ヒーロー達の青春エピローグ

蜂峰 文助

文字の大きさ
6 / 106
ヒーロー達の青春エピローグ~春の章~

【第5話】同情してしまうなぁ……

しおりを挟む

「きゃっ!」

 理科室へ向かう途中、愛梨はステーンと尻もちをついた。
 捨てられていたバナナの皮に滑ったのだ。

「痛た……何でこんな所にバナナの皮があるのよ……」

 それを見ていた太陽が、笑いながら近寄る。
 そして散らばった教科書と筆箱を拾い上げ、愛梨へと手を差し出した。

「他人の心を読めても、バナナの皮の心は読めなかったみたいだな」
「アハハ……流石にそれは無理みたい」

 苦笑いの愛梨が、太陽の手を取り起き上がる。
 そして拾ってくれた教科書と筆箱を受け取り、二人仲良く並んで理科室へと歩いて行く。

「あの……白金?」
「何? 太陽くん」
「もう……手を離しても良いんだぞ? 起き上がれた訳だし……」
「嫌――って言ったら、どうする?」
「お前なぁ!!」
「あははっ!」

 そんな仲睦まじい二人を見つめる人物が一人……。


 時は進み昼休み――

「ねぇ愛梨……あなた達、本当に付き合っていないの?」

 そう問い掛けたのは、星空宇宙《ほしぞらソラ》。
 愛梨の親友とも呼べる人である。
 その言葉を受け、愛梨はキョトンとした表情を浮かべる。

「いきなりどうしたの?」

 と、疑問に思うが、彼女の心を読む事でそれは解決。

「あ、なるほど。朝のバナナの皮転倒事件を見てたのか」
「何々事件なんていう、大層な名をつける程ご立派な出来事ではないと思うけれど……まぁ、その通りよ。話が早くて助かるわ」
「えっへん」
「あ、そのドヤる感じ、ムカつく」

 「まぁいいわ」と宇宙は、逸れかけた話題を修正する。

「仲良く手を繋いでて。まるでカップルみたいだったし……私達に内緒で、隠れて付き合ってるのかな? と、思った訳なのだけれど……違うの?」
「違うよー。私と太陽くんはまだ、付き合ってない」
……ねぇ……」

 宇宙は意味深に、『まだ』という点を反芻する。

「はっきりさせる為に一つ、客観的な事実を突き付けさせてもらうわよ?」
「どうぞー」
「万屋は間違いなく、お前に惚れているぞ」
「うん、知ってるよー」
「……やはりか……」

 予想通りの返答に、宇宙は頷いた。

「他人の心を読める愛梨が、その事に気付いていない訳がないものな……万屋は、どう考えても心の中で隠せるタイプではなさそうだし」
「その通り! さすが宇宙、洞察力が素晴らしい!」
「しかし愛梨。お前達が手を繋ぎ、笑い合っている姿は、正にカップルそのものだったぞ」
「またまたぁー、そんな大袈裟なー。手を繋ぐだけだよ? そんなもの、友達同士ならよくある事じゃない」
「……そうか? そうなのか? まぁ、愛梨がそういう価値観を持っているのなら良いんだが……」

 「ん? いや、違うな」と宇宙が、とある考えに至る。

「やっぱりダメだ」
「え? 何が?」
「アンタが良くても、万屋の方はどう思ってるのかが分からない。どう考えても彼は、『アンタと手を繋ぐ』という行動に、何かしら意味を込めている可能性は充分に有り得る」
「ふむ……太陽くんの事をよくご存知で」
「……まぁ当然、読心能力を持つアンタなら、それぐらい看破している事だろう。だからこそ――


 中途半端な気持ちで万屋と接するのはやめて欲しい」


「……宇宙? それって……」

 宇宙は言う。
 少し厳しい事を、口にする。

「価値観は人それぞれだ。お前がそう思ってなくても、万屋は そうは思っていない可能性がある。即ち、気になっている異性にあんな事をされてしまっては期待してしまうだろう?」
「ふむ……なるほど」
「叶わない恋ほど、時間を無駄にするものはないんだ……。だからもう、
「…………」
「可能性がないなら、無い――そう、はっきりと言ってやれ。さもなくば……万屋は、幸せになれなくなるぞ」
「…………」

 その厳しい言葉に対する愛梨の反応は……。

「プッ! あははっ!」

 笑顔だった。
 宇宙は、彼女のその笑顔を見て怪訝な表情を作る。

「何がおかしい?」
「いや……だってさ……宇宙が、そこまで太陽くんの事を考えてくれていると思ったら、嬉しくてさ」
「?」
「確かにそうだね……思わせぶりな態度はやめて、嫌なら嫌って、はっきり言わなきゃだよね……その通りだと思うよ」
「じゃあ……今後万屋とは――」
「でも、やめないよ。私は」

 愛梨は続けた。

「確かにその通りだね……変に叶わない恋が長期戦になっちゃうと、時間が長引けば長引く程、辛くなっちゃうもんね……それは本当に、その通りだと思う」
「分かっているなら尚更――」
「でもそれは――私が、?」
「……違うのか?」
「違うよ」

 愛梨は堂々と、そして少し照れ臭そうにハニカミながら……言った。

「私は大好きだよ――太陽くんの事。食べちゃいたいくらいには、ね」

 宇宙はその言葉を聞き、キョトンとしてしまう。
 そして今一度、脳内にある情報全てを整理する。

「え? あ……ちょ、ちょっと待ってくれ……えーっと……」
「ゆっくりで良いよー」

 一つ一つ……整理していく。

「えーっと……愛梨は、読心能力で、万屋が自分に好意を持っている事を知っているんだよな?」
「うん、知ってるよ」
「で、愛梨も万屋の事が好き……なんだよな?」
「好きじゃなくて、好きね。ここ重要」
「あれ? っという事は――両思いよね?」
「そういう事だね」
「何故告白しないの? 愛梨から告れば、成功百パーセントじゃないの」
「それはしたくないから、しないの」
「……? よく分からないのだが? 大好きだが、付き合いたくはないのか?」
「付き合いたいよ。めちゃくちゃ付き合いたい」
「じゃあ何故告白しないのだ……訳が分からんぞ……言ってる事が支離滅裂だ」
「その答えは簡単だよ」

 愛梨は、まるで悪戯を考えついた子供のように無邪気な笑みを浮かべた。
 そして言う――その、答えを。

「私は――


 照れ臭そうにして、顔を真っ赤にしている彼の事も大好きだから」


「………………は?」

 真顔の宇宙。
 何が何だかさっぱり分からないといった表情だ。
 「だからね」と、追記するかの如く愛梨は続ける。

「間違いなく、太陽くんが私に告白して来る時には……照れ臭そうに、顔を真っ赤にするでしょ? 私はもう……それが見たくて見たくて仕方ないの。想像するだけで……キャーっ! 興奮しちゃうなー!」
「……え? ひょっとしてそれが……告白しない理由?」
「うん! 何かご不満でも?」
「…………」

 宇宙は、少し考えた後、考えるのをやめた。

「いや……納得出来たよ。それなら思う存分、万屋をからかってやれ」
「ありがとー! 頑張るよー!」

 愛梨が幸せそうなら良いか……と、考え至ったのだ。
 ただ一つ、彼女が思う事は……。

(万屋、大変そうね……同情してしまうなぁ……)

 太陽に対する……同情、だけだった。


 一方その頃、太陽はと言うと……。

「ヘックショイッ!! ズズ……あれ? ひょっとして、誰かオレの事噂してる?」

 トイレでくしゃみをしていたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話

登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!

satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。 働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。 早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。 そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。 大丈夫なのかなぁ?

出逢いがしらに恋をして 〜一目惚れした超イケメンが今日から上司になりました〜

泉南佳那
恋愛
高橋ひよりは25歳の会社員。 ある朝、遅刻寸前で乗った会社のエレベーターで見知らぬ男性とふたりになる。 モデルと見まごうほど超美形のその人は、その日、本社から移動してきた ひよりの上司だった。 彼、宮沢ジュリアーノは29歳。日伊ハーフの気鋭のプロジェクト・マネージャー。 彼に一目惚れしたひよりだが、彼には本社重役の娘で会社で一番の美人、鈴木亜矢美の花婿候補との噂が……

処理中です...