前世を思い出したけど推しの義弟が最恐のヤンデレラスボスだったので俺が幸せにしてみせます

柊 らんか

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9.天使と悪魔

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 震えながらも存在感を消すことに努めていたその女は、ジルバードの専属侍女であり原作にも出てきていた。確かハーティという名の無愛想な地方貴族の末娘の女だ。


「そこの侍女、貴様は主が鞭で打たれているのをただ見つめていたのか?」
「ぁ、あの、小公爵様、わたくしは」
「貴様、まず私の質問に答えろ」
「も、申し訳ありません、っ、!ボルド・クラレンス夫人に逆らえずに、!申し訳ありません…!どうか、どうかご慈悲を!」

 ハーティはその場に崩れ落ち、神に祈るような体勢で両手を額につけて膝を折った。原作では無表情なキャラだったのが嘘かのように大粒の涙を流しながら怯えている。
 
 
 最初は素っ気ないながらも侍女としての仕事をこなしていたが、原作のレイリアがジルバードに悪逆の限りを尽くすようになると、段々とジルバードを軽んじるようになりわざわざ腐らせた残飯を食わせたり、床にこぼして舐めさせたりするようになった。
 
 あくまで原作では、レイリアのジルバードに対する非道な振る舞いが、一介の侍女が公爵家令息を『格下』だと判断するまでにさせた。
 ジルバードが家に来てからまともに関わる機会もなかったため、そんなことは起こらないだろうと思っていたがまさかもう始まっていたというのか。

「はは、貴様面白いな。ボルド・クラレンスに逆らうのは怖いとのたまうが、私の弟に仇なすのは怖くないというのか」
「あああぁ、!小公爵様、どうか、ちがうのです、違うのです…」
「何も違わない、貴様ごときが私に口答えをするな」

 ぐちゃぐちゃに乱れた顔は恐怖と絶望と狼狽が綯い交ぜになり歪んでいる。

「死にたいならそう言うといい」
 
「っあぁああどうかお願い致します、どうか、なんでもします、結婚も控えているのです、っ、どうかご慈悲を、情けをお与えください、小公爵様…!!」

「…ほう。いいだろう、私とて悪魔では無いよ」
 
「っ、小公爵様っ、…!ああ、なんて寛大な御心なの、この御恩は決して忘れず、今後何があろうともこの身を投げ出し全てを捧げることをお約束致します。ああ、小公爵様、ありがたき幸せ!誠にありがとう存じます」

「よかろう、殺すのはやめた。なんでもするというその心意気が気に入った。まずはその長い髪を全て引き抜き、お前が犯した罪名を身体に根性焼きをする。そのまま一糸纏わぬ生まれたままの姿で懺悔の言葉を紡ぎながら公爵領の首都を1日朝から晩まで歩いてしっかり反省してくれ。」
 
「特別にその日は衛兵に情報を回しておくから牢にぶち込まれる心配は無い。安心してほしい。それと、この先はこの身を捧げるだのほざいていたがそんな汚い身を生涯捧げられては困るので、懺悔が終わり次第速やかに公爵領を離れ、もう二度と足を踏み入れないでくれ。」

「しょう、こうしゃくさま、」

「衛兵、彼女には今から懺悔の準備をしてもらう。連れていけ。」
「は、」

 公爵家の子息にこんな仕打ちをして命があるとはこれからは毎日神に感謝した方がいい。本来ならこの場で殺していたが、歴史学講師同様、ジルバードへの周囲の扱いを改善させる戒めとして今回はここまでにした。
 あの侍女は結婚を控えていると言ったが、罪名の刻印付きの裸で首都を練り歩いた女との婚姻などもちろん破談だろうし、そこらへんのゴロツキに犯されたあと犬にでも食われる可能性もある。処分としては及第点だろう。

 まだ何が何だか分かっていないのか、ジルバードはポケっとした表情をしている。1人しか居ない侍女を解雇してしまったし、また新たに手配しなければならない。
 自分の侍女を何人かやるのが安全だろうか。
 
「…ジルバード・ハミルトン」
「っ、はい!」 
 
 ゲロと血まみれのジルバードがなぜだか勢いよく返事した。随分長い間放置してしまっていた。何となくもう一度弟の傍にゆっくり近づく。

 
「…返さなくていい」
 自分の着ていた黒のジャケットを脱いでジルバードの頭から雑に被せた。
 
「きみ、駐在治癒師を今すぐここに呼んでくれ」

 後ろで控えていた自分の専属侍女に呼びかけるとさっと頭を下げて部屋を退出した。

「…治癒師に世話になったら、今日はもう部屋に戻れ。今日の講義は俺が中止の手配をする」
「はい、っ、!あ、あの、…小公爵、さま」
「は、なんだその呼び方は。馬鹿にしているのか」
「ぁ、ち、ちが、そんなはずありませんっ!ちが、っ、」
  
 顔面を真っ青にしてもげそうな程首を横に振るジルバードの目を真っ直ぐ見て告げる。
 
「兄上だ、ジルバード」
「…ぁ、あ、にうえ、」


 レイリアは、今度こそ自分で蹴破ってしまった扉の方に向かって歩き出した。
 その際、恍惚とした表情で俺のジャケットを抱えるジルバードを目の端に捉えた気がしたがそれが見間違いだったのかどうかを確認することは無かった。

 
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