メニュー画面の能力持ち一般人、勇者パーティから依存され求婚される

ブラックカメリア

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一般人、求婚される

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 その日、世界は歓喜に沸いた。

 五つの国全てと隣接した不可侵領域、通称深淵地帯に巣くう暗黒の軍勢達。その頭領である邪神王が討伐されたからだ。そんな偉業を成し遂げた五人は、英雄として讃えられることになる。

 千の魔術を操り、無尽蔵の魔力で敵を滅する人間兵器、リチア・エーデルワイス。

 歴代最年少で聖女の資格を受け、最初期から邪神王討伐に貢献した、聖女ユリ。

 名門として名高いファフニール家次男、騎士としてパーティを守り続けた、ルクス・ファフニール。

 東国で義賊として名を馳せ、英雄たちの影の立役者とも呼べる、盗賊王ブラッド。

 そしてそんな四人を纏め、邪神王を討ち滅ぼせし者、勇者セロ。

 そんな五人の凱旋は五カ国全てを巻き込み、大陸を大いに盛り上げた。その祝宴は一年以上におよび、今も尚その熱は冷めぬままだ。

 しかし、邪神王討伐に関わったのは、これで全てではない。勇者パーティには、その名を讃えられることの無かった人物が、一人居る。

 六人目のパーティメンバー、その名を、シスという。

 平均的な背の丈に、剣や杖、はては暗器の類いまでを装備した節操のない格好。金色の髪を伸ばしたその姿は、一見すれば少女のようだが、彼は男だ。

 そんな彼は今、一人の女性の前で土下座をしていた。

 「お願いしますリチアさん! 僕に強力な隠匿の呪文をかけてください!!!」

 「嫌よ、面倒だし。それに、アタシのメリットなくない?」

 「それは、ほら……! 元パーティメンバーのよしみってことで!」

 「……はぁ。顔上げなさい。とりあえず、話だけは聞いたげるわ」

 人間兵器、リチア・エーデルワイスであった。彼女は凱旋後、故郷サルサースの小島を買い取り、そこで日夜魔術の研究に勤しんでいるのだった。

 「それで? わざわざアタシんとこ来たってことは、なんかあったんでしょ?」

 「じ、実は……ちょっと言いづらいこと何ですけど……」

 「何よ。5年も一緒に旅したのよ? 今更言いづらいことなんて──」

 「セロとユリから……結婚しようと、言われまして」

 「…………ん? えっ、と……? それは、どっちを選ぶのかで、悩んでるってこと?」

 「違います。二人から、同時に、どっちもお嫁さんにしてくださいと言われました」

 まるで時が止まったように、リチアの動きが止まった。彼女は空を見上げると、ゆっくりと息を吐き、シスの肩に手を置いた。

 「諦めなさい。覚悟決めて、素直にどっちも娶りなさい」

 「それが出来たら苦労しませんよ……! 方や世界を救った勇者様で、もう一人は大陸中で人気絶大の聖女様ですよ!? そんな二人をよく分からん男が掻っ攫ったら、真面目に暴動が起きますよ!!!」

 「そんな理由で諦めるあの子達じゃないでしょーよ。でもまぁ意外ね。セロは何考えてるか分かんないけど、ユリがそんな手段を取るなんて」

 リチアは思い出す。勇者セロは常に無口で無表情、常にぼーっとしている少女だった。銀色の髪とその小さな容姿も相まって、さながら妖精のような風貌をしたセロは、常時シスにべったりだった。私生活の全てを彼に丸投げするくらいには。

 そして聖女ユリ。長い黒髪と如何にも人の良さそうな顔をした、ぽわぽわした雰囲気の少女。セロとユリ、そしてシスの三人で旅を始めたという話だから、彼女もまたシスに対して恋心を抱いているの丸わかりだったと思う。

 彼はそんな二人のアタックをのらりくらりと躱し、しかし適度にガス抜きは怠っていなかった。中々上手い距離感を保ち、最後まで痴情のもつれによる仲違いは起きなかったのは見事と言えるだろう。

 「二人は、もう我慢出来なくなったと……あと、好きでもない男達に言い寄られるのにうんざりしたとも言ってました」

 「あ~……まぁ、どっちもちょー美人だしねぇ。ユリに西のティーテラ国第三王子も求婚したとか、アタシでも知ってるくらい話題だったし」

 「あと二人が忙しすぎて……前みたいに不満が少ない形で時間を作れなくなってしまいまして。具体的には、セロばっかり構っててズルいと、ユリが爆発しました」

 「なーるほど。何となく分かったわ。どうせあれでしょ? ユリが久しぶりに時間が出来てシスに会いに行ったら、全力甘え状態のセロに構うあんたを見て、ぷっつんしちゃった……とか?」

 「大体そんな感じです」

 まぁ、遅かれ早かれだったろう。およそ十年、彼女らと彼は旅を続けた。その間、徹底したサポートによって二人を支え続けたのはシスだった。道具の手配から交渉、金銭の管理とクエストの選別。荷物の運搬とマップの作成、極めつけは彼の特殊な"眼”だ。

 彼は見つめた相手の体力や魔力量、現在のコンディションや健康状態まで全て数値化して観察することが出来た。何か悩みがあると分かれば解決に走り、身体的な消耗には本人よりも早く対処をする。リチアもまた、そんな彼によって体調を崩すことは滅多に無かった。

 シスを改めて評価するならば、無謀な旅にずっと付いてきてくれて、どんな些細な不調にも必ず気付いてくれる、サポート適正抜群の男だ。自分達だけがシスの働きぶりを知っている、というのも優越感を刺激しただろう。

 「大体話は分かった。でも、やっぱ断る」

 「そんな……! 僕に出来ることなら何でもしますから、どうかお願いしますよ!」

 「ち、近い……! 話は最後まで聞け馬鹿!!!」

 リチアはシスを引っぺがしながら、冷静に現状を整理した。こいつがどうやってここまで来たかは知らないが、近い内に二人は此処へやってくる。そんな時、自分が大切な仲間を騙すような真似は絶対にお断りだった。

 しかし、急に二人から求婚されて戸惑うシスの気持ちは分からなくは無い。多少、考える時間を作ってやってもいいと考えていた。

 そんな彼女が出した結論は──

 「あんたが何処に行ったか、私は包み隠さず二人に話す。でも、そのお話はちょーっぴり、長くなるかもしれないわね。具体的には、ルクスの居る北のマルンド帝国に着くまで追いかけられない程度には」

 ブラッドは駄目だ。どうせ何処に居るか分からないし、真面目な相談などあいつに望める訳も無い。あいつは不誠実で、責任も取らないクズだ。その点、ルクスはお堅いが真面目で誠実な奴だ。少なくとも、私やブラッドよりかはまともなアドバイスを送れるだろう。

 要するに、ルチアは面倒事を元パーティメンバーに押し付けたのだった。

 「その間、もうちょっと二人の関係をどうするか考えなさい。言っておくけど、このままなぁなぁにするのはおすすめしないからね」

 「一応聞きますけど……何でですか?」

 「そんなもん、本気になったあの子らに勝てる化け物、この大陸には多分居ないからよ。あんたの意思とか関係なく、強制的にパパにされるわ」

 「……リチアさんでも駄目ですか?」

 「ユリだけなら五分五分ね。セロは絶対無理。あの子に勝てる奴なんて、それこそ邪神王だけじゃないの?」

 セロは衣食住のほとんどをシスに任せており、その生活能力は赤子と同等だ。だが、それを差し引いてもおつりが来るほど、彼女は強かった。人間兵器と呼ばれるリチアだろうと、彼女の前では時間稼ぎが精々だろう。

 「はい、じゃあそういうことで。私は優しいから、近くまでは送ってあげるわ。ほら、とっとと行ってきなさい」

 「うおっ……! あの、リチアさん!」

 「何よ。これ以上オマケはしてあげ──」

 「ありがとうございました! やっぱり、リチアさんに相談して良かったです!」

 「…………うっさい。ばか」

 笑みを浮かべながら、シスはリチアに感謝を述べた。その言葉に裏はなく、リチアは呆れたように少し笑った。

 彼を転移魔法で送り届けると、リチアは体を伸ばして魔力を昂らせた。久しぶりに、このゾワゾワとした感覚を思い出した。ただ存在するだけでこのプレッシャーだ。本当にこの子が敵でなくて良かったと心底思う。

 「さて、と……間に合って良かった。時間稼いであげるって、約束しちゃったもんね」

 「リチア。シスを何処に送ったの?」

 振り返ると、そこには二人の鬼が居た。一人は、無表情ながら明らかに不機嫌そうな、世界を救った英雄、勇者セロ。

 もう一人はニコニコと笑いながら、一切眼が笑っていない、聖女ユリだった。

 「みなさん酷いです。ブラッド様もおかしな道具を彼に渡していましたし、リチア様も彼に協力するのですね。どうしてそんなイジワルをするのですか?」

 「あたしは中立のつもりだよ。だからシスにも協力してやるし、あんた達にも協力してやる。痴話喧嘩に巻き込まれるなんて、ごめんだからね」

 「そう。じゃあ、シスを何処に送ったの?」

 「マルンド帝国。もっといえばファフニール家の近くだね」

 「ありがとうございます。ではもう一つ、この結界を解除して頂けますか?」

 彼女らがこの地に降り立ったのと同時に、この島は強力な結界で覆われていた。術者を無力化しないと解除されない種類のそれは、守るためではなく閉じ込めるための結界だった。

 この結界はたとえ勇者と聖女であろうと、その条件を無理矢理ねじ曲げて突破できるものでは無かった。

 「折角来たんだ、こんなすぐにさよならなんて寂しいでしょ? もう少し、ゆっくりしていきなよ」

 「……リチア。どうして邪魔するの」

 「邪魔なんてしてない。ただ、二人とも少し焦りすぎよ。だからこそ、年上として淑女の嗜みを君らに教えてあげようって訳」

 「未だにブラッドと微妙な関係の癖に。このへたれ」

 「それ今関係無い! そもそも、あたしがあんなのを好きな訳無いでしょ!? あいつの勝手な勘違いよ!」

 その言葉が開戦の合図となった。リチアが魔法を放ち、ユリがそれを防ぎ、セロが剣を抜いてリチアに肉薄する。

 そこに殺意は無い。しかし、放たれる技はどれも一級品。世界最高峰の応酬だった。

 「リチア様。まだブラッド様にご好意をお伝えになっていないのですか。私が言うのもアレですが、少し尻込みしすぎでは?」

 「リチアは自分から告白するの恥ずかしいから、ブラッドから押し倒して貰うのを待ってるの。具体的には、ブラッドが金に困ってここに来たりしたのを、「仕方ないわね……」とか言って、その後は良い感じに既成事実を作ろうとしてる。不埒だよね」

 「えっちです。淑女の嗜みはどこにいったのでしょう」

 「なななっ……! なんで、知って──」

 「……え? あ、ほんとにそうなんだ。半分冗談だったのに」

 「…………マジぶっ飛ばす。普段は無口な癖に、こういう時だけ饒舌になりやがって……!!!」

 そんなハイレベルの戦いで交わされる会話は、ただ姦しい旧友同士のやりとりだった。
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