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番外編
小話:トウノの誕生日(下)
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「僕の誕生日?」
「ああ」
午前の講義が終わり、アルストへログインすると、ちょうどどこからか戻ってきたらしいバラムが僕の誕生日についてたずねてきた。
「……そういえば、向こうの日づけではそろそろだったかもしれないな」
毎年叔父さんからメッセージとプレゼントが届いてはじめて自分の誕生日を認識していたような体たらくだったので、まったく意識していなかった。
とりあえずバラムに僕の誕生日を伝えると、噛み締めるようにバラムが頷く。
……誕生日を聞かれたということは。
「誕生日にお前を祝いたい」
「そうか……ありがとう。その……楽しみにしていよう」
真摯な眼差しでストレートにそう言われると、胸が大きくざわめく。
「ああ」
少し熱くなった頬を、大きな手が包みこんでやわく揉まれる。
……自分の誕生日を意識すると気になるのはバラムの誕生日だが……確か、こちらの世界では生まれた日は意識せずに年明けにいっぺんに、という感じだっただろうか。何か祭り関係の本でそんな感じのことが書いてあった気がする。
「バラムの誕生日は……」
「分からんな」
「うぅん……んむっ」
やはり、そうか……と、僕が視線を落としたのを、覆われたままだった手に上を向かされて、影が降ってくる。
「俺のは年明けにでもしてくれ」
「うむむむ、何か考えておく……」
「は。ああ」
バラムの甘い表情と体温にほだされ、講義で少し疲れていたのもあって、抗い難い誘惑に身を委ねた。
そして何日か経ち、現実時間での僕の誕生日当日。
バラムから呼ばれるまでプライベートルームで待つように言われているので待機中だ。確認したらいつものように叔父さんからプレゼントとメッセージが届いていた。
その確認もすぐに済んでしまい、手持ち無沙汰になってソワソワとしてしまう。本を読もうかとも思ったが、全く集中できなかったので早々に諦めた。
何をするでもなく、アルスト世界に繋がる扉を見つめることしばらく。
扉が開き、バラムが入ってくる。
一目見て僕がどういう状況だったのか察したのか、噴き出す。
「はっ、そんな固くなるほどのもんじゃねぇだろ」
「そうなんだが……なんか落ち着かなくて……」
「……そうかよ。ほら」
「ああ」
なんならより一層ソワソワとしてしまう僕の手をとって扉の向こうへと誘う。
「……おお!」
そこはいつもの真っ暗な部屋ではなく、淡い炎を揺らめかせるキャンドルと、机の上には豪華な料理がところせましと並んでいた。あたたかで美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。
キャンドルの効果か、見た目もとても情緒的で輝いて見えたので、反射的にスクショも撮ってしまった。
バラムがさらに僕の手を引いて、ダイニングの椅子へと座らせる。バラムは角をはさんだ隣に座る。
「好きに食え。……誕生日おめでとう」
「……ああ。ありがとう」
バラムの祝いの言葉にじんわりと胸があたたまる。
「いただきます」
冷めてしまうのももったいないので、早速豪華な料理に手をつけていく。僕が食べ始めないとバラムも手をつけられないだろうし。
まず、目についたパイ生地によって蓋をされた壺の中のシチューをパイ生地ごと頬張る。
「はふ、はふ、おいひい」
熱々すぎて言葉を紡ぐことが難しかったが、なんとか感想をバラムに伝えることができた。
「ツグハルの好きそうなものを頼んだんだ」
「んぐ……」
こともなげにそう言うので、胸がドクンと跳ねる。
……なんか、今日のバラムは、こう……すごい。何がどうとは言い表せられないが。
せわしなく跳ねる鼓動を誤魔化すように、豪華な料理に手をつけていった。
「知っている味もあるが、知らない味もあるな?」
食べていると、ローザやその旦那さんの味、『ドブネズミの洞穴』の料理の味もあるが、それ以外にもう一つ知らない味があることに気づく。たとえば壷焼きのシチューなんかがそうだった。
「ああ、今度その料理の店にも連れてってやる」
