253 / 280
番外編
小話:トウノの誕生日(上) ※バラム視点
しおりを挟む────何故、俺は今こんなところでこの面子と机を囲んでいるんだ。
ツグハルがいない日だっていうのに。……いや、むしろいないからか?
ここ、ドゥトワの数少ない行きつけの店である『ドブネズミの洞穴』の複数人用の個室で飯をつつきながら、心中で首を捻っていると、机を囲む面子の一人が言う。
「兄貴、いつにも増して表情が険しいっすけど、何かありました? 嫌いなものとか?」
俺を『兄貴』と呼んでくる『シャケ茶漬け』とかいう異人。ツグハルの“フレンド”の一人だ。
俺の返答を待たずにもう一人のツグハルのフレンドが食い物を飲み込んで口を開く。
「そりゃあ、トウのんがいないんだから険しくもなるんじゃないー?」
間の抜けた話し方の割には、言葉も戦闘も的確に鋭く急所をつく『あぬ丸』という異人。
「あっ、最近リアルが少し忙しいんだっけ?」
「そうそうー。なんかいろんな講義を受けてるとか? まぁ、それでも他のほとんどの時間はインしてるけどねぇ」
「トウノ君、今までプレイ時間がトップ廃人級だったからなぁ……」
「だねぇ。でもアルストの進行度と実績はプレイ時間どうこうってレベルじゃないくらい、もっとぶっ飛んでるけど~」
「それなー」
二人が『トウノ』と呼ぶ、ツグハルを話題に出して遠い目をする。……まぁ“向こう”のことも多少知った今、言いたいことは俺にもなんとなく分かる。
「そっちも鍋の蓋と最近一緒じゃないじゃん。大体いつも一緒にいたろ」
「あーーー……まぁ、今は鍋の蓋のでっかい夢が叶いかけてるから二人で楽しませてあげようかなぁと」
「二人って……アルプか……? あ、あー…………ん? 鍋の蓋のリアルって確か……あ、だから別にいいのか? ……ん? あれ???」
「シャケ茶漬け。それ以上は野暮ってもんだよ」
「……そうだな」
二人の話がよく分からない方向に脱線しているが、俺には関係無さそうな話なのは気楽でいい。話に出てきた『鍋の蓋』とは、たった一匹の魔物を連れている異人で、妙にチグハグな匂いがする巨人族のことだろう。そいつもツグハルのフレンドだ。
フレンドの中にはもう二人、レプラコーンと盟友契約を結んだ鬼人族の異人と、天使を振って黒焦げになったほとんど関わりのない異人がいるが、ここにはいない。
ちなみに、今日はたまたまこっちでクエストを受けようと思ったら、たまたまこいつらを見かけて、気が向いたから適当に個々のクエストに付き合ってやっただけだ。
まぁ、この異人二人はそれなりに行動を共にしてきたし、ツグハルも信頼しているようなので、共に飯をつつくのはまだいい。
問題は、机を囲む謎の面子の最後の一人────。
「おや、トウノさんは元の世界でお忙しいのですか。どうりで“返事”がいつもより遅いと思いました」
「なんでてめぇがいんだよ」
「偶然こちらにご飯をいただきに来たら、大剣使い殿をお見かけしたのでぜひ交友を深められたらと思いましてねぇ」
相変わらず胡散臭い笑みを張りつけた野郎、この町の商業ギルドのギルドマスターである男がこともなげに言う。
「ということは大剣使い殿もさぞお寂しいことでしょうねぇ」
「は、知ったような口を利くな」
こいつに教えてやる気は毛頭ないが、俺はツグハルに会いに行こうと思えばいつでも会える。結局、その講義とやらを聞くだか、受けるだかも“あの部屋”でだからな。
ちなみに、他の二人には己の身分は明かさず、何食わぬ顔でただの俺とツグハルとの知り合いの商人程度の紹介で済ませていた。
こいつはそういうやつだ。
しばらくして、机の上の料理があらかた片付いた頃、あぬ丸が言う。
「あっ、そういえばそろそろトウのんの誕生日じゃなかったっけー? えーと、私たちの世界時間で」
「え、そうなのか? 聞いたことなかったなぁ」
「……あ?」
このあとツグハルとどう過ごそうか考えていて、ほとんど聞き流していたが、なにか重要な言葉が聞こえた気がして、意識がこの場へと急速に引き戻される。
「誕生日、ですか? 詳しく伺っても?」
俺が聞くより早く、胡散臭い野郎が興味を持ったのか『誕生日』について聞く。
「んー詳しくって言ってもー、ただ言葉通り生まれた日ってことで、親しければ毎年祝ったりー、贈り物をしたりーみたいな感じ?」
「ほう! ほう! 察するに、そちらの人々は誰も彼も生まれた日がはっきり分かっているということなのでしょうか?」
「まぁ、そうすっね」
異人の二人が当然という顔で頷く。……これは、異人たちにとっては常識ということか。
「……って、その言い方だとこっちは少し違う感じっすか?」
「そうですねぇ。平民に関しては、正確な生まれた日を気にしないというか、よく分からなくなった子どもが大半なので、一年のはじめに子どもを集めてまとめて祝ってしまいますね。成人したらほぼ祝いませんし」
「あー、私たちの世界も昔はそんな感じだったようなぁ……?」
……当然、俺も生まれた日など知らない。年はかろうじて分析系の技能で分かるくらいだ。
そんなことより。
「……それで、あいつの誕生日ってのは?」
「うーーーん。それはトウのんに直接聞くといいんじゃないかなぁ」
あぬ丸が欠けていた頃の月のような形に目を細めて笑う。
「……チッ。……そうだな」
「むふふー!」
……そういえば、こいつと鍋の蓋は出会ったときから妙に好意的に俺とトウノを見ていたんだった。こっちが何かを言う前に「決して邪魔はしない」とかなんとか言ってきて。
別に、その理由に興味はないが。
「じゃあ、あとは誕生日をどう祝うかっすね!」
「二人にとってはじめての誕生日なんだとしたら、ちょーと気合い入れたいよねぇ」
「あん?」
異人二人が妙に活き活きと俺を置いて話を進める。
「それはそうですねぇ。私はしがない商人ですが顔は広いので、お祝いの物品であればいろいろお力になれるかと」
「あ゛あ゛?」
しゃあしゃあと胡散臭い野郎も心底楽しそうに入ってくる。鬱陶しい。……鬱陶しいが…………己の力だけで考えるより、この面子と考えを突き合わせた方が良いと俺の“直感”が言っている。
……ツグハルが生まれてきてくれた日を祝うんだ。背に腹はかえられない。
と、俺は腹をくくって、三人に知恵を求めた。
1,640
あなたにおすすめの小説
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~
水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。
死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!?
「こんなところで寝られるか!」
極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く!
ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。
すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……?
「……貴様、私を堕落させる気か」
(※いいえ、ただ快適に寝たいだけです)
殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。
捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!
有能すぎる親友の隣が辛いので、平凡男爵令息の僕は消えたいと思います
緑虫
BL
第三王子の十歳の生誕パーティーで、王子に気に入られないようお城の花園に避難した、貧乏男爵令息のルカ・グリューベル。
知り合った宮廷庭師から、『ネムリバナ』という水に浮かべるとよく寝られる香りを放つ花びらをもらう。
花園からの帰り道、噴水で泣いている少年に遭遇。目の下に酷いクマのある少年を慰めたルカは、もらったばかりの花びらを男の子に渡して立ち去った。
十二歳になり、ルカは寄宿学校に入学する。
寮の同室になった子は、まさかのその時の男の子、アルフレート(アリ)・ユーネル侯爵令息だった。
見目麗しく文武両道のアリ。だが二年前と変わらず睡眠障害を抱えていて、目の下のクマは健在。
宮廷庭師と親交を続けていたルカには、『ネムリバナ』を第三王子の為に学校の温室で育てる役割を与えられていた。アリは花びらを王子の元まで運ぶ役目を負っている。育てる見返りに少量の花びらを入手できるようになったルカは、早速アリに使ってみることに。
やがて問題なく眠れるようになったアリはめきめきと頭角を表し、しがない男爵令息にすぎない平凡なルカには手の届かない存在になっていく。
次第にアリに対する恋心に気づくルカ。だが、男の自分はアリとは不釣り合いだと、卒業を機に離れることを決意する。
アリを見ない為に地方に移ったルカ。実はここは、アリの叔父が経営する領地。そこでたった半年の間に朗らかで輝いていたアリの変わり果てた姿を見てしまい――。
ハイスペ不眠攻めxお人好し平凡受けのファンタジーBLです。ハピエン。
【完結】王宮勤めの騎士でしたが、オメガになったので退職させていただきます
大河
BL
第三王子直属の近衛騎士団に所属していたセリル・グランツは、とある戦いで毒を受け、その影響で第二性がベータからオメガに変質してしまった。
オメガは騎士団に所属してはならないという法に基づき、騎士団を辞めることを決意するセリル。上司である第三王子・レオンハルトにそのことを告げて騎士団を去るが、特に引き留められるようなことはなかった。
地方貴族である実家に戻ったセリルは、オメガになったことで見合い話を受けざるを得ない立場に。見合いに全く乗り気でないセリルの元に、意外な人物から婚約の申し入れが届く。それはかつての上司、レオンハルトからの婚約の申し入れだった──
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新!
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新!
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加
異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します
桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる