騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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2章

18話「魔神アガルダの狙い」

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 闇とは即ち生きる者達の心には必ず存在し得る感情であり、そして、逃げれない負の感情でもある。それを好む者達も少なからず表の世界だろうと存在するからこそ、魔神アガルダの力も衰える事はないと言えるのも事実である。
 この拠点にしているオジナルと言う国は最も魔神アガルダの力になり得た国として、アガルダは気に入っている。主たる国を治める者達全てに闇の力を受け入れる素質があり、今では平和だった国に存在するよりも生き生きとしてアガルダに協力をしている程だ。
 そのオジナル国内には多くの水晶を配置している、これはアガルダの力を注いでオルガスタン大陸のマナを奪い、そして枯らす役目のある水晶である。これが吸い上げているマナの蓄蔵庫はその膨大なマナを蓄蔵していき、今では城の地下全体の7割を占めていた。
「ご報告致します」
「どうした?」
「スジエルにてカーネル達が騎士団に捕らわれた模様でございます」
「ほう? あのカーネルがしくじったと言うのか。敵の騎士団も中々目の付け所を考えているな」
「その騎士団の中に例の若い騎士転生者達もいたようでございます」
「ふん、あの若造達がカーネルを捌いた、と言う訳か。あながち節穴ではなかったようだ。今後もスジエルに監視役を忍び込ませておけ。時が来ればあの地のマナをも奪う」
「御意」
 側近の男はアガルダの命令を遂行する為に玉座の間から出て行く。アガルダもまた男の行動の忠実さや速さには一定の評価を付けている。
 さて、とアガルダは少しだけ魔力を高めて目の前に浮かび上がる鏡に高めた魔力を注ぎ込む。そこにはオジナルの王女であるヴェレネットが祈りの間でアガルダの為に祈りを捧げている姿が映る。
 アガルダはそのヴェレネットに魔力を通して言葉を送る。言葉を聞いたヴェレネットは立ち上がりすぐさま玉座の間に向かって移動を開始。
 漆黒の髪を右手の指先に絡ませて遊んでいたアガルダは一見すると若い王子のような風貌を持つ人間に見える。だが、外見は魔力でいくらでも作り替える事など造作もないのである。
「失礼します。アガルダ様、お呼びでございますか?」
「ヴェレネット、時は満ち始めている。計画の実行を急がせよ」
「それは嬉しいお話でございますね。承知致しました。すぐに騎士団を集結させて進軍の用意に取り掛かります」
「他の転生者についてはどうだ?」
「人狼に2人、エルフに1人確認しております。まだその者達には覚醒は認められていません」
「クククッ、早熟か晩熟か……私を楽しませてくれればいい。あくまでこの支配は序章に過ぎんのだからな」
「アガルダ様、今宵祝杯宴でも設けましょうか?」
「どの様なメインを用意する?」
「処女達の生気を集めたワインでも如何でしょうか」
「よろしい。その折りにはヴェレネット、お前も私に従え」
「はい、この身体も心も魂も全てアガルダ様の為に捧げます」
 ブロンズ色の髪をサイドでまとめているヴェレネットは頬をほんのり赤くしてアガルダを見上げている。アガルダもまたそんなヴェレネットを好ましく思い味わっているのであるが。
 ヴェレネットが騎士団の編成に向かう為に玉座の間を辞するとすぐに入れ替わりに数人の配下達が玉座の間に現れる。全員が男だが頭に角や尻から尻尾を生やす魔族の姿をしている。
「アガルダ様、四天王全員参りました」
「来たか。魔界はどうだ?」
「ガイエリット・イルスールト・オベロナスの3名が上手く統治しているので思っている以上に従軍が叶っております。表の世界に進軍する際も不手際はないかと」
「キャロドゼ、お前の采配もあるのだ。もう少しアガルダ様に報告せんか」
「そうだ。お前はいつも影役者。こんな時ぐらい堂々と戦果を報告するべきだ」
「……最も、お前は戦果よりも実力主義だから戦果には興味はないか」
「この様に好き勝手言っておりますが魔界での統一戦は既にこちら側の勝利は確実。憂いは断てたかと」
「本当にお前達のように自我が強いと助かるな。よし、ガイエリット・オベロナス、お前達は表世界の進軍を担当せよ。キャロドゼとイルスールトは魔界から軍を率いてオジナルの大地に魔力を注げ。マナを1滴残らず絞り挙げるのだ」
「「「「御意」」」」
 四天王の4人はすぐに命令を実行に移す。アガルダはその姿を見届けて座っていた玉座から立ち上がり天井に顔を向ける。
 そこには黒い繭があった、どす黒い色の繭が。中で何が生育されているのかはアガルダ以外には知る者はいない。
 繭に魔力が注がれていくのと同時にアガルダはニヤリと口元を歪ませる。この繭が裂けて中にいる生体が産まれ落ちた時、全てはアガルダの掌の中で完結する。
 それは決して抗う事の出来ぬ絶望の始まり。悲しみと苦しみを糧に、絶望を生きる者達の断末魔と怒りを浴びてこの繭は生体を育む。
