5 / 59
5.氷のもみじと大冒険
しおりを挟むジルバード side
「こんな生活、平民と変わらないじゃないのッ!」
「…屋敷で穀潰ししてるだけのお前になぜそんなことを言われなければいけないんだ!?」
「穀潰しですって!!?わたくしだって、こんな場所にいたくている訳ではありませんわ!!」
「だったら今すぐに出ていくことだな!!」
大広間から聞こえる父親と母親の声にジルバードの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。
毎日毎日、お金について大声で揉める声が聞こえる。
使用人は最低限まで減らし、料理人と侍従のみの屋敷となってしまった我が家ではジルバードの小さな自室まで大きな声が響き渡ってくる。
「ちちうえ、ははうえ……」
ジルバードは政略結婚の末生まれた愛されない子供だった。父親や母親に抱き上げられた記憶は持たない。
ついこの間までいた乳母も解雇され、子供の遊べる道具などもある訳がなく4歳のジルバードは1人でお部屋を歩き回ってみたり、庭に出てお花を摘んだりして毎日を過ごしていた。
元々弱小貴族ではあったが、父親が事業に失敗してからはより貧しくなり愛のない夫婦の仲には一層溝ができるようになった。
ジルバードは誰とも会話することなく一日を終え、遠くから両親の怒鳴り合う声を聞いて過ごすしか無かった。
「…だれかぁ…おはなししたいよお…」
自室で1人膝を抱くジルバードに転機が訪れたのは、もうすぐ5歳になるある春の日の事だった。
いつもと同じように自室でぼーっと窓の外を眺めていた時、ふと痛みを感じてちいさな手を広げると、椛のような手のひらに霜がついていたのだ。
5歳にして、魔法が開花した瞬間だった。
火、水、土、光、風とそれぞれ魔法には属性がある。その中で水属性を極めたものだけが氷を自由自在に操れるはずが、彼は開花したその瞬間から膨大な魔力量と圧倒的なセンスにより水を操り、氷を作り出すことが出来た。
5属性の中では水魔法、ひいては氷魔法が一番攻撃性が高く、ゆえに多くの魔力量を必要とする高度な魔法だ。氷を自在に操る人間は、戦闘職につけば無条件で地位や名声が確立される。
この情報をいち早く聞き入れた公爵は、目が眩むような大金を対価に、公爵家の養子に入れることを打診した。
もちろんなんの躊躇いもなく両親は二つ返事でジルバードを売り、ジルバードが両親に挨拶する時間もなく馬車に押し込まれた。
なにがなんだかわからなかったが、自分は親に捨てられたのだということだけはしっかりと理解した。
「ないちゃ、だめ、ないたら、うるさいから、だめ」
見たこともないほど煌びやかな馬車に、押し込まれたジルバードは両手で口元を抑えて繰り返して言い聞かせた。
「…口を閉じなさい。耳障りだ」
自分を両親から買ったひと。
凍てつくようなあおい瞳が自分には何の価値もないのだと思い知らせるようだった。
また、ここでも自分はいらない子なのだとすぐにわかってしまった。
「は、はい…もうしわけ、ありません」
「……ああ、先に言っておこう。君と私は戸籍上では親子になる訳だが私には本当の息子が一人いる。君はアレに何かあった際のスペアとしてうちに来てもらう、くれぐれも、自分の立場を忘れることのないよう。」
「…はい、公爵さま。」
自分が心から慕って父上と呼べる人間は、これまでも、そしてこれからも一人だって居ないのだと悟った瞬間だった。
緊迫する馬車の中でジルバードは零れそうになるなみだを必死にこらえて、小さな拳を強く握りしめていたが、 馬車が止まり外に出て目に入った景色に涙が止まった。
「おっきい、」
ジルバードは今まで自分の家が小さいと思ったことは無かった。
自分に与えられた部屋は物置小屋で少し窮屈だったが、自分の部屋を出ると末端ながらも貴族の家であり、当たり前に平民の家よりは立派な家だ。
けれど、目の前の城と較べれば自分が育った家は犬小屋と言っても差し支えないだろう。
高い塀に終わりがみえない広大な庭に、目の前にはいつか本で読んだようなお城が建っている。
入口には衛兵が6人ほど立っておりとっても強そうな見た目でこちらをじっと見ていた。
今日からおとうさまになる方はちょっぴり厳しそうだけど、こんな立派なお城のお家の子になれるのか。
ジルバードの心は少しだけ浮き上がった。しかも、先程公爵様は息子がいると仰っていた。
つまり、お兄様がいるということ。
おにいさま、お兄様。嬉しかった。
初めての兄弟ができるなんて、嬉しかったのだ。
この間読んだ絵本では、主人公のお兄ちゃんが弟を守りながら龍の背中に乗って一緒に冒険者になるお話でとてもおもしろかった。すぐにジルバードのお気に入りの絵本になって何度も読み返した。
お引越しすることになって、あんまり持ってくるものがなかったけどその本もしっかりカバンに入れてきた。
だってだってもしかしたら、新しいお兄様は僕と一緒に冒険に出てくれるかもしれないもの!
「お帰りなさいませ、旦那様。坊っちゃま、ようこそハミルトン家においでくださいました。家令を務めておりますマーヴィンと申します。何卒よろしくお願い致します。」
白い髪を後ろに撫で付け、子供に話しかけているとは思えない機械のような挨拶にジルバードは怖気付いた。
「は、はじめまして、ジルバードともうします。よろしくお願いします」
聞いているのかいないのか。目も合わず、ジルバードの言葉に反応や返事はなかった。
「マーヴィン、レイリアを広間に。一応挨拶くらいはさせておくとしよう」
「承知致しました、旦那様。」
「この者の教育の采配はお前に任せよう。人を雇うなり、メイドにやらせるなり好きにするといい。間違っても図に乗らせることのないように。レイリアに間違った口を聞けばその時は如何様な処罰も許す。」
「は」
低くて震え上がってしまうような鋭い声で新しいお父様はマーヴィンさんに何かを言った。よく分からなかったけどいいの、これからお兄様にお会い出来るんだから。
そしたらこの小さいカバンから絵本を取りだしてお兄様に紹介する。
もし本の中身が気になるのだったら僕が読ませていただくの。
読んだらきっとお兄様だってこの本がお気に入りになるよ。そしたらそしたら、僕もこの本がお気に入りだけどプレゼントとしてお渡しする。それで、僕のことを好きになってくれたらうれしいなあ。
ジルバードはまだ見ぬ兄に心が踊るのが止められなかった。
1,395
あなたにおすすめの小説
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
言い逃げしたら5年後捕まった件について。
なるせ
BL
「ずっと、好きだよ。」
…長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。
もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。
ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。
そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…
なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!?
ーーーーー
美形×平凡っていいですよね、、、、
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
【完結】弟を幸せにする唯一のルートを探すため、兄は何度も『やり直す』
バナナ男さん
BL
優秀な騎士の家系である伯爵家の【クレパス家】に生まれた<グレイ>は、容姿、実力、共に恵まれず、常に平均以上が取れない事から両親に冷たく扱われて育った。 そんなある日、父が気まぐれに手を出した娼婦が生んだ子供、腹違いの弟<ルーカス>が家にやってくる。 その生まれから弟は自分以上に両親にも使用人達にも冷たく扱われ、グレイは初めて『褒められる』という行為を知る。 それに恐怖を感じつつ、グレイはルーカスに接触を試みるも「金に困った事がないお坊ちゃんが!」と手酷く拒絶されてしまい……。 最初ツンツン、のちヤンデレ執着に変化する美形の弟✕平凡な兄です。兄弟、ヤンデレなので、地雷の方はご注意下さいm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる