【書籍化&完結】おそらく、僕だけ違うゲームをしている。【2月中頃発売】

鵩 ジェフロイ

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番外編

小話:トウノの誕生日(上) ※バラム視点

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 ────何故、俺は今こんなところでこの面子と机を囲んでいるんだ。

 ツグハルがいない日だっていうのに。……いや、むしろいないからか?



 ここ、ドゥトワの数少ない行きつけの店である『ドブネズミの洞穴』の複数人用の個室で飯をつつきながら、心中で首を捻っていると、机を囲む面子の一人が言う。

「兄貴、いつにも増して表情が険しいっすけど、何かありました? 嫌いなものとか?」

 俺を『兄貴』と呼んでくる『シャケ茶漬け』とかいう異人。ツグハルの“フレンド”の一人だ。
 俺の返答を待たずにもう一人のツグハルのフレンドが食い物を飲み込んで口を開く。

「そりゃあ、トウのんがいないんだから険しくもなるんじゃないー?」

 間の抜けた話し方の割には、言葉も戦闘も的確に鋭く急所をつく『あぬ丸』という異人。

「あっ、最近リアルが少し忙しいんだっけ?」
「そうそうー。なんかいろんな講義を受けてるとか? まぁ、それでも他のほとんどの時間はインしてるけどねぇ」
「トウノ君、今までプレイ時間がトップ廃人級だったからなぁ……」
「だねぇ。でもアルストの進行度と実績はプレイ時間どうこうってレベルじゃないくらい、もっとぶっ飛んでるけど~」
「それなー」

 二人が『トウノ』と呼ぶ、ツグハルを話題に出して遠い目をする。……まぁ“向こう”のことも多少知った今、言いたいことは俺にもなんとなく分かる。

「そっちも鍋の蓋と最近一緒じゃないじゃん。大体いつも一緒にいたろ」
「あーーー……まぁ、今は鍋の蓋のでっかい夢が叶いかけてるから二人で楽しませてあげようかなぁと」
「二人って……アルプか……? あ、あー…………ん? 鍋の蓋のリアルって確か……あ、だから別にいいのか? ……ん? あれ???」
「シャケ茶漬け。それ以上は野暮ってもんだよ」
「……そうだな」

 二人の話がよく分からない方向に脱線しているが、俺には関係無さそうな話なのは気楽でいい。話に出てきた『鍋の蓋』とは、たった一匹の魔物を連れている異人で、妙にチグハグな匂いがする巨人族のことだろう。そいつもツグハルのフレンドだ。

 フレンドの中にはもう二人、レプラコーンと盟友契約を結んだ鬼人族の異人と、天使を振って黒焦げになったほとんど関わりのない異人がいるが、ここにはいない。


 ちなみに、今日はたまたまこっちでクエストを受けようと思ったら、たまたまこいつらを見かけて、気が向いたから適当に個々のクエストに付き合ってやっただけだ。


 まぁ、この異人二人はそれなりに行動を共にしてきたし、ツグハルも信頼しているようなので、共に飯をつつくのはまだいい。


 問題は、机を囲む謎の面子の最後の一人────。


「おや、トウノさんは元の世界でお忙しいのですか。どうりで“返事”がいつもより遅いと思いました」
「なんでてめぇがいんだよ」
「偶然こちらにご飯をいただきに来たら、大剣使い殿をお見かけしたのでぜひ交友を深められたらと思いましてねぇ」

 相変わらず胡散臭い笑みを張りつけた野郎、この町の商業ギルドのギルドマスターである男がこともなげに言う。

「ということは大剣使い殿もさぞお寂しいことでしょうねぇ」
「は、知ったような口を利くな」

 こいつに教えてやる気は毛頭ないが、俺はツグハルに会いに行こうと思えばいつでも会える。結局、その講義とやらを聞くだか、受けるだかも“あの部屋”でだからな。

 ちなみに、他の二人には己の身分は明かさず、何食わぬ顔でただの俺とツグハルとの知り合いの商人程度の紹介で済ませていた。


 こいつはそういうやつだ。



 しばらくして、机の上の料理があらかた片付いた頃、あぬ丸が言う。

「あっ、そういえばそろそろトウのんの誕生日じゃなかったっけー? えーと、私たちの世界時間で」
「え、そうなのか? 聞いたことなかったなぁ」
「……あ?」

 このあとツグハルとどう過ごそうか考えていて、ほとんど聞き流していたが、なにか重要な言葉が聞こえた気がして、意識がこの場へと急速に引き戻される。

「誕生日、ですか? 詳しく伺っても?」

 俺が聞くより早く、胡散臭い野郎が興味を持ったのか『誕生日』について聞く。

「んー詳しくって言ってもー、ただ言葉通り生まれた日ってことで、親しければ毎年祝ったりー、贈り物をしたりーみたいな感じ?」
「ほう! ほう! 察するに、そちらの人々は誰も彼も生まれた日がはっきり分かっているということなのでしょうか?」
「まぁ、そうすっね」

 異人の二人が当然という顔で頷く。……これは、異人たちにとっては常識ということか。

「……って、その言い方だとこっちは少し違う感じっすか?」
「そうですねぇ。平民に関しては、正確な生まれた日を気にしないというか、よく分からなくなった子どもが大半なので、一年のはじめに子どもを集めてまとめて祝ってしまいますね。成人したらほぼ祝いませんし」
「あー、私たちの世界も昔はそんな感じだったようなぁ……?」

 ……当然、俺も生まれた日など知らない。年はかろうじて分析系の技能で分かるくらいだ。


 そんなことより。


「……それで、あいつの誕生日ってのは?」
「うーーーん。それはトウのんに直接聞くといいんじゃないかなぁ」

 あぬ丸が欠けていた頃の月のような形に目を細めて笑う。

「……チッ。……そうだな」
「むふふー!」

 ……そういえば、こいつと鍋の蓋は出会ったときから妙に好意的に俺とトウノを見ていたんだった。こっちが何かを言う前に「決して邪魔はしない」とかなんとか言ってきて。
 別に、その理由に興味はないが。

「じゃあ、あとは誕生日をどう祝うかっすね!」
「二人にとってはじめての誕生日なんだとしたら、ちょーと気合い入れたいよねぇ」
「あん?」

 異人二人が妙に活き活きと俺を置いて話を進める。

「それはそうですねぇ。私はしがない商人ですが顔は広いので、お祝いの物品であればいろいろお力になれるかと」
「あ゛あ゛?」

 しゃあしゃあと胡散臭い野郎も心底楽しそうに入ってくる。鬱陶しい。……鬱陶しいが…………己の力だけで考えるより、この面子と考えを突き合わせた方が良いと俺の“直感”が言っている。


 ……ツグハルが生まれてきてくれた日を祝うんだ。背に腹はかえられない。


 と、俺は腹をくくって、三人に知恵を求めた。


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