最強竜騎士~ドラゴンの絆~神々の裁きの聖戦

影葉 柚希

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10章

88話「アルバーン国の動き」

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 アルガスト大陸の中央にある秩序と平和をこよなく愛する騎士の国「アルバーン国」は、独自のルールを以って国が保有する騎士団の派遣などを行える国である。「アルバーン国」は基本的にアルガスト大陸全土の秩序と平和を維持する為に騎士団の力を使い、争い等の仲裁を行ってきた正義感溢れる国としてもアルガスト大陸では有名な国であった。
 その「アルバーン国」は今回アルガスト大陸の各地で起こっている災害や天災を独自に調査して、それらの原因が神々にある事を突き留めていた。「アルバーン国」は大体神々の1神ダラズ神を信仰しているが、その信仰も裏切られている事は明白であったのを「アルバーン国」は充分に理解していた。
 「アルバーン国」は代々騎士団長が国王と共に政治を取り仕切り、そして、騎士団のあるべき姿を体現しているのが騎士団長の判断だとも言われている。そして、現在の騎士団の団長はハルトが以前に会った事のあるティドールと呼ばれている騎士であった。
「失礼します。団長、頼まれていた調査の報告が届きましたのでお持ちしました」
「ありがとう。それで結果としては内容は?」
「完璧な黒だと判明しております。やはり神々は我が国すらも視野には入れてはいないと断言してもよろしいかと」
「嘆かわしい事だ。我が国は神々の1人ダラズ神を信仰しているが、その加護もないまま見捨てられているという事実なのだからな。よし、各部隊に伝達。先に動いていた反神々軍への合流を急がせるんだ」
「はっ!」
「反神々軍とは言え、神々からこのアルガスト大陸の未来を解放せんとする志。素晴らしいと思われる。彼女の……リシャの後継者である彼がいるのであれば力を貸さない訳にもいかぬまい」
 黒い髪の毛を腰にまで伸ばして、茶色の瞳を持ち、騎士の鎧を身にまとい、仲間達の騎士達からは「黒の貴公子」と呼ばれている男性、彼こそがハルトの名を知るティドール本人であった。ティドールは仲間達を率いて既にローガド国の国境付近にまで騎士団の部隊を移動させていたのである。
 「アルバーン国」の国王は今回の騎士団の動きについては正直かなり好意的であった事をティドールは思い出す。ダラズ神から加護も何も与えられない事実は国を治める者からしたらあまりにも酷い仕打ちだと思っていいだろう。
 だが、国王は逆に反神々軍の動きを知り、そして、その目的について色々と情報を集めて、最終的には騎士団を派遣するという内容を決定として下したのである。
「陛下のご期待に添えなくてはならない。それは少なくとも秩序と平和を愛する「アルバーン国」としてのあるべき姿だと言えるだろうから。そして、私は騎士団長として聖戦を勝ち抜いてみたい」
 騎士としても団長としても、1人の人間だとしても、聖戦への強い興味は止めれなかった。ティドールの胸の中に燻っている強い闘争心はティドールに強い力を与えてくれる。
 「アルバーン国」の騎士団はローガド国の国境付近からローガド国内へと移動を開始。国の手前でエルフ達に宿舎となるテントを立てられる場所に誘導してもらって、無事にローガド国に到達する。
 エルフ達の手際のいい歓迎を受けた騎士団の面々はその好意に甘えてしばしの休息を取る。ティドールは団長として国の長である国王への謁見をする為にローガト王城へと足を向けていた。
「ここで少しお待ち下さい。陛下が参られたらご挨拶を」
「はい、心得ました」
 兵士の案内で入った玉座の間にて、国王の姿が見えるまでの間にティドールはこの後の予定を少し考えていた。ローガド内での行動を許可されたらまず始めにハルトを探そうと考えていたのである。
 パートナーで妻でもあるリシャ経由ではあるが、ハルトが反神々軍の中でも重要な位置にいる事を聞いているからでもあるが、何より再会を喜びたいとも考えていた。リシャの後継者としてハルトの名を聞く事は多々あったが本人はまだ旅を続けていた事もあって中々話をする時間すら設けられなかったのである。
 そして、ローガド国の主である国王が姿を見せてからティドールは一礼して真っ直ぐに国王を見つめて会話をしていく。国王は「アルバーン国」の援軍としての参加は非常にありがたいと心からの感謝を口にした。
「貴殿もご存知かとは思うが、この国にはルーディス神様が降臨されている。そして、末の娘であり聖女でもあるエテルナを通じてこの大陸を神々からの解放を望んで下さっている」
「それは我々も存じ上げております。それがあったから、という訳ではありませんが我々は秩序と平和を守る為にお力になれるのであればと考えた上でこうして参上したまででございます」
「私の名の下に聖女エテルナの元に向かわれるとよろしいでしょう。あの子から反神々軍の動きや状況を聞いてもらえれば貴殿達のお力にもなれます。共に神々からの脱却を」
 ティドールにそう告げた国王の瞳には強い決意が宿っているのがティドールの瞳にも見て取れていた。そこまで強い決意を秘めているのであれば神々との戦いにおいてかなり大きな存在になってもおかしくはない。
 国王の前から辞したティドールは一度仲間達の元に戻り聖女に会いに行ってくる事を伝えてから、休んでおくようにと伝えていた。聖女の元に向かう足取りは別段軽くも重くも無かったが、そこにハルトがいるのであればと期待する胸の中にそんな事を考えるだけの余裕はあった。
 エテルナのいる神殿に到着したティドールを待っていたのはハイエンドエルフになったディーリとリリス、ルーディス、エテルナの4名だった。まずは形だけの挨拶を行ってから本題に入ろうとティドールは頭の防具を脱いで素顔を晒す。
「お初にお目に掛かります。アルバーン国騎士団団長のティドールと申し上げます。この度、反神々軍の力になるべく派遣されました」
「ようこそ、ローガド国においでなさいました。父からお話をお伺いしているかと思いますが、こちらのお方がルーディス神様でございます。どうかご無礼のない様に」
『エテルナ、その様な形だけの挨拶には意味はない。この男は……ハルトの知り合いだと見えているが』
「知り合いではありますね。私の妻が後継者として育てていた頃に1度だけ会った程度ではありますが。そのハルト君はどこに?」
「ハルトなら、アルスと共に古代都市ロードに行っているわ。そろそろ戻ってくるとは思うけれど」
「お戻り次第お伝えしておきます。アルバーン国の団長様がお会いしたいと申し上げられていた事を。構いませんか? エテルナ様」
「はい。お2人のご判断を優先されて下さい。私達は共に死地に向かう仲間同士。こうして巡り合えたのも何かの奇跡なのかもしれませんから」
 エテルナの言葉にティドールは大きく深く頷く。ルーディスとの対面は緊張はしたものの、そこまで威圧的にも感じないからか力をあまり入れなくて済んでいた。
 ティドールは4人の顔を確認し、名前と顔を脳に刻んでいくと一言漏らす。それは騎士団長としての経験が出した言葉でもあった。
「リシャが貴方方と会ったら喜びますね」
「どういう意味?」
「奥様に喜ばれるのですか?」
「ハルト君の仲間がこんなにも素敵な方々だと知ったら安心します。彼女は自分の後継者として育て上げたハルト君の事を支えて下さる方々がこんなにいるのはリシャには嬉しい限りだと思うのです」
 ハルトの事を大事に思っているリシャだからこそ、この現状を知って力になりたいと今はアルバーン国の家で準備に取り掛かっている事もティドールは知っている。そして、同時に自分が先にハルトと再会を果たしたら伝えなくてはならない言葉もある。
 ルーディスはそんなティドールを見ていて不思議と親近感を感じ取っていた。愛する女の事を話す男の瞳に同じものを感じ取っていたのかも知れない。
「それじゃ私は仲間達の元にいますので、何かありましたがご連絡下さい」
「はい、分かりました」
「ハルト達が戻ってきたらすぐに知らせてあげないとね」
「そうですね。アルス様もご理解を示して下さりますよきっと」
 ディーリとリリスはそう話しながらゆっくりと立ち去っていくティドールの背中を見つめていた。アルスがティドールに嫉妬するだろうとは思えないとディーリ達は考える。
 何故なら、ハルトに向けているティドールの愛情は親愛の類に入るものだ。親愛ならばアルスだって嫉妬する事もないだろうと思えるのが2人の見解。
 そして、ディーリ達が待つローガド国に古代都市から戻ってきたアルスとハルトの帰国の知らせが入ったのは、ティドールがロードガに来てから4日の時間が経過した頃だった。リリスとディーリが2人を出迎えに行くとハルトの腕に抱かれているアルスが目に入って駆け寄る。
「どーしたの?」
「あー、ルーピンが怒ってタックルされた時に腰を痛めたみたいなんだ」
「ルーピンを怒らせたのですか? またどうして」
「別に、悪気があって怒らせた訳じゃないんだぜ? ただ、ルーピン太ったな、って言ったらタックルされた」
「自業自得じゃない。その言葉をアルスは言われても平気なの?」
「それは僕も言ったんだけれど開き直られてしまったんだよ。痩せりゃ問題ないって」
「最低です」
「なんで皆俺をイジメるんだよ!?」
 よろよろと歩きながらアルスは真顔で反論を告げるがディーリがアルスの腰を思い切り叩くと激痛にアルスはしゃがみ込んだ。その間にリリスがハルトにティドールの事を知らせる。
 ハルトはこのローガドにティドールが来ていると聞いてすぐに会いに行こうとするので、リリスが案内役を買って出た。その間にディーリがアルスを引き受けてくれたので一度4人は別行動を取る事になる。
「それじゃアルスをお願いするよディーリ」
「分かっている。ハルトも早く会いに行きなさい」
「気を付けて行って来いよハルト」
「それでは行って参ります」
 ハルトとリリスはアルバーン国の騎士がテントを張っている場所に向かいながら、リシャという女性の事をハルトにリリスは聞いていた。リシャの事を誰かに話すのは久々だったハルトは出来るだけ記憶に忠実な話をし始めたのであった――――。
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