おそらく、僕だけ違うゲームをしている。

鵩 ジェフロイ

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本編

220:神あるある

【エクストラレガシークエスト】
壊れた月の修復。

黒衣の寡婦ノーから話を聞く
依頼者:黒衣の寡婦ノー
期限:???
報酬:???
※クエストを失敗した場合、その状況によって再挑戦期間が変動する。


 ……ノリで勢いよく〈受注〉コマンドを入力してしまったが……いや、それはいいんだが……。
 ノーは今、明らかに自分でコントロールしてクエストを僕に出さなかったか……?

 …………まぁ、その辺りは追々聞いていこう。
 今聞きたいことと言えば……。

「そもそもどうして闇の神は去って、月が壊れてしまったんだ?」

 そう、この“結果”だけは石碑から比較的容易に読み取れるのだが、これ以外に情報がなさすぎてどうしてこうなってしまったのかがさっぱり分からない。

「『…………あー……』」
「んん?」

 ここで何故かノーとシルヴァの声が重なる。何なら同じく遠い目をしている。

「こほん、失礼しました。もうお察しいただけているかもしれませんが、闇の神とはわたくし達の前の主君になります」
「ああ」

 それはノーとシルヴァの様子からなんとなく察せていた。もしかしたらバラムの先祖も仕えていたのかもしれない。

「我が君は闇の神の名をご存知で?」
「いや…………多分、一度だけシルヴァが口にしたのを聞いたと思うんだが、その時はうまく聞きとれなかった」
「左様ですか。しかし、今ならば聞きとれましょう。彼のものの名は『闇神ネーヴェクリフ』といいます」
「ネーヴェクリフ……」

 初めて、闇の神の名を知った。

 同時に強い違和感に襲われる。

「いくつかの遺跡にも《古ルートムンド語》の書物にもどこにもそんな名は無かったが……」
『まぁ、彼奴は享楽的な割には目立つことは嫌いであったからのぅ。そこは主殿と似ているである』
「ふぅん?」

 ……享楽的なのか。ネーヴェクリフ。
 対となる光神アークトゥリアの性格は知らないが、目立ち度、知名度でこの世界に並ぶ者がいないことを考えれば、転じて人知れないことを好んだ、ということなのだろうか。
 ……確かに、僕も目立たないように努めてはいるな。

「それがどうしていなくなったのだろうか?」
「それでございますが……」

 ノーはここで頭に手を添えてふぅとひとつため息をこぼして言う。


「『飽きた』と」
「………………うん?」


 なんて?


「この世界に飽きたから次の新たな世界を見つけるなり作るなりすると言って飛び出して、それきりにございます」
「…………それは……」

 なんとも軽いあっさりとした理由すぎて、神が享楽的な性格だとそうなってしまうのか、という感想を出すのが精一杯だった。

『クククッ、我は彼奴のその気持ちも分からぬではないがな。彼奴は創世の片割れ故、この世界の全てを識っておったであるからな。退屈だったのであろうよ』
「創世の片割れ?」
『うむ。この世界はそも、光神と闇神の手によって生まれたのだ』
「そうだったのか」

 これもどこにも記述の無かったことだ。
 先ほどまでの流れでちょうど手帳を開いていたので、新しいページにメモをとる。

『彼奴や我にとって「退屈」とは耐えがたい毒なのよ』
「だからと言って突然消える必要はないでしょう。わたくし達がそれからどれほどの気の遠くなる年月苦労するはめになっているのか……」

 ノーが頭が痛いというように額に手を当て、首を振る。
 ……その言い分は尤もだと思う。

『クククッ、それはそうであるな。だが、それもまた一興である!』
「貴方のそういうところ、本当にあの方に似てますわね」

 確かに聞いている限りでは、シルヴァと物凄く馬が合いそうだ。
 それにしても。

「ふぅむ……ネーヴェクリフが去ったのはまぁ…………分かったが、そこからどうして月が壊れてしまったんだ?」
「それですが……ひとことで言えば『痴情のもつれ』でしょうか」
「……ん? はい?」

 天体が壊れるというスケール感とミスマッチな単語の意味を理解するのにまた時間がかかってしまう。

「ネーヴェクリフとアークトゥリアは兄弟なのですが……」
『闇神が長子で光神が次子であるな』
「そ、そうなのか」

 そしてさらに畳み掛けられる衝撃の事実。この世界でも結構本を読んできたが、そんなことどこにも書いてなかった。
 教会の聖書はまだ読んでいないが……闇神のことやまして光神が闇神と兄弟だったとか記してあるとは思えない。まぁ、秘匿されているだけかもしれないが。

「そして、兄弟にして愛を交わし合う関係でございました」
「……………………えぇ?」

 つまり……ネーヴェクリフとアークトゥリアは兄弟だが恋愛関係にもなっていたと……。
 ま、まぁ、近親間でのあれそれは神話ではむしろあるあるではあるので、そういうこともある……のだろうか?

「ということは……もしかして」
「ええ。あの方はアークトゥリアにも黙って姿を消しまして。怒り狂ったアークトゥリアがあの方の象徴である月を砕いたのです」
「…………あー……」

 思わず片手で顔を覆った。
 まさしく『痴情のもつれ』だが、被害が甚大過ぎる。

『とはいえ、彼のものは彼奴にご執心だったであろう。怒りが落ち着いたあとはどうなったのだ?』
「さあ? わたくしもこの通り、あちら側とはか細い媒体でしか繋がれなくなってしまいましたから」
『そういえばそうだったであるな』

 あまりにも……言ってしまえばしょうもない理由で、闇属性の者たちや死後の魂はとばっちりを食らっていたようだ。しかも、とてつもなく永い間。

 遺跡の石碑はこの当時を知る誰かが、後世に伝える為に残したものだったのだろうか?

 ……結果だけを記した理由が今となってはよく分かってしまうな……。
 一応、メモはしておくが。

「……ん? そういえば、シルヴァは僕たち異人のことを『ネーヴェクリフの落胤』とか言ってなかったか?」
『そうであるが?』
「……うん?」
「我が君をはじめとした『異人』たちはあの方と旅立った先で交わったものの力から生まれたのです。ですから『落胤』と」
「……それ、アークトゥリアは……」

 ……なんだろう、背筋が寒くなってきた気がする。

「当然知っているでしょう。封印されていた変幻の夢魔が即座に察せられたほどですから」
「……普通に受け入れているのは、どういうつもりで……?」
「落胤たちはアークトゥリアの光を受け続けたり『死に戻り』をすることで、アークトゥリアの力が強く染み込み、あの方の力はほとんどなくなるのです。それで復讐でもしているつもりなのでしょう」
「僕が拒否されているような気がするのは……」
「我が君は、あの方の気配が消えるどころか今に至るまで強烈に発しておりますので、あの方への怒りから拒んでいるのかと。……あくまで想像ですが」
「なるほ、ど……?」

 色々と疑問が解けた気はするが…………なんかスッキリしないのは何故なのだろう。

「しかし、それはわたくし達にとってはとてつもない僥倖でしたわ。ただ、わたくしが我が君の歌に惹かれた時には、夜狗……ですらなかったただの遠い末裔がすでに目をつけていたことには驚きましたが」
「あん?」
『クククッ、『夜狗』とはその血の濃さでも正統性でもなく、“有り様”だというのがよく分かるであるな』
「ええ、全く」
「わけの分からねぇことを……」

 何故か矛先を向けられだしたバラムが露骨に嫌な顔をする。


 ……段々、話の内容や雰囲気から親戚の集まりにいるような気持ちになってきたな……と思いながら、紅茶を啜った。

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