11 / 15
第11話
しおりを挟む
どうしましょう…。嘘は言いたくないですけれど…。全部を話すわけにもいきませんわね。
この世界は乙女ゲームの世界だなんて話は、荒唐無稽過ぎますもの。
もし仮に私が逆の立場でその話をされたら、とても信じられませんわ。
「キャロル?」
リアム様が…久々に愛称で呼んでくださいました!
じーんとして、涙がうるっとでてくるのをたくさん瞬きをして、なんとか我慢する。
緊張のあまり、こくりとのどを鳴らすと、どうにかことのあらましをまとめようと普段使わない頭をフル回転。
そして、震える声でリアム様に説明する。
「リアム様。その…信じていただけないかもしれませんが、予知夢のようなものを見たのです。
夢とは思えないほどのリアリティで、実際に体験したできことのように感じました。
その内容は、リアム様が私との婚約破棄を高らかに宣言されて、その直後にアリス・ハーンとの婚約を発表されるというものです。」
「ハーン公爵家の最近養女となったご令嬢か。今朝、彼女も事件現場より少し離れた場所で倒れていた。
それで?その夢が今朝の襲撃とどうつながる?」
「襲撃だなんて…滅相もございません。
実は今朝、お二人は運命的な出会いをするはずでしたの。
そのハプニング的な出会いを阻止すべく、私は空気弾を放ったのですが…。魔法の威力が思ったよりも大きくて、思わぬ大惨事になってしまいました…。それで、ついあの場から釈明もせずに逃げてしまいました。
あの…私は誰かを傷つけるつもりなど、決してなかったのです。それは信じてください。
本当に、この度は大変申し訳ございませんでした。」
私はリアム様に壁ドンをされている状態からゆっくりと抜け出して、三つ折りをつき、頭を下げた。
「‥‥。」
無言の状態がしばらく続くので、土下座もきつくなってくる。ちらっとリアム様を見ると、片手を頭において疲れたような仕草で固まっている。
この重苦しい沈黙にこれ以上耐えきれなくなり、恐る恐るリアム様に声をかける。
「あの…。私は…どのような罪になるのでしょうか…。」
すると王子の印象的な瞳が私の姿を映す。そこには苛立ちが見えた。
「今回は不問に処す。
公にはしていないので、あなたも口を閉じてください。
けれど次に何かあった時は、私でもあなたをかばいきれない。
それに正直…今回のことで、私はあなたに失望している。
あなたは愚かだったが、これまで姑息な手段とは無縁だったのに…。
他人の行動を物理で変えようとするなんて…。
仮にあなたが彼女に脅威を覚えたとするのならば、自信をつけるべくあなた自身をもっと研鑽すべきなのではないですか?
今回の騒動は一歩間違えば、人命を失う危険がありました。取り返しのつかないことになっていたかもしれないことをよく自覚して、反省してください。」
王子に厳しく叱責されて、体が冷えていく。
再び頭を下げて「申し訳ございません」と、謝罪する。
深いため息をついた後、リアム様は幾分声を和らげて、私に言った。
「うん。
誰も欠けることなくすんだのは良かった。
ただ、私はしばらくあなたとは距離を置きたい。」
びっくりして、顔を上げると、リアム様はすでに立ち上がり背を向けて、秘密部屋を出ていくところだった。
そして、一度も私を振り返ることはなかった。
パタンと閉じられた扉。
その音がリアム様の拒絶に感じられて私は激しく動揺する。
リアム様と入れ違いにいつもは淑女の鏡であるマリリンがひどく慌てた様子で、「お嬢様、ご無事で!」と珍しくパタパタと音をたててかけよってくる。
リアム様の去った部屋は再び密室になり、今では私とマリリンとの二人きりになった。
「お嬢様ー?」
マリリンの声が遠い。
私はショックのあまりに呆然として、虚空をただ一心に見つめていた。
一体どこから間違ってしまったのでしょうか?
今日はリアム様のおめでたい入学式でしたのに。
記念すべき日にリアム様に喜んでもらえるように、何度もシミュレーションをしましたわ。
笑ってくださるかしら?
喜んでいただけるかしらと…。
けれど、渡したかった花束は無残に朽ち、リアム様にかけたかったお祝いの言葉も言えず…。
しまいにはあの方に大変なご迷惑をかけたうえに、しばらく距離を置きたいと…言われてしまいましたわ…。
「わーーーーーーーーーん。」
私は大声を出してみっともなく泣きだした。
さきほどの脳筋ゴリラよりもひどい醜態で、そんな私にマリリンはあっけにとられている。
それでも彼女は何も言わず、ただ私を抱きしめて優しく背中をさすってくれる。
泣いても、泣いても、涙がこぼれてくる。
胸がただただ痛い。ズキズキとする。
悲しくて、切なくて…。
愚かな自分が哀しい。
自分の存在が忌まわしい。
死んでしまいたい。
消えてしまいたい。
散々泣いた後、私はいつの間にか泣きつかれて眠ってしまった。
そのために、かわいそうなマリリンは意識のない私をなんとか抱えて、屋敷まで連れて帰るはめになる。(馬車に乗せるまでが大変だったそうな)
後日彼女に、「1日に2度も肉体強化の魔法を自分にかけたのは初めてです」と、特別手当を要求された。
ちゃっかりしておりますわ。
でも、あの日の朝に私が事件を起こしてから、マリリンには本当に何から何まで迷惑をかけてしまった。
脳筋ゴリラに秘密部屋へ閉じ込められた私の危機に、リアム様に助けを求めてくれたのはマリリンだった。
グッジョブ!
リアム様はもちろんのこと、マリリンも私の命の恩人だ。
特別手当なんて、お安い御用ですわ。
力持ちで美しく機転の利く私のスーパーメイドには、感謝しかない。
今後とも、よろしくお願いいたします。
マリリンも私と距離を置きたいなんて…思っていませんわよね?
この世界は乙女ゲームの世界だなんて話は、荒唐無稽過ぎますもの。
もし仮に私が逆の立場でその話をされたら、とても信じられませんわ。
「キャロル?」
リアム様が…久々に愛称で呼んでくださいました!
じーんとして、涙がうるっとでてくるのをたくさん瞬きをして、なんとか我慢する。
緊張のあまり、こくりとのどを鳴らすと、どうにかことのあらましをまとめようと普段使わない頭をフル回転。
そして、震える声でリアム様に説明する。
「リアム様。その…信じていただけないかもしれませんが、予知夢のようなものを見たのです。
夢とは思えないほどのリアリティで、実際に体験したできことのように感じました。
その内容は、リアム様が私との婚約破棄を高らかに宣言されて、その直後にアリス・ハーンとの婚約を発表されるというものです。」
「ハーン公爵家の最近養女となったご令嬢か。今朝、彼女も事件現場より少し離れた場所で倒れていた。
それで?その夢が今朝の襲撃とどうつながる?」
「襲撃だなんて…滅相もございません。
実は今朝、お二人は運命的な出会いをするはずでしたの。
そのハプニング的な出会いを阻止すべく、私は空気弾を放ったのですが…。魔法の威力が思ったよりも大きくて、思わぬ大惨事になってしまいました…。それで、ついあの場から釈明もせずに逃げてしまいました。
あの…私は誰かを傷つけるつもりなど、決してなかったのです。それは信じてください。
本当に、この度は大変申し訳ございませんでした。」
私はリアム様に壁ドンをされている状態からゆっくりと抜け出して、三つ折りをつき、頭を下げた。
「‥‥。」
無言の状態がしばらく続くので、土下座もきつくなってくる。ちらっとリアム様を見ると、片手を頭において疲れたような仕草で固まっている。
この重苦しい沈黙にこれ以上耐えきれなくなり、恐る恐るリアム様に声をかける。
「あの…。私は…どのような罪になるのでしょうか…。」
すると王子の印象的な瞳が私の姿を映す。そこには苛立ちが見えた。
「今回は不問に処す。
公にはしていないので、あなたも口を閉じてください。
けれど次に何かあった時は、私でもあなたをかばいきれない。
それに正直…今回のことで、私はあなたに失望している。
あなたは愚かだったが、これまで姑息な手段とは無縁だったのに…。
他人の行動を物理で変えようとするなんて…。
仮にあなたが彼女に脅威を覚えたとするのならば、自信をつけるべくあなた自身をもっと研鑽すべきなのではないですか?
今回の騒動は一歩間違えば、人命を失う危険がありました。取り返しのつかないことになっていたかもしれないことをよく自覚して、反省してください。」
王子に厳しく叱責されて、体が冷えていく。
再び頭を下げて「申し訳ございません」と、謝罪する。
深いため息をついた後、リアム様は幾分声を和らげて、私に言った。
「うん。
誰も欠けることなくすんだのは良かった。
ただ、私はしばらくあなたとは距離を置きたい。」
びっくりして、顔を上げると、リアム様はすでに立ち上がり背を向けて、秘密部屋を出ていくところだった。
そして、一度も私を振り返ることはなかった。
パタンと閉じられた扉。
その音がリアム様の拒絶に感じられて私は激しく動揺する。
リアム様と入れ違いにいつもは淑女の鏡であるマリリンがひどく慌てた様子で、「お嬢様、ご無事で!」と珍しくパタパタと音をたててかけよってくる。
リアム様の去った部屋は再び密室になり、今では私とマリリンとの二人きりになった。
「お嬢様ー?」
マリリンの声が遠い。
私はショックのあまりに呆然として、虚空をただ一心に見つめていた。
一体どこから間違ってしまったのでしょうか?
今日はリアム様のおめでたい入学式でしたのに。
記念すべき日にリアム様に喜んでもらえるように、何度もシミュレーションをしましたわ。
笑ってくださるかしら?
喜んでいただけるかしらと…。
けれど、渡したかった花束は無残に朽ち、リアム様にかけたかったお祝いの言葉も言えず…。
しまいにはあの方に大変なご迷惑をかけたうえに、しばらく距離を置きたいと…言われてしまいましたわ…。
「わーーーーーーーーーん。」
私は大声を出してみっともなく泣きだした。
さきほどの脳筋ゴリラよりもひどい醜態で、そんな私にマリリンはあっけにとられている。
それでも彼女は何も言わず、ただ私を抱きしめて優しく背中をさすってくれる。
泣いても、泣いても、涙がこぼれてくる。
胸がただただ痛い。ズキズキとする。
悲しくて、切なくて…。
愚かな自分が哀しい。
自分の存在が忌まわしい。
死んでしまいたい。
消えてしまいたい。
散々泣いた後、私はいつの間にか泣きつかれて眠ってしまった。
そのために、かわいそうなマリリンは意識のない私をなんとか抱えて、屋敷まで連れて帰るはめになる。(馬車に乗せるまでが大変だったそうな)
後日彼女に、「1日に2度も肉体強化の魔法を自分にかけたのは初めてです」と、特別手当を要求された。
ちゃっかりしておりますわ。
でも、あの日の朝に私が事件を起こしてから、マリリンには本当に何から何まで迷惑をかけてしまった。
脳筋ゴリラに秘密部屋へ閉じ込められた私の危機に、リアム様に助けを求めてくれたのはマリリンだった。
グッジョブ!
リアム様はもちろんのこと、マリリンも私の命の恩人だ。
特別手当なんて、お安い御用ですわ。
力持ちで美しく機転の利く私のスーパーメイドには、感謝しかない。
今後とも、よろしくお願いいたします。
マリリンも私と距離を置きたいなんて…思っていませんわよね?
0
あなたにおすすめの小説
【長編版】悪役令嬢は乙女ゲームの強制力から逃れたい
椰子ふみの
恋愛
ヴィオラは『聖女は愛に囚われる』という乙女ゲームの世界に転生した。よりによって悪役令嬢だ。断罪を避けるため、色々、頑張ってきたけど、とうとうゲームの舞台、ハーモニー学園に入学することになった。
ヒロインや攻略対象者には近づかないぞ!
そう思うヴィオラだったが、ヒロインは見当たらない。攻略対象者との距離はどんどん近くなる。
ゲームの強制力?
何だか、変な方向に進んでいる気がするんだけど。
転生皇女はフライパンで生き延びる
渡里あずま
恋愛
平民の母から生まれた皇女・クララベル。
使用人として生きてきた彼女だったが、蛮族との戦に勝利した辺境伯・ウィラードに下賜されることになった。
……だが、クララベルは五歳の時に思い出していた。
自分は家族に恵まれずに死んだ日本人で、ここはウィラードを主人公にした小説の世界だと。
そして自分は、父である皇帝の差し金でウィラードの弱みを握る為に殺され、小説冒頭で死体として登場するのだと。
「大丈夫。何回も、シミュレーションしてきたわ……絶対に、生き残る。そして本当に、辺境伯に嫁ぐわよ!」
※※※
死にかけて、辛い前世と殺されることを思い出した主人公が、生き延びて幸せになろうとする話。
※重複投稿作品※
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子
ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。
(その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!)
期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
『悪役令嬢』は始めません!
月親
恋愛
侯爵令嬢アデリシアは、日本から異世界転生を果たして十八年目になる。そんな折、ここ数年ほど抱いてきた自身への『悪役令嬢疑惑』が遂に確信に変わる出来事と遭遇した。
突き付けられた婚約破棄、別の女性と愛を語る元婚約者……前世で見かけたベタ過ぎる展開。それを前にアデリシアは、「これは悪役令嬢な自分が逆ざまぁする方の物語では」と判断。
と、そこでアデリシアはハッとする。今なら自分はフリー。よって、今まで想いを秘めてきた片想いの相手に告白できると。
アデリシアが想いを寄せているレンは平民だった。それも二十も年上で子持ちの元既婚者という、これから始まると思われる『悪役令嬢物語』の男主人公にはおよそ当て嵌まらないだろう人。だからレンに告白したアデリシアに在ったのは、ただ彼に気持ちを伝えたいという思いだけだった。
ところがレンから来た返事は、「今日から一ヶ月、僕と秘密の恋人になろう」というものだった。
そこでアデリシアは何故『一ヶ月』なのかに思い至る。アデリシアが暮らすローク王国は、婚約破棄をした者は一ヶ月、新たな婚約を結べない。それを逆手に取れば、確かにその間だけであるならレンと恋人になることが可能だと。
アデリシアはレンの提案に飛び付いた。
そして、こうなってしまったからには悪役令嬢の物語は始めないようにすると誓った。だってレンは男主人公ではないのだから。
そんなわけで、自分一人で立派にざまぁしてみせると決意したアデリシアだったのだが――
※この作品は、『小説家になろう』様でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる