騎士の勇気・世界樹の願い

影葉 柚希

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7章

46話「進め!この先に終わりがある!」

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 オジナルの軍勢がスジエルに迫りつつあった。そのオジナルの軍勢の中心にはオジナルから出てきただろうアガルダの姿もある。
 スジエルの防衛を担う騎士達はアガルダの存在に畏怖する者が多く見られていたが、ルプスとアベルゾ、ヴォルグにジェイド、そして……ガイアとフェランドの存在が騎士達の心に勇気を灯す。まだフェランドは起き上がるまでの力を回復させていないのでガイアが付き添って介抱しているとアベルゾにジェイドが報告する。
 ガイアとフェランド以外のメンバーはスジエル王城の玉座の間にてルーベリド女王とユリウスの前に卓を置いて話し合いを進めていた。スジエルとオジナルの直接対決はもはや避けようの出来ない事実、これにおいて市民の避難も素早く行われてスジエルに残っているのレジェース騎士とルーベリドとユリウス、そして一部の大臣達のみ。
「現在のオジナル軍勢の位置はこちらになります。このまま進軍が進めば1週間以内には国境付近の防衛線は突破されるかと思います」
「それと同時に部隊の編成に急ぎ時間を取り最終防衛線を構築する必要があります」
「市民の避難は全て完了しているので、市内にオジナル軍勢を誘いこんで各個撃破を推奨します」
 大臣達や防衛を担う騎士達の意見の応酬を黙って聞いていたアベルゾは、静かに卓上の地図に視線を向けていた。ルプスも同じ様に視線を向けて何かを考えている。
 ヴォルグはジェイドと一緒に座って黙っている。ジェイドは大臣達や騎士達の意見を黙って聞きながらアベルゾの発する言葉が出るのを気長に待ち続けていた。
 玉座にはルーベリド女王と隣にユリウスが立って事の成り行きを見守っている。2人はこの戦いで命を落とす可能性もある事は自分達なりに充分に理解はしている。
 アベルゾがパチンと懐中時計の蓋を開けて時間を確認する、記されている時間を見てアベルゾは静かに玉座の間の入口に視線を向ける。ジェイドやヴォルグ、ルプスも同じ様に自然を入口に向けた。
「失礼します」
「遅れました」
「来ましたね。さて、現状の話を致しましょう。オジナルの軍勢は既に国境に進軍、国境守備隊もそんなに長くは持たないのが現状で分かっています。そして、このスジエル本国での攻防戦が最終戦闘になると思っていいでしょう」
「アガルダ自ら軍勢を率いている。闇の力は既にスジエルのマナを侵食し始めているともミリーアちゃんが教えてくれた」
「それで、俺達には何が出来ますか? ガイアと俺にしか出来ない事があるから、待っててくれたのでは?」
 フェランドの決意はガイアと共にあった。そう、アベルゾはガイアとフェランドに全てを託す気でいる。
 それはきっとこの戦いで全てが決着するという覚悟と状況がそれを示している。そして、その強い事実はアベルゾの中に決意を決めさせるだけの大きさでもある。
 ガイアとフェランドはジェイド、ルプス、ヴォルグと共に向かわないと行けない場所がある。そう……世界樹の元である。
「君達が本当に最後の希望として残る事になるでしょう。しかし、その為には時間がどうしても必要なのは周知の事実。だから、陛下達もご決断して下さりました。貴方方を送り出す、そして、戻るまでこのスジエルを犠牲にします」
「……」
「俺達が正真正銘の希望の砦、って事ですか……」
「バルシスは私達にこう告げました。『運命の流れを断ち切り、そして、世界樹の本来の力を持ってアガルダを倒し、そして、最後の光をこのオルガスタン大陸に広げれば命は新たな存在に転生して大地を満たす』と。それが本当ならばここで犠牲になっていく者達の魂も救われるというものです」
 アベルゾはバルシスの言葉を信じる事にした。それは同時にガイア達を最後の砦として認めて、信じて、送り出す事の決意に繋がる。
 そして、アベルゾの言葉を引き継ぐ様にルーベリドが静かに言葉を発する。その言葉には絶望という色は感じられなかった。
「私達はこの戦いでどれだけの血を流して死していくかは分かりません。騎士達や戦う者達の死への恐怖は計り知れないものでしょう。ですが、それでもここでアガルダを倒す為には私達はここで土台として朽ちる事に遅かれ早かれなるべきだった。せめても騎士達の不屈の魂に寄り添える様に私達王も共に戦場の華と散ります。それが私達に出来る最後の役目」
「ガイア君、フェランド君、ルプス、ヴォルグ、ジェイド……君達に全てを掛けます。そして、終わらせて下さい。この暗黒の時代を」
 託されたのは命だけの重みではない。生きる為に、生まれ変わる為に、犠牲になる人々の魂をガイア達は背負う事になる。
 だが、誰一人それについての文句は言わない。言う事が間違いであると知っているし、言うつもりは毛頭に無いのである。
 ガイア達とミリーアがスジエル王城の神殿内部に案内される。そこから世界樹の元に飛んで最後の力を受け取りに行く事になる。
 その間にスジエルは戦場になるのは間違いない。そして、アガルダ自身がこの地のマナを吸収して最強と言っても過言じゃない強さになってしまう事も。
 ミリーアが力を解放する、周囲に光が満ち始めて入口が生成された。5人はその入口に足を踏み進める、スジエルの最後の希望達が旅立っていく。
「ご報告致します。運命の者達が旅立ちました」
「行きましたか。さて、私の仕事も大詰めですね」
