おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

115:魔楽器職人

 バラムに手を引かれ、裏通りを進む事しばらく。ゲーム内では2ヶ月ぶりくらいに『ハイモの道具屋』を訪ねる。

 バラムは勝手知ったるという風に雑に扉を開けて店内へと入っていった。

「ジジイ、来てやったぞ」
「ああん? おお、坊主にトウノ! 戻ったか!」

 粗暴な入店に顔を顰めたハイモが僕達だと分かると、髭に埋もれた表情を緩める。

「ああ……ん?」

 僕が《勘破》の反応に首を傾げる。バラムの方をチラッと見るととくに変わりは無いが、バラムが気づいていないはずは無いので問題無いということなのだろう。僕の視線に気づいたのか、少しだけ繋いだ手を強く握られた。……そういえばまたバラムと手を繋いだ状態で入店してしまった……まぁ、今更だろうか。

「他に誰かいんのか?」
「あん? おお、そうだった。最近この町に来た奴でよ、魔楽器職人だってんで意気投合してな。トウノの依頼物を手伝ってもらってたんだ。おい、グウェニス、こっちに来い」

 ハイモに促されて奥の作業場から、スラリと細長くひどく色白な人物が恐る恐ると言った感じで出て来た。さらに特徴的なのが、耳が長く尖っている。この特徴は……。

「エルフ?」
「ああ、エルフ族で魔楽器職人のグウェニスだ」
「ひぇ、強そうな人いる……コワ……」

 グウェニスと紹介された魔楽器職人は僕達……バラムを見るなり、細長い体を限界まで曲げてハイモの後ろに隠れる。

「おぉい、坊主は無愛想だが無闇に暴力を振るったりしねぇから安心しろ。それよりほら、ちゃんと名乗っとけ」
「うぅ……アタシはグウェニス。見ての通りエルフで魔楽器職人やってる……と言っても工房から破門されてる身だけど……」
「僕は異人でトウノという。まだ未熟だが編纂士をやっている」
「……」
「ひぇ」
「……こっちは鉄銹の大剣使いで通っている。このフクロウは……ちょっかいをかけなければ大人しいから心配しないでくれ」
『主殿の邪魔はしないである。あとこの者は主殿を害するような力は持ってはおらぬ』

 お互いに紹介をする流れなのに、バラムは一言も発さずにグウェニスをじっと観察している。案の定グウェニスが怯えてバイブレーションが強くなっていたので、見兼ねて僕の方からまとめて紹介する。

 肩に留まって大人しくしていたシルヴァがウィスパーで僕とバラムにしか聞こえないように語りかけて来る。

「……ふん」

 バラムが力を僅かに抜いたのが手から伝わってきた。最初からそこまで警戒していたわけでは無さそうだったが、一応観察して改めて問題無いと判断したようだ。ハイモが信用していそうな事も関係があるだろうか?

「トウノ……あの、もしかしてアタシに出資をしてくれた?」
「うん? ああ……確かに魔楽器職人に出資している。工房を破門になっていると聞いたがもしかして……」
「うん、それ、アタシ。出資のおかげで生活を立て直せてジェフリーからハイモを紹介してもらえたし、萌芽祭中でもユヌへ安全に来れた。……感謝してる」
「そうか。為になったなら何よりだ」

 紹介の時に少し引っかかってはいたが、やはりグウェニスはジェフから出資を勧められた魔楽器職人だったらしい。

「おお、そうだった! 俺の店にも出資してくれたよな? おかげで依頼の物も色々試せたぜ」
「ふ、それも見越して出資したんだ」
「ガッハッハッハ! そういう事にしといてやろう! さぁ、顔合わせも終わった事だし、楽器の出来を見てくれ」
「ああ」

 ハイモに促されて、作業場へと入れてもらう。作業机には僕にとっては見覚えのある楽器が置かれていた。

「おお……!」
「どうだ? 最初は何でこんな形にするんだと思ってたが、繊細な音色を出す為の構造との関連性に気づいてからは逆に拘りまくっちまったぜ!」
「すごいな、見た目はほとんど僕の知っている物と同じだ」

 僕の拙い伝え方と2ヶ月という短い期間で良くぞここまで……という程のそのままの見た目のヴァイオリンがあった。

 期間の短さについては……おそらく職業専用技能によるマジカルな省略方法があるのだろうと予想している。

「へへっ、そうだろう、そうだろう。グウェニスは感覚的に作ってる俺と違って精密な調整をしてくれたんだ」
「見た事のない楽器……とても滾った……! それに美しい……!」

 ハイモもグウェニスも楽器の話題になった途端目を輝かせて色々と聞かせてくれる。パッと見は何もかも違いそうな2人だが、職人としての気質か楽器作りへの情熱が共通しているのか、かなり意気投合している。

「見た目は結構再現出来たと思うんだがな。楽器はやっぱ演奏出来てナンボだろ? 早速弾いてみちゃくれねぇか?」
「アタシ達は作れるけど、演奏は苦手……」
「分かった。弾いてみよう」

 早速、作ってもらったヴァイオリンを持って構えてみる。材質や仕上げの僅かな違いは感じるが、構えた感じはヴァイオリンそのものだ。

 弓を当てて適当に音を出してみる。……うーん、少し音が低いだろうか? とりあえずはひと通り弾いてしまおう。曲は……無難に酒場の曲だな。《揺籃編纂士トウノの旋律》も秘技を乗せなければ何とも無いのだろうが、念の為……。もう少し酒場の曲以外にも気軽に弾ける曲が無いものか。

 と考えつつ、酒場の曲を弾き始めた。


 以前のように5周程繰り返したところで弾くのを中断する。

「……ん?」

 皆が妙に静かなので辺りを見回すと────。

「お、おお……聴き慣れた曲が随分と印象が変わるな……何か優雅になったつぅか……」
「……ううん、もっと優雅になる……はず……」
『ぬぅ、主殿の演奏は心地良いものであったが、これはより一層心地良すぎて寝てしまいそうである……』
「……」

 反応はそれぞれだったが、シルヴァとバラムがすごく眠そうだ。バラムは無言で頭を振って眠気を晴らそうとしていた。

「貸して……調整する……」
「ああ。もう少し高音なイメージだ」
「うん、アタシもそう思う」

 何らかのスイッチが入ったのか、先ほどまでのおどおどした様子が嘘のように意思の強そうな表情でヴァイオリンを調整し始める。

「魔楽器職人は本来、出来た楽器に魔導回路を作るのが主な作業なんだけどよ、アイツはあの調子で楽器その物も弄っちまう性分がどうしても直せなくて破門されちまったんだとよ」
「そうだったのか」

 ハイモがこっそりとグウェニスが工房を破門になった経緯を教えてくれた。

「ハイモは構わないのか?」
「ん? ああ、俺は別に言ったって楽器作りは趣味だし、より良いもんが出来んならかまわねぇな。アイツの発想を形にしてみるのも面白ぇし」

 聞いた所、どちらが良い悪いではなく、工房の方針とグウェニスの拘りが噛み合わなかったように思える。ハイモのスタンスとは相性が良さそうなので、存分に自分の拘りを突き詰められる環境が合っていたのだろう。

「ふ、良い関係のようだな」
「まぁ、張り合いは出たな。これも救世主殿の出資のおかげってもんだなぁ?」
「ぐ、その呼び方はやめてくれ……」
「ガハハ!」

 【ユヌの救世主】の称号を不意打ちで呼ばれ、精神的なダメージを受ける。揶揄われているのは分かっているが。

「調整が終わった……弾いてみて」
「早いな。分かった」

 グウェニスから差し出されヴァイオリンを受け取り、再び弾いてみる。……おお、1回の調整でかなり実際のヴァイオリンに近い音が鳴っている。別に演奏家でも何でもない僕としてはもうこれで十分な程だ。

「すごいな、素人の僕には十分過ぎる出来だと思う」
「はぁ……しなやかで華やかな音色……繊細な構造なのもすごく好み……」
「確かにさっきよりさらに締まったっつーか、コレだ!って感じがするな」
「それじゃあ、これを魔楽器にする……トウノはどんな魔法を使うの?」
「ん? ……ああ……それなんだが……僕は今のところ魔法は使わない、な……」
「えっ」

 そういえば、魔楽器を探していたのはまだサブ能力として魔法を使う事を考えていたのだが、僕はそもそも戦闘に出ない方が良いと察したばかりだし、何より今は魔法の使い手だとシルヴァがいる。
 《揺籃編纂士トウノの旋律》を使うのは魔楽器である必要は無い。

 ……つまり。

「その……申し訳ない、魔楽器にしなくても大丈夫だ」
「そ、そんなぁ……」

 僕の言葉にグウェニスががっくりと肩を落としてしまった。


 本当に申し訳ない。
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