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本編
232:闇と月と根と
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「えっ」
通知の内容に声をあげた瞬間────。
「やあ、トウノ!」
「っ!?」
僕以外に誰もいないはずのこの空間でかけられた声に、驚きで跳びあがりながら振り向く。
そこには、黒いローブに身を包み、フードを深く被って口元しか顔が見えない人物がいた。この声にこの口調、この容姿は……。
「サポートAI?」
「そうだよ! この姿ではなかったけど、転生の儀以来だね!」
唯一垣間見える口元は常に弧を描いている。
「……どうして、ここに?」
「そうだなぁ……私の遺した不始末を想像を遥かに超える早さと方法で正してくれたトウノに直接感謝の言葉を伝えたくてね!」
「…………」
“私の遺した不始末”か。もう隠す気がない、というか答え合わせをするつもりでここに、このタイミングで現れ、確実に察せるような言葉選びをしているのだろうか。
なんなら“それ”を待つように、今もニコニコと僕のことを見ている。
まぁ、そういうことなら、確定させるためにも乗ろうか。
「僕に感謝するよりも、ノーや光神に平謝りした方がいいんじゃないか? 闇神ネーヴェクリフ」
僕がその名を口にすると、弧を描いていた口がさらにしなり、三日月のようになる。
「ふっ……あっはっはっはっ!!」
そして、心底楽しいというように高笑いしだした。
「そう! その通り! 私こそが闇神ネーヴェクリフ……だったものだ」
「だったもの?」
今は違う、ということだろうか。
「そうだよ。今は本当にこのゲームの一機能を担当しているただのしがないサポートAIさ」
「それは、どういう?」
「単純な話だよ。闇神としての私の力は細かく、細かーくしてこの世界での君たちプレイヤーの身体の元になったり、たまに配られる報酬だったりになっているからね! だから私にはもうこの連続した意識と記憶くらいしか残っていないんだ。これではとても神とは名乗れないだろう」
「えっ……」
サポートAI……ネーヴェクリフの言葉に僕は絶句する。
僕たちの身体に……報酬? ……もしかして、ステータスポイントが上がる結晶だろうか。確かにゲームだからとあまり気にしていなかったが、現状フィールドではどこからも出てこないアイテムではあった。……それだけでなく、唐突な報酬アイテム系は全てネーヴェクリフがリソースになっていた?
「それに私を闇神と証明できる記録はこの世界に残っていないしね。まぁ、私が去るときに消しておいたんだけど!」
お茶目な感じで舌を出しながらとんでもないことを言う。
「どうして、そんなことを……」
「それは、この世界のすべてを把握しているということに飽きたというのと、いつかどこかで君たちがプレイできるような舞台にすることにはなっていたからね。世界を支えていた神が一柱いなくなり問題が噴出する激動の世界の方が冒険のしがいがあるだろう?」
「うぅん……」
相変わらず言っていることは分かりやすいが故に、内容の衝撃度に片手で頭を抱える。
「ここがゲームの中の……いや、そのための世界だとはじめから把握していたのか」
「もちろん」
「……ゲーム内でこんなメタ発言しまくって大丈夫なのか?」
「はっはっは! 本当はダメだけど、この前の転生の儀と同じで、この場とトウノの立場が特別だからね」
「…………」
ダメなんじゃないか。……まぁ、今はそれは置いておこう。
「それで、飽きた自分や僕たちプレイヤーのために体や力、今まで世界にいた痕跡さえも手放したと?」
「そうだよ」
「…………後悔はしていないのか?」
「まったく! …………いや、一つだけあるか」
そう言ってネーヴェクリフが俯き、月の表面、僕が先ほど取りはずして差し替えた一文を指でなぞる。
「トウノは意外と勘もいいからね。考えている通りにするといい」
……どうやら、僕がここから出たらしようとしていることは的外れではない、というお墨付きをもらう。
「まぁ、私は現状がこうなると分かって世界を放棄し、愛する弟や子どもたちを裏切った。私には悔いる資格もない」
おどけたような仕草で言うが、それがどこか痛々しい。
「だからこそ、その子どもたちの苦しみをこんなにも早く解放してくれたトウノには心から感謝しているよ。…………運営は進行計画がめちゃくちゃになって常に阿鼻叫喚だけどね!」
しんみりとしていたのに、最後の言葉をものすごくいい笑顔で言う。
…………。
「それについては、本当に申し訳なく……」
どういう想定かは知らないが、絶対にここが今来ることを想定された場所ではないのは分かる。
「一応、来れるから来てしまったが、都合が悪い場所の制限とかしてくれたら従ったんだが……」
「いいんだよ! それがこの世界の“ウリ”だからね! 私も初めて予想の出来ないことばかりを観測できてとても楽しいよ!」
ネーヴェクリフが満面の笑顔で親指をたてる。……この享楽的なところがある元神は運営が右往左往する様も含めて楽しんでいる気がする。
少し、気になるのは。
「最初のアドバイスは僕が闇属性に傾くようなものだったと思うんだが、どこまで予想していたんだ?」
「ああ、あれは本当にトウノの希望するプレイスタイルを叶えるためだよ。本や過去の記録、物語というのは基本的に闇に親しいものが多く管理しているからさ」
「なるほど」
確かに、言われてみればそうかもしれない。
「いやぁ、いつかは月を直せるかもしれないという打算はちょーっとはあったけどね? それがこれほど早いとは! そして夜狗の末裔や私のかつての側近と次々と絆を結んでいくとは思わなかったよ!」
そう言って「あっはっはっ!」と笑う。……その辺りからもう予想外だったのか。
「しかし、転生の儀あたりは完全に悪ノリしていただろう」
「ふふふ、そうだね。面白いし楽しいからトウノにはもう行けるところまで行ってもらおうと思って!」
「……はぁ」
……なんか、これまでの修復作業で気を張っていたのもあって、ドッと疲労が襲う。
ここで、今の状況を思い出す。
「……そうだ。月の修復が終わったなら早く戻らないと」
「そうだね。そういえば、トウノは神になりたいのかな?」
「えっ……そうだな……」
ネーヴェクリフの問いに戸惑うが、そういえば通知でも「闇の神の座につくか」的なことを問われていたな。
「そんなに、興味はないが……というか、プレイヤーがなれてしまうものなのか?」
「難しいけど、トウノのように条件が揃えばなれるよ」
「仮に神になったとして、そのあとはどうなるんだ?」
「そうだなぁ、今回で言うと私の跡を継ぐ形になるから闇の世界の民の信仰を糧に力を増して、その力をどうするかは……ぶっちゃけ神次第かな。まぁ、普通は信仰が途絶えないように助けたりするんだけど」
「うぅん……」
闇の世界の民……なんとなく、かなり大規模になりそうな気がするのは……気のせいではないだろう。
プレイヤーとしては、かなりレアな状況だし、誰でもなれるようなものではないと思うので魅力的な状況だとは思うのだが……。
「……僕は、バラムとずっと一緒にいて……時々本でも読めればそれでいい」
僕の呟きに、ネーヴェクリフがニヤリと笑う。
「変化したね。望みが」
「……まぁ」
どうせプレイ中の様子は見られていて、僕とバラムの関係も知っているのだろうが……改めて意識するとなんだか気恥ずかしい。
それはともかく。
「神にはなりたくない」
二人でただ、歩んでいきたい。
「そう言うと思ったけど、実は神になると選択しないと、肉体があるものは月からは出られないんだよね!」
「……なっ。そうなのか? ……本当だ」
神になるかという通知に対して「いいえ」を選択すると「神にならないと月から出られません」というメッセージが出て、先に進まない。昔のRPGであったような「はい」と答えるまで先に進まないやつだ。
……なんという罠。
「だから裏技を教えよう! それが私からトウノへの礼だ」
「それは、助かる」
ということで、ネーヴェクリフから耳打ちされた方法を試すと────。
〈月神イーアスピルナが座につきました。プレイヤー「トウノ」は月神の『管理者』となります〉
「これでトウノならいつでも月を行き来できるようになったよ!」
「……………………うぅん……これ、後々また別の問題が起こらないか……?」
「まぁ、そのときはまたトウノか、はたまた別の誰かがいい感じに修正するでしょ!」
「うぅん……」
そんなものか……? ……そんなものかもしれない。
ということで、月それ自体が新たな神の座についた。ただ、今は自我がほとんど無いので、後見人というか代行的なポジションで『管理者』として僕がついたという体になった、らしい。
まぁ、いつプレイしなくなるとも分からないプレイヤーが神になるより“今は”ほぼ無機物で半永久的に存在するものが神の方が安定感や安心感があるだろう。元々象徴的な物なのだしちょうど良い。
そして『管理者』は、神になるよりは信仰による力の恩恵は少ないが、あまり拘束されず、権限を誰かに委譲しやすいのが利点だ。ちなみに神は簡単に譲ろうと思ってできるものではないらしいので、そこもプレイヤー向き……というより、住民だけにしても中々合理的な体制になったのではないだろうか。