「アベルゾ、苦労を掛けます」
「俺も最後までルーベリドを守って戦います」
「陛下、ユリウス様の御身は最後まで私達レジェース騎士がお守り通します。それこそが騎士の誇りであり、騎士のあるべき姿です」
「国境部隊が壊滅! オジナル軍勢物凄い早さで本国に接近!」
「……神々よ、どうか勇敢なる騎士達の御魂をお救い下さいませ」
 スジエルがいよいよ戦場になるまでそう遠くはない。世界樹は静かに佇んでいた、それはまるで眠っているかの様な静かな眠りの様で。
 ミリーアはもう世界樹の力を使えない。身体に蓄積していた力を使い切ってガイア達をこの世界に連れて来たからだ。
 ミリーアは薄くなっていく身体を見つめながら涙を浮かべる。今までの時間をガイア達と過ごせた事が何よりも嬉しいとミリーアは思っていた。
 ルプスの両手がミリーアの身体を包み込む。仲間達がミリーアの周囲に集まり見守る。
「そろそろ、だわ……」
「ミリーア……」
「こんなにも心が満たされているのは初めて……こんなに穏やかな気持ちで眠れるのね……」
「忘れないよ、君の事……いつまでも」
「ありがとう……皆がアガルダを倒して世界を光で満たしてくれる事、信じている……いつか妖精も幸せに暮らせる時が来たら……また一緒にいたい、な……」
 そこまで言ってミリーアの身体は消えてしまった。仲間達はまた1人大事な戦友を失う。
 でも、ここで立ち止まる訳にはいかない。自分達には多くの希望が託されている。
 静かに消えてしまった仲間を心に刻んで、フェランドは世界樹の中心に近寄る。
 マナの御子であるフェランドは両手を世界樹に伸ばす。そして、静かに心の中にある言葉を口に乗せる。
「聖なる力を持つ世界樹よ。俺達の願いを聞き届け、そして目覚めよ。その聖なる力によって闇を掃い、このオルガスタン大陸に希望の光を満たす為に、俺達に力を与えたまえ」
 フェランドの言葉が終わると同時にフェランドの身体から光が溢れ始める。フェランドの声と力に世界樹が応えていく。
 世界樹の中心にある水晶に封じられている少女の瞳が静かに開かれていく。そして、水晶の表面に両手を押し付けて光を生み出す。
 その光が世界樹を中心にフェランドを始めとする運命の者達を包み込む。勇気のある力で闇を切り裂く力のヴォルグ、卓越した知能と先を見る力を使って仲間を支える力のジェイド、仲間を、友を、生命を愛して癒す慈愛の心のルプス、光の力を持って運命を切り開き引き寄せる力のガイア、光の子として産まれて光として生きる力のフェランド。
 それぞれの力がそれぞれの身体に宿っていく。全員の心に世界樹の言葉が届けられる。
『現実よりも理想を語る事は容易い。でも、それでも傷付いてでも前を向こうとする力を私は信じたい、そして愛したい。新しい世界を、未来を切り開き、そして願わくば全ての悲しみを終わらせて』
 世界樹の悲しみにも聞こえる言葉に全員が頷く。もう自分達しかアガルダを倒せる者達はいない。
 自分達が死ねばこの暗黒時代は永遠にこのオルガスタン大陸を支配して光は2度と差さない。重い運命でもある、それでも仲間と、隣で手を取り合える愛する存在がいれば希望を最後まで諦める事をする事はない。
 フェランドの心に光が満ちていく。世界樹はきっと愛してくれる、この傷付き、悲しみに染まった世界を愛して包み込んでくれる。
 フェランドは世界樹の水晶の少女を見上げる。少女はまた瞳を伏せて静かに眠りに落ちて反応はない。
「行こう。俺達が全ての鍵だ」
 フェランドの言葉にガイア達も頷く。世界樹の最後の力を受け取ったフェランド達は光が集まって生み出された出口に向かう。
 戻った先には希望なんて一欠片も残されてないかもしれない。それでも、そんな絶望に染まった大地でも自分達の愛した大地でもある。
 その大地を救う為に、生きとし生ける全ての人々や命を守る為に。運命の者達はその体に希望を宿して大地へと戻ってくる。
 スジエルの神殿に戻って来たフェランド達はすぐに血の香りを感じた。見て見れば入口を守る様に数人の騎士達の遺体が重なって出口を守り通していた。
 1人1人自分の命を掛けて使命を果たした男の誇りを見せている安らかな死に顔をしている。遺体を静かに退かして神殿の外に出たフェランド達が見たのは、死体の並ぶスジエルの変わり果てた光景だった。
 見た感じオジナル軍勢は既に退却しているのか闇の力は然程感じない。全員で王城の玉座の間に向かうと、ルーベリドを腕に抱いて息絶えているユリウスとユリウスの腕に包まれて息絶えてるルーベリドを見付ける。
「滅ぼされたんだな……」
「でも、陛下達は最後まで抗ってくれたんだ……こんなに穏やかな死に顔されている」
 ガイアとフェランドはルーベリドとユリウスの遺体を横に並べて手を握り合わせてあげた。その2人に深々と頭を下げる、ルプスはアベルゾの姿を探す。
 ジェイドとヴォルグもアベルゾ達の姿を探してジェイドがアベルゾの遺体を発見する。アベルゾは部下だろう騎士の前で微笑んで死んでいた。
 ルプスはそのアベルゾの遺体に近寄りそっと抱き締める。ルプスの腕の中でアベルゾの顔に付けられていた傷はルプスの魔法で癒されて綺麗な微笑みになる。
 絶望しかないこの現実をフェランド達は受け入れる。そして、立ち上がる、それが今出来る自分達の戦いの始まりだから。
 死んだ者達の希望を担う運命の者達。その者達は一路オジナルへと向かう……最後の戦いを終わらせる戦いをする為に――――。
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