【一部完結】大好きな獅子様の番になりたい

あまさき

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1章

僕の幸せ

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テントに来てから、一夜が明けた。
僕とシアは眠たい目を擦りながら、騎士団の早すぎる集合時間に何とか間に合うよう急いで身支度をする。

朝食を食べて、討伐へと向かう隊員さんたちを見送った。その後は救護テントの準備やら何やらをしていたら、あっという間に日が昇っていた。

「では二人とも。本日はよろしくお願いします」
「「はい!」」

ついに、臨時隊員としての仕事が始まった。
僕たちが今日使うのは主に治癒魔法。詠唱や魔術陣が必要な魔術と違って、イメージをもとに自身の魔力を錬成する即時的なものだ。

救護テントは、屋根だけある半屋内の造りで出来ている。なので、遠くで戦う騎士たちの声や魔獣の悲鳴がよく聞こえてくる。

(どうか誰も怪我なんてしませんように…)

そんな願いも虚しく、腕や足から血を流していたり、骨を折ってしまったりなどの重体患者が続々と運ばれてくる。

僕たちは哀しさややるせなさを感じながら、できる限り最上級の治癒魔法を施していく。

すると、突然一際大きな声が聞こえてきた。

「レオス隊長っ…!!!」

そう、聞こえた。

(え…?)

レオス様の名を呼ぶ、焦ったような声。

「ちょ、カナ!!」

考えるより先に体が動いて、僕は走り出した。



◇◇◇



僕が声のした場所に辿り着いたときには、信じられない光景が広がっていた。

大きな血溜まりと、その上に横たわる一人の隊員。レオス様だった。
近くにいる魔道士が総出で治癒魔法をかけているが、血が止まらないのか血溜まりは広がり続けている。

「レオス、様…?」
「り、リュードリア様…!?」

目に涙を浮かべながらレオス様を見ていた一人の隊員が、僕に気づいてさらに顔を青くした。

「す、すみません!!隊長が僕を庇って…!」

慌てたようなその声に、一部の魔道士もこちらを見る。魔道士たちは焦ったような顔をした後、何かに気づいたのか、急いで口を開いた。

「リュードリア様!どうか治療を…!」

呆然としていた僕は、その言葉にハッとしてレオス様の元に駆け寄った。

「…これは、呪いですね。魔獣の血が患部に付着したことで、傷が塞がらない呪いが発生しています。これは呪詛師の力でないと…」
「そんな…!」

絶望的な状況だ。魔獣の討伐隊には、基本的に騎士と魔術師しかいない。
呪いが発生するのはかなりのレアケースだ。

僕は焦りと嫌な思考を振り払うように、大声で指示を出した。

「そこの隊員の方はテントに戻って、転移陣で高位の呪詛師を連れてきてください!魔道士の皆さんは、傷を塞ぐ魔法ではなく僕の指示通り魔法を使ってください。延命作業にあたります!」

レオス様、レオス様。こんなところで死ぬなんて絶対に駄目です。

僕は泣きそうになりながら、自身の全魔力を注ぐつもりで魔法を使った。

やっと触れられる距離まで来たのに、温かいはずのその手はとても冷たい。

(失血が酷すぎる…!)

血が出ていかないように、切れた血管の壁を魔法で作製する。繊細すぎる魔法は、どんどん僕の魔力を奪って目眩を引き起こした。

それでも必死に魔法を使い続けていると、テントから僕を追ってきたシアとルドルフ様が姿を現した。

「ちょ、カナ…!もうとっくに限界きてるでしょ!!魔力切れが…!!」
「そん、なの…どうでもいい」
「どうでもいいわけない…!代わって!僕がやるから!」
「嫌だ!一瞬でも、離したら…」

レオス様が死んじゃいそうで。
その言葉は、口に出すにはあまりに恐ろしかった。
下唇を噛みながら溢れそうな涙をこらえ、擦り切れそうな神経をなんとか繋ぎ続けた。


「ごほっ…」
「レオス様!」

レオス様の意識が戻った。
わっと周囲が歓喜に湧く。しかし油断する訳にはいかないので、僕は厳しい声で呼びかけた。

「まだ油断しないでください!呪詛師が来るまで気を抜かないで!」

みんなその言葉にハッとし、また作業に集中してくれた。

「カナリエ…?」
「…!はい!レオス様!カナリエです!」

僕のこと、分かってくれた。
僕が嬉しさと愛しさに涙を滲ませていると、レオス様は震えた手で僕の頬を触った。
そして、すごく優しい顔で笑った。

「やっと、さわ、れ…」
「レオス、さま…?」

なんだか、ずっと前からこの瞳を、光景を知っているような気がした。
しかしすぐにその瞼は閉じられ、その直感の正体は謎のまま頭の隅に追いやられた。

少しの間作業が続き、さっきの隊員と呪詛師が到着した。ものの数分で呪いは解け、傷口を塞ぐ魔法をかける。
レオス様は、そうしてなんとか危ない状況を脱したのだった。

しかし多量の失血により、意識の戻らない時間が続いた。僕はその間ずっと、騎士団の宿舎の医務室に運ばれたレオス様のそばを離れることはなかった。




◇◇◇





夢を見る。
僕は誰かの元へ走っていて、たどり着くとその誰かの横に座って顔を覗き込む。

風が吹いて、気持ちよさそうに寝ているその前髪が揺れる。

風が運んだオレンジのような爽やかな匂いが鼻をくすぐった。


僕がその人に何かを言う。音は聞こえなくて、なんて言ったのか分からない。

開いた瞼から覗いた瞳は、太陽を閉じ込めたような綺麗な朱色だった。



┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈



「___ぇ、__リエ、カナリエ」
「ん、ぅぅ…」

僕はいつの間にか寝ていたのか。何だかすごく幸せな夢を見た気がする。

「ふふ、寝顔も可愛いな…」
「ん…レオスさま?」

レオス様の声と、頭を撫でる誰かの手。その情報がすぐ一致しなくて、僕はゆっくりと目を開けた。

「レオス様…起きたのですね…!」

寝ていたはずのレオス様が、僕の頭を撫でながら微笑んでいた。

(ん?撫で…?)

「ほぁ?!」
「ははっ、ぐっすり寝ていたな?」

僕はレオス様が眠っていたベッドの横に座って、ベッドの端側に突っ伏すように寝ていた。
飛び起きた拍子に、レオス様の手を弾いてしまった。レオス様は朗らかに笑っていて、僕は撫でられていたことへの恥ずかしさと混乱でいっぱいになった。

するとレオス様は僕の腕をグイッと引っ張って抱き寄せた。

「はぁ、やっとだ…」
「え、あの、レオス様…?」
「驚いてるのか?可愛いな」

鼓動が耳元で鳴ってるのかと思うくらいうるさい。
なんでこんな状況に?

「君は、こんな匂いがするんだな…」

その言葉にドキッとした。
僕はレオス様の番ではなかったのだろうか。さっきまでの舞い上がった鼓動が嫌なものに変わる。

レオス様はいっそう強く僕を抱きしめてこう言った。

「こんなに愛おしい…俺の番」
「つ、番…?僕、レオス様の番ですか…?」

僕の感極まった問いかけに答えるように、頬に唇を落とされた。

吸い込んだレオス様の匂いが、これは現実だと教えてくれる。
嬉しさのあまり、目の前のからだを強く抱きしめ返す。

「レオス様、嬉しいです…!」
「俺もだ。愛してるよ、カナリエ」

そう言って、レオス様は僕の頬を撫でた。見つめ合う瞳が熱い。

「僕も、愛してます」

溢れ出る幸せが伝わるように、精一杯の笑顔で答える。するとレオス様もすごく嬉しそうに笑ってくれた。

ふいに頬を撫でる手が顎を掴んで、少し上に傾けられる。レオス様の綺麗な顔が近づいてきて、僕は慌てて目を瞑った。
フッと笑う音が聞こえたと思うと、次の瞬間唇に何か柔らかいものが触れて、キスされたのだと分かった。

「へぁ…」
「…ははっ、間抜けな声も可愛いな?」

思わず出てしまった声を笑われて、でも可愛いと言われて。
恥ずかしさと僅かな嬉しさで高ぶった感情は、あっという間に僕の顔を赤く染めた。

「きゅ、急にするなんてズルです!」
「ズル…ふっ、そうか。ごめんな」
「また笑った…!」

感情に任せてレオス様の胸を叩くも、微動だにしない。むしろそれはレオス様の手にあっさりと止められてしまって、またぎゅっと体ごと腕の中に収められた。

「あまりに可愛いから揶揄いすぎてしまったな…すまない」
「~~っ…やっぱり、ズルいです」

そんなこと言われたら、許すしかないじゃないか。

あまりに幸せな状況に、今世界一幸せな人間は自分だと、本気で思った。

「今まで知れなかったレオス様のこと、沢山知りたいです」
「俺もだ」

そう言うとまた唇が降ってくる。身体がじんわりと熱くなるような長いキスをした。

これからは会えなかった時間を埋めるくらい、沢山のときを一緒に過ごしたい。

そして最後には、このキスのように誰も知らないレオス様を僕だけのものにして、僕の全部をレオス様にあげるんだ。

いつか来るそのときを想って、初めて貰った僕だけのレオス様を堪能しようと、再び目を閉じたのだった。





【魔術師の恋編 終】
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