17 / 44
第17話 クレイジーサイコレズ
「あー終わった終わった」
肩をぐるぐる回しながら、帰路を進む和奏。本日の訓練――もといレッスンは終了。エミル先生にしっかりとしごかれた。普段から身体を動かすことに余念のない和奏ではあるが、いつもとは違う筋肉を使うとなると、疲労も一入である。
「楽しかったなぁ。へへっ。みんなとリズムに合わせると一体感っていうのかな、ああいうのいいよなぁ」
にやける和奏。
そんな彼女が「あん?」と、足を止める。
進行方向に、いかにもチーマーといった感じの男が五人。和奏を見ていた。関わりたくないので回れ右。喧嘩は強くても好きではない。避けられるなら避けるのだ。
「にゃ?」
だが、そんな和奏の逃げ道を塞ぐように、背後からも複数人のチーマーが現れる。
「この女か?」「だべ? 胸のあるイケメン。そのまんまじゃねえか」「拉致ったあとは好きにしていいんだよな?」「これで金がもらえるなら、美味しいねぇ」
物騒な言葉が並べられる。
うーん。ちょっと面倒くさいな。
「はぁい、和奏ちゃんだよね? 悪いけど、お兄さんたちと一緒に来てもらえるかな?」
「京史郎の関係っすか?」
「京史郎? んー。そうでーす。京史郎のトモダチでーす」
――この態度で、トモダチってことはないよな。
「あたしを人質にしたところで、あいつは気にしないっすよ」
「あ、そう? ま、いいよどうでも。素直に言うこと聞かないと、しばらく学校行けなくなっちゃうぞぉ。っていうか、一生学校行けなくなっちゃうぞぉ」
「参ったなぁ……」
「じゃ、あっちに車があるから――」
「いや、ゴメンだけど、京史郎へのクレームは本人に直接頼むわ。――じゃ」
和奏は、二メートル以上ある塀に向かって跳躍する。指をかけると、身体を引き寄せるようにして、一気に飛び越えるのだった。
「待て!」「嘘だろ! こんな壁、どうやって――」「回り込め! あの人に殺されんぞ!」
☆
塀を飛び越せる者はおらず。追跡は不可能。チーマー連中も半ばあきらめ気味なのか、追いかけるフリはすれど、早々に足を止めて野次を飛ばしているだけ――。
その一部始終を眺めていたのは唯坂心音。
路地の見える喫茶店。ビルの二階にあるそれの窓際の席で、溜息をこぼす。
「うーん……厄介だなぁ」
和奏を『恋のライバル』と認識しているのだと、心音も自覚していた。心音にとって、自分以外の人間はNPCと変わらない。システム的に、こうすればこうなるというパターンがシンプルに当てはまる。それが人間。
――だが、和奏は違う。
「――お待たせいたしました。メロンパフェになります」
注文していたスイーツが運ばれてくる。心音は機嫌よく言葉を飛ばす。
「ありがとう、店員さん。ふふっ。私、メロンが大好物なんですよ。昔は苺がいちばんだったんですけどね。やっぱ、色がいいですよね」
「そうなのですね。味の方も気に入っていただけたら幸いです」
そんな他愛のない会話を交わし、再びチーマー連中の方を観察する。
恐怖を与えれば逃げ出す。心がへし折れるまで肉体を痛めつければ、逆らわなくなる。それがテンプレだ。和奏はその外にいる。それが鬱陶しくもあり、嬉しくもある。これ以上ない恋のイベントだ。
彼女を壊すことによって、京史郎への愛もステップアップする。そんな期待を抱いているのだと思う。ただ、いかにライバルといえど、これはゲーム。クリアできなければクソゲーである。どんな魔王でも裏ボスでも、時間と努力を重ねれば倒せなければならない。
その上で、討伐までのプロセスを楽しむのがゲームだ。だから、心音はチンピラを雇い、和奏を襲わせてみたのだが、どうやら一筋縄ではいかないらしい。
「喧嘩? 空手? 極道? 正義? ふふっ、この世で最強なのは『悪意』なんですよねぇ。殺人犯は殺人をするからこそ罰せられる。けど、殺人をする前にはどうすることもできない。悪意は、常に先手を取れるんです。その先手こそが必殺ならば、即ち最強なワケです」
正義の味方は、悪の組織が悪事をする前には懲らしめられない。さらに言えば、優しいヒーローは悪を始末しない。アンパンを擬人化したヒーローだって、バイキンにトドメを刺さないから、悪事は繰り返されるのだ。
「悪意が最強ですか……。理屈は間違ってないと思いますが、モラル的にはいけませんね」
心音の独り言を聞いていたのか、先程の店員が苦言を呈してきた。
「んー? だめですよぅ、店員さんが盗み聞きなんかしちゃ。お説教もいけないんですからね。パフェがまずくなっちゃいます」
「――店員さんならね」
ウェイトレスは、後頭部で纏めてあった髪を解き、眼鏡を外した。すると、心音のよく知る顔が現れたではないか。
「穂織……せん、ぱい……?」
「気がついてなかったみたいだね。サイトのプロフィール読んでないのかな? 私の『特技』はコスプレだよ?」
穂織は、心音の正面の席へと勝手に腰掛ける。気がつかなかったのは事実だ。これはもはやコスプレというよりも、変装と言った方がいい。
衣装だけでなく髪や眼鏡などの小道具。さらにはメイクなども、普段とは若干ハズしており、雰囲気から変えている。
「……どうやって先回りしたんですか? 偶然バイトしてたとは思えませんけど」
「客として入っただけだよ」
穂織のあとをつけ、普通にお客として入店。店員の制服をチェックすると、鞄の中から似た衣装チョイスし着替えるだけ。
コックがパフェをつくり終えたのを見計らって、店員のフリをして受け取り、心音のもとへと運んだ。あまりに堂々と振る舞うので、誰ひとりとして彼女が店員であるコトに疑いを持たなかったのだろう。
「全部見てたよ。ちょっと悪戯がすぎるね。悪いけど、ゲームはこれっきりにしようか――」
肩をぐるぐる回しながら、帰路を進む和奏。本日の訓練――もといレッスンは終了。エミル先生にしっかりとしごかれた。普段から身体を動かすことに余念のない和奏ではあるが、いつもとは違う筋肉を使うとなると、疲労も一入である。
「楽しかったなぁ。へへっ。みんなとリズムに合わせると一体感っていうのかな、ああいうのいいよなぁ」
にやける和奏。
そんな彼女が「あん?」と、足を止める。
進行方向に、いかにもチーマーといった感じの男が五人。和奏を見ていた。関わりたくないので回れ右。喧嘩は強くても好きではない。避けられるなら避けるのだ。
「にゃ?」
だが、そんな和奏の逃げ道を塞ぐように、背後からも複数人のチーマーが現れる。
「この女か?」「だべ? 胸のあるイケメン。そのまんまじゃねえか」「拉致ったあとは好きにしていいんだよな?」「これで金がもらえるなら、美味しいねぇ」
物騒な言葉が並べられる。
うーん。ちょっと面倒くさいな。
「はぁい、和奏ちゃんだよね? 悪いけど、お兄さんたちと一緒に来てもらえるかな?」
「京史郎の関係っすか?」
「京史郎? んー。そうでーす。京史郎のトモダチでーす」
――この態度で、トモダチってことはないよな。
「あたしを人質にしたところで、あいつは気にしないっすよ」
「あ、そう? ま、いいよどうでも。素直に言うこと聞かないと、しばらく学校行けなくなっちゃうぞぉ。っていうか、一生学校行けなくなっちゃうぞぉ」
「参ったなぁ……」
「じゃ、あっちに車があるから――」
「いや、ゴメンだけど、京史郎へのクレームは本人に直接頼むわ。――じゃ」
和奏は、二メートル以上ある塀に向かって跳躍する。指をかけると、身体を引き寄せるようにして、一気に飛び越えるのだった。
「待て!」「嘘だろ! こんな壁、どうやって――」「回り込め! あの人に殺されんぞ!」
☆
塀を飛び越せる者はおらず。追跡は不可能。チーマー連中も半ばあきらめ気味なのか、追いかけるフリはすれど、早々に足を止めて野次を飛ばしているだけ――。
その一部始終を眺めていたのは唯坂心音。
路地の見える喫茶店。ビルの二階にあるそれの窓際の席で、溜息をこぼす。
「うーん……厄介だなぁ」
和奏を『恋のライバル』と認識しているのだと、心音も自覚していた。心音にとって、自分以外の人間はNPCと変わらない。システム的に、こうすればこうなるというパターンがシンプルに当てはまる。それが人間。
――だが、和奏は違う。
「――お待たせいたしました。メロンパフェになります」
注文していたスイーツが運ばれてくる。心音は機嫌よく言葉を飛ばす。
「ありがとう、店員さん。ふふっ。私、メロンが大好物なんですよ。昔は苺がいちばんだったんですけどね。やっぱ、色がいいですよね」
「そうなのですね。味の方も気に入っていただけたら幸いです」
そんな他愛のない会話を交わし、再びチーマー連中の方を観察する。
恐怖を与えれば逃げ出す。心がへし折れるまで肉体を痛めつければ、逆らわなくなる。それがテンプレだ。和奏はその外にいる。それが鬱陶しくもあり、嬉しくもある。これ以上ない恋のイベントだ。
彼女を壊すことによって、京史郎への愛もステップアップする。そんな期待を抱いているのだと思う。ただ、いかにライバルといえど、これはゲーム。クリアできなければクソゲーである。どんな魔王でも裏ボスでも、時間と努力を重ねれば倒せなければならない。
その上で、討伐までのプロセスを楽しむのがゲームだ。だから、心音はチンピラを雇い、和奏を襲わせてみたのだが、どうやら一筋縄ではいかないらしい。
「喧嘩? 空手? 極道? 正義? ふふっ、この世で最強なのは『悪意』なんですよねぇ。殺人犯は殺人をするからこそ罰せられる。けど、殺人をする前にはどうすることもできない。悪意は、常に先手を取れるんです。その先手こそが必殺ならば、即ち最強なワケです」
正義の味方は、悪の組織が悪事をする前には懲らしめられない。さらに言えば、優しいヒーローは悪を始末しない。アンパンを擬人化したヒーローだって、バイキンにトドメを刺さないから、悪事は繰り返されるのだ。
「悪意が最強ですか……。理屈は間違ってないと思いますが、モラル的にはいけませんね」
心音の独り言を聞いていたのか、先程の店員が苦言を呈してきた。
「んー? だめですよぅ、店員さんが盗み聞きなんかしちゃ。お説教もいけないんですからね。パフェがまずくなっちゃいます」
「――店員さんならね」
ウェイトレスは、後頭部で纏めてあった髪を解き、眼鏡を外した。すると、心音のよく知る顔が現れたではないか。
「穂織……せん、ぱい……?」
「気がついてなかったみたいだね。サイトのプロフィール読んでないのかな? 私の『特技』はコスプレだよ?」
穂織は、心音の正面の席へと勝手に腰掛ける。気がつかなかったのは事実だ。これはもはやコスプレというよりも、変装と言った方がいい。
衣装だけでなく髪や眼鏡などの小道具。さらにはメイクなども、普段とは若干ハズしており、雰囲気から変えている。
「……どうやって先回りしたんですか? 偶然バイトしてたとは思えませんけど」
「客として入っただけだよ」
穂織のあとをつけ、普通にお客として入店。店員の制服をチェックすると、鞄の中から似た衣装チョイスし着替えるだけ。
コックがパフェをつくり終えたのを見計らって、店員のフリをして受け取り、心音のもとへと運んだ。あまりに堂々と振る舞うので、誰ひとりとして彼女が店員であるコトに疑いを持たなかったのだろう。
「全部見てたよ。ちょっと悪戯がすぎるね。悪いけど、ゲームはこれっきりにしようか――」
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少年神官系勇者―異世界から帰還する―
mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる?
別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨
この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行)
この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。
この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。
この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。
この作品は「pixiv」にも掲載しています。
神様の手違いで異世界転生した俺の魅了チートが、勇者のハーレムを根こそぎ奪って溺愛ハーレム作りました!
まさき
恋愛
ブラック企業で働き続けた俺、佐藤誠が過労で倒れ、気づけば異界の地。
「手違いで死なせちゃってごめん!」という神様から、お詫びに貰ったのは規格外の【魅了】スキル——。
だが、元社畜の俺にはその自覚が微塵もない!
ただ誠実に、普通に生きようとしているだけなのに、エルフの賢者、獣人の少女、最強の聖女、さらには魔王の娘までもが、俺の「社畜仕込みの優しさ」に絆されて居座り始める。
一方で、10年かけて仲間を集めたはずの「勇者・勝利」は、自身の傲慢さゆえに、誠へとなびく仲間たちを一人、また一人と失っていく。
「俺は勇者だぞ! なぜ手違い転生者に負けるんだあああ!?」
人界から天界、そして宇宙の創造へ——。
無自覚な誠実さで世界を塗り替えてしまう、元社畜の究極溺愛ハーレムファンタジー、ここに開幕!
『専属メイド全員が重すぎる愛で迫ってくる!~大学生の僕、11人?の美女に24時間甘やかされ尽くす生活~』
まさき
青春
僕は、ちょっと普通じゃない日常を送ることになった――それは、専属メイドが全員僕のことを溺愛してくれる暮らしだ。
朝は髪を整えてくれるリナ、朝食で笑顔を見せてくれるミユ、どの瞬間も全力で僕を甘やかす。掃除、料理、悩み相談まで、僕のためだけに動くメイドたち。
「ご主人様の笑顔が見たいんです」
その一言で、僕の毎日はちょっとドキドキ、ちょっと幸せ。
全員が僕を独占したいと競い合う日常の中、僕はどうやってこの溺愛地獄(?)を生き抜けばいいのか――!?
甘々、至れり尽くせりの日常ラブコメ、開幕。
「作品への感想代わりの『いいね❤️』や『エール📣』、心よりお待ちしております。」
「【応援のお願い】『いいね❤️』や『エール📣』をいただけると、作者のモチベーションが爆上がりします!」
「最後までお読みいただきありがとうございます。温かい『いいね❤️』が更新の支えです。」
お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?
すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。
お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」
その母は・・迎えにくることは無かった。
代わりに迎えに来た『父』と『兄』。
私の引き取り先は『本当の家』だった。
お父さん「鈴の家だよ?」
鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」
新しい家で始まる生活。
でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。
鈴「うぁ・・・・。」
兄「鈴!?」
倒れることが多くなっていく日々・・・。
そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。
『もう・・妹にみれない・・・。』
『お兄ちゃん・・・。』
「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」
「ーーーーっ!」
※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。
※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。
※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)
【短編集】こども病院の日常
moa
キャラ文芸
ここの病院は、こども病院です。
18歳以下の子供が通う病院、
診療科はたくさんあります。
内科、外科、耳鼻科、歯科、皮膚科etc…
ただただ医者目線で色々な病気を治療していくだけの小説です。
恋愛要素などは一切ありません。
密着病院24時!的な感じです。
人物像などは表記していない為、読者様のご想像にお任せします。
※泣く表現、痛い表現など嫌いな方は読むのをお控えください。
歯科以外の医療知識はそこまで詳しくないのですみませんがご了承ください。
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。