ヒーロー達の青春エピローグ

蜂峰 文助

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ヒーロー達の青春エピローグ~秋の章~

【第60話】おかしいと思ってたんだ……

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 その日の放課後。
 約束通り、静は市川冬夜との一日デートを行う事にした。
 これは別に、下心があった訳ではない。
 約束を取り付けてしまったが故に、その約束は無下には出来ないという、静の真面目さからきた結果である。

 当然、彼女の答えは決まっている。

 静は当然――千草一筋だ。

 例え億万長者のイケメン王子様に告白されようとも、静は絶対に靡かない。
 それ程……静は千草の事を愛していた……。

 しかし――それはあくまで、静の気持ちの話であり。
 心の中の話だ。

 人の心の中など、普通は読めないものだ。

 読心能力でもない限り――普通は読めないし。

 読むべきもの、ではないのである。

 従って――自身がどう思っていようと……自分が今――どのように思っていそうなのかを決めるのは、他人なのである。
 自分ではなく――他の誰かが、気持ちを読んだになり、自分の気持ちを

 それが普通の人間なのである。
 例えヒーローであろうとも――愛梨を除けば、そういった面から見ると、ただの人間なのである。


 一日デート――という名目で、静は市川冬夜にあちらこちらを連れ回された。
 カラオケにボウリング……ダーツにビリヤード。
 それはもう、うんざりする程に。
 一つ一つを終える度に、彼は静に問い掛けた。

「どう? 惚れた?」

 静は当然苦笑いだった。
 こんなもので、静が惚れる訳がない。
 市川冬夜は、完全にアプローチ方法がズレていた。
 この時点で完全に露見してしまったのである。

 市川冬夜が、海波静の事を、理解出来ていない――という事を。

 もはや、一日デートを楽しむ所か、(早く帰りたい)とすら思ってしまう始末。
 そんな時だった。

「じゃ、手を繋いでみようか」

 突然、市川冬夜が静の手を握ったのだった。

「恋人らしい事をしたら、オレの事を好きになって貰えるかもしれないから」
「……はぁ……」

 そう言うので、仕方なく繋いでおく事にした。
 こんな事をしても、自分が彼に惚れない事は一目瞭然であるので、この後潔く諦めてもらう為に、渋々受け入れたのである。

 結果としては――コレが、悪手となった。

 早い話が、罠だったのだ。

 手を繋ぎながら、静が(あー……早く終わって、千草くんと電話したいなぁ……)等と考えつつ、歩いていると……。


「うわぁぁぁぁああぁぁああぁああぁぁぁぁああぁぁああぁああぁぁああぁああぁぁああぁああああぁあぁあーーっ!!」
「っ!?」

 と、奇声のような叫び声を上げながら、静と市川冬夜の間へ割り込む形で突進し、千草が現れたのだ。
 静と市川冬夜の手が離れる。

 静は嬉しかった。会いたかった人に会えたのだから。

「千草くん!」

 しかし――――

「どういう事なのさ!! 静!!」
「え……?」

 千草は怒っていた。激怒していた。
 怒りの感情をそのままぶつけるかの如く――叫ぶ。

「な、何で……何でそんな男と手を繋いで歩いているのさ!! その男は何なのさ!! すっごくイケメンだけど! そいつと一体どういう関係なんだよ!!」
「あ……! えっと……違うんだ……コレは――」
「何が違うんだよ!! 手ぇ繋いでたじゃないか!! オイラはしっかり見たよ!! この目で! 太陽達だってちゃんと見てるから! 言い逃れは出来ないぞ!?」
「え……?」

 静がその言葉を聞き、辺りを見渡すと、近付いてくる太陽達の姿を発見。
 ここでようやく……静は今、自分がとんでもない状況に置かれた事を理解した。
 当然、誤解を解こうとする。

「ち、違うんだ千草くん……誤解だ……」
「何が誤解なんだよ!! ちゃんと理由を説明しなよ!! どういう状況になったら、そんなイケメンと手を繋ぐって状況になるんだよ!!」
「説明する……ちゃんと説明するから。落ち着いてくれ!」
「落ち着いてなんか――」

「オレは……、ですよ」

 そう答えたのは……市川冬夜だった。

 その瞬間――あれだけ騒がしかった場が……一瞬にして、静かになった。
 「は?」と……他の誰しもが、言葉を失った。
 そこへ、市川冬夜は追い打ちをかける。

「さっきからあなたばっかり喋ってますね……アフロさん。何で、彼女の弁明を聞いてあげようとしないんですか? 気持ちそのままに叫んでばかりで、見苦しいったらありゃしないです……実に
「っ!!」

 それは――千草のを刺激する一言だった。

『透明人間だから! いくら殴ってもバレないから良いよなぁー!』
『透明サンドバックだぁー!!』
『声上げるなよサンドバックがぁ! 声でバレちまうだろうがよぉ!』
『お前は――見難《みにく》くて、醜いなぁ!! ギャハハハッ!!』
『本当だ! 醜いなぁ! 醜い醜い!! オラオラオラァ!!』

『や……やめてよぅ……!』

 過去を思い出し、突然冷や汗をかき、呼吸が乱れる千草。

「千草……くん?」

 静が心配し、声を掛けようとするが市川冬夜にそれを阻まれる。

「ははっ……どうしたんです? 図星を付かれて焦ったんですかぁ? はっきり言います! あなたみたいな醜い人間は! 静の彼氏として相応しくないんですよ!! だから彼女はオレに乗り換えたんですよ!! 理解していただけましたか!?」
「違う!! 何言ってんのよ冬夜! 誤解を更に深める事言わないで!! 私とあんたはそういう関係じゃないでしょ!? 嘘言うのはやめて!!」
「何言ってんだよ静……お前、……? あのアフロには飽き飽きしてるって……気持ちが悪いって……お前――――言ってたじゃないか!」

 「っ!!」千草の胸が、強く――締め付けられる。

「言ってない!! 私そんな事一言も言ってないし! 思ってもない!! めちゃくちゃな事言わないでよ! 千草くん信じて! 私! そんな事――――」
「もういいよ……」
「……え?」

 千草の口から放たれた……その「もういいよ」を耳にした瞬間……静の全身から、サーッと……血の気が引いた。
 今まで、静が聞いた事のないような……千草の声。
 その声はまるで……。

『近寄るな……化け物』

「…………。や……やめて……。千草くんの口から…………聞きたくない……」
「うるさい……もう、全部分かったからいいよ……」
「え……?」
「大体……最初から、可笑しいと思ってたんだ……静みたいな可愛い子が……オイラみたいな、醜い奴……好きになる訳がないんだもん……可笑しいおかしいとは……思ってたんだよ……今日のコレで、完全に合点がいったよ……バカにしてたんだろ? オイラを……その男と一緒に……」
「違う……信じて……私は……」
「だからぁ……もういいってば……。そうか……アレか……オイラとは付き合ったフリしてて……本当はそいつと付き合ってて……浮かれているオイラをバカにして遊んでたんだね……そうだ……そうに違いない……」
「そんな事してない!」

 静の必死な叫びも……今の千草には、届かない……。

「あー……もういいや……もう……考えるのが怠くなってきた……あー……しんどっ……帰って寝よ……」

 スー……っと【透明化】の能力を使用し、その場から千草は姿を消したのであった。

 何も知らない市川冬夜は少し驚くが、目の錯覚か何かだろうと思う事にした。何故なら……人が消えるなんて、普通ならば有り得ないのだから。
 
「千草くんっ!!」

 静の声にも……返事は返って来ない。

 ここでようやく――ここまで静観していた太陽達が動き始める。

「何かすげぇ事になったぞ……忍! 透士郎と連携して、千草の元に行ってくれ!!」
「了解した! 透士郎、千草の場所は!?」
「まだそんな離れた所には行ってない。ここから、東へ百十二メートル先を走ってる。アイツに見えない所で移動しろよ」
「承知した!」

 忍が瞬間移動をせず、先ずは走って追い掛けて行った。
 それを見届けると、太陽は静と市川冬夜へと視線を向ける。
 静は傷心状態で、立つ事も出来ない状態だった。
 そんな彼女の横で……さも、彼女を励ましているかのように支えている市川冬夜へ、太陽は声を掛けた。

「さっきの話……何パーセントくらいが本当の話なんだ?」
「さぁ……? 初めて会ったあなたに答える必要、ありますか?」
「…………食えねぇ男だな。お前」
「よく言われます。まぁ……強いて言うなら、静の方は任せてください。ちゃんと家まで送り届けますから」
「……、本当だろうな……?」
「もちろんですとも。だから先に、あのアフロさんを追い掛けてやってください」

 見つめ合う太陽と市川冬夜。
 先に視線を切ったのは太陽だった。
 「嘘ついてたら……潰す」そう言い残し、太陽は千草が消えた方へと動き出した。

 最後に残ったのは透士郎。

 そんな透士郎にも、市川冬夜は声を掛ける。

「さぁさぁ、あなたもあのアフロさんの元へ駆け付けたらどうです?」
「言われなくてもそうするよ……つーかマジで、静に手ぇ出すなよ」
「やだなぁ……カップルが何しようとオレ達の勝手でしょ?」
「…………」
「冗談ですよ、そんな睨まないでください」
――その場合、マジで覚悟した方が良いぜ?」
「?」

 透士郎も走り出そうとする。
 しかし、その直前――「あ、そうそう」と、透士郎が思い付いたように市川冬夜へと声を掛けた。


「っ!!」

 そう言い残し……透士郎は去って行った。
 居なくなった事を確認すると、市川冬夜は傷心し、蹲っている静を抱き締めた。
 そして……。

 その際の市川冬夜の口元は、不敵な笑みと形容出来る程には……歪んでいたのだった。


 こうして……。
 ヒーロー達の青春後日談の中で――最も、過激な物語が……始まった。
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