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2章
取り返しのつかない何か
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カリム様が僕たちに頼んだのは、ある問題の解決だった。
『最近、国の重要機密情報を保管する倉庫の結界が何者かによって攻撃されているのだ。カナリエ殿は魔法で有名な家系の出身だと聞いている。ぜひその結界を再び張るのを手伝って欲しいのだ。そして、犯人の特定にも力を貸してくれ』
王宮近くの洞窟の奥深くに、その倉庫はあると言う。僕とレオス様はまずそこへ向かってみた。
「なんだか、すごく簡素な造りですね…」
豪華絢爛な王宮とは打って代わって、暗い洞窟内に分厚そうな木の扉が埋め込まれただけの質素な場所だった。
「誰彼構わず入れる場所でもないからな。機能重視になってしまうのは致し方ない」
「そうですね、こういうのは性能の問題ですね」
見たところ警備としては申し分ない。ここに来るまでにも腕利きそうな警備員が大勢いたし、扉の中にも外にも厳重な結界が張られている。
(けど、たしかに破られかけた形跡がある)
これを破るとは大したもんだ。少し引っかかるのは、なぜ未遂で済んだのかということ。
「レオス様、この犯行相当な手練によるものです。なぜ未遂で済んだのでしょう?」
「そうだな…事件の日の詳細が必要そうだ。カリム様に掛け合ってみるよ」
「ありがとうございます!」
僕は破られかけた結界を張り直し、念の為にもうひとつ結界を張った。
もし犯人の狙いが僕たちの考えるものと違った場合、取り返しのつかないことになるかもしれないと思った。僕はなぜかこの恐れが現実になる気がして、目の前を歩くレオス様の服の裾をギュッと握るように引っ張った。
(今更怖い、なんて…)
危機に瀕して弱気になった自分が情けない、そんな気持ちで俯いていると、裾を掴んでいた僕の手をレオス様の温かい手が包んだ。
「俺が守る、だから大丈夫だ」
「レオス様…」
力強い声が僕の心の波を鎮めてくれたような感覚がして、安心感が広がる。
「じゃあレオス様が危ないときは、僕が助けます」
負けじと僕もレオス様の手を握ってそう言った。
レオス様が僕を強くしてくれる、そんな確信が今生まれたから、僕はちゃんと前を向ける気がした。
そして今度はレオス様の隣に立って、僕らはまた歩き始めた。
◇◇◇
「あの日何があったか?」
「はい。どんな手順だったか、どうやって追い払ったか…何でもいいので、わかることを教えてください」
僕とレオス様はまたあの応接室でカリム様と話していた。
事件の日の詳細を尋ねると、カリム様は顎に手を添えて思い出すような素振りを見せた。
「最初は、あの洞窟で最も倉庫に近い場所を護っていた警備員が大怪我をして報告しに来たのだ、『倉庫が襲撃にあった』と。そやつ以外の警備員は全員意識不明の重体、相当な手練だということで私が洞窟へ向かったのだ。ところが、結界が破られる寸前というところで犯人が逃げた。私が来ると察知したことで逃げを打ったのだろうと考えていたが…たしかに不自然だな」
その場にいる全員が、違和感に眉をひそめた。
カリム様のお話には不自然なところが多々ある。
まず大前提として、ここまでの情報をかき集めた印象としては、相手は相当な隠密の手練だ
なのに、なぜ報告に来た警備員は無事だったのか。他の警備員を全滅させるほどの余裕があったのに、一人だけを討ち漏らしてしまうのはおかしい。倉庫の中身が目的なら騒ぎは起こしたくないはずだ。
そして二つ目の違和感は、現場に行って感じたものと同じ。なぜそんな手練が目標を目の前にして易々と逃げ出したのか。
「砂竜様がいらっしゃったから、というのは理由として筋は通ります。ですがそれだとどこか上手く行きすぎている。手のひらで踊らされているかのような…」
「…目的は、他にあったんじゃないのか?」
「え?」
「何かを王宮内、もしくは王宮周辺に仕掛けるために、カリム様を遠ざける必要があった。この事件は、別の何かのための陽動なのかもしれない」
レオス様の言葉に、全員が戦慄した。一瞬鎮まった空気を引き裂いたのは、どこからともなく響いた悲鳴だった。
『最近、国の重要機密情報を保管する倉庫の結界が何者かによって攻撃されているのだ。カナリエ殿は魔法で有名な家系の出身だと聞いている。ぜひその結界を再び張るのを手伝って欲しいのだ。そして、犯人の特定にも力を貸してくれ』
王宮近くの洞窟の奥深くに、その倉庫はあると言う。僕とレオス様はまずそこへ向かってみた。
「なんだか、すごく簡素な造りですね…」
豪華絢爛な王宮とは打って代わって、暗い洞窟内に分厚そうな木の扉が埋め込まれただけの質素な場所だった。
「誰彼構わず入れる場所でもないからな。機能重視になってしまうのは致し方ない」
「そうですね、こういうのは性能の問題ですね」
見たところ警備としては申し分ない。ここに来るまでにも腕利きそうな警備員が大勢いたし、扉の中にも外にも厳重な結界が張られている。
(けど、たしかに破られかけた形跡がある)
これを破るとは大したもんだ。少し引っかかるのは、なぜ未遂で済んだのかということ。
「レオス様、この犯行相当な手練によるものです。なぜ未遂で済んだのでしょう?」
「そうだな…事件の日の詳細が必要そうだ。カリム様に掛け合ってみるよ」
「ありがとうございます!」
僕は破られかけた結界を張り直し、念の為にもうひとつ結界を張った。
もし犯人の狙いが僕たちの考えるものと違った場合、取り返しのつかないことになるかもしれないと思った。僕はなぜかこの恐れが現実になる気がして、目の前を歩くレオス様の服の裾をギュッと握るように引っ張った。
(今更怖い、なんて…)
危機に瀕して弱気になった自分が情けない、そんな気持ちで俯いていると、裾を掴んでいた僕の手をレオス様の温かい手が包んだ。
「俺が守る、だから大丈夫だ」
「レオス様…」
力強い声が僕の心の波を鎮めてくれたような感覚がして、安心感が広がる。
「じゃあレオス様が危ないときは、僕が助けます」
負けじと僕もレオス様の手を握ってそう言った。
レオス様が僕を強くしてくれる、そんな確信が今生まれたから、僕はちゃんと前を向ける気がした。
そして今度はレオス様の隣に立って、僕らはまた歩き始めた。
◇◇◇
「あの日何があったか?」
「はい。どんな手順だったか、どうやって追い払ったか…何でもいいので、わかることを教えてください」
僕とレオス様はまたあの応接室でカリム様と話していた。
事件の日の詳細を尋ねると、カリム様は顎に手を添えて思い出すような素振りを見せた。
「最初は、あの洞窟で最も倉庫に近い場所を護っていた警備員が大怪我をして報告しに来たのだ、『倉庫が襲撃にあった』と。そやつ以外の警備員は全員意識不明の重体、相当な手練だということで私が洞窟へ向かったのだ。ところが、結界が破られる寸前というところで犯人が逃げた。私が来ると察知したことで逃げを打ったのだろうと考えていたが…たしかに不自然だな」
その場にいる全員が、違和感に眉をひそめた。
カリム様のお話には不自然なところが多々ある。
まず大前提として、ここまでの情報をかき集めた印象としては、相手は相当な隠密の手練だ
なのに、なぜ報告に来た警備員は無事だったのか。他の警備員を全滅させるほどの余裕があったのに、一人だけを討ち漏らしてしまうのはおかしい。倉庫の中身が目的なら騒ぎは起こしたくないはずだ。
そして二つ目の違和感は、現場に行って感じたものと同じ。なぜそんな手練が目標を目の前にして易々と逃げ出したのか。
「砂竜様がいらっしゃったから、というのは理由として筋は通ります。ですがそれだとどこか上手く行きすぎている。手のひらで踊らされているかのような…」
「…目的は、他にあったんじゃないのか?」
「え?」
「何かを王宮内、もしくは王宮周辺に仕掛けるために、カリム様を遠ざける必要があった。この事件は、別の何かのための陽動なのかもしれない」
レオス様の言葉に、全員が戦慄した。一瞬鎮まった空気を引き裂いたのは、どこからともなく響いた悲鳴だった。
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