22 / 29
2章
シリアス=ファラディスの心
しおりを挟む
二人で幸せな気分に浸っていた僕らは、傍らで起こっている厄災のような大嵐の音を聞き、やっと外へ意識を向けた。
その嵐の中心には、砂竜王カリム。溢れ出る怒気が周囲の砂埃を巻き上げていた。
彼が睨みつける先にはシリアス様を後ろ手で拘束したカインがいる。
「その手を離せ、下衆が…!!」
「カリム…!ダメです、皆を巻き込んでしまいますっ…!」
「ははっ!お優しいことだ、自身が捕まっておきながら外野の心配をするとは。なぁ砂竜王よ」
「黙れ!!」
手のうちが大体分かっていたライネ先輩と違って、カインは手数も技量も全てが未知だ。
そんな相手に伴侶を人質に取られてしまったカリム様は、その場から動けず激情を必死で抑えているようだった。
「さて…お互い膠着状態だな?そこで提案なのだが、一つ賭けをしようじゃないか」
「お前の言葉に貸す耳などない!!早くその手を離せ!!」
「まぁ待て、この男を殺されたくなければな」
「っ…!」
カインが言った通り、お互いが動くに動けない、そんな状態だ。なのにカインは不気味なほどに余裕が崩れない。
「被術者が少しでも俺の所へ来たいと思っていること、それが条件で発動する転移魔法がある。それを今ここで使ってみようじゃないか」
「何を馬鹿なことを…」
転移魔法は基本的に、事前に時間をかけて魔法陣を敷かなければ発動しない。しかしカインの故郷ヴェルディアは、高度な魔法技術を誇った大国であった。
今はもう無い魔法があってもおかしくない。
「じゃあやってみようか。番であるお前と、知り合ったばかりの俺、どちらがこいつに選ばれるか…」
カインがそう言って何かを呟いたとき、彼はフッと姿を消した。
シリアス様と共に。
「シリアス…?なんで…」
虚空を見つめるカリム様の呟きは、誰にも拾われることなく空へ消えていった。
◇◇◇
こうして、僕とシリアス様が攫われたという一大事件は幕を閉じた。一人はもとの居場所へ戻り、一人は消えるという形で。
あまりにも衝撃的なあの時間は、僕らを混乱の海に沈めるのに十分な威力を持っていた。
それでもこのまま終わる訳にはいかない僕たちは、あの場で全てを見た僕の話を始めに、シリアス様を奪還するべく動き出した。
「僕らが連れ去られて、あのカインという男は上機嫌に色々話していました。あいつは、カリム様が滅ぼしたヴェルディア王家の末裔です」
「っ…!」
「…そういうことか。だからあのような珍しい魔術を…」
「おそらくそうでしょう。彼が望んだのは、僕の魔力とリュードリアの魔術、そしてシリアス様の、っ…シリアス様の、ヴェルディア王家に連なる血筋でした」
あまりに酷い内容に、思い出すだけで気分が悪くなった。そんな僕の背中を撫でるレオス様の手に助けられ、僕はなんとか、あのおぞましい計画の全貌を二人に打ち明けた。
青い顔をしたカリム様は、重い口を開いて絞り出すように話した。
「シリアス…それでは、あの子はあいつの…っ、すまない、私は少し席を外す」
「カリム様…!」
早足で扉へ向かったカリム様へ呼びかけたが、それは閉まった扉の音に掻き消されてしまった。
「カナ、今は一人にして差し上げよう。…俺でもきっと、カナが自分を犯そうとしてる奴と一緒に、しかも半ば自主的に行ってしまったのなら、耐えられない」
「そんな…!シリアス様がアイツを受けいれたなんてこと、絶対ありません!!きっと何か事情が!」
「分かっている。しかし、冷静に見れる俺たちだからこそそう考えられるんだ。当事者であるカリム様は、シリアス様がアイツの手を取った訳じゃないと分かっていても、不安にならずにはいられないはずだ」
そう説かれて、僕は何も言えなかった。
あのときの、さらわれた先でカインと相対したときのシリアス様はとても怯えていて、それでいて悲しそうだった。哀れんでいたのだ、自身の兄の犯した罪により落ちぶれてしまったその末裔を。
(だから、ついて行こうと思った…?兄の罪に責任を感じて…)
(それだったら、なんて優しくて馬鹿な人なんだ。
きっとカリム様が自身を許したことにも引け目を感じているのだろう。
愛される資格がないなどと、考えているのだろう)
そこで僕は、以前の自分を思い出した。
レオス様に愛される自信がなくて、逃げて逃げた先には何も無かった。やっと向き合えたと思ったときにはレオス様は死にかけていて。すごく後悔した。
僕は運良くレオス様を助けることができて想いを通わせることが出来たけど、それもこれも全て、ずっと恐れていたことと向き合ってレオス様のもとへ行こうとしたからできたことだ。
自分の守りたいものや得たいものに向き合おうとしなければ、実はずっと手のひらにあったものに気付かずに、それを取りこぼしてしまうかもしれない。
その怖さは僕が一番知っている。
「…僕、シリアス様を助けたい」
「カナならそう言うと思った。けどな…今回はカナを連れていくことはできない」
「な…なんでですか!」
「さっき話してくれたカインの計画には、カナの力が必要なのだろう?そんな相手の前に、カナを連れて行けない」
「でも…!」
抗議しようと身を乗り出した僕を、レオス様がぎゅっと抱きしめた。
「カナ、分かってくれ…君をもうあんな危険には晒したくないんだ」
「レオス様…」
「カナの代わりに俺が必ずシリアス様を連れて帰る。信じて待っていてくれないか?」
「…すみません、レオス様。僕はシリアス様にどうしても言いたいことがあるんです。後からじゃダメなんです…。それに、僕だってレオス様を守りたい。危険な場所に行くなら、二人で助け合っていきたいんです…!」
信じて待つだけが愛なら、そんなのは僕には要らない。二人で助け合って守り合って、二人で帰ってきたいと思う。
懇願する僕の目を見て、レオス様は考え込んでいた。そしてその重い口を開いた。
「…本当に、カナには敵わないな。分かったよ。一緒にシリアス様を助けに行こう」
「はい!ありがとうございます!」
そうして僕らはシリアス様を救うべく動き出した。
「行きましょう!シリアス様のもとへ!」
その嵐の中心には、砂竜王カリム。溢れ出る怒気が周囲の砂埃を巻き上げていた。
彼が睨みつける先にはシリアス様を後ろ手で拘束したカインがいる。
「その手を離せ、下衆が…!!」
「カリム…!ダメです、皆を巻き込んでしまいますっ…!」
「ははっ!お優しいことだ、自身が捕まっておきながら外野の心配をするとは。なぁ砂竜王よ」
「黙れ!!」
手のうちが大体分かっていたライネ先輩と違って、カインは手数も技量も全てが未知だ。
そんな相手に伴侶を人質に取られてしまったカリム様は、その場から動けず激情を必死で抑えているようだった。
「さて…お互い膠着状態だな?そこで提案なのだが、一つ賭けをしようじゃないか」
「お前の言葉に貸す耳などない!!早くその手を離せ!!」
「まぁ待て、この男を殺されたくなければな」
「っ…!」
カインが言った通り、お互いが動くに動けない、そんな状態だ。なのにカインは不気味なほどに余裕が崩れない。
「被術者が少しでも俺の所へ来たいと思っていること、それが条件で発動する転移魔法がある。それを今ここで使ってみようじゃないか」
「何を馬鹿なことを…」
転移魔法は基本的に、事前に時間をかけて魔法陣を敷かなければ発動しない。しかしカインの故郷ヴェルディアは、高度な魔法技術を誇った大国であった。
今はもう無い魔法があってもおかしくない。
「じゃあやってみようか。番であるお前と、知り合ったばかりの俺、どちらがこいつに選ばれるか…」
カインがそう言って何かを呟いたとき、彼はフッと姿を消した。
シリアス様と共に。
「シリアス…?なんで…」
虚空を見つめるカリム様の呟きは、誰にも拾われることなく空へ消えていった。
◇◇◇
こうして、僕とシリアス様が攫われたという一大事件は幕を閉じた。一人はもとの居場所へ戻り、一人は消えるという形で。
あまりにも衝撃的なあの時間は、僕らを混乱の海に沈めるのに十分な威力を持っていた。
それでもこのまま終わる訳にはいかない僕たちは、あの場で全てを見た僕の話を始めに、シリアス様を奪還するべく動き出した。
「僕らが連れ去られて、あのカインという男は上機嫌に色々話していました。あいつは、カリム様が滅ぼしたヴェルディア王家の末裔です」
「っ…!」
「…そういうことか。だからあのような珍しい魔術を…」
「おそらくそうでしょう。彼が望んだのは、僕の魔力とリュードリアの魔術、そしてシリアス様の、っ…シリアス様の、ヴェルディア王家に連なる血筋でした」
あまりに酷い内容に、思い出すだけで気分が悪くなった。そんな僕の背中を撫でるレオス様の手に助けられ、僕はなんとか、あのおぞましい計画の全貌を二人に打ち明けた。
青い顔をしたカリム様は、重い口を開いて絞り出すように話した。
「シリアス…それでは、あの子はあいつの…っ、すまない、私は少し席を外す」
「カリム様…!」
早足で扉へ向かったカリム様へ呼びかけたが、それは閉まった扉の音に掻き消されてしまった。
「カナ、今は一人にして差し上げよう。…俺でもきっと、カナが自分を犯そうとしてる奴と一緒に、しかも半ば自主的に行ってしまったのなら、耐えられない」
「そんな…!シリアス様がアイツを受けいれたなんてこと、絶対ありません!!きっと何か事情が!」
「分かっている。しかし、冷静に見れる俺たちだからこそそう考えられるんだ。当事者であるカリム様は、シリアス様がアイツの手を取った訳じゃないと分かっていても、不安にならずにはいられないはずだ」
そう説かれて、僕は何も言えなかった。
あのときの、さらわれた先でカインと相対したときのシリアス様はとても怯えていて、それでいて悲しそうだった。哀れんでいたのだ、自身の兄の犯した罪により落ちぶれてしまったその末裔を。
(だから、ついて行こうと思った…?兄の罪に責任を感じて…)
(それだったら、なんて優しくて馬鹿な人なんだ。
きっとカリム様が自身を許したことにも引け目を感じているのだろう。
愛される資格がないなどと、考えているのだろう)
そこで僕は、以前の自分を思い出した。
レオス様に愛される自信がなくて、逃げて逃げた先には何も無かった。やっと向き合えたと思ったときにはレオス様は死にかけていて。すごく後悔した。
僕は運良くレオス様を助けることができて想いを通わせることが出来たけど、それもこれも全て、ずっと恐れていたことと向き合ってレオス様のもとへ行こうとしたからできたことだ。
自分の守りたいものや得たいものに向き合おうとしなければ、実はずっと手のひらにあったものに気付かずに、それを取りこぼしてしまうかもしれない。
その怖さは僕が一番知っている。
「…僕、シリアス様を助けたい」
「カナならそう言うと思った。けどな…今回はカナを連れていくことはできない」
「な…なんでですか!」
「さっき話してくれたカインの計画には、カナの力が必要なのだろう?そんな相手の前に、カナを連れて行けない」
「でも…!」
抗議しようと身を乗り出した僕を、レオス様がぎゅっと抱きしめた。
「カナ、分かってくれ…君をもうあんな危険には晒したくないんだ」
「レオス様…」
「カナの代わりに俺が必ずシリアス様を連れて帰る。信じて待っていてくれないか?」
「…すみません、レオス様。僕はシリアス様にどうしても言いたいことがあるんです。後からじゃダメなんです…。それに、僕だってレオス様を守りたい。危険な場所に行くなら、二人で助け合っていきたいんです…!」
信じて待つだけが愛なら、そんなのは僕には要らない。二人で助け合って守り合って、二人で帰ってきたいと思う。
懇願する僕の目を見て、レオス様は考え込んでいた。そしてその重い口を開いた。
「…本当に、カナには敵わないな。分かったよ。一緒にシリアス様を助けに行こう」
「はい!ありがとうございます!」
そうして僕らはシリアス様を救うべく動き出した。
「行きましょう!シリアス様のもとへ!」
32
あなたにおすすめの小説
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
みなしご白虎が獣人異世界でしあわせになるまで
キザキ ケイ
BL
親を亡くしたアルビノの小さなトラは、異世界へ渡った────……
気がつくと知らない場所にいた真っ白な子トラのタビトは、子ライオンのレグルスと出会い、彼が「獣人」であることを知る。
獣人はケモノとヒト両方の姿を持っていて、でも獣人は恐ろしい人間とは違うらしい。
故郷に帰りたいけれど、方法が分からず途方に暮れるタビトは、レグルスとふれあい、傷ついた心を癒やされながら共に成長していく。
しかし、珍しい見た目のタビトを狙うものが現れて────?
大学一軍イケメンにいちご狩りに誘われた陰キャの俺、なぜかいちごじゃなくて俺が喰われたんだが(?)
子犬一 はぁて
BL
大学一軍イケメン×大学九軍陰キャ
喰われるなんて聞いてないんだが(?)
俺はただ、
いちご狩りに誘われただけだが。
なのに──
誘ってきた大学一軍イケメンの海皇(21)に
なぜか俺が捕まって食われる展開に?
ちょっと待てい。
意味がわからないんだが!
いちご狩りから始まる
ケンカップルいちゃらぶBL
※大人描写のある話はタイトルに『※』あり
クズ令息、魔法で犬になったら恋人ができました
岩永みやび
BL
公爵家の次男ウィルは、王太子殿下の婚約者に手を出したとして犬になる魔法をかけられてしまう。好きな人とキスすれば人間に戻れるというが、犬姿に満足していたウィルはのんびり気ままな生活を送っていた。
そんなある日、ひとりのマイペースな騎士と出会って……?
「僕、犬を飼うのが夢だったんです」
『俺はおまえのペットではないからな?』
「だから今すごく嬉しいです」
『話聞いてるか? ペットではないからな?』
果たしてウィルは無事に好きな人を見つけて人間姿に戻れるのか。
※不定期更新。主人公がクズです。女性と関係を持っていることを匂わせるような描写があります。
最強の騎士団長はパン屋の青年に癒される
ゆら
BL
転生したカイは、亡くなった両親の跡を継ぎパン屋を営んでいる。最近常連になった男、ルグランジュは最強と名高い騎士団長。センチネルとして有能だが、冷酷と評されるルグランジュだったが、それを知らないカイの前では笑みを見せ──。
最強のセンチネル×パン屋の青年の、センチネルバース物語。
*大人シーン
美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜
飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。
でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。
しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。
秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。
美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。
秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。
転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される
Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。
中1の雨の日熱を出した。
義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。
それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。
晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。
連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。
目覚めたら豪華な部屋!?
異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。
⚠️最初から義父に犯されます。
嫌な方はお戻りくださいませ。
久しぶりに書きました。
続きはぼちぼち書いていきます。
不定期更新で、すみません。
女神様の間違いで落とされた、乙女ゲームの世界で愛を手に入れる。
にのまえ
BL
バイト帰り、事故現場の近くを通ったオレは見知らぬ場所と女神に出会った。その女神は間違いだと気付かずオレを異世界へと落とす。
オレが落ちた異世界は、改変された獣人の世界が主体の乙女ゲーム。
獣人?
ウサギ族?
性別がオメガ?
訳のわからない異世界。
いきなり森に落とされ、さまよった。
はじめは、こんな世界に落としやがって! と女神を恨んでいたが。
この異世界でオレは。
熊クマ食堂のシンギとマヤ。
調合屋のサロンナばあさん。
公爵令嬢で、この世界に転生したロッサお嬢。
運命の番、フォルテに出会えた。
お読みいただきありがとうございます。
タイトル変更いたしまして。
改稿した物語に変更いたしました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる