ラナとオルガ

らくだ

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シャワー浴びてけば?

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この縁談は父母の借金返済のためである。
元々金遣いの荒い両親は、ラナが首都に出てきた途端、タカが外れたようになってしまった、らしい。

子育てが終わったお祝いと称して、小さな宝石を買ったのがきっかけだったらしい。
不相応な宝石などを買い漁ったが、もともと審美眼のない二人。低価値の宝石を商売人の口車に乗せられて高値で買ったらしい。
借金がかさみ、売ろうとしても二束三文にしかならなかった。

そこで商売人が言い始めたことが、「顧客のお金持ちの人と結婚して、借金を清算してもらってはどうか」ということだったのである。
両親は嵌められたのである。
若い女と結婚したい金持ちと、その金持ちの思惑の元に動いていた商売人に。


服の間から丸みのある胸を片手で弄びながら、ブラウスから出した肩に唇をあて、もう片方の手は尻のあたりを揉んでいた。
ラナはこういうときにどこを見ればいいのか分からず、壁に掛かった時計の時間を見ていた。

腕はオルガに回すべきだろうか。
積極的だと引かれるだろうか。無理して抱いてもらっているのに、じっとしているのもダメなのではないか。
時計の秒針がカクン、カクンとしながら進んでいた。

「・・・ごめんね」
口から零れ落ちた。

オルガは唇を肩から外し、オルガの顔を見た。
目は子供の頃みたいに邪気がなく、きょとんとした顔をしていた。オルガは尻を揉む手を止めた。

「抱きたくもない女を抱かせて、ごめんね」
視界がぼやけた。
ぐずぐずと鼻を鳴らした。
オルガは頭を撫でて、もう一度強く抱きしめてくれた。
背中にオルガの鼻が当たる。

「・・・ベッドに移動するか?」
「・・・うん」

言いたいことはそれじゃないのに、この雰囲気の中でどんな話題が正解なのか、どう切り出せばいいのか分からない。
伝えたい言葉は伝わらない。そうじゃない言葉は、スルスルと出ていくのに。

好き、という言葉が、胸まで上がってきて、そのまま落ちていった。


ベッドの中でオルガは紳士だった、と思う。
他の人と比べようがないから分からないけど。
濡れやすいな、とぽつりと呟かれた言葉にドキッとした。
オルガを思って自分を慰めていたからだ。

膜を破ってもらうとき、あまりの痛さにラナは泣いた。
オルガは今までにないくらい優しい声で「大丈夫」と囁いた。

終わった後、オルガはすぐに服を着た。
ああ、もう帰ってしまうんだなと、お願いを聞いてもらっただけでも有り難いのに、恩知らずなことを思ってしまった。
股はじんじんと痛かったが、さっきまでここにオルガがいたのだと思うと、少し誇らしいような気持ちがした。

「シャワー浴びてけば?」
そして、あわよくばもう少しいてほしい。それがラナの本心だった。

「ん? ああ、まあ」と気のない返事をされた。
これからお口直しに別の女を抱くことでも考えているのだろうか。
傷つかなかったわけではないが、今日の思い出さえあれば乗り越えられそうな気が、した。そう考えなければ、今後の人生は乗り越えていけない気もした。

オルガはチラリとベッドに横たわり布団を被ったラナを見ると、なぜだか顔をくしゃりと歪めて今にも泣き出しそうな顔をして、頭を撫でた。
そしてドアから出て行った。
「・・・鍵締めてから行くな。どこにある?」
きゅっと胸がしまった。
「玄関の壁に掛けてある。ひよこのキーホルダーのついたやつ。・・・ポストに入れておいたくれたらいいから」
感情に蓋をすれば、最適な答えはスルスル出てくるモノである。
ん、というとオルガは扉のドアノブをひねり、そして扉をしめた。
何かを持ち上げる音がした。おそらくテーブルに置いてきた手荷物を持って行くのだろう。
カチャという鍵を取る音がした後、玄関の重い扉が開く音がした。

ラナは少しだけ泣いた。
初めては痛くて、緊張して、オルガの表情を一つ一つ見逃すまいと思っていたから集中しすぎてつかれてしまっていた。
だから、本懐を遂げた自分を祝うともに、初恋が想像しない形で終わってしまった自分自身を労るように、自分の身体を抱いてもう少し眠ることにした。
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