32 / 58
32話 狂気の王弟カネフォーラ
しおりを挟む
カネフォーラ・レオ・アムハル。約二十年前に死んだことになっている、現国王の異母弟。紛れもない王族だ。
「王弟殿下ですって……!?」
「ああ、そう呼ばれるのも随分久しぶりだな」
カネフォーラは感慨深そうな表情を見せたが、それも一瞬で消し去ると、冷たい私のことを見据えた。
「さて、自己紹介も済ませたところで本題に入ろう」
「本題……」
この情況に、死んだはずの人物が現れたことといい、もはや嫌な予感しかしない。
「先程も言った通り、エキセルソには我々に協力して貰いたいのだ」
「我々というのは……」
「この俺を筆頭とする、現国王や今の王国への不満を持つ者たちの集まりだ」
「まさか叛逆を……」
「まぁ、そういうことになるな」
国家への叛逆。それは計画が露呈した時点で、死罪に問われるほどの大罪です。
「そ、そんな者たちとエキセルソ様は関わり合いになったりなどしません!!」
だから私は反射的にそう答えた。間違ってもセル様とそんな奴らを関わらせる訳にはいかないから。
「果たしてそうだろうか。例えば大切な婚約者からの口添えがあったとすれば?」
「っ」
その言葉に私は一瞬口ごもる。確かに、私から話を持ちかければ、セル様も興味を示してしまうかもしれないと思ったから……。
「ですが私はそんなことしません!!」
「本当に、絶対にか?」
「ええ、絶対にです」
私は強い意志を持ち、カネフォーラの言葉に頷き返す。するとカネフォーラはやや私のことを見つめたのちに、ふっと視線を逸らした。
「そうか、それは残念だ……」
え……わざわざ誘拐までしたのに、こんなに簡単に引き下がるの?
そんな私の心情を読み取ったのか、カネフォーラは次の瞬間、恐ろしい冷徹な笑みを浮かべて、こう言ったのだった。
「では、エキセルソは無理矢理言うことを聞かせることにしよう。ご令嬢のことを人質として利用してな」
「な、なんですって……」
一気に血の気が引くのを感じる。さっきの会話で簡単に引き下がったのも、まさか元々コチラが本命だったからでは……。
「出来れば、こちらも穏便に済ませたかったが仕方ない。ご令嬢はどうしても協力する気はないらしいからな」
私を嘲笑うかのように、カネフォーラはくつくつと笑いつつ、今度は私の身体の部位を指差し始めた。
「それならば、どれがいいだろうな。目か、手か……ああ、足でもいいな。万が一にも逃げようという気が起きないように」
「な、何を仰っているのですか」
「何って……これから君が、失う身体の部位についての話さ」
「な……」
「切り落としたら丁寧に包んで、可愛い甥っ子の元へ送り届けてやろう。もしアイツが従うのを拒むようならば、更に少しずつ別の部位も送る」
か、身体を……切り落とす?
言葉の内容自体、上手く飲み込めないのに、カネフォーラは笑みを浮かべて、コチラに問いかける。
「さて、こちらはどれでも構わない、ご令嬢に希望があればそれに沿おう」
「……狂っている」
そうして私がどうにか絞り出した言葉は、それだけだった。
だがカネフォーラは、そんなことには興味がないと言いたげに鼻で笑った。
「はっ、狂いでもしなくては、今の今まで生きてこれなかったからな……さて」
カネフォーラは帯刀していた幅広の剣を抜刀し、ゆっくりとコチラへと向けた。
仄暗い笑みを浮かべながら。
「特に希望がないのであれば最初は足にするか。比較的止血もしやすい部位だろうからな、あと残念ながら痛み止めの持ち合わせはないから、そこは我慢してくれ。なに殺しはしないさ、これでも大事な人質だからな」
「や、いや、やめて……」
「諦めろ、ご令嬢の選択の結果だ。代わりに切り落とし部位は丁重に扱うと約束しよう」
カネフォーラは近付いてくる。私の心臓は恐怖からバクバクと激しく脈打つ。
だ、ダメ……このままでは、本当に……。
「ち、ちょっと待ったー!!」
そんな時、知らない女の子の声が響き渡った。そちらを見ると学園の制服を着た女の子が、拳を握り締めて立っていた。
だ、誰なの……?
「か弱い女の子にそんなことをするなんて、この私《ダンジョン攻略専攻チーム》所属のミルフィ・クリミアちゃんが許さないんだからね!!」
ミルフィ・クリミア!? それはこのゲームの主人公である女の子の名前のはず……。でも《ダンジョン攻略専攻チーム》というのは初耳です、わざわざ名乗り上げるだけあって何か凄そうですが、一体何なのでしょうか。
「ほぅ……」
一方、邪魔をされたはずのカネフォーラは、彼女のことを見つめながら真意の読めない笑みを浮かべていました。
「王弟殿下ですって……!?」
「ああ、そう呼ばれるのも随分久しぶりだな」
カネフォーラは感慨深そうな表情を見せたが、それも一瞬で消し去ると、冷たい私のことを見据えた。
「さて、自己紹介も済ませたところで本題に入ろう」
「本題……」
この情況に、死んだはずの人物が現れたことといい、もはや嫌な予感しかしない。
「先程も言った通り、エキセルソには我々に協力して貰いたいのだ」
「我々というのは……」
「この俺を筆頭とする、現国王や今の王国への不満を持つ者たちの集まりだ」
「まさか叛逆を……」
「まぁ、そういうことになるな」
国家への叛逆。それは計画が露呈した時点で、死罪に問われるほどの大罪です。
「そ、そんな者たちとエキセルソ様は関わり合いになったりなどしません!!」
だから私は反射的にそう答えた。間違ってもセル様とそんな奴らを関わらせる訳にはいかないから。
「果たしてそうだろうか。例えば大切な婚約者からの口添えがあったとすれば?」
「っ」
その言葉に私は一瞬口ごもる。確かに、私から話を持ちかければ、セル様も興味を示してしまうかもしれないと思ったから……。
「ですが私はそんなことしません!!」
「本当に、絶対にか?」
「ええ、絶対にです」
私は強い意志を持ち、カネフォーラの言葉に頷き返す。するとカネフォーラはやや私のことを見つめたのちに、ふっと視線を逸らした。
「そうか、それは残念だ……」
え……わざわざ誘拐までしたのに、こんなに簡単に引き下がるの?
そんな私の心情を読み取ったのか、カネフォーラは次の瞬間、恐ろしい冷徹な笑みを浮かべて、こう言ったのだった。
「では、エキセルソは無理矢理言うことを聞かせることにしよう。ご令嬢のことを人質として利用してな」
「な、なんですって……」
一気に血の気が引くのを感じる。さっきの会話で簡単に引き下がったのも、まさか元々コチラが本命だったからでは……。
「出来れば、こちらも穏便に済ませたかったが仕方ない。ご令嬢はどうしても協力する気はないらしいからな」
私を嘲笑うかのように、カネフォーラはくつくつと笑いつつ、今度は私の身体の部位を指差し始めた。
「それならば、どれがいいだろうな。目か、手か……ああ、足でもいいな。万が一にも逃げようという気が起きないように」
「な、何を仰っているのですか」
「何って……これから君が、失う身体の部位についての話さ」
「な……」
「切り落としたら丁寧に包んで、可愛い甥っ子の元へ送り届けてやろう。もしアイツが従うのを拒むようならば、更に少しずつ別の部位も送る」
か、身体を……切り落とす?
言葉の内容自体、上手く飲み込めないのに、カネフォーラは笑みを浮かべて、コチラに問いかける。
「さて、こちらはどれでも構わない、ご令嬢に希望があればそれに沿おう」
「……狂っている」
そうして私がどうにか絞り出した言葉は、それだけだった。
だがカネフォーラは、そんなことには興味がないと言いたげに鼻で笑った。
「はっ、狂いでもしなくては、今の今まで生きてこれなかったからな……さて」
カネフォーラは帯刀していた幅広の剣を抜刀し、ゆっくりとコチラへと向けた。
仄暗い笑みを浮かべながら。
「特に希望がないのであれば最初は足にするか。比較的止血もしやすい部位だろうからな、あと残念ながら痛み止めの持ち合わせはないから、そこは我慢してくれ。なに殺しはしないさ、これでも大事な人質だからな」
「や、いや、やめて……」
「諦めろ、ご令嬢の選択の結果だ。代わりに切り落とし部位は丁重に扱うと約束しよう」
カネフォーラは近付いてくる。私の心臓は恐怖からバクバクと激しく脈打つ。
だ、ダメ……このままでは、本当に……。
「ち、ちょっと待ったー!!」
そんな時、知らない女の子の声が響き渡った。そちらを見ると学園の制服を着た女の子が、拳を握り締めて立っていた。
だ、誰なの……?
「か弱い女の子にそんなことをするなんて、この私《ダンジョン攻略専攻チーム》所属のミルフィ・クリミアちゃんが許さないんだからね!!」
ミルフィ・クリミア!? それはこのゲームの主人公である女の子の名前のはず……。でも《ダンジョン攻略専攻チーム》というのは初耳です、わざわざ名乗り上げるだけあって何か凄そうですが、一体何なのでしょうか。
「ほぅ……」
一方、邪魔をされたはずのカネフォーラは、彼女のことを見つめながら真意の読めない笑みを浮かべていました。
1
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
断罪フラグをへし折った悪役令嬢は、なぜか冷徹公爵様に溺愛されています ~スローライフはどこへいった?~
放浪人
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢イザベラに転生した私。
来るべき断罪イベントを回避し、辺境の領地で悠々自適なスローライフを送る……はずだった!
卒業パーティーの舞台で、王太子から突きつけられた数々の罪状。
ヒロインを虐げた? 国を傾けようとした?
――全部、覚えがありませんけど?
前世の知識と周到な準備で断罪フラグを木っ端微塵にへし折り、婚約破棄を叩きつけてやったわ!
「さようなら、殿下。どうぞヒロインとお幸せに!」
ああ、これでやっと静かな生活が手に入る!
そう思っていたのに……。
「実に興味深い。――イザベラ、お前は俺が貰い受ける」
なぜか、ゲームではヒロインの攻略対象だったはずの『氷の公爵』アレクシス様が、私に執着し始めたんですけど!?
追いかけてこないでください! 私のスローライフが遠のいていく……!
折角転生したのに、婚約者が好きすぎて困ります!
たぬきち25番
恋愛
ある日私は乙女ゲームのヒロインのライバル令嬢キャメロンとして転生していた。
なんと私は最推しのディラン王子の婚約者として転生したのだ!!
幸せすぎる~~~♡
たとえ振られる運命だとしてもディラン様の笑顔のためにライバル令嬢頑張ります!!
※主人公は婚約者が好きすぎる残念女子です。
※気分転換に笑って頂けたら嬉しく思います。
短めのお話なので毎日更新
※糖度高めなので胸やけにご注意下さい。
※少しだけ塩分も含まれる箇所がございます。
《大変イチャイチャラブラブしてます!! 激甘、溺愛です!! お気を付け下さい!!》
※他サイト様にも公開始めました!
【完結】悪役令嬢の妹に転生しちゃったけど推しはお姉様だから全力で断罪破滅から守らせていただきます!
くま
恋愛
え?死ぬ間際に前世の記憶が戻った、マリア。
ここは前世でハマった乙女ゲームの世界だった。
マリアが一番好きなキャラクターは悪役令嬢のマリエ!
悪役令嬢マリエの妹として転生したマリアは、姉マリエを守ろうと空回り。王子や執事、騎士などはマリアにアプローチするものの、まったく鈍感でアホな主人公に周りは振り回されるばかり。
少しずつ成長をしていくなか、残念ヒロインちゃんが現る!!
ほんの少しシリアスもある!かもです。
気ままに書いてますので誤字脱字ありましたら、すいませんっ。
月に一回、二回ほどゆっくりペースで更新です(*≧∀≦*)
出来損ないの私がお姉様の婚約者だった王子の呪いを解いてみた結果→
AK
恋愛
「ねえミディア。王子様と結婚してみたくはないかしら?」
ある日、意地の悪い笑顔を浮かべながらお姉様は言った。
お姉様は地味な私と違って公爵家の優秀な長女として、次期国王の最有力候補であった第一王子様と婚約を結んでいた。
しかしその王子様はある日突然不治の病に倒れ、それ以降彼に触れた人は石化して死んでしまう呪いに身を侵されてしまう。
そんは王子様を押し付けるように婚約させられた私だけど、私は光の魔力を有して生まれた聖女だったので、彼のことを救うことができるかもしれないと思った。
お姉様は厄介者と化した王子を押し付けたいだけかもしれないけれど、残念ながらお姉様の思い通りの展開にはさせない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる