ヒーロー達の青春エピローグ

蜂峰 文助

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エピソード5『泡水透士郎と万屋月夜』

【第73話】泡水透士郎と万屋月夜③

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 前回のあらすじ。
 太陽と月夜が口論し、その裏で透士郎と皐月が込み入った話をした。

 そして現在……透士郎と月夜は並んで夜道を歩いていた。
 唐突に透士郎が問い掛けた。

「お前さ……もう、白金の事は嫌ってねぇの?」
「はぁ? どうしたのよ、藪から棒に」
「純粋な疑問だよ。お前随分と嫌ってたじゃねぇか……いや、つーか避けてたじゃねぇか」
「そうだっけ?」
「そうだよ。忘れたのか? ったく……太陽に似て、都合の良い脳みそしてやがる」
「えぇっ!? ウソウソっ!? 私似てる!? 兄貴に似てる!? どこがどこが!? どこがぁ!? うわマジ嬉しい!! 嬉しいなぁー!!」
「……お前のブラコンっぷり……何度見ても引いてしまう時があるよ……」

 目をキラキラさせ、異常な程喜ぶ月夜。
 太陽に似てるって言われて、そんなに嬉しいか? と透士郎は疑問に思う。

「……うーん……まぁ、今は嫌いじゃないよ」
「…………ああ、白金の事ね」

 突然話が本題に戻った為、一瞬ついていけなくなった透士郎だが、何とか話の内容に着いて行く事が出来た。

「話してみたらさ……すっごく優しい人でさ、兄貴が惚れるのも分かるなぁーって感じ」
「そっか……」
「最近、よく一緒にケーキとかクレープ食べに行ってるよ。美味しいんだよ。白金さんが紹介してくれる店」
「ケーキ……? お前らが? 一緒に? ……へぇ……そっかそっか」
「うん……。だから今は嫌いじゃない……むしろ……」
「むしろ?」
「…………ううん、何でもない。ねぇ、透士郎」
「……何だ? 月夜」
「兄貴と白金さん……あの二人も……昔色々とあったんだよね?」
「色々とあった――何てもんじゃねぇよ……アイツらのは……随分と走り回ったもんだぜ……。特に、な……それはもう、今アイツがあんな風に笑えているのが不思議なくらいには」
「……そうなんだ……」
「だからきっと白金は……かなり太陽に助けられたと思う……。何つーか……からかわれまくってるからよく分かんなくなっちまうけど……あのカップルはきっと――――太陽が白金を好きって気持ちよりも、

 比べようがないほどに――桁違いに――と、透士郎は続けたのだった。
 「そっか……」月夜は呟く。

「悪い事しちゃったなぁ……」
「ん? 何が?」
「いや……その、あの二人がくっ付くの遅くなったのって、私のせいなのかなぁー……とか、最近思っちゃってさ」
「それは違うだろ」
「え?」
「その件については、ただ単に太陽が腰抜けだっただけだろ? 最初から、太陽が動こうとしたのを察知してから、白金は動くつもりだったんだと思う。……多分な」

 動く――月夜との和解交渉に。
 太陽との交際を、認めてもらう為に。

「だから、あの件についてお前が気に病む必要なんてねぇよ。…………まぁ……強いて言うなら、ブラコンはちょっと控えた方が良いかもな……とは思う」
「…………そっかそっか……そうだね。ありがとう、透士郎」

 礼を言いながら透士郎を振り返り、満面の笑みを見せる月夜。
 その瞬間――ドクンッと、心臓が高鳴ったのが分かった。

(ああ……本当に、可愛いな……月夜は……)

 そしてそんな透士郎の心中を察する事なく、月夜は続ける。

「いやぁー。本当に不思議なんだよねぇー」
「不思議?」
「うん……何故かさ、透士郎と話してると、いつも気が晴れちゃうんだー」
「え……?」
「こうね? モヤモヤーってしてる気持ちが、あんたと話してるとパァーって晴れるの! えへへっ、不思議だよね?」
「…………!」

 透士郎の、胸の高鳴りが止まらなくなる。
 辺りが暗くて良かった。明るかったら……今のオレの顔を見られていた事だろう。
 ふにゃけた情けない表情を、まじまじと見つめられていた事だろう……ここ数ヶ月の間、それでからかわれる可能性すらあった。

 本当に……夜でよかった……。

 月が出ている……夜で……。

「あの……さ……」
「な、何だ?」
「さっきの話……私と兄貴の言い争いをさ、聞いて……。堂々と、あんたの前で、あの話を兄貴がしたって事は……聞いてるんだよね?」
「……ああ」
「そう……ねぇ……あんたはどう思う?」
「どう思う……とは?」
「私が……戦場に行く戦士に恋愛感情なんていらない――って、言った事……」

 「どう思う?」と、念を押すように再度尋ねてくる月夜。
 透士郎は少し言葉に詰まる……。
 迷った挙句、自分の本心を話す事にした。

「お前の人生だし。お前が思うように思ったら良いと思う……」
「だ、だよねぇ! やっぱ兄貴の言い分がおかしいんだよ! うんっ! 私は正しい!!」
「だけど――――


 お前が死んで――帰って来ないのは、嫌だなぁ……」


「え……?」

 それは本音だった。
 紛うことなき、透士郎の本音だった。
 嘘偽りのない……言葉だった。

「ねぇ……透士郎……それって……」
「もう家に着いた。送ってくれて、サンキューな」
「え? あ、う、うん……」

 タイミング悪く、透士郎の家に着いてしまったのだった。
 楽しい時は――瞬く間に過ぎていくものなのだ。

「気を付けて帰れよ」
「……ありがと」
「頑張れよ。ポルターガイスト退治」
「うん……頑張る」

 そう言い合って、二人は別れた。

 帰り道……月夜は一人寂しく、今来た道を引き返す。
 さっきまで、あれだけ楽しかったのに……あれ程幸せだったのに……。

(寂しいなぁ……)

 月夜は思う。
 まるで流れ星に願うように……思う。

(この幸せな時間が……ずっと……ずーっと……続いたら良いのに……)
「あーあ……家がもっと遠かったら良かったのになぁ……」

 そして月夜は……小さな声で、そう……呟いたのであった。
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