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53話 兄弟の会話と和解
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僕たちとカネフォーラが王都の地下で戦ってから、もう三日の時が流れた。
あの後、カネフォーラが投降を呼びかけたら、なんと反乱軍の大半がおとなしくそれに従った。そのためそちらの話に関しては、拍子抜けするほど簡単に片が付いてしまった。
奴は愛しのラテーナを攫った極悪非道の男であったが、どうやら反乱軍の部下からの人望は随分と厚かったらしい。少しムカつくが、仕事の手間が減ったのでそこはよしとしよう。
しかし当然ではあるが、反乱軍が簡単に拘束出来たと言っても、諸々の事後処理としてやらなくてはならないことは沢山ある。
爆発などの被害の出た市街地の調査や修復、反乱軍のアジトの調査。更に拘束した反乱軍の管理に、必要があれば事情聴取と……とにかく、やってもやっても仕事が終わらない状況だった。
「それで話というのはなんなのですか、イールド兄上」
「ああ、呼び出してしまって済まない」
「まったくですよ。兄上から色々仕事を任されたせいで忙しいというのに、更に呼び出しなんて……誘拐監禁されて傷ついたラテーナのケアが、全然できないではありませんか!!」
「お前のそういう部分は相変わらずブレないな……」
そう言ってイールド兄上は大きな溜息をつく。そちらが呼び出しをしたくせに、なんて失礼な態度だろうか。
「実は昨日父上と話を付けてきてな……」
「ああ、事前に相談してきたアレのことですか」
「首尾よくまとまったので、今度牢に行く際にその話もするつもりだ」
「左様ですか」
あの父上が納得するような話とは、到底思えなかったが説得できたのか。
正直、兄上はその手の話術が上手い方ではないので、どうやって話を通したのかが気になるところだが……。
どうやら兄上の雰囲気から察するにそれを聞ける状況ではなさそうだな。
「セル……」
「なんですか兄上」
「俺が本当に話したいのはここからだ」
先程からなんとなく兄上の緊張は察していたが、明らかに恐る恐るという感じでそう言ってくる。一体なんの話だろうか。
「薄々感づいているかもしれないが、カネフォーラがああなったのは父上に原因がある」
「そうなのですか……」
実はそれに関しては、ミルフィから話を聞いて簡単な経緯は知っている。が、そこの事情を知らないと思っている兄上は、改めて僕に説明してくれるつもりのようだ。
「二十年前にカネフォーラは実の兄から殺されかけ、この国から逃げた。そして父上がその強行に及んだ原因は他ならぬ、俺のためだったのだ」
イールド兄上は沈痛な面持ちでそう言う。正義感の強い兄上の性格からすると、自分のために誰かが犠牲になったという事実は、それだけ受け入れがたいものなのだろう。
しかもそれが自分が長年尊敬してきた父上がしたこととなると、兄上がどれほど傷つき苦しんだか…………大体想像がつく。
「更には……セル、父上はお前のことも……」
「あ、もしかして兄上のために利用しようとしてたって話ですか?」
「し、知っていたのか!?」
兄上は心底驚いた様子で僕のことを見る。なるほど、そちらの話か……。
「いやいや、そんなの長年接していたら大体察しますよ。兄上が後継者だということ抜きに心底大事にされていることも、僕のことなんてどうでもいいと思っている事実もね。兄上手前優しく接している時ですら、少し違和感がありましたし」
ちなみにこれはミルフィから聞いたのではなく、実際に僕が感じていたことだ。
父上は一切僕のことを愛していない。そんなことは何年も前から分かっていた。
「せ、セル……」
「まったく気付かない兄上の方が鈍感過ぎるんですよ」
僕が苦笑いしながらイールド兄上にそう言うと、兄上は勢いよく頭を下げた。
「本当にすまなかった……!!」
「兄上が悪いわけではないでしょう、だから謝らないで下さい」
もしかして最近様子がおかしかったのも、このせいだろうか?
自分の父親のしでかしたことに罪悪感を感じるなんて、つくづく難儀な性格をしている人だな。
これはきっぱりと言っておいた方がいいだろうな。
「言っておきますが僕は、そのことについて特に気にしていません。なんなら目に見えて冷遇されなかっただけ、有り難いとすら思っています」
「セル……そんな、俺のことを気遣ってそこまで言うなんて……」
「全然気遣ってません、ただの本心ですよ」
僕がそういうとイールド兄上は感極まった様子で、深く頷いた。
「分かった、では今後は俺が父親の分まで愛情を注ごう……遠慮なく兄であり、父である存在だと思ってくれ」
「ありがた迷惑ですから、やめて下さい」
「なに、遠慮するな……!!」
「遠慮ではないんですよっっ!!」
ぐいぐい迫ってきて僕のことを抱きしめようとするイールド兄上を、僕は必死に押し戻す。
「あーもう、だから兄上は暑苦しくて嫌なんですよ。いい加減にして下さいってば!!」
そこまで言って思いっきり押し返すとイールド兄上はようやく諦めた。だいぶ残念そうな表情で。
「そうか……なら抱きしめて欲しくなったらいつでも言ってくれ」
「ないのでご安心ください」
まったくこの人は、なんて暑苦しい性格をしているのだろうか。嫌いではないけど、たまにキツイ部分があるぞ。
「ああ……そうだ」
「今度はなんですか兄上」
一応聞き返してはみたが、この時点で嫌な予感がするので、本音を言うと答えを聞きたくはない。
「お前、王位に興味はないか?」
「は?」
「次の王になる気はないかと聞いてるんだ」
一体、何を言い出すかと思えばまさかそんなことを……。
「もしかして父上の件で責任を感じて、自分は後継者に相応しくないとでも思いましたか?」
「まぁ、それもあるのだが……」
「なんにせよ、そんなゴミを僕に押し付けようとするのは止めてください」
「ご、ご、ご、ゴミーー!?」
僕の今の物言いが余程衝撃的だったのだろう。イールド兄上は口を何も言えずにパクパクさせている。
「そんなに驚くことですか。いらないものだからこそゴミと言ったまでですが」
「で、でも王位だぞ!? 色々と大きな利益がある地位だぞ」
「だけどそれだけ面倒も増えるじゃないですか」
「それはそうだが……」
「そんなわけで僕は国王になる気はありませんので、どうぞイールド兄上が良き国王とおなり下さい」
「…………本当に良いのか?」
いまだ信じられないと不安げな面持ちで、イールド兄上はそう問いかけてくる。
「ええ、僕の目標は、国王となり馬車馬のように働く兄上を支えつつ、休暇多めで悠々自適にラテーナと過ごすことですからね。もし僕に本気で申し訳なく思うのであれば、将来僕をラクにして下さい」
僕がそういうとイールド兄上はやや面食らった様子を見せながらも、程なくして「ふふ」と笑い出した。
「まったくお前らしいな……分かった、努力しよう」
「ええ、本当に頼みますよ?」
最後にそう言いあうと、僕たちはしばらくお互いに笑いあったのだった。
あの後、カネフォーラが投降を呼びかけたら、なんと反乱軍の大半がおとなしくそれに従った。そのためそちらの話に関しては、拍子抜けするほど簡単に片が付いてしまった。
奴は愛しのラテーナを攫った極悪非道の男であったが、どうやら反乱軍の部下からの人望は随分と厚かったらしい。少しムカつくが、仕事の手間が減ったのでそこはよしとしよう。
しかし当然ではあるが、反乱軍が簡単に拘束出来たと言っても、諸々の事後処理としてやらなくてはならないことは沢山ある。
爆発などの被害の出た市街地の調査や修復、反乱軍のアジトの調査。更に拘束した反乱軍の管理に、必要があれば事情聴取と……とにかく、やってもやっても仕事が終わらない状況だった。
「それで話というのはなんなのですか、イールド兄上」
「ああ、呼び出してしまって済まない」
「まったくですよ。兄上から色々仕事を任されたせいで忙しいというのに、更に呼び出しなんて……誘拐監禁されて傷ついたラテーナのケアが、全然できないではありませんか!!」
「お前のそういう部分は相変わらずブレないな……」
そう言ってイールド兄上は大きな溜息をつく。そちらが呼び出しをしたくせに、なんて失礼な態度だろうか。
「実は昨日父上と話を付けてきてな……」
「ああ、事前に相談してきたアレのことですか」
「首尾よくまとまったので、今度牢に行く際にその話もするつもりだ」
「左様ですか」
あの父上が納得するような話とは、到底思えなかったが説得できたのか。
正直、兄上はその手の話術が上手い方ではないので、どうやって話を通したのかが気になるところだが……。
どうやら兄上の雰囲気から察するにそれを聞ける状況ではなさそうだな。
「セル……」
「なんですか兄上」
「俺が本当に話したいのはここからだ」
先程からなんとなく兄上の緊張は察していたが、明らかに恐る恐るという感じでそう言ってくる。一体なんの話だろうか。
「薄々感づいているかもしれないが、カネフォーラがああなったのは父上に原因がある」
「そうなのですか……」
実はそれに関しては、ミルフィから話を聞いて簡単な経緯は知っている。が、そこの事情を知らないと思っている兄上は、改めて僕に説明してくれるつもりのようだ。
「二十年前にカネフォーラは実の兄から殺されかけ、この国から逃げた。そして父上がその強行に及んだ原因は他ならぬ、俺のためだったのだ」
イールド兄上は沈痛な面持ちでそう言う。正義感の強い兄上の性格からすると、自分のために誰かが犠牲になったという事実は、それだけ受け入れがたいものなのだろう。
しかもそれが自分が長年尊敬してきた父上がしたこととなると、兄上がどれほど傷つき苦しんだか…………大体想像がつく。
「更には……セル、父上はお前のことも……」
「あ、もしかして兄上のために利用しようとしてたって話ですか?」
「し、知っていたのか!?」
兄上は心底驚いた様子で僕のことを見る。なるほど、そちらの話か……。
「いやいや、そんなの長年接していたら大体察しますよ。兄上が後継者だということ抜きに心底大事にされていることも、僕のことなんてどうでもいいと思っている事実もね。兄上手前優しく接している時ですら、少し違和感がありましたし」
ちなみにこれはミルフィから聞いたのではなく、実際に僕が感じていたことだ。
父上は一切僕のことを愛していない。そんなことは何年も前から分かっていた。
「せ、セル……」
「まったく気付かない兄上の方が鈍感過ぎるんですよ」
僕が苦笑いしながらイールド兄上にそう言うと、兄上は勢いよく頭を下げた。
「本当にすまなかった……!!」
「兄上が悪いわけではないでしょう、だから謝らないで下さい」
もしかして最近様子がおかしかったのも、このせいだろうか?
自分の父親のしでかしたことに罪悪感を感じるなんて、つくづく難儀な性格をしている人だな。
これはきっぱりと言っておいた方がいいだろうな。
「言っておきますが僕は、そのことについて特に気にしていません。なんなら目に見えて冷遇されなかっただけ、有り難いとすら思っています」
「セル……そんな、俺のことを気遣ってそこまで言うなんて……」
「全然気遣ってません、ただの本心ですよ」
僕がそういうとイールド兄上は感極まった様子で、深く頷いた。
「分かった、では今後は俺が父親の分まで愛情を注ごう……遠慮なく兄であり、父である存在だと思ってくれ」
「ありがた迷惑ですから、やめて下さい」
「なに、遠慮するな……!!」
「遠慮ではないんですよっっ!!」
ぐいぐい迫ってきて僕のことを抱きしめようとするイールド兄上を、僕は必死に押し戻す。
「あーもう、だから兄上は暑苦しくて嫌なんですよ。いい加減にして下さいってば!!」
そこまで言って思いっきり押し返すとイールド兄上はようやく諦めた。だいぶ残念そうな表情で。
「そうか……なら抱きしめて欲しくなったらいつでも言ってくれ」
「ないのでご安心ください」
まったくこの人は、なんて暑苦しい性格をしているのだろうか。嫌いではないけど、たまにキツイ部分があるぞ。
「ああ……そうだ」
「今度はなんですか兄上」
一応聞き返してはみたが、この時点で嫌な予感がするので、本音を言うと答えを聞きたくはない。
「お前、王位に興味はないか?」
「は?」
「次の王になる気はないかと聞いてるんだ」
一体、何を言い出すかと思えばまさかそんなことを……。
「もしかして父上の件で責任を感じて、自分は後継者に相応しくないとでも思いましたか?」
「まぁ、それもあるのだが……」
「なんにせよ、そんなゴミを僕に押し付けようとするのは止めてください」
「ご、ご、ご、ゴミーー!?」
僕の今の物言いが余程衝撃的だったのだろう。イールド兄上は口を何も言えずにパクパクさせている。
「そんなに驚くことですか。いらないものだからこそゴミと言ったまでですが」
「で、でも王位だぞ!? 色々と大きな利益がある地位だぞ」
「だけどそれだけ面倒も増えるじゃないですか」
「それはそうだが……」
「そんなわけで僕は国王になる気はありませんので、どうぞイールド兄上が良き国王とおなり下さい」
「…………本当に良いのか?」
いまだ信じられないと不安げな面持ちで、イールド兄上はそう問いかけてくる。
「ええ、僕の目標は、国王となり馬車馬のように働く兄上を支えつつ、休暇多めで悠々自適にラテーナと過ごすことですからね。もし僕に本気で申し訳なく思うのであれば、将来僕をラクにして下さい」
僕がそういうとイールド兄上はやや面食らった様子を見せながらも、程なくして「ふふ」と笑い出した。
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