死にたがりの与平

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第3話「ひとときの声、心の解ける日」

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第3話「ひとときの声、心の解ける日」

ある日、村に一人の坊主さまがやってきた。
日照り続きで作物も儘ならぬ中、与平は今日も休まず働いていた。
大柄な体はくたくたで、手のひらには豆や切り傷、肩や腰もガクガク。
顔には土がこびりつき、目には生気が見えなかった。

坊主さまは村人に説法をして歩き、やがて与平の家の前で足をとめた。

「ほう、ここの若い衆はよく働いでるのう。だども……その顔相、ちっとばかし死の影がちらついているように見えるが」

与平は青白い顔で微笑む。

「そうか、ならもっともっと仕事しねぇとな」

坊主はにっこり笑い、脇に腰を下ろした。

「そう言わんと、ひと息つきながら茶でも飲まねぇか?」

最初は警戒していた与平も、坊主さまの柔らかい口調に心がほぐれ、
母ちゃんのこと、死んだ日のこと、どうしようもねぇほど寂しかった気持ちをぽつりぽつりと話し始めた。

「母ちゃんがいねぇなら、おらもいっそ後を追おうかと思ったべ。でも、死ぬのは怖ぇ。痛ぇのも苦しいのも嫌だ。……だから、こうして働いてんだ。いずれ倒れて、母ちゃんのところに行けっぺと思ってな」

与平はうつむき、手の震えを押さえながらつぶやいた。

坊主はしばらく風を見上げて黙っていたが、やがてやさしく言った。

「ほうか。そったらに母ちゃんを思う気持ちは、きっと母ちゃんにも届いでる。
だどもな、与平。母ちゃんは“死んでまでおめぇに苦労させたかねぇ”と思ってるんでねぇか」

その言葉に、与平の肩が小さく震えた。

「母ちゃんが……おらに苦労させたかねぇって?」

「そういうことだ。母ちゃんは、おめぇが笑って食って働いて、また誰かを想うことを願ってる。
死は終わりじゃねぇ。残った者が“どう生きるか”が、ほんとの供養ってやつよ」

与平は唇をかみしめ、胸の奥に言葉を染み込ませる。
母ちゃんが笑っていた顔、飯をよそってくれた手、背中のぬくもり――すべてが、ぼんやりと心に浮かんだ。

「……おら、母ちゃんのためになんもできねぇで、今さら何していいかわかんねぇ」

「そんでええ。わからねぇなら、風を感じでみろ。朝の光でも、草の匂いでも。
母ちゃんが生きてたときと同じように、この世はまだ続いでる。
それを感じられる心があるなら、おめぇはまだ“生きてる”」

坊主さまの声は、やさしく、あたたかく響いた。

与平は、ぽろりと涙をこぼした。
肩の力をふっと抜き、手の震えが少しおさまり、胸の奥が軽くなる。
目に残る涙を指でぬぐい、深呼吸をひとつした。

これまで流してきた涙とは違う、冷たくも重たくもない、ほんのり温かい涙だった。

与平は小さく息をつき、わずかに顔を上げた。
胸の奥に、少しだけ光が差し込むのを感じた。
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