「ふふ、楽しみだ」
そうして僕たちは山盛りだった豪華な料理をたいらげた。
「ツグハル」
「うん? ああ」
バラムが手を差しだしてきたので、意図を察して自分の手を重ねる。促されるままに席を立った。次の行き先は星の湖が見える庭のようだ。
そこにも何かあるのかとも思ったが、とくに変わったところはなく、空から落ちてくる光と湖から昇っていく光がある幻想的な光景だけがあった。……この光景の前ではただ静かに見る以外は野暮なことなのかもしれない。
などと考えていると……。
「お前のあの旋律を弾いてくれないか」
「僕の旋律? ああ……それはかまわないが」
唐突にバラムから演奏を頼まれる。『お前のあの旋律』とは技能の《深根環柢編纂士トウノの旋律》のことだろう。
「何かかけて欲しい秘技でもあるのか?」
「いや。ただ弾いてくれ」
「ふぅむ? まぁ、分かった」
インベントリからストラウスを取り出しつつ、何か秘技のリクエストでもあるのかと問えば、そうではないらしい。しかし、断る理由もないので早速ストラウスに弓を当てて弾きはじめる。
最近名前が判明した『ユヌの酒場歌』と『星月夜の揺籃歌』を混ぜて少しアレンジを入れた旋律だ。
そして、楽譜でいうところの一段目が演奏し終わったその時────別の、異なる弦の音が入ってきた。
「!」
その音の方向に振り返ると、バラムがアコースティックギターを抱えて、少しぎこちないながらも丁寧に僕の演奏に合わせてつま弾いている。
バラムと視線が交わり、それぞれが奏でる音色が交わり……心が交わっていく。
「ふっ」
それがあんまり温かくて、気持ちよくて、あっという間に胸が満たされるどころかあふれて、こぼれ落ちる。
そして、名残惜しくも長いような、短いような演奏が終わった。
「ふぅ……驚いた。弾けたのか?」
「んなわけねぇだろ。ここまでは弾けるようにしたんだ」
どこかホッとした様子のバラムが片眉をあげて言う。
「そうなのか」
どうやらこのために練習したらしい。……うぅん、胸が苦しい。
「それにしても何故アコースティックギターだったんだ?」
楽器のチョイスを疑問に思って聞いてみると、バラムの眉間にぐっと皺が寄る。
「……ハイモのジジイとエルフの魔楽器職人に新作を宣伝しろとかなんとかで押しつけられた」
「ふぅん?」
聞けば、プレイヤーから依頼されて作ったアコースティックギターは住民にも売れそうだと踏んだハイモとグウェニスに押し切られたらしい。その目論み通り、似た楽器であるリュート弾きたちが気に入ったついでに弾き方を教わったとか。
曲は……本棚にある楽譜をどうにかして見せたのだろうか?
バラムが照れたように、目線を少し斜めに外す。
「……お前が好きなことを一緒にできるといいんじゃないかと、助言を受けたから、その……」
「ふっ、それで……。……ああ、とても楽しかった」
バラムもそうだったならいいな、と思う。
「……そうか。あとは……」
「あ、ああ」
僕は「まだあるのか」という言葉をすんでのところで飲み込んだ。僕への祝いはまだ続くらしい。いや、すごく嬉しいのだが、ここまでで胸がいっぱいすぎてこれ以上はゲーム風に言うとオーバーキルだ。
そんな僕の心中を知ってか知らずか、バラムが小さな箱を差しだしてくる。
……蓋を開けるとそこには────。
大きさの違う、二つの指輪がおさめられていた。
「…………」
「お前の世界での伴侶同士の証だと聞いた。……ツグハル?」
何も声を発さない僕を、バラムが訝しんで覗きこむ。発さないわけではなく、発せなかった。
……なんとなく、不思議だった。何故、何百年にも渡って時代が移り変わってもこの風習が残っているのか、何故、証を求めるのか。
しかし、理由は単純だった。
ただ「ずっと一緒にいよう」ということを発したら宙にとけて消えていってしまう言葉ではなくて、こうして形で約束してくれることが……ただ……。
「嬉しい……」
気持ちが、いろいろな形をとってこぼれる。
バラムがそっと僕の左手をとって、小さい方の指輪を薬指に通し、そこに口づけをひとつ落とした。
「愛してる、ツグハル」
「ああ……」
僕もバラムの大きな左手をとって、その大きさに見合った指輪を薬指にはめた。そして、同じように口づけを落とす。
「僕も愛してる……バラム。……うわっ」
