騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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3章

23話「マナの呪いと闇の血」

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 ルーベリド王女の回復には運命の騎士であるガイアとフェランドの血が必要。それは同時に2人の血は魔神アガルダの手によって転生させられし運命から闇の血と呼んでもいい程に魔に魅入られている。
 しかし、「マナの解読」を失敗したルーベリド王女の自我を侵食しているマナの力は強大で強い。だからこそ、聖なる血では解除は叶わない……魔に魅入られた血でどこまで回復させれるかは儀式を執り行わないと分からないのが正直な本音ではあった。
 ガイアとフェランドは儀式の準備が整うまでの間に出来る準備として、体内の血を出来るだけ増やす事。その為の食事も薬も用意されガイアと一緒の食事を食べていたフェランドの食欲は目を見張るものがあった。
「よく食べれるなフェランド」
「ん、食べなきゃ血は増えないだろ? それに、この血を使って王女様をお救いする事が出来るのであれば倒れたりしない程の血を蓄えておかないと。ガイア、食べろ!」
「お前みたいに大食漢じゃないんだよ俺は。こっちの薬で増血しておく」
「薬に頼っていたらいざって時に倒れちゃうぞ。騎士たる者の身体は資本なんだから」
「はぁ、お前に騎士の身体についての説教を受ける日が来るとはな」
 ガイアは薬が入ったワインを飲みながらため息を吐き出す。そもそも、ガイアの身体はフェランドと違って全身がバランスよく筋肉が付きにくい細型の剣士。
 フェランドはガイアと違う筋肉質の身体を維持しているので、食べる食事もガイアより基本的に多いのが特徴的な剣士でもある。ガイアの食べている食事の倍をフェランドはもう平らげようとしている所であった。
 元々はガイアの1人で血を賄うというガイアの考えはアベルゾとフェランドの反論にあって却下され、フェランドが自分の血も使う事で場は収まった。だからこそ、ガイア以上の血を出せるだろうフェランドはガツガツ食べている所ではあるのだが。
「んぅ、お代わりしてくる」
「まだ食べるのか……」
 食事のお代わりしに行くフェランドをガイアは驚きで見送る。ガイアは昔の生活を思い出していた。
 考えれば自分とフェランドは村にいた頃は食事もロクに食べれるだけの稼ぎは珍しい方だった。このレジェースに入るのを考えた時からとりあえず腹に入れば同じだと考えて、野草や獣を仕留めて食事にしていた時期もある。
 今は運命の騎士としてそれとなしに新人騎士の中でも優遇されている立場にいるお陰で食いっぱぐれる事は無くなっているが、フェランドだってまだ成長期が過ぎているとは言えまだまだ食べ盛りな筈。食べられる事が楽しみにも繋がっているのを考えると止めれないのもガイアには理解出来ていた。
「よく食べてるのも成長、か……」
「ガイア、これならワインに合うんじゃないか?」
「チーズリゾット?」
「チーズの料理がこれだけだったから。ワインにチーズは鉄板なんだろう?」
「まぁ、そうだな。サンキュ」
「ん、沢山食べれる内に食べてしっかり血を蓄えないと。俺達が頑張らないといけないんだからさ」
 フェランドは焼き立てのライ麦パンと羊肉のシチューを食べながら笑顔を浮かべる。ガイアもフェランドが貰ってきてくれたチーズリゾットをワインと一緒に食べてその日の食事を終える。
 儀式は準備が素早く行われる、エヴァとアルフォードは運命の騎士達を呼ぶ数時間前に落ち合い儀式の流れを確認していた。この儀式は簡単に終わる代物ではない事は2人が充分に理解はしていた。
 エヴァは腰に差している剣に光を満たす魔法を掛けて、アルフォードは儀式に使う杯に聖なる魔法を掛けていた。神官レベルの者達の魔法だけでもいいのだが念には念を入れようと2人の魔法も行使して万全の状態を維持する事にした。
「これで粗方用意は出来たか」
「あとはマナの呪いに闇属性に近いあの2人の血がどの様な反応をするかで状況に合わせて対応すれば問題はなかろう。しかし……魔神アガルダはこれすらも読んでいた、と思うか?」
「それは俺にも分からん。だが、王女の失敗は読んでいたとは考えられる。でなければこの時期に進軍の情報が入るとは偶然ではないだろう」
「レジェースの軍師達も動いているが……あまり状況としては思わしくないだろう。今の時期に戦争はあまり好条件ではないからな」
 エヴァの瞳にはある不安が浮かんでいた。それはアルフォードも同じで。
 世界樹の声が、聞こえない。今までは世界樹の祝福を受けていたエヴァとアルフォードにはどんなに小さくても声が聞こえていたのに、今聞こえていない。
 これが何を意味するかは2人には充分過ぎる程の経験が答えを導き出す。……死が待っている事が分かってしまう。
「俺達もそろそろ、と言う訳か……」
「だが、俺達の命が最後になったとしてもこの時代で終わる筈だ。そう……運命の子達はこの時代に揃っている。あとは歯車が綺麗に噛み合えば問題は終わると言えるだろう」
「だが、そこに至るまでの導はない。あの子達がどんなに苦しい世界へ向かうかを導いてやるべき存在が出来れば欲しい」
「俺達にはここであの子達を生かす役目がある。後の事は時代の流れに任せるしかない。エヴァ、俺達は運命には飲まれるしかないんだよ」
 エヴァの赤味のある茶色の長い髪の毛がエヴァの顔を隠す。アルフォードの金色の肩までの髪が揺れてまたこちらもアルフォードの顔を隠す。
 2人はこの儀式に命を落とす事を示唆をしていた、自分達に祝福を授けていた世界樹の声が聞こえないと言う事はそういう事なのだと2人は察している。それだけこの儀式が危ないのと同時に大事な意味を持っている事は明白なのであるから。
 儀式の場所は「マナの解読」が行われた神殿の広場で行われる事に定まった。儀式の為に描かれた魔法陣の中央に置かれた台座にルーベリド王女の身体が座らされると王女には固定具が装着される。
「これよりルーベリド王女の身体からマナの呪いを解呪する儀式を執り行う。神官達と巫女達は魔法陣の外で待機し、運命の騎士達と守護の騎士達は魔法陣を囲むのだ」
「いよいよだな」
「王女の為にも、頑張らないと」
 儀式の開始を告げるアルフォードの言葉に従ってそれぞれの役目を持つ者達は指定の位置に移動する。ガイアとフェランドも運命の騎士として魔法陣の傍に近寄る。
 王女の左右にエヴァとアルフォードが陣取り、王女の足元にはフェランドとガイアの血が必要になる窪みが掘られているのが伺えた。フェランドとガイアが一歩前に出て王女の足元に片膝を付いて頭を下げる。
 エヴァの剣がガイアの左手の手のひらを切り裂き、アルフォードの剣がフェランドの右手の手のひらを切り裂き、血をその窪みに流し落とさせる。徐々に窪みに血が溜まり始めると神官と巫女達の詠唱が始まる。
 神聖魔法が完成に近付くと同時に王女の口から悲鳴が上がり始める。マナの侵食に侵されている自我、つまり魂の浸食からの激痛に悲鳴が上がるのは予想出来た事であるが皆の耳には悲鳴は心を痛める声に聞こえてしまう。
「詠唱を止めるな! 続けてくれ! 王女の御身を守る為に必要なのだ!」
「っ」
「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
「キツイ……な」
 血を流しているガイアとフェランド達にも間近で聞こえてくる王女の悲鳴には眉を寄せてしまわないと絶えれない悲痛な悲鳴に心が痛む。そして、詠唱が完成してマナの侵食を最大の威力で王女から解除する為の呪文が掛けられる。
 一際大きな悲鳴を上げて王女は意識を失い、その口から黒くて得体の知れない存在が流れ出てきた。その存在が徐々に広場の全体を覆い隠す程に広がりを見せると騎士達に警戒の色が濃く出始める。
 その存在が明らかな殺意を持って王女へと襲い掛からんとし始めているのを歴戦の騎士達も見抜いたからである。ガイアとフェランドも剣を引き抜きエヴァとアルフォードの前に立って王女の防衛に入った。
『オロカナ、ヒトノコ、ダイチヲ、メグル、マナノノロイヲ、ソノミニ、ウケシコ』
「これは……?」
「まるで魔神アガルダの手下の様な言い方だな!」
「まるでではない。この存在は魔神アガルダの手下だ」
「「マナの解読」からお救いした時に気付いたが……このオルガスタン大陸のマナはある程度は魔神アガルダの魔力に染まり始めているのだろう。ルーベリド王女の身体へ侵食したのも狙いがあっての事だろう。皆! 王女をお救いするぞ!」
「おー!!」
 魔神アガルダの魔力に染まっているマナの存在を知ったガイアとフェランドも剣に魔法を宿して存在に構える。だが、攻撃を仕掛けてきたマナの呪いという存在の攻撃は特殊であった。
 騎士達の攻撃は全然当たらないでそれどころかお互いの剣で傷付け合う始末。何が起きているのかとガイアとフェランドは状況を理解する事に集中する事で状況を知る。
 どうも騎士達の視界には仲間が敵に見えている状況らしいのが分かって、対策法として意識下の回復を試みる必要があると判断したフェランドが回復魔法の詠唱に入る。ガイアの魔力がそれに呼応して高まって行くと同時に王女の周囲に高強度の結界を展開させる。
「このままだと同士討ちで自滅するか」
「やはりこの手の敵には剣は通じない」
「エヴァ様と総団長は王女を! 俺とガイアの輝きでなんとかします!」
「フェランド、呼吸合わせてくれ!」
「エヴァ……いいか?」
「これも運命、そう受け入れる以外ないのだろう。後悔はない」
「ガイア、フェランド」
「「!?」」
 アルフォードの言葉に振り向いた瞬間、2人の身体は急激に動けなくなる。何が起きたのかと困惑するガイアとフェランドにアルフォードとエヴァの瞳が向けられた。
 2人の何かを決意している瞳にガイアもフェランドも冷や汗が背筋を流れるのを感じ取る。そして、エヴァの身体に光が集まったかと思うとマナの呪いが急激にエヴァの身体に吸い込まれていくのを目撃してしまう。
「マナの存在を攻撃するには……この方法が一番効果的だ」
「そして、これにはそれ相応の力が必要となる」
 そう告げたエヴァの顔にはマナの呪いの濃く醜い痣が刻まれてエヴァの意識を奪い始める。そして……ガイアとフェランドの前でアルフォードはその右手に持った剣で意識を奪われ始めているエヴァの心臓を貫くのだった――――。
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