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マーアの恐怖

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「フィル殿が連れていかれただと?」
 モウコ殿が協会へと慌てて走ってきたので、たまたま居合わせた私は、彼女の話を聞くことにした。
 すれば、フィルが大陸の中央に位置する王都へと連行されたと言う。
「罪状は? なんと書いてあったのだ?」
「婦女暴行と殺人未遂じゃと……」
「………………」
 あながち間違っていないところが……いやしかし、
「あれはデュラハンに死の宣告を受けたからであって、仕方がないのではなかろうか?」
 だが、気になる点が二つある。

 まず一つ目は、なぜ、街の兵士らではなく、王都の兵士が連行していったのかだ。
 隣村の小さな事件でしかないはず。
 にもかかわらず、三日もかけて連行するために来るわけがない。
 仮に、王都の刑務所に入る事になろうとも、まずは街の留置場か刑務所に閉じ込めれるはずだ。
 それがなく、直接王都に連れていかれるとは。

 それと二つ目であるが、
「おい、受付係よ」
「はい、なんでしょうか?」
「昨日の報告は、既に王都へと伝わっておるのか?」
「はい、今朝方、他の依頼完了の報告と一緒に」
 フィル殿罪状は、婦女暴行と殺人未遂。
 確かに、フィル殿は二つの案件で起訴されてもおかしくない行動をしていた。
 が、
「情報が早すぎる」
 受付係に確認した通り、王都に知らされたのは今日の朝。
 だが、実際にはつい今朝ほど、フィル殿は連行されていったと、モウコ殿は証言している。
 単純に考えれば、今日、王都を出発しても、到着は三日後になるはずだ。
 そう考えると、兵士らは報告が来るよりも前に王都を出発していた。となるのが自然である。
 となれば、
「フィル殿」
 なにかに利用されるため、フィル殿は王都へと連行されたと言っても過言でないはずだ。
 だがいったい……?
 私が言うのもなんだが、フィル殿は恐怖耐性を取り除いてしまえば、冒険者登録を終えたひよっ子も同然だ。
 剣術スキルはレベル二十も満たせていない。他のスキルも、戦闘に役立ちそうなモノはなかったはずだ。
 となれば、フィル殿を連行した目的は一つ。
「だが……」
 たかが耐性スキルのみで王都に連行されるものだろうか。
「これはアレじゃの。我に自由になっても良いという神のお告げじゃの」
「そんなわけなかろう」
 ともかく、
「これは一度、王都に行くしかないようだな」
 私は王都へ向かうための準備に取り掛かった。
「行ってらっしゃい」
「貴様も行くのだぞ? モウコ殿?」
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