視線をあげれば、優しく微笑むバラムと目が合ったかと思えば、腰を抱えあげられて顔の高さが一気に近づく。
……僕はそれに逆らわずに、バラムの首に両腕を回して、唇を重ねた。
ベッドの中でバラムに抱えられながら、改めて僕たちの左手の薬指におさまっている指輪を眺める。
デザインは飾り気がほとんどなくシンプルで、はめていると見えないが内側にバラムと僕の名前が彫られている。
ただ、通常のエンゲージリングのイメージより少し暗めの色のように思えた。
「向こうにも持っていける素材で、なるべく頑丈なものにしようとしたらこうなった」
「ほぅ」
そして、この指輪の製作もハイモが請け負ってくれたらしい。木工職人ではあるが、ドワーフらしくある程度なら金属加工も出来るし、むしろこういう細工系は得意とのことだった。……今度お礼をしに行こう。
「ただ、それでも俺みたいな稼業には強度不足だそうだが……」
「分かった。なにか考えてみよう」
バラムがバツが悪そうに僕に視線を向ける。そうだな、そういうこちら用の追加防護は僕が何か作ってしまうのが早いだろう。指輪そのものに施すと仮想空間の方に持ち込めなくなってしまうので、外付けのカバーのようなものがいいだろうか。
碧錆玉を細く伸ばして絡めて、〈凝滞〉の力で存在する空間を少しズラせば、大抵の攻撃や余波の影響は受けないはずだ。
……それにしても。
「ふふ……」
「どうした」
思考の海に沈んだかと思えば、機嫌よく笑いだした僕をバラムが訝しむ。
「バラムから貰えて嬉しいが、僕も何かこの指輪に関われてそれもまた嬉しい」
「は、そうかよ」
バラムは抱えた僕ごとベッドに沈みこみ、僕たちは再び睦み合った。
それから、僕の旋律が愛の詩をつけられて旅芸人伝いに各地で流行って頭を抱えたり、平民の恋人たちの間で指輪交換の文化が根づくのは少し先の話だ。
────────────
ノーナの媒体指輪が左手の薬指じゃなかったことに心の底から安堵したとかなんとか。
トウノの誕生日、3月16日でした(*´︶`*)
「ああ」
午前の講義が終わり、アルストへログインすると、ちょうどどこからか戻ってきたらしいバラムが僕の誕生日についてたずねてきた。
「……そういえば、向こうの日づけではそろそろだったかもしれないな」
毎年叔父さんからメッセージとプレゼントが届いてはじめて自分の誕生日を認識していたような体たらくだったので、まったく意識していなかった。
とりあえずバラムに僕の誕生日を伝えると、噛み締めるようにバラムが頷く。
……誕生日を聞かれたということは。
「誕生日にお前を祝いたい」
「そうか……ありがとう。その……楽しみにしていよう」
真摯な眼差しでストレートにそう言われると、胸が大きくざわめく。
「ああ」
少し熱くなった頬を、大きな手が包みこんでやわく揉まれる。
……自分の誕生日を意識すると気になるのはバラムの誕生日だが……確か、こちらの世界では生まれた日は意識せずに年明けにいっぺんに、という感じだっただろうか。何か祭り関係の本でそんな感じのことが書いてあった気がする。
「バラムの誕生日は……」
「分からんな」
「うぅん……んむっ」
やはり、そうか……と、僕が視線を落としたのを、覆われたままだった手に上を向かされて、影が降ってくる。
「俺のは年明けにでもしてくれ」
「うむむむ、何か考えておく……」
「は。ああ」
バラムの甘い表情と体温にほだされ、講義で少し疲れていたのもあって、抗い難い誘惑に身を委ねた。
そして何日か経ち、現実時間での僕の誕生日当日。
バラムから呼ばれるまでプライベートルームで待つように言われているので待機中だ。確認したらいつものように叔父さんからプレゼントとメッセージが届いていた。
その確認もすぐに済んでしまい、手持ち無沙汰になってソワソワとしてしまう。本を読もうかとも思ったが、全く集中できなかったので早々に諦めた。
何をするでもなく、アルスト世界に繋がる扉を見つめることしばらく。
扉が開き、バラムが入ってくる。
一目見て僕がどういう状況だったのか察したのか、噴き出す。
「はっ、そんな固くなるほどのもんじゃねぇだろ」
「そうなんだが……なんか落ち着かなくて……」
「……そうかよ。ほら」
「ああ」
