべがべば」
「えっ」
「へ?」
「がぶヴぐぶー」
屋台の前に突っ立っていたのは、上半身は筋骨隆々な裸の男性。下半身は人間の足らしきものが真ん中から二本生えてて……その周りにスカートみたいにタコの足がぐるっと生えてぐねぐねじゅるじゅると蠢いている。そして顔はというと
「どぶぐぶヴー」
タコ・ソ・ノモノ。嘴がひょっとこのようにニューっと虚空に突き出て、
縦になった金色の目玉がギロリと光り、巨大な後頭部がでろりと背中まで垂れている。首らしき部分は見当たらず埋もれているのかそもそも無いのか。それはわからない
「シロウ!」
「うお! ビックリした」
「お、お前にも……見えてるよな」
「アンタこそ……その白い粉は、小麦粉だよな……?」
「がーーーーぶぐヴーーーーーーーー!」
「わーっ!」
「ホンモノだっ!」
「ホンモノってなんの!?」
「た、た、た、タコ人間!!」
「ごげぐぶーー!!」
謎のタコ人間は有無を言わさず、鋭い嘴をジャキっと伸ばしてシロウの顔面を狙ってきた。同時に顎の辺りからもタコの脚みたいな触手を何本も出しておれに向かって伸ばして来た。じゅるじゅる、と空気と粘膜が摩擦する音がする。おれは咄嗟に手元にあった包丁を取り出して、そのうちの一本に突き刺した
「ぎゅーーーー!!」
「このやろう!」
シロウはシロウで伸ばしてきた腕で首を絞められながらも、長く伸びてたるんだその触手状の腕をすっかり火が入ってチンチコチンになった鉄板に思いっきり押し付けた
「ぐむゅーーーーー!!」
辺りにシーフードBBQの香ばしいにおいと、異形の放つ断末魔が同時に放たれた。タコ人間がひるんだ、今だ!!
おれたちは慌てて屋台から飛び出して、晴れ間に向かって呑気に伸びる遊歩道を転がるようにして逃げた。百メートルほど真っすぐ走ると茂みのある森の小路だ。そこで二手に分かれて椿の植え込みの陰に隠れた。シロウは大きなクスノキの後ろの回ったらしい
「おい、シロウ! どーする!?」
「知らねえよ、アンタこそどーする!?」
「知らねえよ!」
大体、何だっておれたちが突然こんな目に……!? たこ焼き焼いてただけなのに……たこ焼きの屋台でタコ人間に襲われるなんてそんなリスク……たこ焼き、リスク……
「あーーっ!」
「どしたー!」
「ガス! テッパン!」
火の始末をしてなかった、当たり前だそれどころじゃねえ
「あーーっ! やっべえ」
「おいシロウ、お前行って消して来いよ!」
「は!? なんで!? アンタの屋台だろアンタが行けよ!」
「お前こういう時は弟子が行くもんだろうがよ!」
「だから俺はアンタの弟子じゃない!」
「だーっ! うるせえ、おれがあのタコ入道を引き受けてやるからお前行け!」
「優しいな! よし任せた!!」
「ぐぶじゅるるるる……」
「ぎゃーー! 来たーー!」
茂みの上からぬっと顔を出したタコ人間は全身をぬらぬらと濡らし、その粘液がお日様に当たって鈍く輝いている
「このタコ野郎、タココラ! ナニコラてめえ」
とりあえず怒鳴りながら近くにあった太い木の枝やこぶし大の石ころを投げつけてみるが、表面の粘液とゴムのような体には全く通じなかった
しまったな、屋台になら包丁ぐらいあるのに。やっぱりおれが行けばよかった……! 迫りくる触手を振り払い、掻い潜って逃げる。幸いにも足は遅いらしく逃げきれないことは無さそうだ。だが何処まで逃げてもしっかり追ってくるから、これじゃキリがない……白昼の公園、いつもと変わらない風景、そこにたった一人タコ人間が立っている。それもこちらに対して殺意を剥き出しにして。一体どうしてこんなことに!?
「がぶぐじゅーー!」
「ぎゃー!」
走り疲れてよろけた足に、長い触手を巻き付けられた。そのまま引き摺り倒されてグイグイと引っ張られる。コレじゃ食われる、殺される……畜生、どうしてくれよう……!
近くにあった太い椿の枝にしがみ付いて踏ん張るが、既に枝からはミシミシと嫌な音がしている。コイツが折れたらおしまいだ。思わず天を仰ぐと、明るい陽射しが呑気に燦燦としてやがる。これまでか、と思ったその時。巻き付いたタコ人間の足の一部が爛れているのが見えた。そうか、さっき鉄板で火傷したんだ! あそこなら……!
チャンスは一度、必死で息を整えて辺りを見渡す。手の届きそうなところに丁度良さそうに尖った石がある。アレだ
「ぐぶぐぶぎゅるじゅー」
「黙って聞いてりゃフガフガ言ってやがって馬鹿野郎、コレでも喰らえ!」
いち、にの、さん!
今にも折れそうな椿の枝からいっぺんに手を放し、タコ人間がバランスを崩した隙に尖った石を引っ掴んでそのままの勢いで火傷の痕に突き立てた
じゅぐにゅっ!
とイヤーな感触をそのままオノマトペしたような音がして
「がぎゅぐーーーー!!!!」
濃すぎてどす黒く見える青い血液をドクドク流しながらタコ人間が苦しみ悶える。嘴から汚い、カスやゴミの混じった墨をブシューーと漏らして、金色の縦型眼がバチバチ瞬く。涙によく似た潮水を垂れ流して、激痛に身をよじって、八本の足がくるくると先端を丸めて痙攣する
見ているうちに段々と腹が立ってきた。そもそも、コイツは一体なんなんだ、何でおれたちがこんな目に。たこ焼き焼いてただけなのに
「ぐぶー、ぐぶー」
まるで哀願するように後ずさり敗走の構えを見せるタコ人間がクルリと後ろを向けた瞬間、さっきの尖り石を柔らかい後頭部に向かって思いっきり突き立てた
ごちゅっ!! と、どちゅっ!! の混じった凄い音がして、破れた後頭部から濃紺の体液に満ちた脳髄へ石ごと右手がめり込んだ。冷たく、とろみを感じるタコ人間の頭内をかき回すように右手を滅茶苦茶に動かした。ぶち、ぷち、ぶちゅ、と手触りだけで色々な筋や器官が千切れたり潰れたりしているのがわかる。脳を破壊されたタコ人間は金色の眼をひっくり返して、嘴の先からハンドソープのように泡を吹きながらその場に卒倒して絶命した
しばらくピクピクと痙攣していたが、すぐにそれも止まった。自分の体液で体を少し浸すようにして、力無く垂れ下がったやたらと多い脚が くたん と折れ重なっている
「終わったか……」
おれは荒い息をゼエゼエと漏らしながらも、まだ倒れたタコ人間から目が離せなかった。今にもガバっと起き上がって襲い掛かってくるような気がしてならなかった。だがそれ以上に、屋台に向かったシローが心配でもあった──
「拙者にも、其れを一つ所望いたす」
いまビニール製の庇の下で、そんな風な言い回しでたこ焼きを買いに来ているのは紛れもないサムライだった。世界のミフネが椿三十郎のロケ中に抜け出して、役になりきったままオヤツを買いに来たと言われても納得しかねない。そんぐらいサムライ
「あの、ソースとマヨネーズはおかけしても? 青のりとカツブシはセルフですので」
そしてこのシロー、おれの相棒も相棒で全く動じることなく接客している。まあ、シローの場合は本人も本物の死神だったうえに一度おれの命を狙って奪おうとしてたのが気が付きゃたこ焼きの屋台を切り盛りしているんだから、自分の方がよっぽどなんだろうが……
「鰹節か、かたじけない」
細いが節くれだって固そうな指先で、タッパーウェアに入った鰹節をむんずと掴んでパラパラっとかけて満足そうなサムライ。それで、心配なのは
「三百円で御座いやす」
つい古典落語のアキンドみてえな口調になっちまう。果たしてお勘定は払えるのか、時間を聞かれたら気を付けねえと
「む、勘定であるか」
オイオイ、ホントに一文銭とか一分銀とか出さないでくれよ……
「銭が細かい、手を出してくれ。失礼仕る」
ひい、ふう、みい……と革の財布から取り出したのはちゃんと十円玉だった。でも、三百円全部十円玉で払うつもり? いいけど……
「いま何時だ」
「おっと、時そば かい?おサムライさんよ」
「お見通しであったか」
「まさかと思ってたらホントにやるんだもんよ」
「こりゃ一本とられたわい」
呵々と笑ったサムライは顎髭をざりりと撫でながら残りの勘定を百円玉と五十円玉を交えて済ませた
「なあ、おサムライさんはホントに武士なのかい?」
「如何にも」
「どっから来たの?」
「三河国であるが」
地元民かよ。まあ県知事からしてコスプレしてるからあながちあり得なくはねえか
「手前は神田詩郎、そちらのお名前は……?」
「拙者、酒井正次郎親保と申す」
あら、存外フツーの名前だぞ、絶対もっと十文字八宝斎とか言うと思ってた。おお、しかし流石に食いっぷりがいいな。箸の使い方も綺麗だし、あっという間にハフハフ言って平らげちまった。お腹、空いてたんだなあ
「酒井殿、お味の方は如何で御座ったか」
「まこと美味なることこのうえなし」
「そりゃよかった! おサムライさんにも気に入ってもらえてうれしいや」
「馳走であった、それでは御免」
「おっと、ソイツは捨てておくよ。また来てくんな」
食い終わったパックを受け取ってゴミバケツに放り込むと、なんだかウソみたいな話に思えて来て思わず吹き出してしまった
「ふ、ふふっ」
「くっくっく……」
「はーっはっはっは!」
「アハハハ!!」
「おいシロー、聞いたか。ホントにおサムライさんだったぞ」
「まあ死神も居るぐれえだ、サムライだって居るだろ。しかし可笑しかったな」
それにしても、だ。幾ら不景気で追い詰められてる人も居るったってド平日の真っ昼間から世界のミフネ顔負けのサムライが闊歩しているとなると、いよいよ世も末か……一体何処をどうぶつけたらサムライになって街を歩いて公園の屋台でたこ焼きなんか食おうと思うんだろうか。不思議な人も居たもんだ
「アンタあのサムライがホンモノだと思うかい?」
「ええー? さあーな。シロー、おめえは?」
「俺は案外ああいう奴はホントに寛永五年ぐらいから来ちまったんじゃねえかと思うんだけどよ」
「バカ言えー、アイツちゃんと百円玉で勘定してったぜ?」
「そらアンタ郷に入っては郷に従えって昔から言うだろ」
じゃるり……
「おっと、お客さんだよ。シロー」
ぐじゅるじゅる……
「へい、いらっしゃいやし!」
コイツ、まだお江戸ごっこが名残ってやがる。まったくしょーがねえ……な……?
「むべがべば」
「えっ」
「へ?」
「がぶヴぐぶー」
屋台の前に突っ立っていたのは、上半身は筋骨隆々な裸の男性。下半身は人間の足らしきものが真ん中から二本生えてて……その周りにスカートみたいにタコの足がぐるっと生えてぐねぐねじゅるじゅると蠢いている。そして顔はというと
「どぶぐぶヴー」
タコ・ソ・ノモノ。嘴がひょっとこのようにニューっと虚空に突き出て、
縦になった金色の目玉がギロリと光り、巨大な後頭部がでろりと背中まで垂れている。首らしき部分は見当たらず埋もれているのかそもそも無いのか。それはわからない
「シロウ!」
「うお! ビックリした」
「お、お前にも……見えてるよな」
「アンタこそ……その白い粉は、小麦粉だよな……?」
「がーーーーぶぐヴーーーーーーーー!」
「わーっ!」
「ホンモノだっ!」
「ホンモノってなんの!?」
「た、た、た、タコ人間!!」
「ごげぐぶーー!!」
謎のタコ人間は有無を言わさず、鋭い嘴をジャキっと伸ばしてシロウの顔面を狙ってきた。同時に顎の辺りからもタコの脚みたいな触手を何本も出しておれに向かって伸ばして来た。じゅるじゅる、と空気と粘膜が摩擦する音がする。おれは咄嗟に手元にあった包丁を取り出して、そのうちの一本に突き刺した
「ぎゅーーーー!!」
「このやろう!」
シロウはシロウで伸ばしてきた腕で首を絞められながらも、長く伸びてたるんだその触手状の腕をすっかり火が入ってチンチコチンになった鉄板に思いっきり押し付けた
「ぐむゅーーーーー!!」
辺りにシーフードBBQの香ばしいにおいと、異形の放つ断末魔が同時に放たれた。タコ人間がひるんだ、今だ!!
おれたちは慌てて屋台から飛び出して、晴れ間に向かって呑気に伸びる遊歩道を転がるようにして逃げた。百メートルほど真っすぐ走ると茂みのある森の小路だ。そこで二手に分かれて椿の植え込みの陰に隠れた。シロウは大きなクスノキの後ろの回ったらしい
「おい、シロウ! どーする!?」
「知らねえよ、アンタこそどーする!?」
「知らねえよ!」
大体、何だっておれたちが突然こんな目に……!? たこ焼き焼いてただけなのに……たこ焼きの屋台でタコ人間に襲われるなんてそんなリスク……たこ焼き、リスク……
「あーーっ!」
「どしたー!」
「ガス! テッパン!」
火の始末をしてなかった、当たり前だそれどころじゃねえ
「あーーっ! やっべえ」
「おいシロウ、お前行って消して来いよ!」
「は!? なんで!? アンタの屋台だろアンタが行けよ!」
「お前こういう時は弟子が行くもんだろうがよ!」
「だから俺はアンタの弟子じゃない!」
「だーっ! うるせえ、おれがあのタコ入道を引き受けてやるからお前行け!」
「優しいな! よし任せた!!」
「ぐぶじゅるるるる……」
「ぎゃーー! 来たーー!」
茂みの上からぬっと顔を出したタコ人間は全身をぬらぬらと濡らし、その粘液がお日様に当たって鈍く輝いている
「このタコ野郎、タココラ! ナニコラてめえ」
とりあえず怒鳴りながら近くにあった太い木の枝やこぶし大の石ころを投げつけてみるが、表面の粘液とゴムのような体には全く通じなかった
しまったな、屋台になら包丁ぐらいあるのに。やっぱりおれが行けばよかった……! 迫りくる触手を振り払い、掻い潜って逃げる。幸いにも足は遅いらしく逃げきれないことは無さそうだ。だが何処まで逃げてもしっかり追ってくるから、これじゃキリがない……白昼の公園、いつもと変わらない風景、そこにたった一人タコ人間が立っている。それもこちらに対して殺意を剥き出しにして。一体どうしてこんなことに!?
「がぶぐじゅーー!」
「ぎゃー!」
走り疲れてよろけた足に、長い触手を巻き付けられた。そのまま引き摺り倒されてグイグイと引っ張られる。コレじゃ食われる、殺される……畜生、どうしてくれよう……!
近くにあった太い椿の枝にしがみ付いて踏ん張るが、既に枝からはミシミシと嫌な音がしている。コイツが折れたらおしまいだ。思わず天を仰ぐと、明るい陽射しが呑気に燦燦としてやがる。これまでか、と思ったその時。巻き付いたタコ人間の足の一部が爛れているのが見えた。そうか、さっき鉄板で火傷したんだ! あそこなら……!
チャンスは一度、必死で息を整えて辺りを見渡す。手の届きそうなところに丁度良さそうに尖った石がある。アレだ
「ぐぶぐぶぎゅるじゅー」
「黙って聞いてりゃフガフガ言ってやがって馬鹿野郎、コレでも喰らえ!」
いち、にの、さん!
今にも折れそうな椿の枝からいっぺんに手を放し、タコ人間がバランスを崩した隙に尖った石を引っ掴んでそのままの勢いで火傷の痕に突き立てた
じゅぐにゅっ!
とイヤーな感触をそのままオノマトペしたような音がして
「がぎゅぐーーーー!!!!」
濃すぎてどす黒く見える青い血液をドクドク流しながらタコ人間が苦しみ悶える。嘴から汚い、カスやゴミの混じった墨をブシューーと漏らして、金色の縦型眼がバチバチ瞬く。涙によく似た潮水を垂れ流して、激痛に身をよじって、八本の足がくるくると先端を丸めて痙攣する
見ているうちに段々と腹が立ってきた。そもそも、コイツは一体なんなんだ、何でおれたちがこんな目に。たこ焼き焼いてただけなのに
「ぐぶー、ぐぶー」
まるで哀願するように後ずさり敗走の構えを見せるタコ人間がクルリと後ろを向けた瞬間、さっきの尖り石を柔らかい後頭部に向かって思いっきり突き立てた
ごちゅっ!! と、どちゅっ!! の混じった凄い音がして、破れた後頭部から濃紺の体液に満ちた脳髄へ石ごと右手がめり込んだ。冷たく、とろみを感じるタコ人間の頭内をかき回すように右手を滅茶苦茶に動かした。ぶち、ぷち、ぶちゅ、と手触りだけで色々な筋や器官が千切れたり潰れたりしているのがわかる。脳を破壊されたタコ人間は金色の眼をひっくり返して、嘴の先からハンドソープのように泡を吹きながらその場に卒倒して絶命した
しばらくピクピクと痙攣していたが、すぐにそれも止まった。自分の体液で体を少し浸すようにして、力無く垂れ下がったやたらと多い脚が くたん と折れ重なっている
「終わったか……」
おれは荒い息をゼエゼエと漏らしながらも、まだ倒れたタコ人間から目が離せなかった。今にもガバっと起き上がって襲い掛かってくるような気がしてならなかった。だがそれ以上に、屋台に向かったシローが心配でもあった──
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