The Thinning Blight ― 漸変 ―

文字の大きさ
3 / 3

第2話 A Different Way ― もうひとつのやり方

しおりを挟む
第2話 A Different Way ― もうひとつのやり方

 畑の復旧が一段落したのは、襲撃から十日ほど経った頃だった。

 柵は仮の木材で補われ、荒らされた畝も形だけは戻った。だが、土はまだ落ち着かず、踏みしめるたびに柔らかく沈む。ここに再び獣形が現れれば、今度こそ持ちこたえられないだろう――エルディンはそう感じていた。

 夕刻、村の酒場は珍しく人が多かった。
 復旧作業の区切りと、失われた命を弔う意味もある。

「よう、生きてたな」

 声をかけてきたのはロアン・クライスだった。
 旅装を緩め、椅子にどかりと腰を下ろす。土と風に晒されたその姿は、この村の誰よりも“外”を連れてきているように見えた。

「お前もな」

 エルディンは短く返す。

「畑、やられたって聞いた。……思ったよりひどいな」

「今回はな」

 杯を受け取りながら、エルディンは言った。

「いつもなら、もう少し早く立て直せた」

 ロアンは黙って頷いた。
 それだけで、事情を察したらしい。

 しばらくは取り留めのない話をした。
 旅の途中で見た町の話、宿の不味い酒の話。
 だが、ロアンはふと杯を回しながら、軽い調子で切り出した。

「外で聞いた話なんだけどさ」

「……何だ」

「最近、被害の出方が前と違う村があるらしい」

 エルディンは視線を上げた。

「前と、違う?」

「ああ。何をしてるかまでは知らない」

 ロアンはすぐにそう付け加えた。

「でも、“今までと同じ対応はやめた”ってのは、
 何人かが口を揃えて言ってた」

「守りを固めた、とかじゃないのか」

「それがな、違うらしい」

 首をかしげ、続ける。

「門を増やしたとか、見張りを倍にしたとか、
 そういう話じゃなかった」

 少し考え込むようにして、言葉を選ぶ。

「なんつーか……
 村の外回りをいじり始めた、みたいな言い方だった」

「外回り……」

「さあな。詳しいことは知らない」

 ロアンは肩をすくめて笑った。

「俺が聞いたのは、
 『理由はわからないけど、被害が軽くなった』って結果だけだ」

 エルディンは杯を置き、黙り込む。

 同じように襲われ、同じように耐えてきた。
 それがこの村の“当たり前”だった。

「……そんなやり方があるなら」

 思わず、口に出ていた。

「どうして、ここではやらない」

 ロアンは少しだけ真顔になった。

「さあ。だから俺は“気になった”ってだけだ」

 そして、いつもの調子に戻る。

「俺、そういうの見つけると放っておけない性分だろ?」

 酒場の喧騒が、二人の間を満たす。

 エルディンは、胸の奥に残るざらつきを無視できなかった。
 被害は仕方ない。そう言い聞かせてきた。
 だが――仕方ない、で済ませなくていい可能性があるのなら。

「……もし」

 低く、確かめるように言う。

「本当に、やり方が違うだけで結果が変わるなら」

 ロアンは答えなかった。
 ただ、意味ありげに杯を傾ける。

 その沈黙が、何よりも雄弁だった。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...