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エピソード6『火焔剛士と万屋皐月』
【第84話】火焔剛士と万屋皐月②
しおりを挟む新年が明けて数日後。
街は銀世界となった。
雪である。
初日の出が綺麗に見えた元旦から、徐々に天気は下り坂を転がり続け……。
そして、大寒波がやってきた。
一月四日――三賀日を終えたこの日の朝……。
皐月が目を覚まし、カーテンを開け外の景色に目を通す。
大雪だった。
目の前に映る景色は真っ白に覆い隠され、景色なんて何一つ見えなかった。
建物のグレーも、自然の緑も、看板の鮮やかな色も……激しく降っている雪に遮断されてしまっている。
(これは……とても外出なんて出来ないな……)と、皐月は思った。
いつも通り起床準備に入る。
パジャマから着替え、顔を洗い、歯を磨き、そして朝食の準備へ……。
流石の太陽や月夜も、こんな豪雪の日にデートへ出掛けたりはしない事だろう。もしそうなら全力で止める気であった。
幾らその身体に【超能力】を秘めている元ヒーローとはいえ、やはり自然の力には敵わない。
地球の力……星の力には、残念ながら及ばないのである。
三人分の朝食を作りながら、テレビから流れてくる声に耳を傾ける。
どうやらこの大寒波は、もう暫く続くらしい。
一週間――この雪は所々少休憩を挟みつつ、降り続くようだ。
冷蔵庫の中身が気になる。
(隙を見て……買いに行かないとね……)
そんな事を思った。
食糧不足は死活問題である。
となると……やはり、皐月の脳裏に一つの心配事が浮かび上がる……。
(剛士くん……ちゃんとご飯食べれているのかな……? 大丈夫……なのかな……?)
そう心配に思っても、連絡は取れない。
皐月と剛士は元旦の日……一年ぶりのデートの日、とある約束事を交わしたのだ。
受験戦争が終わるまで一切の関わりを持たない、と……。
家に料理を作りに行く事はもちろん、電話の一本すら禁止――と。
だから信じるしかない。
剛士が今――ちゃんと朝昼夕のご飯を食べる事が出来ており、勉強も順調に進んでおり、しっかりと体調管理が出来ている……と、祈るしかないのだ。
そんな事をボーッと考えていると、自然と集中力が高まったのだろう。
三人分の朝食が完成した。
卵焼きにはラップをかけて保存し、食べてくれる人が起きてくるのを待つ。
一仕事を終え、手持ち無沙汰となった皐月の足が、自然と窓へと向かう。
大雪の降る外の景色を室内から眺め、物思いにふけってしまう。
「外は寒いだろうなぁ……剛士くんのアパート、暖房の効きが悪いから……ちゃんと暖かくしているのかしら……?」
一つ不安要素が出て来たら、連鎖反応と言わんばかりに、次から次へと心配事が増えていく。
(大丈夫……なのかなぁ……?)と、皐月の心配は尽きない。
そんな様子で、ボーッと真っ白な外を眺めていると……。
「やっぱり心配なのか? ……火焔先輩の事」
と、背後から話し掛けられた。
振り返ると太陽がいた。愛しで自慢の弟が、起きて来たのだ。
「あら? 太陽どうしたの、早いわね」
「失礼な。オレだってたまに早起きするさ」
たまに、である。
基本は遅起きなので、皐月の発言は失礼でも何でもなかった。
ただ事実を述べただけである。
「太陽が早起きして来たから、大雪が降ったのかもね」
「失礼な!」
これもまた、事実を述べただけである。
しかし、太陽の早起きが原因で雪が降っている訳ではないのだが……。
「で? どうなの?」
「何が?」
「火焔先輩の事……心配じゃないのか? って事」
「あーね……」
皐月は言う。
「心配しない訳、ないでしょう……大心配よ」
「なら――」
「でも、本人がそう言ってるのだから、そう提案してきたのだから……仕方がないわよ」
「…………」
「大丈夫……。剛士くんは、勉強は出来ないけど……馬鹿ではないわ……きっとこの状況も、何かしらの意図があって作った筈だから……だから私は……それを信じてる」
「……そっか……皐月姉が、それで良いなら……良いと思うなら、外野からは口が出せねぇな……」
「うん。私と一緒に……彼を信じましょ?」
「…………分かった……」
ここで、話の一段落が着いたと思ったのか、皐月が大きく伸びをする。
「朝食出来てるよ。食べる?」
「…………うん」
「準備するね」
皐月が台所へと歩き出す。
一人、外の景色を見つめている太陽。
しんしんと降り積もる雪を見つめながら、嫌なイメージを思い浮かべてしまう。
独り……誰もいないアパートの一室で倒れている剛士の姿を……。
それを思い浮かべてしまうのには理由があった。
夏が始まろうという季節……遅い時間帯にコンビニ弁当を購入している彼の姿を思い出してしまうのだ。
「……本当に大丈夫なんだろうな……? 火焔先輩……」
するとそこへ……。
「ふわぁーあ……おはよー……皐月姉……ご飯あるー?」
寝ぼけ眼の月夜が起きて来た。
太陽が返答する。
「皐月姉なら台所だよ」
「ん……? そうなんだ……さんきゅー…………………………………………………………ん? んん……?」
早起きの太陽という、珍しい光景を前に危うくスルーしてしまいそうになる月夜。
「え……? 何であんたが起きてんの?」
「何でって……朝だからに決まってるだろ」
「そりゃそうなんだけど……あれ? ひょっとして外の大雪って……兄貴のせい?」
「どーいう意味だよ!」
「珍しい事したら雨が降る――――的な?」
「誰の早起きが珍しいって……?」
「兄貴の」
「………………」
身から出た錆である。
自覚しているのか、していないのかは定かではないが、この話題がどうにも居心地悪いと思った太陽は話を変える事にした。
「なぁ月夜……」
「何よ」
「お前……火焔先輩と皐月姉の事聞いてる?」
「……うん、聞いてるよ……昨日聞いた」
「オレもだ……。どう思う?」
「心配だよ」
月夜も即答する。
どうやら、心配に思っているのは同じの様だった。
「だよなぁ……」と、太陽が頭を搔く。
「……火焔先輩《あの人》……戦術とか、状況把握とか、他人の事には鋭い癖に自分の事は、さっぱりだからなぁ……」
「そういう所、兄貴とそっくりだよね」
「うるせぇ……オレは自覚してるっつーの……」
「本当かなぁ?」
「疑うなよ……。……つーか、オレらが心配しても、どうしようもない事なんだけどな……」
「うん……そうだね」
「火焔先輩なら大丈夫そうな気もするんだけど……駄目そうな気もするんだよなぁ……うーん……どうしたもんかなぁ……」
動くか動かないか。
動くとすれば、どのように動くのか……動くべきなのか、頭を悩ませる太陽。
何せ今回の対象相手は、あの火焔剛士なのだから。
生半可な説得には応じず、生半可な相手ではない。
(祈るしかねぇのかな……? 皐月姉と火焔先輩……二人が無事、幸せになれますように……って……そうであって欲しいものだが……)
しかし――自体は刻々と、最悪の方向へと向かっていた。
太陽は後日、それを知る事になるのだが……。
今はまだ……未来の話である。
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