…………いつか、月から“何か”が生まれてしまう可能性があることを除けば。
通知の内容に声をあげた瞬間────。
「やあ、トウノ!」
「っ!?」
僕以外に誰もいないはずのこの空間でかけられた声に、驚きで跳びあがりながら振り向く。
そこには、黒いローブに身を包み、フードを深く被って口元しか顔が見えない人物がいた。この声にこの口調、この容姿は……。
「サポートAI?」
「そうだよ! この姿ではなかったけど、転生の儀以来だね!」
唯一垣間見える口元は常に弧を描いている。
「……どうして、ここに?」
「そうだなぁ……私の遺した不始末を想像を遥かに超える早さと方法で正してくれたトウノに直接感謝の言葉を伝えたくてね!」
「…………」
“私の遺した不始末”か。もう隠す気がない、というか答え合わせをするつもりでここに、このタイミングで現れ、確実に察せるような言葉選びをしているのだろうか。
なんなら“それ”を待つように、今もニコニコと僕のことを見ている。
まぁ、そういうことなら、確定させるためにも乗ろうか。
「僕に感謝するよりも、ノーや光神に平謝りした方がいいんじゃないか? 闇神ネーヴェクリフ」
僕がその名を口にすると、弧を描いていた口がさらにしなり、三日月のようになる。
「ふっ……あっはっはっはっ!!」
そして、心底楽しいというように高笑いしだした。
「そう! その通り! 私こそが闇神ネーヴェクリフ……だったものだ」
「だったもの?」
今は違う、ということだろうか。
「そうだよ。今は本当にこのゲームの一機能を担当しているただのしがないサポートAIさ」
「それは、どういう?」
「単純な話だよ。闇神としての私の力は細かく、細かーくしてこの世界での君たちプレイヤーの身体の元になったり、たまに配られる報酬だったりになっているからね! だから私にはもうこの連続した意識と記憶くらいしか残っていないんだ。これではとても神とは名乗れないだろう」
「えっ……」
サポートAI……ネーヴェクリフの言葉に僕は絶句する。
僕たちの身体に……報酬? ……もしかして、ステータスポイントが上がる結晶だろうか。確かにゲームだからとあまり気にしていなかったが、現状フィールドではどこからも出てこないアイテムではあった。……それだけでなく、唐突な報酬アイテム系は全てネーヴェクリフがリソースになっていた?
「それに私を闇神と証明できる記録はこの世界に残っていないしね。まぁ、私が去るときに消しておいたんだけど!」
お茶目な感じで舌を出しながらとんでもないことを言う。
「どうして、そんなことを……」
「それは、この世界のすべてを把握しているということに飽きたというのと、いつかどこかで君たちがプレイできるような舞台にすることにはなっていたからね。世界を支えていた神が一柱いなくなり問題が噴出する激動の世界の方が冒険のしがいがあるだろう?」
「うぅん……」
相変わらず言っていることは分かりやすいが故に、内容の衝撃度に片手で頭を抱える。
「ここがゲームの中の……いや、そのための世界だとはじめから把握していたのか」
「もちろん」
「……ゲーム内でこんなメタ発言しまくって大丈夫なのか?」
「はっはっは! 本当はダメだけど、この前の転生の儀と同じで、この場とトウノの立場が特別だからね」
「…………」
ダメなんじゃないか。……まぁ、今はそれは置いておこう。
「それで、飽きた自分や僕たちプレイヤーのために体や力、今まで世界にいた痕跡さえも手放したと?」
「そうだよ」
「…………後悔はしていないのか?」
「まったく! …………いや、一つだけあるか」
そう言ってネーヴェクリフが俯き、月の表面、僕が先ほど取りはずして差し替えた一文を指でなぞる。
「トウノは意外と勘もいいからね。考えている通りにするといい」
……どうやら、僕がここから出たらしようとしていることは的外れではない、というお墨付きをもらう。
「まぁ、私は現状がこうなると分かって世界を放棄し、愛する弟や子どもたちを裏切った。私には悔いる資格もない」
おどけたような仕草で言うが、それがどこか痛々しい。
「だからこそ、その子どもたちの苦しみをこんなにも早く解放してくれたトウノには心から感謝しているよ。…………運営は進行計画がめちゃくちゃになって常に阿鼻叫喚だけどね!」
しんみりとしていたのに、最後の言葉をものすごくいい笑顔で言う。
…………。
「それについては、本当に申し訳なく……」
どういう想定かは知らないが、絶対にここが今来ることを想定された場所ではないのは分かる。
「一応、来れるから来てしまったが、都合が悪い場所の制限とかしてくれたら従ったんだが……」
「いいんだよ! それがこの世界の“ウリ”だからね! 私も初めて予想の出来ないことばかりを観測できてとても楽しいよ!」
ネーヴェクリフが満面の笑顔で親指をたてる。……この享楽的なところがある元神は運営が右往左往する様も含めて楽しんでいる気がする。
少し、気になるのは。
「最初のアドバイスは僕が闇属性に傾くようなものだったと思うんだが、どこまで予想していたんだ?」
「ああ、あれは本当にトウノの希望するプレイスタイルを叶えるためだよ。本や過去の記録、物語というのは基本的に闇に親しいものが多く管理しているからさ」
「なるほど」
確かに、言われてみればそうかもしれない。
「いやぁ、いつかは月を直せるかもしれないという打算はちょーっとはあったけどね? それがこれほど早いとは! そして夜狗の末裔や私のかつての側近と次々と絆を結んでいくとは思わなかったよ!」
そう言って「あっはっはっ!」と笑う。……その辺りからもう予想外だったのか。
「しかし、転生の儀あたりは完全に悪ノリしていただろう」
「ふふふ、そうだね。面白いし楽しいからトウノにはもう行けるところまで行ってもらおうと思って!」
「……はぁ」
……なんか、これまでの修復作業で気を張っていたのもあって、ドッと疲労が襲う。
ここで、今の状況を思い出す。
「……そうだ。月の修復が終わったなら早く戻らないと」
「そうだね。そういえば、トウノは神になりたいのかな?」
「えっ……そうだな……」
ネーヴェクリフの問いに戸惑うが、そういえば通知でも「闇の神の座につくか」的なことを問われていたな。
「そんなに、興味はないが……というか、プレイヤーがなれてしまうものなのか?」
「難しいけど、トウノのように条件が揃えばなれるよ」
「仮に神になったとして、そのあとはどうなるんだ?」
「そうだなぁ、今回で言うと私の跡を継ぐ形になるから闇の世界の民の信仰を糧に力を増して、その力をどうするかは……ぶっちゃけ神次第かな。まぁ、普通は信仰が途絶えないように助けたりするんだけど」
「うぅん……」
闇の世界の民……なんとなく、かなり大規模になりそうな気がするのは……気のせいではないだろう。
プレイヤーとしては、かなりレアな状況だし、誰でもなれるようなものではないと思うので魅力的な状況だとは思うのだが……。
「……僕は、バラムとずっと一緒にいて……時々本でも読めればそれでいい」
僕の呟きに、ネーヴェクリフがニヤリと笑う。
「変化したね。望みが」
「……まぁ」
どうせプレイ中の様子は見られていて、僕とバラムの関係も知っているのだろうが……改めて意識するとなんだか気恥ずかしい。
それはともかく。
「神にはなりたくない」
二人でただ、歩んでいきたい。
「そう言うと思ったけど、実は神になると選択しないと、肉体があるものは月からは出られないんだよね!」
「……なっ。そうなのか? ……本当だ」
神になるかという通知に対して「いいえ」を選択すると「神にならないと月から出られません」というメッセージが出て、先に進まない。昔のRPGであったような「はい」と答えるまで先に進まないやつだ。
……なんという罠。
「だから裏技を教えよう! それが私からトウノへの礼だ」
「それは、助かる」
ということで、ネーヴェクリフから耳打ちされた方法を試すと────。
〈月神イーアスピルナが座につきました。プレイヤー「トウノ」は月神の『管理者』となります〉
「これでトウノならいつでも月を行き来できるようになったよ!」
「……………………うぅん……これ、後々また別の問題が起こらないか……?」
「まぁ、そのときはまたトウノか、はたまた別の誰かがいい感じに修正するでしょ!」
「うぅん……」
そんなものか……? ……そんなものかもしれない。
ということで、月それ自体が新たな神の座についた。ただ、今は自我がほとんど無いので、後見人というか代行的なポジションで『管理者』として僕がついたという体になった、らしい。
まぁ、いつプレイしなくなるとも分からないプレイヤーが神になるより“今は”ほぼ無機物で半永久的に存在するものが神の方が安定感や安心感があるだろう。元々象徴的な物なのだしちょうど良い。
そして『管理者』は、神になるよりは信仰による力の恩恵は少ないが、あまり拘束されず、権限を誰かに委譲しやすいのが利点だ。ちなみに神は簡単に譲ろうと思ってできるものではないらしいので、そこもプレイヤー向き……というより、住民だけにしても中々合理的な体制になったのではないだろうか。
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