【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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本編

191:アンコントローラブル

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 ということで、インベントリ間のアイテム授受機能を使って大剣3本を送り、バラムに出して貰う。

 もう机に置くスペースがなかったので、その辺の床に置いてもらった。
 ……合計で大剣が5本もあると中々圧迫感がある。

「で、どうするんだ?」
「バラムがメインにしたい大剣にここにあるステータスや情報を《編纂》で全部注ぎ込むから、どれをメインにするか教えてくれ」
「お前なぁ……」
『こういうときの主殿は最高に思い切りがよくていいであるなぁ』

 バラムが半目で見てくるが、バラムの高くなりすぎたステータスに武器をもたせるにはこのくらいしても足りるか分からないんだから仕方がない。

 呆れつつも悩む素振りも見せず、新品の鋼の大剣を指すように顎をしゃくる。
 まぁ、なんとなくそちらを選ぶだろうと思っていた。チケットで交換した大剣達はレアリティがそれなりに高いので、見た目が華やかでこれぞ『ファンタジー武器』というデザインではあるが、バラムの趣味ではなかったのだろう。

「じゃあ、これに“全部”注ぎ込んで……」

 そうしてステータスが抜き取られた大剣は、急速に色褪せると砂状になって崩れてしまった。

『ほぅ、ステータスがなくなるとこうなるのであるな』
「……僕も知らなかったな……」

 シルヴァが興味深そうに砂を検分している。……これ〈汚れを濯ぐ〉で綺麗に出来るやつだろうか?

 片付けのことはあとで考えるとして、もう一つのインベントリの肥やしを取り出す。

「それは……最初の頃着てた服か?」
「ああ」

 ユニーク装備を手に入れてから、全く出番の無かった初期装備の学者服だ。久しぶりに見るとなんだか懐かしい。
 これをどうするのかと言えば……。

「この装備の『破壊不可』を移せれば、とりあえず良い武器が入手するまでの繋ぎにはなるだろう」
「……そんなこと出来んのか?」
「やったことはないが……まぁ、物は試しだ」

 ということで、学者服を《編纂》しようとしたところで────黒い根に奪われてしまった。

「えっ、ちょっと」

 奪われていった方を見ると、学者服が何やらモゾモゾしている。
 かき分けて見てみると、底根の四つ葉壺が取り込もうとグイグイ入れているが、上手く取り込めないようだ。

 しかし、取り込めるものであればサイズは関係ないはずなので、初期装備は取り込み不可ということなのだろう。
 ……僕の試みが成功したら、だが、《底根変換》によって初期装備が際限なく増やせてしまう状況は流石にゲームバランス的に看過できない事態なのだろうと思う。

「ほら、取り込めないんだから、諦めてくれ」

 諭すように学者服をそっと引っ張ると、渋々……といった感じで離してくれた。

 というか、君………………インベントリに入っていたはずだよな?
 ……もう、自我があるのは疑いようがないな……。まぁ、そういうものとして接していこう。

 最早どれほど意味があるのか分からないが、底根の四つ葉壺をインベントリにしまう。


 さて、気を取り直して『破壊不可』移設チャレンジだ。


「……あっさり出来たな」
「もう、理解しようとする無駄な努力はやめた……」
『クハハッ! 本当に未知なことを見せてくれるであるなぁ!』
「ま、まぁ、出来たんだからいいだろう」

 これで、最低限必要な性質を持たせることが出来た。……出来たが……。


 なんか、不満だ。


 もっと、今ここで使える素材でもっと良く出来ないだろうか?
 …………素材……。

「……ちょっと、僕の根と力も足してみよう」
「待て、どうしてそうなる」
『おお、名案であるな!』

 僕とバラムは色々繋がりがあるので、僕の一部や力を使っても相性が悪くなることはないはずだ。
 ということで《底根の根》に〈我が力を与えん〉と……ほんの少し《腐朽》の力を込めて大剣に触れてみる。

 すると、根が解けるように繊維状になっていき、大剣へと巻きついていく。
 繊維が纏われていくごとに、鋼色の大剣の色がどんどん暗さを帯びていく。少し淀んだ色も混ざっている気がするのは《腐朽》の力だろうか。

「お前、サラッととんでもないものを混ぜたな……?」
「うむっ」

 大きな片手で両頬を挟まれて、強めに捏ねられる。
 ……確かに調子に乗りすぎたかもしれない、と甘んじて受ける。

 それにしてもこの繊維の巻きつきだが……既に僕の制御下にはなく、僕はAPを注ぐだけとなっている。
 ……ちょっと、APが足りなくなったらどうしようと不安になってくる。
 強壮活性の飴玉をいつでも食べられるようにしておこうとインベントリから取り出そうとするが、手にしていたのは何故か────。

「狂った魔物の木彫り像?」

 スロットが隣り合っていたわけでもないのにどうしてこんな間違いを……? と疑問に思っている間にも、木彫り像が僕の手からこぼれ落ち、黒い繊維の波に攫われていく。


 ────いや、自ら飛び込んでいったのかもしれない。


 その直後、ざわりと繊維が大きく波うつ。

「っ!?」
「トウノ!」
『主殿!』

 左腕に衝撃を感じて、はじめて自分の身に起こった異変に気づいた。繊維からいつの間にか伸びた黒い影が僕の左腕に絡みついて……いや、“喰らいついて”いた。
 間髪入れずにバラムに腰を抱えられ、影へは拳が飛ぶが、影の中を抵抗もなく通り過ぎてしまう。シルヴァの魔法らしき黒い槍もとくに効いていないように見える。もしかしたら実体がないのかもしれない。

 それなら僕をここから離そうと、バラムがぐいっと引っ張ろうとする。が、動かない。

「くそっ!」
『むむむ、主殿の根が踏ん張っているであるな……主殿の方でどうにか出来るであるか?』
「えっ……」

 シルヴァに言われて、足元を見ると、僕の影から根が床に張っているように筋がいく本も伸びていた。テンパってしまっていて、上手くコントロールを取り戻すことが出来ない。

「チッ! 問題は?」
「うぅん……LPを少しずつ吸われているが、まだAPで賄える範囲だ」

 少し現実逃避しかけた頭で、意外と良心的な量だけもっていくんだな、と思う。

「痛みは?」
「多分……ない、と思う」

 そういえば、喰らいつかれている風なのに、痛みを感じない。……それなら、割と、問題ないだろうか。

 僕が変に落ち着き出したからか、バラムとシルヴァもまだ猶予があると思って、少し落ち着いて影に効く攻撃は無いかや、これは何かと検分しだす。《慧眼》では《編纂》中の大剣のステータスしか表示されず、肝心なことが分からない。

 しばし影にされるがままLPを吸われていると、影が徐々に形を変えはじめる。

 それは……。

「狂った魔物の獣型……?」

 に、よく似た頭部だった。
 もしかしなくても、さっき落としてしまった木彫り像の影響だろうか? というより、要素的にそれしか思いつかない。

 ぼんやりそれを眺めていると突然、獣頭の顎が外れ、ベロッとそこを舐めて離れていった。

「うん? って、うわ……」

 と、思ったら獣頭が二つに増えていた。

『あの木彫り像の影響ならば、そうなるであろうなぁ』
「……」

 二つの獣頭は次はバラムの方へと顔を向ける。その瞬間、バラムがぴくりと何か反応したように見えた。

 しばらく、お互いに睨み合ったのち、バラムが口を開く。

「……いいだろう。だが、次はない。今度こいつに手を出したら叩き折るぞ」

 バラムが何かを承諾するようなことを言うと、今度は獣頭がそれぞれバラムの左肩と右腕に喰らいつく。

「ぐっ」
「バラム……!」
「……問題ない」
『容赦ないであるな……』

 バラムからうめき声が漏れる。それもそのはず。先ほどの僕が吸い取られたLP量とは比較にならないほど大量にLPが吸われていっていた。
 元々高かったLPが転生してさらに伸び続けているバラムでなければ、一瞬で枯渇する量だ。
 珍しくシルヴァが少し引いている。

「飴玉、必要だろうか…?」
「ああ、頼む」

 まだ余裕があるとはいえ、心配なので安全マージンを保つためにも、強壮活性の飴玉をバラムの口へ運ぶ。どうやら、喰らいつかれている間は身動きがとれないようだ。そういえば、僕はもう普通に移動出来るようになっている。

 そうして、ハラハラしながら見守ることしばし。
 ようやく二つの獣頭がバラムから離れる。満足そうに自分の鼻や顎をペロッと舐めて大剣の方へと消えていく。


 すると、そこには────。


 鈍い七色の輝きを宿した、なんとも形容し難い質感の黒に、鍔から剣身にかけて三つの犬の頭の意匠が施された大剣が静かに存在感を放っていた。
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