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アイドルじゃない貴方
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『___かよ』
『…うん』
『ついにやっちゃったねぇ…』
なにか聞こえる。くぐもった誰かの話し声。
(あれ、僕なんで寝てたんだっけ…)
寝起きの体は異常な程に重くて、起きようと思っても起きれない。
(そうだ、シャロンくんの握手会で…)
そう思い出した途端に焦った意識は覚醒して、上半身をバッと起こした。
見渡してみると、ここはベッドとクローゼットがあるだけの寝室みたいなところ。声の主は扉の向こうにいるらしい。
『お前こんなことやって、最悪通報されるぞ…』
『ゆうくんが嫌だって言ったら、すぐ帰す』
『どうだか…』
二人分の声には、聞きなれたものが一つあった。
「シャロンくん…?」
僕が声を発すると扉の向こうは一瞬音が消えて、次にバタバタと走ってくる音が聞こえた。
「ゆうくん、起きたんだね!」
ガチャッと扉が開く音と共に、ホッとしたような表情のシャロンくんが現れた。
僕は全くこの状況が理解出来ず、困惑を隠せないままシャロンくんに尋ねた。
「シャロンくん、ここは…?」
「あぁ、僕の家の寝室だよ。ゆうくん寝ちゃったから、会場には長々といられないし連れてきちゃった」
「…え!?!?」
ますます混乱した。僕はとんでもないところに来てしまったらしい。というか、いちファンを家に連れ込むなんて危機感が無さすぎるだろう。
「じょ、冗談ですよね?シャロンくんがこんなこと…」
「冗談じゃないよ?あぁ安心して、ゆうくんにしかこんなことしないから」
「いや、そういうことじゃないというか…」
僕が、ここにいるのが問題なのだ。リアコガチファンだぞ、なんて堂々と言えるわけないんだけど。
「あとね、ゆうくん。俺の名前教えてあげるから、本名で呼んでほしいな」
「しゃ、シャロンくんの本名…?」
「広哉っていうんだ、俺の名前。そう呼んでくれる?」
「ひ、広哉くん…」
「ふふ、ありがとう」
(いやなんか流れるように呼んでしまった…!)
起きてから得た情報全てが特級物すぎて、卒倒しそうだ。シャロンくんの顔と声が良すぎて、何だかんだ従ってしまうのも良くない。
「あ、あの!しゃ、広哉くんは、なんで僕をここに?」
これが最も聞きたいことだ。僕をさらっても身代金などは期待できないし、正直何のために連れてこられたのか検討もつかない。
「ゆうくんのことが、好きだからだよ」
ふふ、と幸せそうに笑いながら広哉くんが言った。
(スキ?)
空き、透き、すき…好き?
文脈に合う『すき』を探してみると、行き着くのは好意のそれ。困惑とか疑念とか色んな感情が僕を襲ったけど、一番大きかったのは疑問だった。
「え、な、なんで?」
「なんで、か。えっとね、俺ずぅっとゆうくんのこと見てたんだ…ライブに来てくれたときも、配信に来てくれたときも。毎度毎度本当に可愛くて…好きだなぁって思った」
見られてたのか…見られてたのか???
驚きすぎて、思考の世界で二度も同じことを繰り返してしまった。
「デビューライブのとき、俺個人のファンってそんなにいなかったでしょ。これから推そうって思って貰えるように頑張ろうって思って挑んでたんだ。そしたらさ、たった一人俺の方を真っ直ぐ見つめながら、涙を流してるゆうくんがいて…それがあまりに綺麗で、衝撃だった」
そうだった。LUMINAは、もともと有名なグループで活動してたメンバーがいたおかげで、デビュー前から注目が大きかった。その人気に事務所も張り切っていて、デビュー記念のライブがあったんだ。
当然ながら、当時のファンはその人気メンバー推しの子ばかりだったけど、僕はシャロンくんに会いたい一心でライブのチケットをもぎ取った。
そしてそのライブで、僕は初めて生のシャロンくんを見た。感動して大泣きしてしまって、横のお姉さんに引かれてたっけ。
まさかシャロンくんがそれを見て、僕のことを覚えていてくれたなんて。僕がシャロンくんを好きだった期間のほとんどが、片思いじゃなくて両思いだったらしい。
でも、それとこれとは別だ。
「シャロンくんは、アイドルで…僕はファンです。こんな風に特別扱いしてもらうなんてだめだよ…」
本当はすっごく嬉しい。嬉しいけど、大好きだからこそダメだ。僕とおなじような気持ちのファンが沢山いるのを知ってるから。
「じゃあ俺アイドルやめる」
「…え?」
「好き同士なのにアイドルだからダメなんでしょ?じゃあアイドル辞めるから、ずっとここにいてほしい」
何を言ってるんだこの人。アイドルを、シャロンくんを辞める?
「ぼ、僕は、そんなの嬉しくない…!」
「じゃあどうすればいい?やっとゆうくんに会えたのに、これでさよならなんて嫌だ」
「そ、れは…」
「お願いゆうくん…俺のこと受け入れて?」
切実さの滲む瞳で見つめられる。
(広哉くん、そんなに僕のこと…)
どうすれば、なんてそんなの分からない。
僕はアイドルのシャロンくんが好きで、でも今目の前にいる広哉くんも愛しいと思ってしまっている。
それで広哉くんを受け入れるのは簡単だけど、僕の存在は今後必ずシャロンくんの足枷になるだろう。ファンとしてそれは許せない。
アイドルじゃない貴方を目の前にして、僕はどうするのが正しいのだろう。
考えて考えて、口を開いた。
「僕は_______」
『…うん』
『ついにやっちゃったねぇ…』
なにか聞こえる。くぐもった誰かの話し声。
(あれ、僕なんで寝てたんだっけ…)
寝起きの体は異常な程に重くて、起きようと思っても起きれない。
(そうだ、シャロンくんの握手会で…)
そう思い出した途端に焦った意識は覚醒して、上半身をバッと起こした。
見渡してみると、ここはベッドとクローゼットがあるだけの寝室みたいなところ。声の主は扉の向こうにいるらしい。
『お前こんなことやって、最悪通報されるぞ…』
『ゆうくんが嫌だって言ったら、すぐ帰す』
『どうだか…』
二人分の声には、聞きなれたものが一つあった。
「シャロンくん…?」
僕が声を発すると扉の向こうは一瞬音が消えて、次にバタバタと走ってくる音が聞こえた。
「ゆうくん、起きたんだね!」
ガチャッと扉が開く音と共に、ホッとしたような表情のシャロンくんが現れた。
僕は全くこの状況が理解出来ず、困惑を隠せないままシャロンくんに尋ねた。
「シャロンくん、ここは…?」
「あぁ、僕の家の寝室だよ。ゆうくん寝ちゃったから、会場には長々といられないし連れてきちゃった」
「…え!?!?」
ますます混乱した。僕はとんでもないところに来てしまったらしい。というか、いちファンを家に連れ込むなんて危機感が無さすぎるだろう。
「じょ、冗談ですよね?シャロンくんがこんなこと…」
「冗談じゃないよ?あぁ安心して、ゆうくんにしかこんなことしないから」
「いや、そういうことじゃないというか…」
僕が、ここにいるのが問題なのだ。リアコガチファンだぞ、なんて堂々と言えるわけないんだけど。
「あとね、ゆうくん。俺の名前教えてあげるから、本名で呼んでほしいな」
「しゃ、シャロンくんの本名…?」
「広哉っていうんだ、俺の名前。そう呼んでくれる?」
「ひ、広哉くん…」
「ふふ、ありがとう」
(いやなんか流れるように呼んでしまった…!)
起きてから得た情報全てが特級物すぎて、卒倒しそうだ。シャロンくんの顔と声が良すぎて、何だかんだ従ってしまうのも良くない。
「あ、あの!しゃ、広哉くんは、なんで僕をここに?」
これが最も聞きたいことだ。僕をさらっても身代金などは期待できないし、正直何のために連れてこられたのか検討もつかない。
「ゆうくんのことが、好きだからだよ」
ふふ、と幸せそうに笑いながら広哉くんが言った。
(スキ?)
空き、透き、すき…好き?
文脈に合う『すき』を探してみると、行き着くのは好意のそれ。困惑とか疑念とか色んな感情が僕を襲ったけど、一番大きかったのは疑問だった。
「え、な、なんで?」
「なんで、か。えっとね、俺ずぅっとゆうくんのこと見てたんだ…ライブに来てくれたときも、配信に来てくれたときも。毎度毎度本当に可愛くて…好きだなぁって思った」
見られてたのか…見られてたのか???
驚きすぎて、思考の世界で二度も同じことを繰り返してしまった。
「デビューライブのとき、俺個人のファンってそんなにいなかったでしょ。これから推そうって思って貰えるように頑張ろうって思って挑んでたんだ。そしたらさ、たった一人俺の方を真っ直ぐ見つめながら、涙を流してるゆうくんがいて…それがあまりに綺麗で、衝撃だった」
そうだった。LUMINAは、もともと有名なグループで活動してたメンバーがいたおかげで、デビュー前から注目が大きかった。その人気に事務所も張り切っていて、デビュー記念のライブがあったんだ。
当然ながら、当時のファンはその人気メンバー推しの子ばかりだったけど、僕はシャロンくんに会いたい一心でライブのチケットをもぎ取った。
そしてそのライブで、僕は初めて生のシャロンくんを見た。感動して大泣きしてしまって、横のお姉さんに引かれてたっけ。
まさかシャロンくんがそれを見て、僕のことを覚えていてくれたなんて。僕がシャロンくんを好きだった期間のほとんどが、片思いじゃなくて両思いだったらしい。
でも、それとこれとは別だ。
「シャロンくんは、アイドルで…僕はファンです。こんな風に特別扱いしてもらうなんてだめだよ…」
本当はすっごく嬉しい。嬉しいけど、大好きだからこそダメだ。僕とおなじような気持ちのファンが沢山いるのを知ってるから。
「じゃあ俺アイドルやめる」
「…え?」
「好き同士なのにアイドルだからダメなんでしょ?じゃあアイドル辞めるから、ずっとここにいてほしい」
何を言ってるんだこの人。アイドルを、シャロンくんを辞める?
「ぼ、僕は、そんなの嬉しくない…!」
「じゃあどうすればいい?やっとゆうくんに会えたのに、これでさよならなんて嫌だ」
「そ、れは…」
「お願いゆうくん…俺のこと受け入れて?」
切実さの滲む瞳で見つめられる。
(広哉くん、そんなに僕のこと…)
どうすれば、なんてそんなの分からない。
僕はアイドルのシャロンくんが好きで、でも今目の前にいる広哉くんも愛しいと思ってしまっている。
それで広哉くんを受け入れるのは簡単だけど、僕の存在は今後必ずシャロンくんの足枷になるだろう。ファンとしてそれは許せない。
アイドルじゃない貴方を目の前にして、僕はどうするのが正しいのだろう。
考えて考えて、口を開いた。
「僕は_______」
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