4 / 106
ヒーロー達の青春エピローグ~春の章~
【第3話】すすすすすすすき焼き食べに行かねぇか?
しおりを挟むカシュッ、と音がした。
缶コーヒーの蓋が空いた音だ。
そのままコーヒーを一口、喉の奥へと流し込んだ男子高校生――泡水透士郎《あわみずトウシロウ》が一言。
「え、お前らまだ付き合ってなかったのか?」
「へ?」
その一言を耳にして、太陽はキョトンした表情を浮かべた。
そして、脳内で聞こえた言葉を反芻してみる。
『お前らまだ付き合ってなかったのか?』
『お前ら』
『まだ付き合ってなかったのか』
「……ふむ。なぁ透士郎、ひょっとしたらひょっとするんだが……その『お前ら』という部分は、オレと白金を指しているのか?」
「まぁ、そうだな」
「なるほど……と、なると。『まだ付き合ってなかったのか』の『付き合う』って部分は、彼氏彼女の関係ってことで良いのか?」
「そゆこと」
「つまりお前は、オレと白金がまだ恋愛関係に至っていないという事に対して驚いている……という事だな」
「……最初から、そう言ってるんだが?」
「ふむ……」
太陽は「うーん……」と、少し考える。
考えに考えた結果、出た言葉が……。
「どこに驚く要素があるんだ? オレと白金が恋人関係になるとか、ありえないだろ」
「はぁ……」
透士郎は、『ダメだこりゃ』と言わんばかりに深い溜息をついた。
「あのな? 太陽……率直に聞くぞ?」
「おう」
「お前――白金の事、好きだろ」
「はぁぁぁああぁあっ!?」
太陽は驚愕した。
「な、何で知って――いやいや! 違う!! そ、そそそそそそんな訳ないだろうが!! オレが白金の事を、す、すすすすすすすす好き? おいおい透士郎、冗談は休み休み休み言えよな! 冗談キツいぜー!」
「いや、隠そうとしても無駄だから……バレバレだから。押し問答するのもかったるいから、正直に答えろ。
お前――白金の事、好きだよなぁ?」
「ぐっ、ぐぬぬぬぬ……!」
「正直に……さっさと答えろ」
太陽は吹っ切れた。
「ああ! 好きだよ!! はいはい、オレは白金の事が好きですよ!! 何か文句あるか!?」
「文句はねぇよ。知ってるからな」
「ふんっ! オレの気持ちを分かってるからって、調子に乗るなよ!」
「はいはい……つーか、白金の事好きなんだろ? 何で、付き合うという事が、有り得ないんだよ……」
「…………」
「え?」
透士郎は驚いた。
何故なら、彼がその疑問を述べた瞬間、太陽の表情がズーンと暗くなったからだ。そして苦々しそうに、こう呟いた。
「付き合いたいさ……付き合いたいとも……けどさ、きっと白金は、オレの事なんて何とも思ってないんだよ……」
「はぁ? 何でそう思うんだよ」
「だってさぁ……白金はさぁ、他人の心を読めるんだぞ? ポンポンポンポン心読まれてさぁ……オレのHな日常生活は、アイツの前では丸裸さ」
「Hな日常生活って……何?」
「なのにさぁ……」
「あ、オレのこの疑問にはスルーなのね」
『なのにさぁ――』に続く言葉を、太陽は口に出す。
「オレが白金の事を好き――っていう気持ちだって読んでいる筈なのに……それについては、一切触れて来ないんだぞ? 脈ナシに決まってる……所詮、オレみたいなタコ入道には、白金みたいな可愛い子は高嶺の花、なんだよ……」
「タコ入道って……」
しかし透士郎は、『なるほどな』と思った。
(確かに、その理論は納得出来る。太陽は白金の事が好き――それは、周知の事実だ。読心などと呼ばれる力が無くても気付く程には……太陽のその気持ちは、あちらこちらから滲み出ている。だとすると確かに、白金が気付いていない方が不自然だ……)
透士郎は、更に思考を巡らせる。
(うーん……しかしそれは、白金の方も同じなんだよなぁ……だとしたら何故、白金はその事について触れないんだ? 太陽が、そう思ってしまう理由も分かる気がするが……)
「太陽……お前の気持ちは、よーく分かった」
「分かってくれるのか? 透士郎」
「だから今すぐ告白してみようぜ」
「何故そうなるんだよ。頭イカれてんのか」
「大丈夫、イカれてない。むしろ、お前よりもかなり頭はしっかりしている方だ」
「ぐうの音も出ない」
「だから告白しろ」
「全然会話にならねぇ……」
「大丈夫だって! お前の方から告れば、成功率百%だから! オレを信じてぶちかまして来い!」
「いや、だから、白金はオレの事なんて……」
自信なさげに声を落とし始めた太陽の背後に、近付いてくる人物の影。
太陽は当然気付かない。しかし、向かい合う形に位置している透士郎には、しっかりとその人物の姿を捉える事が出来た。
(ナイスタイミング!)
俯き気味の太陽にとって、現在、前方は死角となっている。
故に、身を隠すならば今。
透士郎は素早い身のこなしで、先程缶コーヒーを購入した自動販売機の裏に隠れた。
「……何とも思ってないんだよ……って、あれ……?」
太陽が顔を上げ、前方を向くと、そこにいた筈の透士郎の姿がない。
「え、透士郎? 何処へ――」
その代わりに――
「わっ!!」
「うおっ! びっくりしたぁ! し、白金!?」
背後から突然大声を放たれ、驚く太陽を見て、ケラケラと笑っている愛梨が現れた。
「えへへー、ドッキリ成功! どう? ビックリした? ビックリしてくれた?」
「お、おぉ……ま、まぁな……」
「いえーい。ドッキリ大成功ー!」
喜んでいる様子の愛梨。
太陽は、そんな愛梨の姿を見つめながら、先程透士郎に言われた言葉を思い出す。
『今すぐ告白してみようぜ』
勝算はない。
しかし――その話をした直後に、突然愛梨が現れた。
これも何かの巡り合わせなのかもしれない。
「……なぁ、白金」
「ん、何?」
名を呼ばれ、愛梨が太陽に目を向ける。
するとそこには、日常生活の中では見た事がない程、真面目な表情を浮かべている彼の姿があった。
太陽の表情は、真剣そのものだ。
不覚にもドキッとしてしまった愛梨は、無意識に彼の心を読んでしまった。
即ち、これから太陽が言わんとしている言葉を、理解してしまった。
「白金……オレは……」
「は、はい……」
愛梨の心臓は、ドクンドクンと高鳴る。
太陽は恥ずかしさと不安が入り混じった感情の中、言葉を紡ぐ。
(言えっ! 言っちまえオレ! フラれたらフラれた時だ! ビビるな! 突っ込め! 全身全霊で、この想いを伝えるんだ!!)
「オレは……お前の事が……」
「…………っ!!」
「す……」
「す?」
「すすすすすすすき焼き食べに行かねぇか!?」
「………………」
当然、二人の間には沈黙が訪れる。
(や、やってしまったー!! オレのバカー! 腰抜けー!)
泣きそうになる太陽。
しかし愛梨は……。
「ぷっ! あははは!」
大爆笑したのだった。
「あははは! もう、笑わせないでよー。そんな事だろうと思ったよー。でも分かった。すき焼きね、良いよ。今日の放課後食べに行こっか」
「お、おう……マジか」
「うん、まじだよ」
「な、なら予約しとく」
「うん、お願いね」
くるんっと小気味良く体を回転させながら、愛梨は言う。
「ビックリしたよー」
「な、何が?」
「何か、告白されそうだったからさー」
「っ!? そ、そんな訳ねぇだだろっ!」
「だよねー。やっぱり太陽くんは太陽くんだったね」
「……どういう意味だよ……」
「さぁねー。取り敢えず教室行こっか、授業始まっちゃうし」
「お、おう……」
歩き出す二人。
ガクンと、肩を落とす太陽。
(告白っぽい雰囲気を出せたのに、この対応か……やっぱり白金は、オレの事なんて何とも……――)
「でも、さ」
「ん?」
愛梨は、少し頬を赤らめ、照れ臭そうにこう言った。
「少し、ドキドキしちゃったよ」
「え……?」
(それって……)
しかしこの話はここまで、愛梨は「すき焼きかぁー、楽しみだなぁー!」と、すぐに話を変えてしまった。
太陽はその言葉に対して頷いた。
「ああ! そうだな。楽しみだ」
二人は並んで教室へと歩いて行く。
そんな二人の背中を、自動販売機の裏から出て来た透士郎が優しく見つめている。
そして、軽く溜息を吐きつつ、こう呟いた。
「まだまだ先は長そうだな。お二人さん」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜
泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。
ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。
モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた
ひよりの上司だった。
彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。
彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる