マーメイド・コスモス

咲良きま

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第17話

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あれ?この生き物みたことあるぞ!
そっか、人魚だ!
へーー。初めてみた。
私は妙に感心して今しがた生まれたばかりのようなその生き物をまじまじと観察する。
いっこうに、救いの手を差し伸べない私に対して怒号が飛んだ。
「おい!コラ!なにを見惚れているの!気持ちは分かるけど。
さっさと行動して!こっちに来なさい。」
怒られて、びくびくしながら私は人魚の目の前にしゃがみこむ。
「何をしたらいいの?」
しゃがみこんだ私の胸で、例のペンダントがすこし揺れた。それを目にしたとたん、人魚は剣のんな目つきに変わった…気がした。なんとなく、気配でそう感じた。
「…。その石、どうしたの?」
「え?友達にもらったんだけど。」
しばらくの沈黙の後、人魚は言った。
「とにかく、時間が惜しい。情報が少なすぎるわ。とりあえず、本来の金魚に戻るから。そうしたら、あなたのねぐらに連れて帰りなさい。」
なんだか、やけに命令口調。そして、そんなことをしてあげる義理は私にはない。
あ、でも元は先輩の人魚だからなぁ。粗末に扱うわけにはいかないのかなぁ。
そんなふうに、ずれたことを考えている間に、人魚はシャンパンの栓を抜く時のようなぽんっという、音を立てて金魚になった。すると、陸に上がった魚と同じように、体全体でぴくぴくしている。私はあわてて金魚鉢をとりに行ったけれど、粉々に割れていた。
どうしよう、なんかめちゃくちゃ苦しそう。
途方にくれて、金魚の元に戻ると、金魚は再度、人魚へと変身していた。
「ちょっと、なんなのよ。息できなかったわよ。死ぬかと思ったじゃないの!」
すごい剣幕に辟易しながら、私はどうにか説明を試みる。
「だって、金魚は魚だもん。水の中じゃないと生きられないんだよ。」
「わー。なんだってそんな七面倒くさいものにおさまるはめに。はぁ。」
彼女?はしばらく葛藤している様子。やがて気持ちをちゃんと切り換えたのだろう、さばさばした声で独り言のようにつぶやいた。
「まぁ、しょうがない。理由はわかったんだから。ちょっと、構成をいじればいいわけだし。」
そして、とうとつにまたぽんっと、金魚へ変身した。今度はまるで何事もなかったかのように、平然と呼吸をしている。そしてすぐさま、また命令するのだった。 
「さ、案内しなさい。あなたの寝ぐらへ!」
その声の勢いとは対照的な気分の私の口から溜息がもれる。
私が肩を落として、足をひきずるようにずるずると歩いていると、金魚はまた文句をつけてきた。
「なんなのよ、さっきから。あなた、暗い!暗すぎるわ!
もうちょっと、こうぱーっとした明るさっていうのかしら?そういうの、全面に出して行きましょうよ!」
なんとも、憂鬱の元凶から励まされるという奇妙な事態。私はしら~っとしつつも、怒らせるだけの勇気もなく、無理やり笑顔をつくってみた。
「こんな感じでいいのかな?」
「…。
ああ、その部位の筋肉を微細に動かすことでコミュニケーションをとる文化なわけね。オッケー。
まぁ、オーラ的に少しはましになったからいいんじゃないかしら?」
と、妙にずれたところで許しをいただく。
オーラって、人魚には一体何が見えているんだ??
私は固い笑顔をはりつかせて木枯らしの中、帰路につく。
森田君、どうしちゃったのかな。
人のことなんて考えている場合じゃないのに、ついあの時の尋常ならざる森田君の姿が頭をよぎる。
家に帰ると、家族にばれないように早々と金魚を部屋へ案内する。なんとか、うまく見つからずに、自分の部屋に帰ることができた。
ほっとしたのもつかのま、
「私、知識を供給しなくちゃ。」
人の部屋に入るなり金魚はそうつぶやいて、本棚や机のまわりを元気よく泳いでいる。金魚が空気の中を泳ぐという違和感のあるその様子が、私に居心地の悪い思いをさせる。
だって、変なんだもん。
いや、まてよ。せめて飛んでいると思えば少しは変でもないのかな?うーん。やっぱりおかしい。だって羽がないんだもん。そんなんで飛んでるって思えないしなぁ。
と、どうでもいいことをあれこれ思い悩んでいるうちに、金魚はひれで、勝手に私のパソコンの電源をつけていた。
「ちょっと。何やって…。」
私はいいかけた言葉を途中で見失ってしまった。なぜなら、金魚の頭部からコードらしきものが出てきたからだ。先端にはUSB用の接続部品がついていた。それはそのままゆっくりと伸びていき、見事、パソコンにドッキングした。その直後、金魚は目を白黒させて感電したように震えている。心なしか、体から黒い煙がぷすぷすと出ているようだった。
うーん。何かが焼けるいいにおい。
お・い・し・そ・う!
いやいや。焼けているし!!
私は、控え目に声をかけてみる。
「あの…、大丈夫ですか?」
すると、金魚は静かに言った。
「邪魔しないで。」
そのまま、さきほどよりも激しく震えている。
ああ、なんかもう煙もちょっと激しくなってきた!
とりあえず、火事だけはさけたいのでもう一回、勇気を出して話しかける。
「あの、燃えないで下さいね。」
魚は、さらに感情を含まない機械的な声で答えた。
「燃えることはありませんが、これ以上邪魔をされますと、あなたに何をするか私、自信がありません。」
「ひっ。」
もらした声に慌てて、私は思わず口を両の手で覆ってしまった。その場にいるのも、いたたまれなくなり、忍び足で自室を出、階下に降りることにした。
とりあえず、金魚は放っておくことにする。ちょうど、晩御飯の時刻で、階下のキッチンには家族が集まっていた。私もその輪に加わる。
不思議に思うのだけれど、どんな時でもお腹って、すくものなんだなぁ。私の神経は尋常ならざる状況で太く成長したようだ。
今夜のおかずはハンバーグ!
これを食べている時って、もう本当にとっても幸せ!
父、母、姉、私。家族で囲む素敵な食卓。和やかなひととき。
姉が、首をひねりながら静かに言った。
「おかしいなぁ。今日は絶対焼き魚だと思ったのに。」
私は、心臓がとまりそうになりながら、なにくわぬ顔でハンバーグをつつく。父も姉の言葉にうなずきながら言う。
「あ、お父さんもそう思った。なんか、いいにおいがしたもんなぁ。」
母は鼻をくんくんさせている。
「あら、本当!おかしいわね。におうわ。
お隣さんのお夕食かしら?」
「りさ、さっきから何ハンバーグを刻んでんの?」
姉に言われて自分がハンバーグを跡形もなく粉々にしているのに気づいた。母が心配そうに言う。
「あら、今日のはおいしくなかったかしら?」
「ううん。そんなことない。ちょっと、考えごとしていて…。ごめんなさい。」
そう言って、慌てて粉々になったハンバーグを口にほうばる。もう、味なんかしなかった。
焼き魚とは!
さきほどに比べて、魚が焼けるにおいが強く鼻につくようになってくるのが感じられる。母も父も姉も鼻をくんくんさせている。母は眉をよせていた。
「本当に、すごくにおうわね。」
「隣の換気扇ってどの場所にあったかな。こっちに向いてた?」
姉が首をかしげて言う。
「父さんは、部屋ににおいがつくのは嫌だぞ。もしこれから、こんなことが続くようであれば、ちょっと苦情を言わなきゃならないなぁ。」
「そうね。でもあなた、トラブルだけは、避けてね。」
と、三人が話をするのを、黙って聞くのは生きた心地がしない。私はかきこむようにご飯をつめこんで、不自然にみえないようにそそくさと二階の自分の部屋へさっさと消えようとした。階段を半分のぼったところで、
「ちょっと、りさ!洗い物していきなさい。」
と背後に聞こえた母の声。ぎくりとしながら、
「ごめーーん。明日させて!今日は無理!」
と答えてしまったのは、ちょっと軽率だったのかもしれない。
後から誰かに様子を見に来られたらどうしよう。そう思いつつも、金魚がどうなっているのか、知るほうが先だったので私は足早に階段をのぼる。けれど、部屋の前まできて躊躇する。しばらく煩悶した後、意を決して部屋のドアをおそるおそる開けてみた。
どうか、金魚が丸焼きになっていませんように!
すると、自分の部屋にそぐわないものがそこにいたので、私は見なかったふりをしてゆっくりとドアを閉める。
まさか、ね…。
そう思って、またドアを開ける。
上半身もあらわな、なまめかしい人魚がそこにいた!
あれ?見たことある。鏑木清方の「妖魚」だ!なんで?
それは、確かにそこにいた。絵からそのまま出てきたかのように。それでいて、とてもリアルな姿で。
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