「これからも応援してます」と言おう思ったら誘拐された

あまさき

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初めまして、僕のあこがれの人

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「…え?当たってる?」

 夜闇に包まれて暗い暗いオフィスの中、ただ一つの光りの源であるスマートフォンを眺めて呟いた。

 驚きのあまりゴトッと音を立てて落ちていったそれを慌てて拾って、浮かんでいる文字をまじまじと眺めた。

「やっぱり間違ってない…!当たってる!」

 スマホに浮かぶのは『お申し込みいただいたチケットに当選致しました』の文字。
 誰もいないのをいいことに、僕はその場でピョンピョンと跳ね回った。
 あぁなんて幸せなのだろう。ずっとずっと大好きだったシャロンくんに会える。僕はくたびれたシャツに似合わぬ笑顔を浮かべて、家路を急いだ。


 ◇◇◇


 僕こと新森 由羽希は、中小企業の営業部に勤める冴えない社会人。入社から二年も経ってるのに仕事効率がすこぶる悪い僕は、いつも退社が遅い。
今日は特にそうで、やっと帰れると思ったときにはオフィスに僕一人しか残っていなかった。おかげで誰にも喜びの舞を見られずに済んだけど。

 僕が飛び跳ねるほど喜んだ〝当選〟。それは僕の大大大好きな最推しが開く握手会への参加券をもぎ取ったということの証だ。つまり推しに会えるのだ。

 僕の推しのシャロンくんは、今をときめく国民的アイドルグループ LUMINAのメンバーである。甘いフェイスと抜群のスタイルはもちろんのこと、澄んだ歌声が魅力の彼は、グループのメインボーカルとして活躍している。あと、シャロンって名前は芸名だ。顔立ちからして純日本人、本名は公開していない。

 僕はシャロンくんが練習生だった頃からのファンだ。高三の頃、なかなか成績が伸びないことに苦しんでいた僕は、たまたま見た動画で歌っていたシャロンくんの歌声に心を奪われた。それが僕の初恋。
 それを何年も引きずっているのは少し痛々しいかなと思うが、好きな気持ちはどう足掻いても消えなかった。

 そうして、僕の生活の中心はシャロンくんになった。
 今日も会社から出てすぐイヤホンを着けてLUMINAの曲を聞き、電車の吊り革を掴みながらSNSをチェックして、帰宅した頃には日付が変わりそうになっていた。

 帰宅早々僕が行ったのは、部屋の中央にある祭壇へのご挨拶。神様とかが祀られてるんじゃなくて、祭壇の最上部にはシャロンくん(のアクスタ)が佇んでいる。シャロンくんのメンバーカラーであるホワイトで満たされたそれの目の前に正座して、頂上のシャロンくんを見つめる。

「シャロンくん…僕、今度あなたに会いに行けることになりました!」

 いつもは心の中でその日あったこととかの報告をするのだが、今日はあまりの大事にハキハキと声を出して報告してしまった。

 なんて言ったって、シャロンくんは絶対にファンとの直接交流をしないことで有名なのだ。それが二ヶ月前、突然握手会をすると知らされた。無理矢理やらされてるのかな?とか心配したりもしたが、僕はしっかりと応募の手続きをした。ファンとしては、この機会を逃すわけにはいかない。

 握手会の日時は、一ヶ月後。今の僕の冴えない見た目でシャロンくんに相見えるなんてあってはらない。それまでにしなければならないことを頭の中でまとめて、僕はバタバタと家の中を走り回った。


 ◇◇◇



 この一ヶ月、色々やった。美容室に行って、人生初のサロンにも行って、僕の準備は完璧。そして今日、ついに運命の日を迎えた。

 直毛の髪の毛は頑張って巻いたし、慣れないメンズメイクも今日は出来がいい気がする。
 そんな最高のコンディションで、僕はシャロンくんのいる部屋の扉の横に座っている。
 そわそわと入室時間を待っていると、部屋からスタッフさんが出てきた。

「では準備が出来ましたので、入室していただきます。対面時間は二分です。時間になったらお知らせしますので、時間一杯お楽しみください」

 ついに来た…! ドキドキと高鳴る鼓動の音が大きくなる。笑顔の奥に何故か哀れみが見えるスタッフさんに見送られ、僕はシャロンくんの待つ部屋に足を踏み入れた。


 入室した途端、僕は別世界に来たのかと錯覚するほどの感覚を覚えた。

まず、扉を開けると甘いバニラ系の香りがした。目の前にいるシャロンくんは、綺麗なブロンドの髪をセンター分けにして緩くセットしているのが抜群にかっこいい。そのシャロンくんが、綺麗なアーモンド型の目を細めて笑顔で僕を見つめている。

「君が由羽希くんかな?こんにちは」

 大好きな声と笑顔で話しかけられた感動からか、クラっと倒れそうになってしまう。するとシャロンくんが素早く僕のそばに来て、抱き留める形で支えてくれた。

「大丈夫かい?そこ座ろうか」
「は、はい!大丈夫です!座ります!」

 シャロンくんが僕を見てる、心配してくれてる。そして触れている。全てが夢のようで、普段よりさらに挙動不審になる。
僕がちゃんと椅子に座るのを見て、シャロンくんも向かいの椅子に座った。


僕は彼に伝えたかったことを頭の引き出しから引っ張り出して、必死に伝えた。
 シャロンくんは優しく頷きながら話を聞いてくれて、一秒経つごとに彼への大好きが募っていく。

「それで、えっと、本当に大好きなんです…!」
「ふふ、ありがとう。俺もゆうくんみたいな子に応援してもらえて嬉しいよ」

 応援してる、なんて言葉じゃ足りないほど大好き。だからもうじき終わるこの時間が名残惜しくて仕方ないけど、伝えたいことを直接言えただけ僕は幸せ者だ。

「…はいっ!ずっとずっと応援してます!」

 僕がそう言ったところで、ずっとふわふわしていた意識が急速に覚束なくなって、ここで寝るなんて駄目だと思いながらも、抗えない眠気に為す術なく沈んで行った。
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