8 / 59
8.火加減はどう?
しおりを挟むレイリア side
その日は、ジルバードがハミルトン家に来てから1ヶ月程が経過した日だった。
その間驚くことに1回もジルバードに会うことなく、季節は秋から冬へと変わり朝は冷え込むことが増えた。
『レイリア・ハミルトン』としての体裁を保つため、ジルバードについて大っぴらに探ることも難しいためこの1か月、ジルバードが何をして過ごしているのかも知る術が無かった。
それにしても廊下ですれ違うこともなく都度、庭を確認したりもしたが姿すら目にしない。
「ちゃんと生きてる、よな?」
気が散るためいつも通り侍女を追い出した自室内を訳もなくぐるぐると歩き回りながら思案する。
「ちょっと通り過ぎてみるか。」
この部屋からジルバードの部屋までは割と距離があり、自分の執務室もその手前にあるためジルバードの私室の前を通り過ぎたことすらなかった。
部屋を出ると専属侍女数名と護衛騎士、数人の衛兵が後ろに付き従う。
暫く歩いてジルバードの部屋の前にたどり着くと、中から大人の女が声を荒らげている声が講義室の外まで漏れていた。
それから、小さな男の子の泣き声。
「…──の!───な──さい!─っの!─が、!」
年増の金切り声は、どこかで聞き覚えがあった。
一瞬でその声の主を頭で理解すると怒りで頭が煮えたぎりそうだった。
ジルバードを、あろうことか俺の弟を泣かせているのか?
ああダメだろ、生まれてきたことすら後悔させてやらなければ俺の気が済まない。
力のまま足で扉を蹴り破る。行儀が悪いが俺を咎めるものはいない。
無意識に風魔法が込められてしまったのかいとも簡単に扉が外れ大きな音を立てて床に叩きつけられた。
先程まで泣き喘いでいたであろうジルバードは心底驚いた顔でこちらを見つめていて、ぽろ、と涙が頬を滑った。
「ああ、久しいな。ボルド・クラレンス子爵夫人。まさか再びこの屋敷の門を跨いでいたとは考えもしなかった。」
作法のなっていなかった歴史学講師、ボルド・クラレンス。ゲイン・クラレンス子爵を旦那に持つ地方貴族夫人。爵位は全くもって大したことがないが、学生時代の優秀な成績が幸をなし、教育者としての地位を確立した女。その事実がこの女の鼻をどこまでも高くしてしまった。
高位貴族の師を務める自分は誰よりも貴いのだと言う気持ちを隠しもしない。
「レ、レイリア様…!?」
蹴破った衝撃で転けたのだろうか、床に座り込むその女のシワのよった手には黒い鞭が握られていた。
横で驚いた表情のままぽろぽろ涙をこぼす俺の弟の背中には、白いシャツに血が滲んでいて、床についた両手は無惨なほど傷だらけだった。床には血が混じった吐瀉物が散っていて5歳の小さな身体が限界を迎えているのがひと目でわかった。目の前が真っ赤に染まる。目の血管がいかれてしまったんじゃないかと言う程。
「ぁ、レイリア様、!これは違うのです。覚えが悪かったのでわたくしめが直々に、ガ、ぁああ''あ''あぁァァ”ァ”ァ”ァ”!!!」
「ああ、覚えが悪い貴様に私が直々に教えて差し上げなければならないな。火加減はどうだ?私は火魔法が1番得意なんだ。感想を教えてくれ」
力のまま片手で顔面を掴んでその赤く濁った目を真っ直ぐ見つめながら火魔法を発動させる。
「私は、前回も貴様に言った。私の名を呼ぶことを許した覚えは無いと」
「ぁぁああああ’’アツい!あついぃ''いィぃ''!!」
「おい、私の質問に答えろ。まさかこの私を無視しているのか?」
「どうか、どうか、お許しください、!!が、ぁアア''ああ''あァああァ''ァアア''あぁあ''!!、」
「お前が鞭で打ちそこで血だらけになっている子供は、ハミルトン家の正式な後継者候補であり、貴様のような女は本来であれば生涯口を聞く機会すら訪れない」
「が、ぁ、ああああいたぃ、いい''あぁあ」
「その子供の名は、ジルバード・ハミルトンだ。貴様はハミルトン家を軽んじ、あろうことか危害を加えた。本来であれば不敬罪による極刑をすぐにでも下したところだが、今回は貴様のその焼けただれた顔を戒め、もとい見せしめとして残すため、これ以上の罰は控えよう。」
「ぁ、ぁ、ぁあ、……」
「衛兵、連れていけ。ボルド・クラレンスには頭の緩い子息がいたな、母親の目の前で意識が無くなるまで鞭で打っとけ。娘は娼館に売り捌く。ゲイン・クラレンスには事の顛末と慰謝料請求書送付、今後一切全ての取引を打ち切りとすると、マーヴィンに伝えろ」
「は、」
絶望した表情のまま何かを訴えようとキャンキャン騒いでいるが、衛兵に乱雑に腕を取られ退出するボルド・クラレンスを見送った。
まだ床に転がっているジルバードをちらりと見ると、顔は青ざめていて、手は信じられないほど震えている。当たり前だろう。齢5歳でこんなショッキングなシーンを見せられるとは誰も思うまい。
「…お前は、れっきとしたハミルトン家の子息だ。あの程度の女に舐められ鞭を打たれることなどあってはならない。」
「ぁ、」
「いいな、ジルバード」
「っはい、」
用も済んだため、退出しようと動いたところで体に穴が開きそうなほどの視線が絡みつく。レイリアのことを異常なほど一心に見つめるその瞳が何を思っているのかは分からない。ただ、その瞳の奥が爛々と底知れぬ強い思いを火種に揺れ動いているような気がした。
改めてジルバードを見ると、なんだか初日に見た時よりやつれているような気がする。
そこでふと、部屋の隅に青ざめた顔の女が立っているのに気がついた。
1,661
あなたにおすすめの小説
平凡な俺が完璧なお兄様に執着されてます
クズねこ
BL
いつもは目も合わせてくれないのにある時だけ異様に甘えてくるお兄様と義理の弟の話。
『次期公爵家当主』『皇太子様の右腕』そんなふうに言われているのは俺の義理のお兄様である。
何をするにも完璧で、なんでも片手間にやってしまうそんなお兄様に執着されるお話。
BLでヤンデレものです。
第13回BL大賞に応募中です。ぜひ、応援よろしくお願いします!
週一 更新予定
ときどきプラスで更新します!
義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(2025/4/20)第一章終わりました。少しお休みして、プロットが出来上がりましたらまた再開しますね。お付き合い頂き、本当にありがとうございました!
えちち話(セルフ二次創作)も反応ありがとうございます。少しお休みするのもあるので、このまま読めるようにしておきますね。
※♡、ブクマ、エールありがとうございます!すごく嬉しいです!
※表紙作りました!絵は描いた。ロゴをスコシプラス様に作って頂きました。可愛すぎてにこにこです♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~
荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。
これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って……
「龍、そろそろ兄離れの時だ」
「………は?」
その日初めて弟が怖いと思いました。
妖精です、囲われてます
うあゆ
BL
僕は妖精
森で気ままに暮らしていました。
ふと気づいたら人間に囲まれてました。
でもこの人間のそばはとても心地いいし、森に帰るタイミング見つからないなぁ、なんて思いながらダラダラ暮らしてます。
__________
妖精の前だけはドロ甘の冷徹公爵×引きこもり妖精
なんやかんやお互い幸せに暮らします。
過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される
中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」
夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。
相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。
このお話はムーンライトでも投稿してます〜
悪役令嬢の兄でしたが、追放後は参謀として騎士たちに囲まれています。- 第1巻 - 婚約破棄と一族追放
大の字だい
BL
王国にその名を轟かせる名門・ブラックウッド公爵家。
嫡男レイモンドは比類なき才知と冷徹な眼差しを持つ若き天才であった。
だが妹リディアナが王太子の許嫁でありながら、王太子が心奪われたのは庶民の少女リーシャ・グレイヴェル。
嫉妬と憎悪が社交界を揺るがす愚行へと繋がり、王宮での婚約破棄、王の御前での一族追放へと至る。
混乱の只中、妹を庇おうとするレイモンドの前に立ちはだかったのは、王国騎士団副団長にしてリーシャの異母兄、ヴィンセント・グレイヴェル。
琥珀の瞳に嗜虐を宿した彼は言う――
「この才を捨てるは惜しい。ゆえに、我が手で飼い馴らそう」
知略と支配欲を秘めた騎士と、没落した宰相家の天才青年。
耽美と背徳の物語が、冷たい鎖と熱い口づけの中で幕を開ける。
弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~
荷居人(にいと)
BL
BL大賞20位。読者様ありがとうございました。
弟が生まれた日、足を滑らせ、階段から落ち、頭を打った俺は、前世の記憶を思い出す。
そして知る。今の自分は乙女ゲーム『王座の証』で平凡な顔、平凡な頭、平凡な運動能力、全てに置いて普通、全てに置いて完璧で優秀な弟はどんなに後に生まれようと次期王の継承権がいく、王にふさわしい赤の瞳と黒髪を持ち、親の愛さえ奪った弟に恨みを覚える悪役の兄であると。
でも今の俺はそんな弟の苦労を知っているし、生まれたばかりの弟は可愛い。
そんな可愛い弟が幸せになるためにはヒロインと結婚して王になることだろう。悪役になれば死ぬ。わかってはいるが、前世の後悔を繰り返さないため、将来処刑されるとわかっていたとしても、弟の幸せを願います!
・・・でもヒロインに会うまでは可愛がってもいいよね?
本編は完結。番外編が本編越えたのでタイトルも変えた。ある意味間違ってはいない。可愛がらなければ番外編もないのだから。
そしてまさかのモブの恋愛まで始まったようだ。
お気に入り1000突破は私の作品の中で初作品でございます!ありがとうございます!
2018/10/10より章の整理を致しました。ご迷惑おかけします。
2018/10/7.23時25分確認。BLランキング1位だと・・・?
2018/10/24.話がワンパターン化してきた気がするのでまた意欲が湧き、書きたいネタができるまでとりあえず完結といたします。
2018/11/3.久々の更新。BL小説大賞応募したので思い付きを更新してみました。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる