蒼い炎

海棠 楓

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見知らぬ土地で

第61話

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「そうか。残念だけどしょうがないな」
 オーナーも納得した。勤務時間より一時間早く来て、静流は真司の退職を申し出ていた。
「すみません、勝手ばかり」
 オーナーは深々と頭を下げる静流を横目で見、ちょっとイヤな笑いを浮かべた。
「あのままじゃ真司、紫苑に寝取られるトコだったもんな――いや、逆か」
 静流の表情が一瞬強張った。
「ど、どういう意味ですかっ!!」
 動揺する静流にため息をつきながら、オーナーは嘲るように言った。
「どうも何も、気づいてないのはお前らだけだろ」
 オーナーは煙草の火を消し、話に本腰を入れ始めた。

「真司も俺に不安こぼしてたぞ。お前らもともと別れる理由なんて無かったんだからな」
「何を今更そんなこと……。それに僕は紫苑にこっぴどくふられた、司さんだってあの時知ってるでしょう?」
 オーナーは静流に顔を近づけて、ゆっくり、確かめるように話した。
「知ってるからわかるんだよ。あん時紫雲一生懸命二人やり直させようとしてたし。お前が初めて客取った時の紫苑の顔、見てられなかったぞ」

 静流は黙り込んだ。わかっている。本当はこんなにもまだ紫苑を愛している。多分、誰にも負けない。でも、当の紫苑はそんな気さらさらない筈。だって一方的にふったんだから。
「このままじゃ真司もつらいだけだぞ。きつい言い方かも知れないが、お前は真司のこと……」
「やめてください、もうその話は!」

 最後の出勤の真司は、数分前からスタッフルームの前に立ち尽くしていた。話は全部聞こえていた。内容については驚きはしなかった。しかしこんなやりとりが行われているのに、ずかずか入っていきづらい。こうやってずっともじもじと躊躇っているのだ。

「何してーんの」
 かぷ。真司の耳を紫苑が噛んだ。大声を出しそうになったのをぐっとこらえた真司は慌てた。この話を紫苑に聞かれたら――――
「い、今何か大事な話してるみたいで……」
 紫苑の背中を押して場を離れようとした時、
「紫苑だって今でもお前のこと好きなんだよ、わかってるんだろ? 静流!」
 オーナーの怒鳴り声が辺りに響いた。紫苑さんのほうも……? 本当に――?!
「離せよ」
 呆然となる真司の手を紫苑が振り払い、部屋に乗り込んでいった。
「あんのアホ司――勝手に人の気持ち代弁すんじゃねぇ」

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