なんならより一層ソワソワとしてしまう僕の手をとって扉の向こうへと誘う。
「……おお!」
そこはいつもの真っ暗な部屋ではなく、淡い炎を揺らめかせるキャンドルと、机の上には豪華な料理がところせましと並んでいた。あたたかで美味しそうな香りが鼻腔をくすぐる。
キャンドルの効果か、見た目もとても情緒的で輝いて見えたので、反射的にスクショも撮ってしまった。
バラムがさらに僕の手を引いて、ダイニングの椅子へと座らせる。バラムは角をはさんだ隣に座る。
「好きに食え。……誕生日おめでとう」
「……ああ。ありがとう」
バラムの祝いの言葉にじんわりと胸があたたまる。
「いただきます」
冷めてしまうのももったいないので、早速豪華な料理に手をつけていく。僕が食べ始めないとバラムも手をつけられないだろうし。
まず、目についたパイ生地によって蓋をされた壺の中のシチューをパイ生地ごと頬張る。
「はふ、はふ、おいひい」
熱々すぎて言葉を紡ぐことが難しかったが、なんとか感想をバラムに伝えることができた。
「ツグハルの好きそうなものを頼んだんだ」
「んぐ……」
こともなげにそう言うので、胸がドクンと跳ねる。
……なんか、今日のバラムは、こう……すごい。何がどうとは言い表せられないが。
せわしなく跳ねる鼓動を誤魔化すように、豪華な料理に手をつけていった。
「知っている味もあるが、知らない味もあるな?」
食べていると、ローザやその旦那さんの味、『ドブネズミの洞穴』の料理の味もあるが、それ以外にもう一つ知らない味があることに気づく。たとえば壷焼きのシチューなんかがそうだった。
「ああ、今度その料理の店にも連れてってやる」
「ふふ、楽しみだ」
そうして僕たちは山盛りだった豪華な料理をたいらげた。
「ツグハル」
「うん? ああ」
バラムが手を差しだしてきたので、意図を察して自分の手を重ねる。促されるままに席を立った。次の行き先は星の湖が見える庭のようだ。
そこにも何かあるのかとも思ったが、とくに変わったところはなく、空から落ちてくる光と湖から昇っていく光がある幻想的な光景だけがあった。……この光景の前ではただ静かに見る以外は野暮なことなのかもしれない。
などと考えていると……。
「お前のあの旋律を弾いてくれないか」
「僕の旋律? ああ……それはかまわないが」
唐突にバラムから演奏を頼まれる。『お前のあの旋律』とは技能の《深根環柢編纂士トウノの旋律》のことだろう。
「何かかけて欲しい秘技でもあるのか?」
「いや。ただ弾いてくれ」
「ふぅむ? まぁ、分かった」
インベントリからストラウスを取り出しつつ、何か秘技のリクエストでもあるのかと問えば、そうではないらしい。しかし、断る理由もないので早速ストラウスに弓を当てて弾きはじめる。
最近名前が判明した『ユヌの酒場歌』と『星月夜の揺籃歌』を混ぜて少しアレンジを入れた旋律だ。
そして、楽譜でいうところの一段目が演奏し終わったその時────別の、異なる弦の音が入ってきた。
「!」
その音の方向に振り返ると、バラムがアコースティックギターを抱えて、少しぎこちないながらも丁寧に僕の演奏に合わせてつま弾いている。
バラムと視線が交わり、それぞれが奏でる音色が交わり……心が交わっていく。
「ふっ」
それがあんまり温かくて、気持ちよくて、あっという間に胸が満たされるどころかあふれて、こぼれ落ちる。
そして、名残惜しくも長いような、短いような演奏が終わった。
「ふぅ……驚いた。弾けたのか?」
「んなわけねぇだろ。ここまでは弾けるようにしたんだ」
どこかホッとした様子のバラムが片眉をあげて言う。
「そうなのか」
どうやらこのために練習したらしい。……うぅん、胸が苦しい。
「それにしても何故アコースティックギターだったんだ?」
楽器のチョイスを疑問に思って聞いてみると、バラムの眉間にぐっと皺が寄る。
「……ハイモのジジイとエルフの魔楽器職人に新作を宣伝しろとかなんとかで押しつけられた」
「ふぅん?」
聞けば、プレイヤーから依頼されて作ったアコースティックギターは住民にも売れそうだと踏んだハイモとグウェニスに押し切られたらしい。その目論み通り、似た楽器であるリュート弾きたちが気に入ったついでに弾き方を教わったとか。
曲は……本棚にある楽譜をどうにかして見せたのだろうか?
バラムが照れたように、目線を少し斜めに外す。
「……お前が好きなことを一緒にできるといいんじゃないかと、助言を受けたから、その……」
「ふっ、それで……。……ああ、とても楽しかった」
バラムもそうだったならいいな、と思う。
「……そうか。あとは……」
「あ、ああ」
僕は「まだあるのか」という言葉をすんでのところで飲み込んだ。僕への祝いはまだ続くらしい。いや、すごく嬉しいのだが、ここまでで胸がいっぱいすぎてこれ以上はゲーム風に言うとオーバーキルだ。
そんな僕の心中を知ってか知らずか、バラムが小さな箱を差しだしてくる。
……蓋を開けるとそこには────。
大きさの違う、二つの指輪がおさめられていた。
「…………」
「お前の世界での伴侶同士の証だと聞いた。……ツグハル?」
何も声を発さない僕を、バラムが訝しんで覗きこむ。発さないわけではなく、発せなかった。
……なんとなく、不思議だった。何故、何百年にも渡って時代が移り変わってもこの風習が残っているのか、何故、証を求めるのか。
しかし、理由は単純だった。
ただ「ずっと一緒にいよう」ということを発したら宙にとけて消えていってしまう言葉ではなくて、こうして形で約束してくれることが……ただ……。
「嬉しい……」
気持ちが、いろいろな形をとってこぼれる。
バラムがそっと僕の左手をとって、小さい方の指輪を薬指に通し、そこに口づけをひとつ落とした。
「愛してる、ツグハル」
「ああ……」
僕もバラムの大きな左手をとって、その大きさに見合った指輪を薬指にはめた。そして、同じように口づけを落とす。
「僕も愛してる……バラム。……うわっ」
視線をあげれば、優しく微笑むバラムと目が合ったかと思えば、腰を抱えあげられて顔の高さが一気に近づく。
……僕はそれに逆らわずに、バラムの首に両腕を回して、唇を重ねた。
ベッドの中でバラムに抱えられながら、改めて僕たちの左手の薬指におさまっている指輪を眺める。
デザインは飾り気がほとんどなくシンプルで、はめていると見えないが内側にバラムと僕の名前が彫られている。
ただ、通常のエンゲージリングのイメージより少し暗めの色のように思えた。
「向こうにも持っていける素材で、なるべく頑丈なものにしようとしたらこうなった」
「ほぅ」
そして、この指輪の製作もハイモが請け負ってくれたらしい。木工職人ではあるが、ドワーフらしくある程度なら金属加工も出来るし、むしろこういう細工系は得意とのことだった。……今度お礼をしに行こう。
「ただ、それでも俺みたいな稼業には強度不足だそうだが……」
「分かった。なにか考えてみよう」
バラムがバツが悪そうに僕に視線を向ける。そうだな、そういうこちら用の追加防護は僕が何か作ってしまうのが早いだろう。指輪そのものに施すと仮想空間の方に持ち込めなくなってしまうので、外付けのカバーのようなものがいいだろうか。
碧錆玉を細く伸ばして絡めて、〈凝滞〉の力で存在する空間を少しズラせば、大抵の攻撃や余波の影響は受けないはずだ。
……それにしても。
「ふふ……」
「どうした」
思考の海に沈んだかと思えば、機嫌よく笑いだした僕をバラムが訝しむ。
「バラムから貰えて嬉しいが、僕も何かこの指輪に関われてそれもまた嬉しい」
「は、そうかよ」
バラムは抱えた僕ごとベッドに沈みこみ、僕たちは再び睦み合った。
それから、僕の旋律が愛の詩をつけられて旅芸人伝いに各地で流行って頭を抱えたり、平民の恋人たちの間で指輪交換の文化が根づくのは少し先の話だ。
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ノーナの媒体指輪が左手の薬指じゃなかったことに心の底から安堵したとかなんとか。
トウノの誕生日、3月16日でした(*´︶`*)
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