蒼い炎

海棠 楓

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見知らぬ土地で

第37話

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 真司は雨に打たれながら、見知らぬ街を彷徨い歩いていた。小さいころからの小遣いやお年玉を少しずつ貯めた全財産、荷物はそれだけ。どうしてここ、「東京」に来ようと思ったのかは未だにわからない。若者によくある、東京に出れば何とかなる、という考えとも違う気がする。

 ともかく、真司は今、東京にいる。

 雨は降っているが、傘はない。あったところで、松葉杖で歩く身に傘がさせるのかどうか。
「あっ」
 おしゃれでつるつるした床面は、雨ということもあって滑りやすくなっていた。案の定、真司は雨でずぶ濡れの床面に豪快に打ちつけられた。しかし、雑踏には振り返る者すらない。
 真司は悲しくて、寂しくて、すぐに起き上がることができなかった。どうして咄嗟に家を出たのだろう。

 ただ、樹にはもう顔を合わせられない――そう思ったら、家出していた。だけど、ここにはこんなに人がいるのに、助けてくれる人なんていないんだ。

「大丈夫? 立てる?」
 不意に差し伸べられたのは、見とれてしまうほどの美しい手。
 絶望の只中にいた真司には、まさしく神の手にも思えたろう。

 見上げると、その手に相応しい――否、その手よりも数倍高貴な、決して華やかではないが芯のある美しい顔立ちが、 たおやかな笑みを湛えて真司を見つめていた。 
「可哀相に……こんなに濡れて」
 真司をかばうように傘を移動させる。そのせいで少し髪や服が濡れ、雫が美しい輝きを放った。

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