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17.おはよう?おやすみ?
しおりを挟む「じっとして、今、魔法をかけてあげるから」
「っ、はっ、はっ、…」
ジルバードと変わらない背格好の男の子は、一生懸命両手を使って氷の上を引きずってジルバードを湖岸まで引き上げた。
「くるしいね…でも平気だよ。もう安心してね」
柔らかい土の上に仰向けで寝かされたジルバードの胸あたりに男の子がそっと両手をかざす。
その直後、男の子の金髪がふんわりと風を孕むと、月の助けを受けてキラキラ舞っているようだった。
「俺の魔法はね、''さいぼうをかっせいか''できるから、魔力の回復を早くするよ。」
男の子が触れている胸の辺りから送り込まれるのは、まさにエネルギーの塊のようでドクドクと心臓が脈打つ音がよく聞こえた。
「落ち着いてきたかな?」
「はっ、ふ、…あり、がとうございます…」
「ううん、いいんだよ。おれね、夜しか咲いていない薬草をつみにきたらね。凍った湖で君が溺れててほんとうにびっくりしたんだよ」
ふふ、と笑って少し離れた場所に放り投げてある薬籠を指さして言った。
ジルバードがゆっくりと体を起こしながら指さす方を見ると、周りにはそのほとんど零れてくったりしてしまっている薬草が散らばっている。
「あ…薬草が…ごめんね、ぼくのせいで」
「うん、いいよ。俺はアシェル!きみは?」
「アシェル…いい名前だね。ぼくはジルバード」
「ジルバード、君もすごくカッコイイ名前!」
ジルバードはなんて返したらいいか分からなかった。名前を褒められたのは、はじめてだ。
なんだか恥ずかしくて口が変な方向に曲がってしまう。
「ふ、照れてるの?ジルバード」
「え、あ、うん……嬉しくて、てれちゃう」
両方の手でほっぺたを抑えながら言うと、アシェルはまた小さく笑った。
「ねえジルバード、こんな真夜中に湖で何してたの?」
散らばった薬草を集めながらアシェルは振り返りながら言った。
「訓練を…していたの。」
「訓練?なんの?」
「氷魔法を操る訓練だよ。先生におしえてもらったから。」
そう返事をすると、アシェルは金の瞳を大きく見開いて薬籠をバサリと落とした。集めていた薬草がさっきよりも無惨な状態で散っている。
「あの…薬草がまた」
「ジルバード、氷魔法を使えるの!?」
「う、うん…まだへっぽこだけど…」
薬草はそのままにこちらに駆け寄ってくるとジルバードの濡れそぼった肩を掴んでガクガクと大きく揺らす。
「凄いや!ねえ知ってる?魔法を使えることが広まればお貴族様に目をかけてもらえることがあるってさ」
蜂蜜色のビー玉みたいな瞳が夢をいっぱいに詰め込んだように輝いている。
「ルクレシアの森にいるってことは…ジルバードもこの近くの村に住んでるんでしょ?」
「いや…ちがうの。実は、僕転移魔法でここまで来たから本当はもっと遠くに住んでるの」
そう言われてアシェルはやっとジルバードの姿を上から下までしっかりと見た。
こんな森にもちろん街灯なんかあるわけもない、朧月の月明かりという淡い光に頼って目を凝らすとなんだかやけに綺麗な服を着ている。
自分が着ている麻布をツギハギしたようなものとは質が違う。この寒い夜に冷や汗が垂れてもおかしくない心情だった。
「ジルバード…様?」
その言葉にジルバードは小さく笑って、自分から1歩退いてしまったアシェルの方に同じように1歩近づいた。
「やめてよアシェル。確かに僕はすごい人のお家に引き取られたよ。けどね、まだ、ぼく自身が凄い人になった訳では無いから」
「そんなことないと思う…けど」
「うん、まだ、ね。」
揺れる木の葉の緑さえ霞むほどの深い翠が、アシェルを真っ直ぐに貫いた。芯が通っていて、目の奥では強い炎が燻っているような気がして、それがとても綺麗だった。
「すごい人になるために、こんな真夜中に凍った湖で訓練していたの?」
「うん!そう。兄上に一生お仕えするのを許してもらえる人間になるために」
「兄弟なのに、お仕えするの?」
もしかして、ジルバードはお貴族様の家で本人の言う''兄''から酷い扱いを受けていて、奉仕を強要されているんじゃないかと一瞬思ってしまった。
けれど、すぐにそんな考えは全くの見当違いなのだと気付かされてしまった。幸せそうな表情、甘く溶けた眦はまるで恋する乙女みたいだ。
「そうだよ…兄上は、僕の…神様なんだ。」
「神様…」
「いつまでもお傍に置いて欲しいし、兄上のために生きて兄上のために死にたい、そのためだったら僕はなんだってできるの」
崇拝、まさにお似合いの言葉だ。
でも、お兄さんの話をする時だけふんわりとした表情になるところ、お兄さんを思い出しているのか優しい瞳をしているところ、誰かに自分の気持ちを話せるのが嬉しくて仕方がないって笑顔。
「ジルバードは、君のお兄さんのことが大好きなんだね」
「……え?」
ポカンとして目をまん丸にしているジルバードに少し笑ってしまった。
神様とか、お傍でお仕えとか、役立って死ぬとか次元の違う存在だって思ってるのは確かみたいだけどそれ以前にただ──ただ、お兄さんのことが大好きなのがよく伝わる。
顔を真っ赤っかにして目をぐるぐる回してるジルバードを見てなんだか変な子だなと思った。
「うん、そうなの…あのね僕、兄上がほんとに…だいすき」
にへらと頬を緩ませて小さい声でジルバードは言った。
───
「またね、ジルバード」
「うん!本当に、ありがとうアシェル」
ますます夜も深まって、いくら光魔法で細胞を活性化させたからと言ってそんなに急激に復活する訳もなく、ジルバードの身体が冷えてそのまま凍りそうになっていた。
アシェルがもう一度光魔法を強めに施してやって、転移魔法が発動できそうな魔力量になるのを感覚的に測ってから初めての友達に別れの挨拶をした。
「またいつか会おうね」
「うん、またかならず!」
ジルバードの足元から雷光のような眩い光が体を包み込むとまた体全体を槍で貫かれているような痛みに襲われる。光の向こうで、アシェルが心配そうに顔を歪めているのが見える。
「ぅううぅうっ、!ああ''あ!!!」
「ちょ、ジルバードっ!」
回る、世界が回りながら加速している。地面が空にあるし、空は地面にあるしジルバードはどこにいるか分からない。さっき回復させてもらった魔力がまたゴッソリと奪われていく感覚に意識が飛びそうになる。
「はぁ、はあ……はあ……」
しばらくすると見慣れた自室の赤い絨毯が眼前にあった。
両手を握ったまま頭を垂れて床についていたが、それだけで戻ってこられたのを身体で感じられてジルバードはほっと息を吐いた。
身体はまだびっしょり濡れているし、体温も下がったままで上手く頭が回らない。
早くお風呂に入って、全てを元通りにしないと。そう決意して顔を上げた瞬間───
「ひっ、」
「おはよう、ジルバード。随分早い起床だな」
瞳孔の開いた冷たい瞳。今ここで殺されるのではないかと思わせるほどの怒りで満ちたそれは燃え盛る青い炎のようでジルバードの全てを焼き尽くさんばかりだった。
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