女子高生ですが、アイドルになるためヤクザと徹底抗戦することにしました。お嬢様学校の炎上王子が忍者やサイコパスと一緒にアイドルを目指す。

倉紙たかみ

文字の大きさ
28 / 44

第28話 ちょっと嬉しい京史郎

しおりを挟む
「柄乃組、か……」

 みんなが帰宅したあと、京史郎はひとり事務所に残っていた。デスクに足を乗せて、椅子に深く体重をかける。

 ――極道時代の名残。精算できるとは思っていない。甘く見積もってもいない。
 自分でも無茶をしたと京史郎は自覚している。だが、形はどうあれ、この界隈でビジネスをするならば、いずれ柄乃組とは揉めていただろう。組織としての関係は終わっているが、個人での因縁は深々とある。

 ――苦しい立場にある。けど、今の京史郎の気分はさほど悪くなかった。それはたぶん、少しいいことがあったからだと思う。京史郎が『辞めろ』と告げたのに、まさか三人全員が残ってくれた。エミルさえも残ってくれた。これは偏に和奏のおかげだろう。

「……どうすっかな」

 このままだと柄乃組の妨害が入る。なにもせずにライブを迎えるのは難しい。いや、何事もなく当日を迎えたとしても、その当日こそきっととんでもないことになるだろう。

 京史郎は、腹の上に置いてあったスマートフォンを手に取った。

「どっちに連絡したものか……」

 かける相手は二択。ひとつは柄乃組の組長。柄乃達義。柄乃組に籍を置くものなら、彼の言葉は絶対だ。彼との交渉に成功すれば、すべてが丸く収まる。もっとも、京史郎という元商売敵の頼みを聞いてくれるかどうかはわからない。よしんば、交渉のテーブルを用意してくれても、大金を要求されるのは必然。借りを作ることにもなる。

 もうひとつは元城島組の組長。城島剛鬼。隠居した身ではあるが、義理人情に熱い性格だったせいか、その人脈と影響力は十分残っている。本家の『神桜しんおう会』にも、城島の世話になった奴が大勢いるわけで、彼が口を利いてくれさえすれば、この状況を穏便に終わらせることができるかもしれない。ただ、常識的に考えて、隠居老人を引っ張り出すのは憚る。

 まあ、こちらも、城島が京史郎の頼みを聞いてくれる保証はない。そもそも、親に泣きつくというのもみっともない話である。

「……かっこ悪いな」

 なんとも面倒くさい性格になったものだ、と、京史郎は思った。

「ちっ」

 京史郎はデスクから足を降ろす。電話帳アプリを起動し、通話ボタンを押した。長いコールのあと、相手が電話に出る。

『……誰だ?』

「いいかげんスマホぐらい買えよ。この時代に家電いえでんなんて使ってる奴いねえぞ」

『おう、京史郎か』

 電話の相手は城島剛鬼。
 京史郎は、元親分の彼に電話をした。

『おまえの声を聞くのは、事務所の鍵をくれてやったとき以来か』

「あんたは隠居で気楽なもんだが、こっちは新しい人生をスタートしなけりゃならないもんでな。いろいろと忙しいんだよ」

『いいじゃねえか。若者は働け働け』

 かかか、と、笑い声が聞こえてくる。

『――で、なんのようだ? おまえもおいらに頼み事か?』

「その言い方だと、未だに子分連中には、頼られてるわけか?」

『仕事の探し方すらわからん奴も多かったからな。――おまえも、就職先を世話して欲しけりゃ、紹介してやるぞ』

「親父の儲け話には二度と騙されねえ。誰だよ、極道は儲かるって言ったのは」

『退職金はたんまりとくれてやったろうが。どうだ、ビルは金になったか?』

「いいや。元極道の事務所だった場所なんざ、縁起が悪くて買い手が付かねえ」

 実際は、そんなわけがない。小さくても商店街のど真ん中。三階建てのビルなのだから。

『そうか。じゃあ、就職先以外での相談だな』

 京史郎は黙る。見抜かれたのは、少しバツが悪いというか、気分が悪かった。

『隠居して暇な身だ。若者のやることを、遠くから眺めるのがジジイの楽しみなんだよ。面白い話があるのなら聞かせろ』

 親父は、人間との繋がりが大好きなのだろう。世話をすることで、人生の一部をいただいた気になる。そして思い出を共有しようとする。――あるいは、思いやりか。

 城島剛鬼は厳しい人間だった。何度も殴られたことがある。最初はムカついたが、長く極道をやっていると、そういうムカついたことが教訓となって、処世術が身についていくことに気づく。

 いつ見切りを付けられてもおかしくない立場の京史郎を、最後の最後まで面倒見てくれたのは、城島剛鬼だ。実の親よりも、親らしい親だった。

 ――思わず、言おうとしていた話を飲み込む京史郎。

 親父らしさを、容赦なく見せつけられたのが癪だった。というよりも悔しかった。子供としての意地が、ほんのわずかに上回ったのだと思う。

「……面白い話なんてねえよ。ちょいと声を聞きたくなっただけだ」

『なんだ、気持ち悪ぃな』

 相談することぐらいできたかもしれない。けど、京史郎はやめた。

『……なあ、おめえみてえな狂犬は生きにくいだろ、普通の社会ってのはよぉ』

「んなことねえ。若い奴を使って上手くやってる」

『そうか。また、暇な時にでも顔を出せ。仕事の話を聞かせろ』

「言ったろうが、暇なんてねえよ。――じゃあな」

 そう言って通話を終わらせる。つくづく、素直ではない自分が嫌になる。和奏たちのことを思えば、少しぐらいかっこ悪くてもいいはずだった。けど、城島のことを思えば、頼れない自分がいた。親も、彼女たちをも裏切るようなことは嫌だったのだと思う――。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

僕に仕えるメイドは世界最強の英雄です1~またクビになったけど、親代わりのメイドが慰めてくれるので悲しくなんてない!!~

あきくん☆ひろくん
ファンタジー
仕事を失い、居場所をなくした青年。 彼に仕えるのは――世界を救った英雄たちだった。 剣も魔法も得意ではない主人公は、 最強のメイドたちに守られながら生きている。 だが彼自身は、 「守られるだけの存在」でいることを良しとしなかった。 自分にできることは何か。 この世界で、どう生きていくべきか。 最強の力を持つ者たちと、 何者でもない一人の青年。 その主従関係は、やがて世界の歪みと過去へと繋がっていく。 本作は、 圧倒的な安心感のある日常パートと、 必要なときには本格的に描かれる戦い、 そして「守られる側の成長」を軸にした 完結済み長編ファンタジーです。 シリーズ作品の一編ですが、本作単体でもお楽しみいただけます。 最後まで安心して、一気読みしていただければ幸いです。 なお、シリーズ第二作目が、現在なろう様、カクヨム様で連載しています。 2月13日完結予定。 その後、アルファポリス様にも投稿する予定でいます。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

処理中です...