前世を思い出したけど推しの義弟が最恐のヤンデレラスボスだったので俺が幸せにしてみせます

柊 らんか

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5.氷のもみじと大冒険

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 ジルバード  side






「こんな生活、平民と変わらないじゃないのッ!」
「…屋敷で穀潰ししてるだけのお前になぜそんなことを言われなければいけないんだ!?」
「穀潰しですって!!?わたくしだって、こんな場所にいたくている訳ではありませんわ!!」
「だったら今すぐに出ていくことだな!!」



 大広間から聞こえる父親と母親の声にジルバードの瞳からぽろぽろと涙がこぼれた。 

 毎日毎日、お金について大声で揉める声が聞こえる。
 使用人は最低限まで減らし、料理人と侍従のみの屋敷となってしまった我が家ではジルバードの小さな自室まで大きな声が響き渡ってくる。

「ちちうえ、ははうえ……」
  

 ジルバードは政略結婚の末生まれた愛されない子供だった。父親や母親に抱き上げられた記憶は持たない。


 ついこの間までいた乳母も解雇され、子供の遊べる道具などもある訳がなく4歳のジルバードは1人でお部屋を歩き回ってみたり、庭に出てお花を摘んだりして毎日を過ごしていた。

 元々弱小貴族ではあったが、父親が事業に失敗してからはより貧しくなり愛のない夫婦の仲には一層溝ができるようになった。

 ジルバードは誰とも会話することなく一日を終え、遠くから両親の怒鳴り合う声を聞いて過ごすしか無かった。


「…だれかぁ…おはなししたいよお…」

 自室で1人膝を抱くジルバードに転機が訪れたのは、もうすぐ5歳になるある春の日の事だった。


 いつもと同じように自室でぼーっと窓の外を眺めていた時、ふと痛みを感じてちいさな手を広げると、椛のような手のひらに霜がついていたのだ。

 5歳にして、魔法が開花した瞬間だった。 


 火、水、土、光、風とそれぞれ魔法には属性がある。その中で水属性を極めたものだけが氷を自由自在に操れるはずが、彼は開花したその瞬間から膨大な魔力量と圧倒的なセンスにより水を操り、氷を作り出すことが出来た。


 5属性の中では水魔法、ひいては氷魔法が一番攻撃性が高く、ゆえに多くの魔力量を必要とする高度な魔法だ。氷を自在に操る人間は、戦闘職につけば無条件で地位や名声が確立される。

 この情報をいち早く聞き入れた公爵は、目が眩むような大金を対価に、公爵家の養子に入れることを打診した。
 もちろんなんの躊躇いもなく両親は二つ返事でジルバードを売り、ジルバードが両親に挨拶する時間もなく馬車に押し込まれた。




 なにがなんだかわからなかったが、自分は親に捨てられたのだということだけはしっかりと理解した。


「ないちゃ、だめ、ないたら、うるさいから、だめ」

 見たこともないほど煌びやかな馬車に、押し込まれたジルバードは両手で口元を抑えて繰り返して言い聞かせた。


「…口を閉じなさい。耳障りだ」

 自分を両親から買ったひと。
 凍てつくようなあおい瞳が自分には何の価値もないのだと思い知らせるようだった。  



 また、ここでも自分はいらない子なのだとすぐにわかってしまった。

「は、はい…もうしわけ、ありません」

「……ああ、先に言っておこう。君と私は戸籍上では親子になる訳だが私には本当の息子が一人いる。君はアレに何かあった際のスペアとしてうちに来てもらう、くれぐれも、自分の立場を忘れることのないよう。」

「…はい、公爵さま。」


 自分が心から慕って父上と呼べる人間は、これまでも、そしてこれからも一人だって居ないのだと悟った瞬間だった。


 緊迫する馬車の中でジルバードは零れそうになるなみだを必死にこらえて、小さな拳を強く握りしめていたが、 馬車が止まり外に出て目に入った景色に涙が止まった。

「おっきい、」

 ジルバードは今まで自分の家が小さいと思ったことは無かった。
 自分に与えられた部屋は物置小屋で少し窮屈だったが、自分の部屋を出ると末端ながらも貴族の家であり、当たり前に平民の家よりは立派な家だ。

 けれど、目の前の城と較べれば自分が育った家は犬小屋と言っても差し支えないだろう。

 高い塀に終わりがみえない広大な庭に、目の前にはいつか本で読んだようなお城が建っている。
 入口には衛兵が6人ほど立っておりとっても強そうな見た目でこちらをじっと見ていた。


 今日からおとうさまになる方はちょっぴり厳しそうだけど、こんな立派なお城のお家の子になれるのか。
 ジルバードの心は少しだけ浮き上がった。しかも、先程公爵様は息子がいると仰っていた。
 つまり、お兄様がいるということ。

 おにいさま、お兄様。嬉しかった。
 初めての兄弟ができるなんて、嬉しかったのだ。

 この間読んだ絵本では、主人公のお兄ちゃんが弟を守りながら龍の背中に乗って一緒に冒険者になるお話でとてもおもしろかった。すぐにジルバードのお気に入りの絵本になって何度も読み返した。
 お引越しすることになって、あんまり持ってくるものがなかったけどその本もしっかりカバンに入れてきた。

 だってだってもしかしたら、新しいお兄様は僕と一緒に冒険に出てくれるかもしれないもの!


「お帰りなさいませ、旦那様。坊っちゃま、ようこそハミルトン家においでくださいました。家令を務めておりますマーヴィンと申します。何卒よろしくお願い致します。」


 白い髪を後ろに撫で付け、子供に話しかけているとは思えない機械のような挨拶にジルバードは怖気付いた。

「は、はじめまして、ジルバードともうします。よろしくお願いします」


 聞いているのかいないのか。目も合わず、ジルバードの言葉に反応や返事はなかった。

「マーヴィン、レイリアを広間に。一応挨拶くらいはさせておくとしよう」

「承知致しました、旦那様。」

「この者の教育の采配はお前に任せよう。人を雇うなり、メイドにやらせるなり好きにするといい。間違っても図に乗らせることのないように。レイリアに間違った口を聞けばその時は如何様な処罰も許す。」

「は」

 低くて震え上がってしまうような鋭い声で新しいお父様はマーヴィンさんに何かを言った。よく分からなかったけどいいの、これからお兄様にお会い出来るんだから。
 そしたらこの小さいカバンから絵本を取りだしてお兄様に紹介する。

 もし本の中身が気になるのだったら僕が読ませていただくの。

 読んだらきっとお兄様だってこの本がお気に入りになるよ。そしたらそしたら、僕もこの本がお気に入りだけどプレゼントとしてお渡しする。それで、僕のことを好きになってくれたらうれしいなあ。

 ジルバードはまだ見ぬ兄に心が踊るのが止められなかった。
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