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第2話 A Different Way ― もうひとつのやり方
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第2話 A Different Way ― もうひとつのやり方
畑の復旧が一段落したのは、襲撃から十日ほど経った頃だった。
柵は仮の木材で補われ、荒らされた畝も形だけは戻った。だが、土はまだ落ち着かず、踏みしめるたびに柔らかく沈む。ここに再び獣形が現れれば、今度こそ持ちこたえられないだろう――エルディンはそう感じていた。
夕刻、村の酒場は珍しく人が多かった。
復旧作業の区切りと、失われた命を弔う意味もある。
「よう、生きてたな」
声をかけてきたのはロアン・クライスだった。
旅装を緩め、椅子にどかりと腰を下ろす。土と風に晒されたその姿は、この村の誰よりも“外”を連れてきているように見えた。
「お前もな」
エルディンは短く返す。
「畑、やられたって聞いた。……思ったよりひどいな」
「今回はな」
杯を受け取りながら、エルディンは言った。
「いつもなら、もう少し早く立て直せた」
ロアンは黙って頷いた。
それだけで、事情を察したらしい。
しばらくは取り留めのない話をした。
旅の途中で見た町の話、宿の不味い酒の話。
だが、ロアンはふと杯を回しながら、軽い調子で切り出した。
「外で聞いた話なんだけどさ」
「……何だ」
「最近、被害の出方が前と違う村があるらしい」
エルディンは視線を上げた。
「前と、違う?」
「ああ。何をしてるかまでは知らない」
ロアンはすぐにそう付け加えた。
「でも、“今までと同じ対応はやめた”ってのは、
何人かが口を揃えて言ってた」
「守りを固めた、とかじゃないのか」
「それがな、違うらしい」
首をかしげ、続ける。
「門を増やしたとか、見張りを倍にしたとか、
そういう話じゃなかった」
少し考え込むようにして、言葉を選ぶ。
「なんつーか……
村の外回りをいじり始めた、みたいな言い方だった」
「外回り……」
「さあな。詳しいことは知らない」
ロアンは肩をすくめて笑った。
「俺が聞いたのは、
『理由はわからないけど、被害が軽くなった』って結果だけだ」
エルディンは杯を置き、黙り込む。
同じように襲われ、同じように耐えてきた。
それがこの村の“当たり前”だった。
「……そんなやり方があるなら」
思わず、口に出ていた。
「どうして、ここではやらない」
ロアンは少しだけ真顔になった。
「さあ。だから俺は“気になった”ってだけだ」
そして、いつもの調子に戻る。
「俺、そういうの見つけると放っておけない性分だろ?」
酒場の喧騒が、二人の間を満たす。
エルディンは、胸の奥に残るざらつきを無視できなかった。
被害は仕方ない。そう言い聞かせてきた。
だが――仕方ない、で済ませなくていい可能性があるのなら。
「……もし」
低く、確かめるように言う。
「本当に、やり方が違うだけで結果が変わるなら」
ロアンは答えなかった。
ただ、意味ありげに杯を傾ける。
その沈黙が、何よりも雄弁だった。
畑の復旧が一段落したのは、襲撃から十日ほど経った頃だった。
柵は仮の木材で補われ、荒らされた畝も形だけは戻った。だが、土はまだ落ち着かず、踏みしめるたびに柔らかく沈む。ここに再び獣形が現れれば、今度こそ持ちこたえられないだろう――エルディンはそう感じていた。
夕刻、村の酒場は珍しく人が多かった。
復旧作業の区切りと、失われた命を弔う意味もある。
「よう、生きてたな」
声をかけてきたのはロアン・クライスだった。
旅装を緩め、椅子にどかりと腰を下ろす。土と風に晒されたその姿は、この村の誰よりも“外”を連れてきているように見えた。
「お前もな」
エルディンは短く返す。
「畑、やられたって聞いた。……思ったよりひどいな」
「今回はな」
杯を受け取りながら、エルディンは言った。
「いつもなら、もう少し早く立て直せた」
ロアンは黙って頷いた。
それだけで、事情を察したらしい。
しばらくは取り留めのない話をした。
旅の途中で見た町の話、宿の不味い酒の話。
だが、ロアンはふと杯を回しながら、軽い調子で切り出した。
「外で聞いた話なんだけどさ」
「……何だ」
「最近、被害の出方が前と違う村があるらしい」
エルディンは視線を上げた。
「前と、違う?」
「ああ。何をしてるかまでは知らない」
ロアンはすぐにそう付け加えた。
「でも、“今までと同じ対応はやめた”ってのは、
何人かが口を揃えて言ってた」
「守りを固めた、とかじゃないのか」
「それがな、違うらしい」
首をかしげ、続ける。
「門を増やしたとか、見張りを倍にしたとか、
そういう話じゃなかった」
少し考え込むようにして、言葉を選ぶ。
「なんつーか……
村の外回りをいじり始めた、みたいな言い方だった」
「外回り……」
「さあな。詳しいことは知らない」
ロアンは肩をすくめて笑った。
「俺が聞いたのは、
『理由はわからないけど、被害が軽くなった』って結果だけだ」
エルディンは杯を置き、黙り込む。
同じように襲われ、同じように耐えてきた。
それがこの村の“当たり前”だった。
「……そんなやり方があるなら」
思わず、口に出ていた。
「どうして、ここではやらない」
ロアンは少しだけ真顔になった。
「さあ。だから俺は“気になった”ってだけだ」
そして、いつもの調子に戻る。
「俺、そういうの見つけると放っておけない性分だろ?」
酒場の喧騒が、二人の間を満たす。
エルディンは、胸の奥に残るざらつきを無視できなかった。
被害は仕方ない。そう言い聞かせてきた。
だが――仕方ない、で済ませなくていい可能性があるのなら。
「……もし」
低く、確かめるように言う。
「本当に、やり方が違うだけで結果が変わるなら」
ロアンは答えなかった。
ただ、意味ありげに杯を傾ける。
その沈黙が、何よりも雄弁だった。
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