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第一章 契約ではなく、約束しましょう
執着など知らない......はず 〜ジェイド視点
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ギルドの談話コーナーで自分語りをしたケンとかいう奴は、まいがお金も住むところもなく昨夜は野宿したことを聞いて自分の屋敷に招待した。
この流れから言って、奴がまいの保護者になるだろうことは確実で、俺は用無しまっしぐらといったところか。
もしも奴が〝薬指の契約〟のことをまいに話し、俺を処分しようとするなら......その時は、予定通り俺はまいを殺して逃げなければならないーー。
俺がもやもやと今後のことを考えていると、奴が無理やりまいを横抱きに抱き上げた。そしてそのまま駐車場へと向かっていく。その一々キザなやり方に、俺は心の中で奴を罵倒しながら後をついて行った。
ーーまいはお前なんかに抱き上げられて怖がってんだろうが! 俺ならもっと、軽々と運んでやれるのにーー
だから、奴が俺に命令してきた時、俺はつい、逆らっちまった。
「俺は、まい以外の命令には従わない」と。
奴がまいと馬車に乗るから、俺と女獣人たちは荷車で後から屋敷へ来るようにと命じたのだが、俺は素直に頷くのが絶対に嫌だったんだ。
だが、まいから再度命令されれば同じこと。
まいだって、奴と積もる話があるだろうし、きっと俺に言うだろう。「お願いだから、奴のいう通りにしてくれ」と。
だが、俺の予想に反して、まいは奴と馬車に乗るより、俺と荷車で馬車の後をついて行くことを選んでくれた。それだけでなく、俺が声に出して「まい」と呼び捨てたことに気づいて、笑顔で礼など言ってきた。
ーーそんな態度を取られたら、俺の方が奴より大切に思われてるみたいに誤解するだろーー
そんなこと、あるはずがないのに。
昔からの友人と、昨日会ったばかりの獣人の俺とでは勝負にもならないし、まいは自分の奴隷だから俺を庇護しようとしてるだけだろ......。
そうは思っても、やはりまいが俺といる方を選んでくれたことが正直嬉しい。
だからこの時、少しだけ奴に対する嫌悪感が和らいだ気がした。けれど嬉しいと思ったなんて認めたくなくて、俺は無愛想にまいに答えた。
「あんたにご主人様、なんて言いたくないから仕方ないだろ」
ああ......自分で自分が嫌になる。
素直になることもできず、かといって完全に心を閉ざすこともできない中途半端な自分がいたなんて、まいと出会うまで気づかず済んでいたのに......。
俺はそんなカッコ悪い自分は嫌なのに、まいによってどんどんカッコ悪くさせられていくことになるーー。
***
いったい何の因果なのか、俺は屋外の、しかも複数の他人の目の前で、自分の身体を弄られるという羞恥プレイを受けている......。
「ほらっ、ほらっ。見てよケンちゃん。こんなにもふもふしても大丈夫なんだから。ジェイドはすっごく優しいんだよ!」
奴が俺の首輪に命令が施されていないことを知り、「危険だ」と言ったことからそれは始まった。
まいは俺の身体中に手を這わせ、わしゃわしゃと俺の毛を摘んだり撫でたりして見せる。まいは犬でも可愛がるつもりでやっているのだろうが、ちょっと待って欲しい。
俺は獣の姿をしてはいるが、一人の獣人で男だぞ。しかも今は腰巻き姿で上半身は裸なんだ。
それなのに若い女が、裸の男の上半身にくまなく手を這わしてるなんて、人間の男に置き換えて想像してみてくれ。こんな恥ずかしい行為を、まいは奴やそいつの女奴隷たちに見せつけるようにやってやがる。......見てみろ、獣人の女奴隷たちにはその意味が分かるから、目を丸くしてこの有様を見ているじゃないか!
俺は顔を顰めながら、その恥辱に耐えていたが、まいはそれだけに止まらず、よりによって俺の尻尾にまで触れてきやがった!
「グアァァァ!」
俺はたまらず、まいを威嚇してその行為を止めた。
なのに、驚いたのは奴だけで、まいは全く動じていない。場合によっては、俺が自分を殺そうと考えているなど一ミリも想像していないんだろうな。
それよりも、俺の尻尾が急所であると知って、痛くはないかと心配している。
......そんな風に言われたら、腹が立っていたのに、逆に嬉しくなってしまうだろうが。
今まで生きてきて、一瞬でも俺の心配などしてくれた者がいたか?
まいと出会ってから、まだ短い間ではあるが、まいはずっと俺を大切に扱ってくれる。
だから......俺は本当は気に入らないが、まいと〝奴〟が一緒の屋敷に泊まることを認めた。ただし、〝奴〟に分かるように、しっかりと釘を刺してやったが。
「そいつはメス奴隷をたくさん侍らすような女たらしだ。もしも意に沿わないことされそうになったら大声で叫べ。俺は人間よりも耳が効く」
(訳:まいの同意なしに何かしたら、俺が屋敷に乱入して暴れるぞ)
............まぁ、まいが同意してしまったら、俺はどうしようもないけどな。
この流れから言って、奴がまいの保護者になるだろうことは確実で、俺は用無しまっしぐらといったところか。
もしも奴が〝薬指の契約〟のことをまいに話し、俺を処分しようとするなら......その時は、予定通り俺はまいを殺して逃げなければならないーー。
俺がもやもやと今後のことを考えていると、奴が無理やりまいを横抱きに抱き上げた。そしてそのまま駐車場へと向かっていく。その一々キザなやり方に、俺は心の中で奴を罵倒しながら後をついて行った。
ーーまいはお前なんかに抱き上げられて怖がってんだろうが! 俺ならもっと、軽々と運んでやれるのにーー
だから、奴が俺に命令してきた時、俺はつい、逆らっちまった。
「俺は、まい以外の命令には従わない」と。
奴がまいと馬車に乗るから、俺と女獣人たちは荷車で後から屋敷へ来るようにと命じたのだが、俺は素直に頷くのが絶対に嫌だったんだ。
だが、まいから再度命令されれば同じこと。
まいだって、奴と積もる話があるだろうし、きっと俺に言うだろう。「お願いだから、奴のいう通りにしてくれ」と。
だが、俺の予想に反して、まいは奴と馬車に乗るより、俺と荷車で馬車の後をついて行くことを選んでくれた。それだけでなく、俺が声に出して「まい」と呼び捨てたことに気づいて、笑顔で礼など言ってきた。
ーーそんな態度を取られたら、俺の方が奴より大切に思われてるみたいに誤解するだろーー
そんなこと、あるはずがないのに。
昔からの友人と、昨日会ったばかりの獣人の俺とでは勝負にもならないし、まいは自分の奴隷だから俺を庇護しようとしてるだけだろ......。
そうは思っても、やはりまいが俺といる方を選んでくれたことが正直嬉しい。
だからこの時、少しだけ奴に対する嫌悪感が和らいだ気がした。けれど嬉しいと思ったなんて認めたくなくて、俺は無愛想にまいに答えた。
「あんたにご主人様、なんて言いたくないから仕方ないだろ」
ああ......自分で自分が嫌になる。
素直になることもできず、かといって完全に心を閉ざすこともできない中途半端な自分がいたなんて、まいと出会うまで気づかず済んでいたのに......。
俺はそんなカッコ悪い自分は嫌なのに、まいによってどんどんカッコ悪くさせられていくことになるーー。
***
いったい何の因果なのか、俺は屋外の、しかも複数の他人の目の前で、自分の身体を弄られるという羞恥プレイを受けている......。
「ほらっ、ほらっ。見てよケンちゃん。こんなにもふもふしても大丈夫なんだから。ジェイドはすっごく優しいんだよ!」
奴が俺の首輪に命令が施されていないことを知り、「危険だ」と言ったことからそれは始まった。
まいは俺の身体中に手を這わせ、わしゃわしゃと俺の毛を摘んだり撫でたりして見せる。まいは犬でも可愛がるつもりでやっているのだろうが、ちょっと待って欲しい。
俺は獣の姿をしてはいるが、一人の獣人で男だぞ。しかも今は腰巻き姿で上半身は裸なんだ。
それなのに若い女が、裸の男の上半身にくまなく手を這わしてるなんて、人間の男に置き換えて想像してみてくれ。こんな恥ずかしい行為を、まいは奴やそいつの女奴隷たちに見せつけるようにやってやがる。......見てみろ、獣人の女奴隷たちにはその意味が分かるから、目を丸くしてこの有様を見ているじゃないか!
俺は顔を顰めながら、その恥辱に耐えていたが、まいはそれだけに止まらず、よりによって俺の尻尾にまで触れてきやがった!
「グアァァァ!」
俺はたまらず、まいを威嚇してその行為を止めた。
なのに、驚いたのは奴だけで、まいは全く動じていない。場合によっては、俺が自分を殺そうと考えているなど一ミリも想像していないんだろうな。
それよりも、俺の尻尾が急所であると知って、痛くはないかと心配している。
......そんな風に言われたら、腹が立っていたのに、逆に嬉しくなってしまうだろうが。
今まで生きてきて、一瞬でも俺の心配などしてくれた者がいたか?
まいと出会ってから、まだ短い間ではあるが、まいはずっと俺を大切に扱ってくれる。
だから......俺は本当は気に入らないが、まいと〝奴〟が一緒の屋敷に泊まることを認めた。ただし、〝奴〟に分かるように、しっかりと釘を刺してやったが。
「そいつはメス奴隷をたくさん侍らすような女たらしだ。もしも意に沿わないことされそうになったら大声で叫べ。俺は人間よりも耳が効く」
(訳:まいの同意なしに何かしたら、俺が屋敷に乱入して暴れるぞ)
............まぁ、まいが同意してしまったら、俺はどうしようもないけどな。
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