#不思議系小説 ニューシネマ・パラダイスシティ

ダイナマイト・キッド

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遠々々々江

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 抜けるような青空と陰鬱な曇り空を3と5分の1分ずつ繰り返す晴天公社の偽太陽が、空風人(クーフージン)のストライキによって動きを止めてから約2年。晴天も曇天も、誰にも必要とされていなかったことだけが白日のもとに晒されたのち、晴天公社は解散し新たに感動法人・虹夢月星(ありがとう)となった。

 銀色巻貝(シロガネニシ)のキチン質が砕けて砕けて砂粒よりも細かくなって体積し、銀色礫砂層を形成した遠々々江(とおとおとおとうみ)の海岸線には今日も鈍色の漣が寄せては返す。裸足の素肌に突き刺さる微粒子レベルのキチン質。ミクロの傷跡から流れ出る極小単位の血漿。それと入れ替わりに毛細血管に染み込む銀色巻貝特有の神経毒。漣を遡るように視線を向ければ、茫洋とした曇天が水平線と鈍色の海とを溶接しグラデーションにまとめている。太陽も月も星も、朝も夜も雨も虹も風も失くした空と海が踊る人も無いままに歌い続ける。今日も昨日も明日も無い。明後日、そんな先のことはわからない。

波打ち際に浸した足の爪先、重被膜油脂が染みついて黒ずんだ爪と柔らかな皮膚の境目からピリピリとキミカルな刺激を感じる。痛みでも痺れでもない、何か皮膚と毛穴を酸で洗うような感覚。踝、脹脛、膝から肩へ。身体を浸してゆくほどに刺激が心臓に向かって集まってくる。全ては血の巡りとともにある。この血を欲しているからこそ鈍色の海がざわめく。海洋性浮遊細胞体のコアと深海に遺棄されたまま眠る脳髄実験体を繋ぐ透明な神経を膨らませたり萎ませたりして悦んでいる。海が歓喜の声を上げる。それは精神の漣と成って時空と次元の間隙から押し寄せる。

 久しぶりに見上げた青空は夏の色をしていた。
 海、空、雲、全てがぎらつく陽射しを背中に受けて、黄金の縁取りで在り在りと浮かび上がってくる。色とりどりの風船と、脂ノリノリのキミカル臓肉と、もう懲り懲りの夏の過ち。もう何年が過ぎた、もう何ヶ月も経った、そんなことばかり考えたり思い浮かんだりすることに疲れた。答えは出ている。目を逸らしているだけ。モノや、話題や、趣味や、過去にすがって、視界の隅にずっといるそれを見ないようにしているだけ。
 それは湖の底に沈みながら。それは快晴の砂浜で突風に吹かれながら。それは大渋滞の高速道路で苛つきながら。それはドコか見知らぬ部屋の天井にいて、寝具の上に組み敷かれ揺れている君に見上げられながら。答えは出ている。すぐそばにいる。
 お前の瞳の奥に。お前の心の中に。遠く、遠く、遠く、遠くの海に。

 足跡を辿って、波打ち際まで歩いてきた。
 アイボリーの追憶と、砂粒より小さな粒子に熱を持たせる真夏の空気。あの日あの夏あの白昼夢の潮騒のなかに、置き去りの狂気。
 白い、白い、白い、白い海の光。広い、広い、広い、広い海へ。
 遠い、遠い、遠い、遠い海の底で。

 
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