1 / 7
初めまして、僕のあこがれの人
しおりを挟む
「…え?当たってる?」
夜闇に包まれて暗い暗いオフィスの中、ただ一つの光りの源であるスマートフォンを眺めて呟いた。
驚きのあまりゴトッと音を立てて落ちていったそれを慌てて拾って、浮かんでいる文字をまじまじと眺めた。
「やっぱり間違ってない…!当たってる!」
スマホに浮かぶのは『お申し込みいただいたチケットに当選致しました』の文字。
誰もいないのをいいことに、僕はその場でピョンピョンと跳ね回った。
あぁなんて幸せなのだろう。ずっとずっと大好きだったシャロンくんに会える。僕はくたびれたシャツに似合わぬ笑顔を浮かべて、家路を急いだ。
◇◇◇
僕こと新森 由羽希は、中小企業の営業部に勤める冴えない社会人。入社から二年も経ってるのに仕事効率がすこぶる悪い僕は、いつも退社が遅い。
今日は特にそうで、やっと帰れると思ったときにはオフィスに僕一人しか残っていなかった。おかげで誰にも喜びの舞を見られずに済んだけど。
僕が飛び跳ねるほど喜んだ〝当選〟。それは僕の大大大好きな最推しが開く握手会への参加券をもぎ取ったということの証だ。つまり推しに会えるのだ。
僕の推しのシャロンくんは、今をときめく国民的アイドルグループ LUMINAのメンバーである。甘いフェイスと抜群のスタイルはもちろんのこと、澄んだ歌声が魅力の彼は、グループのメインボーカルとして活躍している。あと、シャロンって名前は芸名だ。顔立ちからして純日本人、本名は公開していない。
僕はシャロンくんが練習生だった頃からのファンだ。高三の頃、なかなか成績が伸びないことに苦しんでいた僕は、たまたま見た動画で歌っていたシャロンくんの歌声に心を奪われた。それが僕の初恋。
それを何年も引きずっているのは少し痛々しいかなと思うが、好きな気持ちはどう足掻いても消えなかった。
そうして、僕の生活の中心はシャロンくんになった。
今日も会社から出てすぐイヤホンを着けてLUMINAの曲を聞き、電車の吊り革を掴みながらSNSをチェックして、帰宅した頃には日付が変わりそうになっていた。
帰宅早々僕が行ったのは、部屋の中央にある祭壇へのご挨拶。神様とかが祀られてるんじゃなくて、祭壇の最上部にはシャロンくん(のアクスタ)が佇んでいる。シャロンくんのメンバーカラーであるホワイトで満たされたそれの目の前に正座して、頂上のシャロンくんを見つめる。
「シャロンくん…僕、今度あなたに会いに行けることになりました!」
いつもは心の中でその日あったこととかの報告をするのだが、今日はあまりの大事にハキハキと声を出して報告してしまった。
なんて言ったって、シャロンくんは絶対にファンとの直接交流をしないことで有名なのだ。それが二ヶ月前、突然握手会をすると知らされた。無理矢理やらされてるのかな?とか心配したりもしたが、僕はしっかりと応募の手続きをした。ファンとしては、この機会を逃すわけにはいかない。
握手会の日時は、一ヶ月後。今の僕の冴えない見た目でシャロンくんに相見えるなんてあってはらない。それまでにしなければならないことを頭の中でまとめて、僕はバタバタと家の中を走り回った。
◇◇◇
この一ヶ月、色々やった。美容室に行って、人生初のサロンにも行って、僕の準備は完璧。そして今日、ついに運命の日を迎えた。
直毛の髪の毛は頑張って巻いたし、慣れないメンズメイクも今日は出来がいい気がする。
そんな最高のコンディションで、僕はシャロンくんのいる部屋の扉の横に座っている。
そわそわと入室時間を待っていると、部屋からスタッフさんが出てきた。
「では準備が出来ましたので、入室していただきます。対面時間は二分です。時間になったらお知らせしますので、時間一杯お楽しみください」
ついに来た…! ドキドキと高鳴る鼓動の音が大きくなる。笑顔の奥に何故か哀れみが見えるスタッフさんに見送られ、僕はシャロンくんの待つ部屋に足を踏み入れた。
入室した途端、僕は別世界に来たのかと錯覚するほどの感覚を覚えた。
まず、扉を開けると甘いバニラ系の香りがした。目の前にいるシャロンくんは、綺麗なブロンドの髪をセンター分けにして緩くセットしているのが抜群にかっこいい。そのシャロンくんが、綺麗なアーモンド型の目を細めて笑顔で僕を見つめている。
「君が由羽希くんかな?こんにちは」
大好きな声と笑顔で話しかけられた感動からか、クラっと倒れそうになってしまう。するとシャロンくんが素早く僕のそばに来て、抱き留める形で支えてくれた。
「大丈夫かい?そこ座ろうか」
「は、はい!大丈夫です!座ります!」
シャロンくんが僕を見てる、心配してくれてる。そして触れている。全てが夢のようで、普段よりさらに挙動不審になる。
僕がちゃんと椅子に座るのを見て、シャロンくんも向かいの椅子に座った。
僕は彼に伝えたかったことを頭の引き出しから引っ張り出して、必死に伝えた。
シャロンくんは優しく頷きながら話を聞いてくれて、一秒経つごとに彼への大好きが募っていく。
「それで、えっと、本当に大好きなんです…!」
「ふふ、ありがとう。俺もゆうくんみたいな子に応援してもらえて嬉しいよ」
応援してる、なんて言葉じゃ足りないほど大好き。だからもうじき終わるこの時間が名残惜しくて仕方ないけど、伝えたいことを直接言えただけ僕は幸せ者だ。
「…はいっ!ずっとずっと応援してます!」
僕がそう言ったところで、ずっとふわふわしていた意識が急速に覚束なくなって、ここで寝るなんて駄目だと思いながらも、抗えない眠気に為す術なく沈んで行った。
夜闇に包まれて暗い暗いオフィスの中、ただ一つの光りの源であるスマートフォンを眺めて呟いた。
驚きのあまりゴトッと音を立てて落ちていったそれを慌てて拾って、浮かんでいる文字をまじまじと眺めた。
「やっぱり間違ってない…!当たってる!」
スマホに浮かぶのは『お申し込みいただいたチケットに当選致しました』の文字。
誰もいないのをいいことに、僕はその場でピョンピョンと跳ね回った。
あぁなんて幸せなのだろう。ずっとずっと大好きだったシャロンくんに会える。僕はくたびれたシャツに似合わぬ笑顔を浮かべて、家路を急いだ。
◇◇◇
僕こと新森 由羽希は、中小企業の営業部に勤める冴えない社会人。入社から二年も経ってるのに仕事効率がすこぶる悪い僕は、いつも退社が遅い。
今日は特にそうで、やっと帰れると思ったときにはオフィスに僕一人しか残っていなかった。おかげで誰にも喜びの舞を見られずに済んだけど。
僕が飛び跳ねるほど喜んだ〝当選〟。それは僕の大大大好きな最推しが開く握手会への参加券をもぎ取ったということの証だ。つまり推しに会えるのだ。
僕の推しのシャロンくんは、今をときめく国民的アイドルグループ LUMINAのメンバーである。甘いフェイスと抜群のスタイルはもちろんのこと、澄んだ歌声が魅力の彼は、グループのメインボーカルとして活躍している。あと、シャロンって名前は芸名だ。顔立ちからして純日本人、本名は公開していない。
僕はシャロンくんが練習生だった頃からのファンだ。高三の頃、なかなか成績が伸びないことに苦しんでいた僕は、たまたま見た動画で歌っていたシャロンくんの歌声に心を奪われた。それが僕の初恋。
それを何年も引きずっているのは少し痛々しいかなと思うが、好きな気持ちはどう足掻いても消えなかった。
そうして、僕の生活の中心はシャロンくんになった。
今日も会社から出てすぐイヤホンを着けてLUMINAの曲を聞き、電車の吊り革を掴みながらSNSをチェックして、帰宅した頃には日付が変わりそうになっていた。
帰宅早々僕が行ったのは、部屋の中央にある祭壇へのご挨拶。神様とかが祀られてるんじゃなくて、祭壇の最上部にはシャロンくん(のアクスタ)が佇んでいる。シャロンくんのメンバーカラーであるホワイトで満たされたそれの目の前に正座して、頂上のシャロンくんを見つめる。
「シャロンくん…僕、今度あなたに会いに行けることになりました!」
いつもは心の中でその日あったこととかの報告をするのだが、今日はあまりの大事にハキハキと声を出して報告してしまった。
なんて言ったって、シャロンくんは絶対にファンとの直接交流をしないことで有名なのだ。それが二ヶ月前、突然握手会をすると知らされた。無理矢理やらされてるのかな?とか心配したりもしたが、僕はしっかりと応募の手続きをした。ファンとしては、この機会を逃すわけにはいかない。
握手会の日時は、一ヶ月後。今の僕の冴えない見た目でシャロンくんに相見えるなんてあってはらない。それまでにしなければならないことを頭の中でまとめて、僕はバタバタと家の中を走り回った。
◇◇◇
この一ヶ月、色々やった。美容室に行って、人生初のサロンにも行って、僕の準備は完璧。そして今日、ついに運命の日を迎えた。
直毛の髪の毛は頑張って巻いたし、慣れないメンズメイクも今日は出来がいい気がする。
そんな最高のコンディションで、僕はシャロンくんのいる部屋の扉の横に座っている。
そわそわと入室時間を待っていると、部屋からスタッフさんが出てきた。
「では準備が出来ましたので、入室していただきます。対面時間は二分です。時間になったらお知らせしますので、時間一杯お楽しみください」
ついに来た…! ドキドキと高鳴る鼓動の音が大きくなる。笑顔の奥に何故か哀れみが見えるスタッフさんに見送られ、僕はシャロンくんの待つ部屋に足を踏み入れた。
入室した途端、僕は別世界に来たのかと錯覚するほどの感覚を覚えた。
まず、扉を開けると甘いバニラ系の香りがした。目の前にいるシャロンくんは、綺麗なブロンドの髪をセンター分けにして緩くセットしているのが抜群にかっこいい。そのシャロンくんが、綺麗なアーモンド型の目を細めて笑顔で僕を見つめている。
「君が由羽希くんかな?こんにちは」
大好きな声と笑顔で話しかけられた感動からか、クラっと倒れそうになってしまう。するとシャロンくんが素早く僕のそばに来て、抱き留める形で支えてくれた。
「大丈夫かい?そこ座ろうか」
「は、はい!大丈夫です!座ります!」
シャロンくんが僕を見てる、心配してくれてる。そして触れている。全てが夢のようで、普段よりさらに挙動不審になる。
僕がちゃんと椅子に座るのを見て、シャロンくんも向かいの椅子に座った。
僕は彼に伝えたかったことを頭の引き出しから引っ張り出して、必死に伝えた。
シャロンくんは優しく頷きながら話を聞いてくれて、一秒経つごとに彼への大好きが募っていく。
「それで、えっと、本当に大好きなんです…!」
「ふふ、ありがとう。俺もゆうくんみたいな子に応援してもらえて嬉しいよ」
応援してる、なんて言葉じゃ足りないほど大好き。だからもうじき終わるこの時間が名残惜しくて仕方ないけど、伝えたいことを直接言えただけ僕は幸せ者だ。
「…はいっ!ずっとずっと応援してます!」
僕がそう言ったところで、ずっとふわふわしていた意識が急速に覚束なくなって、ここで寝るなんて駄目だと思いながらも、抗えない眠気に為す術なく沈んで行った。
1,048
あなたにおすすめの小説
美澄の顔には抗えない。
米奏よぞら
BL
スパダリ美形攻め×流され面食い受け
高校時代に一目惚れした相手と勢いで付き合ったはいいものの、徐々に相手の熱が冷めていっていることに限界を感じた主人公のお話です。
※なろう、カクヨムでも掲載中です。
ある日、人気俳優の弟になりました。
雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。
「俺の命は、君のものだよ」
初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……?
平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。
泥酔している間に愛人契約されていたんだが
暮田呉子
BL
泥酔していた夜、目を覚ましたら――【愛人契約書】にサインしていた。
黒髪の青年公爵レナード・フォン・ディアセント。
かつて嫡外子として疎まれ、戦場に送られた彼は、己の命を救った傭兵グレイを「女避けの盾」として雇う。
だが、片腕を失ったその男こそ、レナードの心を動かした唯一の存在だった。
元部下の冷徹な公爵と、酒に溺れる片腕の傭兵。
交わした契約の中で、二人の距離は少しずつ近づいていくが――。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
『偽物の番』だと捨てられた不憫な第三王子、隣国の冷徹皇帝に拾われて真実の愛を教え込まれる
レイ
BL
「出来損ない」と捨てられた場所は、私の居場所ではありませんでした。
ラングリス王国の第三王子・フィオーレは、王族の証である『聖種の紋様』が現れなかったことで「偽物の番」と罵られ、雪降る国境へと追放される。
死を覚悟した彼の前に現れたのは、隣国アイゼン帝国の「冷徹皇帝」ヴォルフラムだった。
【8話完結】強制力に負けて死に戻ったら、幼馴染の様子がおかしいのですが、バグですか?
キノア9g
BL
目が覚めたら、大好きだったRPGの世界に転生していた。
知識チートでなんとか死亡フラグを回避した……はずだったのに、あっさり死んで、気づけば一年前に逆戻り。
今度こそ生き残ってみせる。そう思っていたんだけど——
「お前、ちょっと俺に執着しすぎじゃない……?」
幼馴染が、なんかおかしい。妙に優しいし、距離が近いし、俺の行動にやたら詳しい。
しかも、その笑顔の奥に見える“何か”が、最近ちょっと怖い。
これは、運命を変えようと足掻く俺と、俺だけを見つめ続ける幼馴染の、ちょっと(だいぶ?)危険な異世界BL。
全8話。
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
クラスのボッチくんな僕が風邪をひいたら急激なモテ期が到来した件について。
とうふ
BL
題名そのままです。
クラスでボッチ陰キャな僕が風邪をひいた。友達もいないから、誰も心配してくれない。静かな部屋で落ち込んでいたが...モテ期の到来!?いつも無視してたクラスの人が、先生が、先輩が、部屋に押しかけてきた!あの、僕風邪なんですけど。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる