前世を思い出したけど推しの義弟が最恐のヤンデレラスボスだったので俺が幸せにしてみせます

柊 らんか

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8.火加減はどう?

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 レイリア side


 その日は、ジルバードがハミルトン家に来てから1ヶ月程が経過した日だった。
 その間驚くことに1回もジルバードに会うことなく、季節は秋から冬へと変わり朝は冷え込むことが増えた。

『レイリア・ハミルトン』としての体裁を保つため、ジルバードについて大っぴらに探ることも難しいためこの1か月、ジルバードが何をして過ごしているのかも知る術が無かった。

 それにしても廊下ですれ違うこともなく都度、庭を確認したりもしたが姿すら目にしない。

「ちゃんと生きてる、よな?」

 気が散るためいつも通り侍女を追い出した自室内を訳もなくぐるぐると歩き回りながら思案する。

「ちょっと通り過ぎてみるか。」

 この部屋からジルバードの部屋までは割と距離があり、自分の執務室もその手前にあるためジルバードの私室の前を通り過ぎたことすらなかった。
 部屋を出ると専属侍女数名と護衛騎士、数人の衛兵が後ろに付き従う。

 暫く歩いてジルバードの部屋の前にたどり着くと、中から大人の女が声を荒らげている声が講義室の外まで漏れていた。

 それから、小さな男の子の泣き声。


「…──の!───な──さい!─っの!─が、!」


 年増の金切り声は、どこかで聞き覚えがあった。

 一瞬でその声の主を頭で理解すると怒りで頭が煮えたぎりそうだった。
 ジルバードを、あろうことか俺の弟を泣かせているのか?
 ああダメだろ、生まれてきたことすら後悔させてやらなければ俺の気が済まない。


 力のまま足で扉を蹴り破る。行儀が悪いが俺を咎めるものはいない。
 無意識に風魔法が込められてしまったのかいとも簡単に扉が外れ大きな音を立てて床に叩きつけられた。


 先程まで泣き喘いでいたであろうジルバードは心底驚いた顔でこちらを見つめていて、ぽろ、と涙が頬を滑った。


「ああ、久しいな。ボルド・クラレンス子爵夫人。まさか再びこの屋敷の門を跨いでいたとは考えもしなかった。」


 作法のなっていなかった歴史学講師、ボルド・クラレンス。ゲイン・クラレンス子爵を旦那に持つ地方貴族夫人。爵位は全くもって大したことがないが、学生時代の優秀な成績が幸をなし、教育者としての地位を確立した女。その事実がこの女の鼻をどこまでも高くしてしまった。
 高位貴族の師を務める自分は誰よりも貴いのだと言う気持ちを隠しもしない。



「レ、レイリア様…!?」


 蹴破った衝撃で転けたのだろうか、床に座り込むその女のシワのよった手には黒い鞭が握られていた。
 横で驚いた表情のままぽろぽろ涙をこぼす俺の弟の背中には、白いシャツに血が滲んでいて、床についた両手は無惨なほど傷だらけだった。床には血が混じった吐瀉物が散っていて5歳の小さな身体が限界を迎えているのがひと目でわかった。目の前が真っ赤に染まる。目の血管がいかれてしまったんじゃないかと言う程。


「ぁ、レイリア様、!これは違うのです。覚えが悪かったのでわたくしめが直々に、ガ、ぁああ''あ''あぁァァ”ァ”ァ”ァ”!!!」

「ああ、覚えが悪い貴様に私が直々に教えて差し上げなければならないな。火加減はどうだ?私は火魔法が1番得意なんだ。感想を教えてくれ」

 力のまま片手で顔面を掴んでその赤く濁った目を真っ直ぐ見つめながら火魔法を発動させる。


「私は、前回も貴様に言った。私の名を呼ぶことを許した覚えは無いと」
「ぁぁああああ’’アツい!あついぃ''いィぃ''!!」
「おい、私の質問に答えろ。まさかこの私を無視しているのか?」
「どうか、どうか、お許しください、!!が、ぁアア''ああ''あァああァ''ァアア''あぁあ''!!、」

「お前が鞭で打ちそこで血だらけになっている子供は、ハミルトン家の正式な後継者候補であり、貴様のような女は本来であれば生涯口を聞く機会すら訪れない」

「が、ぁ、ああああいたぃ、いい''あぁあ」

「その子供の名は、ジルバード・ハミルトンだ。貴様はハミルトン家を軽んじ、あろうことか危害を加えた。本来であれば不敬罪による極刑をすぐにでも下したところだが、今回は貴様のその焼けただれた顔を戒め、もとい見せしめとして残すため、これ以上の罰は控えよう。」


「ぁ、ぁ、ぁあ、……」


「衛兵、連れていけ。ボルド・クラレンスには頭の緩い子息がいたな、母親の目の前で意識が無くなるまで鞭で打っとけ。娘は娼館に売り捌く。ゲイン・クラレンスには事の顛末と慰謝料請求書送付、今後一切全ての取引を打ち切りとすると、マーヴィンに伝えろ」

「は、」

 絶望した表情のまま何かを訴えようとキャンキャン騒いでいるが、衛兵に乱雑に腕を取られ退出するボルド・クラレンスを見送った。
 まだ床に転がっているジルバードをちらりと見ると、顔は青ざめていて、手は信じられないほど震えている。当たり前だろう。齢5歳でこんなショッキングなシーンを見せられるとは誰も思うまい。



「…お前は、れっきとしたハミルトン家の子息だ。あの程度の女に舐められ鞭を打たれることなどあってはならない。」 

「ぁ、」

  「いいな、ジルバード」

「っはい、」

 用も済んだため、退出しようと動いたところで体に穴が開きそうなほどの視線が絡みつく。レイリアのことを異常なほど一心に見つめるその瞳が何を思っているのかは分からない。ただ、その瞳の奥が爛々と底知れぬ強い思いを火種に揺れ動いているような気がした。

 改めてジルバードを見ると、なんだか初日に見た時よりやつれているような気がする。
 そこでふと、部屋の隅に青ざめた顔の女が立っているのに気がついた。
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