同じ雪が舞い降りる

海棠 楓

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おねだり

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「なあアヤ、おねだり」
「何?」
 今ならどんなおねだりでも聞いてやる、そう思った矢先。
「キスしよ」
「……は?」
「ほら、こうやって」
 画面の中で、リョウの顔が近づいてくる。
「……ばか」
「なんでバカ言われなあかんねんなー」
「そういうの、ほんと勘弁して」
「さっきあんな酷いこと言うて傷つけたくせに……」
「あれ、は」
 傷つけた、と言ったが、ヤキモチかな?なんて思っているリョウは内心まんざらでもないのだった。ただ、わがままを聞いてもらうための口実には使わせてもらう。
「一回だけ!舌入れんでええから」
「何言ってんだよ」
 呆れてアヤが言っている間にも、画面いっぱいのリョウの顔はすっかりキス待ち顔になっている。
「……もう」
 アヤはきょろきょろと周囲を見回し、人がいないのを確認すると、咳払いをひとつした。そしてほんの一瞬だけ、スマートフォンの画面越しに、二人は唇を合わせた。

「アヤ、顔真っ赤」
 顔、というより耳が真っ赤なアヤは不機嫌そうに顔を背ける。
「リョウが恥ずかしいことさせるからだろ」
「そう?俺はもっとしたいけど」
「しない」
 ついにテレビ電話を終了され、普通の音声通話に切り替えられてしまった。

 この寒い中、アヤは変な汗が噴き出していたが、リョウはさっきまで冷えていた心が温まった。なんだかんだでわがままを聞いてくれるアヤのことが、やっぱり心の底から愛しくて、会えなくてもこうして繋がっていられると思えば、今夜の寂しさも水に流せる気がした。

「アヤ、大好きやで。昔も今も」
「そろそろ仕事に戻るよ」
 ガサゴソと雑音がまじる。アヤが歩き出した衣擦れや向かい風の音なのだろう。俺の愛の囁きはスルーかよ、とリョウが突っ込もうとした時
「俺は昔より今の方が愛してるよ」
 言うなり電話は切れ、リョウにとってはお馴染みのツーツー音に取って代わられた。

 リョウはまだ夜空を見上げていた。もう指先の冷たさも気にならない。空を見上げてスマートフォンをかざす、そんなアヤの姿を想像すると、なんとも形容できないときめきや恋慕の情が後から後から溢れてきて止まらない。
「……けっこう俺、愛されてんな」
独りごちて、ふふっと声に出して笑った。
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