「もうじき最終段階に入る。スジエルが希望の国と称していられるのも今の内よ。全ては私の計画通りに事は進んでいるのだからな……。そう全てはバルシスの誕生の為の計画だ」
 アガルダは繭にそう言い聞かせて静かにその場を後にする。このオルガスタン大陸に眠りし生命体をアガルダは解放しようとしている、それが破壊をもたらす存在だと知ってなおの行動である。
 破壊神バルシス、オルガスタン大陸の創世期に秩序神ディゼッグと呼ばれる神と対として産まれし絶望と混沌をもたらす神として降臨していた神である。その破壊神をアガルダは降臨させようとしているのだろうか。
 その頃の世界樹の聖地ではある変化が起こり始めている所だった。世界樹の木々から雫が落ちて根元に小さな蕾を生み出す花々を育てていた。
 その花々の蕾が開花していくと背中に羽を生やした小人達……妖精達が誕生して世界樹の世話を始めて行く。妖精達は世界樹の痛みを癒し、言葉を聞き、そして行動する。
『妖精達よ。私の言葉を聞いて判断して欲しいのです。世界はまた始まりを告げようとしています。ですが、それは急過ぎる始まり、今はまだ低速に世界を回さねばなりません。そして、オルガスタン大陸の封印も解かれ始めている……どうか世界の流転を抑え、封印を結び直し、全ての者達に私の愛を届けてください』
 妖精達は世界樹の言葉を聞いてオルガスタン大陸のあちらこちらに飛んでいく。1人の妖精もまた世界樹の言葉を聞いてオルガスタン大陸のスジエルへと舞い下りてきた。
 ここに転生者がいる、そう世界樹の心に触れた時に教えてもらった。転生者に世界樹の言葉を届けなくてはならない。
 この先に訪れるだろう激戦を生き残る為にも、世界樹の愛を受けてもらわないといけない。妖精のミリーアは背中の羽を動かしてスジエル国内を飛び回る。
 転生者、ガイアとフェランドの姿を探して。世界樹はミリーアの視界を通してスジエルの人々へ想いを馳せる。
『このスジエルは私の加護を受けた者達がいる。その者達を通して転生者達を導くのも私の役目。ミリーア、どうか出逢えますように……運命の転生者達と。そして、私の言葉を届けて下さい』
「この建物から感じる……。この中にいる!」
 ミリーアはレジェース本部の窓から建物内に入って転生者を探す。一見するとすぐにミリーアは騎士達に見付かって騒ぎになる筈だが、魔力が高い妖精は姿を隠す事は簡単に出来てしまう。
 目的の転生者を見付けるまでミリーアはレジェース本部内を飛び回った。そして、アルフォードの執務室に集まっている4人の騎士達の気配を辿って訪れて確信する。
「見付けた!!」
「えっ?」
「聞こえたか今の?」
「どうしたのですか2人とも」
「聞こえた、とか言っているが何か聞こえたか? 俺は何も聞こえなかったが……」
「お2人は聞こえなかったですか? 子供ような声が」
「俺とフェランドには聞こえたみたいなんですが……」
「俺も聞こえた。世界樹の加護を受けた者がいるのかも知れんな」
 アルフォードも聞こえたと言う子供のような声にガイアとフェランドも周囲を見回して声の主を探す。ミリーアはアルフォードの肩に降りてアルフォードの耳元で囁いた。
「私は世界樹の雫で育った妖精のミリーア。世界樹の言葉を届けに来たの。姿を見せても驚かないでほしい」
「ふむ、どうやら世界樹の妖精がここにいるようだ。皆、驚かさないように平常心を保て」
「妖精、ですか?」
「驚くなって言われても見当たらないんですが……?」
「私やルーデリッシュも見れるのでしょうか?」
「ミリーアよ、その姿をこの者達や私に見せておくれ」
 ミリーアにアルフォードが告げるとミリーアは小さく頷いて魔法の力を解除する。アルフォードの肩に乗ったままで姿を見せたミリーアに全員がキョトンとして見つめた。
 ミリーアは白い身体にピンクの羽を持ち、髪は青色で少女のようなワンピースを着ていた。フェランドがミリーアを見て嬉しそうに頬を緩める。
「こんなに愛らしいんだな妖精って。初めましてミリーア。俺はフェランドだ」
「俺はガイアだ」
「私はアベルゾと申します」
「ルーデリッシュと言う」
「ミリーアよ。転生者は誰と誰?」
「俺とガイアだよ。君は世界樹の妖精って事だけれど一体どうしてここに?」
「私は世界樹の言葉を貴方達に届ける為にやってきたの。知らないといけないわ、このオルガスタン大陸の秘密の事も、アガルダの目的の事も、そして……世界樹の役目と願いを」
 ミリーアが静かに告げる言葉に全員が耳を傾ける。そして、その語られていく言葉にガイアもフェランドも自分の命の宿命を知る事となる。
 魔神アガルダの狙い、オジナルの進軍、世界樹の言葉、それらが徐々にガイアとフェランドの運命を狂わせて、そして巻き込んでいく。その果てに何があるかは誰にでも分からない、分からないからこそ、抗って生きるしか道はないのだろうと誰かが告げる。
 1人ではない、仲間と友がいる。その絆を胸に進む事が一番の王道だと告げる者達の姿を見る事になるだろう。
 全ての始まりはここから始まる。そう……運命の歯車は静かに嚙み合って動きをスムーズにするのだから――――。
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