私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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3章

20話「ランスロットの社交界」

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 団長として参加するだけ、そう腹を括れば案外なんとでもなると思うランスロット。だが、その結果として今の状況は遥かに予想を上回っていてどう切り抜けようかと思考を総動員で動かしているがなんとも切り抜けるのには至難の業であると分かってしまうのが辛かった。
 ティクス国王ケンベルト主催の社交界が開かれたのは騎士団の選抜戦の数日前。その日は朝からランスロットは登城すると同時にケンベルトの私室に呼ばれロゼットとケンベルトと入念な打ち合わせに入っていた。
 今回の社交界はケンベルトの威厳を保つ為でもあるが、帰国してエルンシア家の再興を考えるのであればランスロットの後ろ盾になる貴族との繋がりを確立させるには最適な場所でもある。だからロゼットとケンベルトはランスロットの為に色々と手を回している事を本人に伝えていた。
「今回の参列する貴族はどこをとってもティクス国に有益な貴族達だ。陛下の威信を保つ名目ではあるがこの場でランスロットの後顧の憂いを断つ事も出来る可能性がある」
「アレスの事もある。ランスロット、お前には騎士団団長としての顔でよりエルンシア家の当主としての顔で出てもらうぞ」
「ありがたい話ではあるが……俺はまだ家の再興は視野には入れてないんだ」
「そう言うだろうとアレスから聞いている。だがな、アレスからの兄の事を頼むと個人的に俺に頼んできているんだ。可愛い妹の願いを無下には出来んだろう」
「国王の俺にはお願いは出来る身分じゃないからこそロゼットに直談判したアレスの気持ちも組んでやれ。兄であるお前の未来を考えての願いだろう」
「……」
 ランスロットにはアレスの願いだとしても素直に家の再興の為に、好きでもない女性と一夜を共にする気はサラサラ無かった。どうしても女性といても脳裏には妹であるアレスの涙を浮かべている顔が浮かんで集中出来ないのである。
 だが、ケンベルトの威厳を保つ為にも今夜の社交界で失礼な行動は出来ない。ランスロットの腹は固まって社交界の開始直前になるまでアレスとは会わない様にしていた。
 だが、不思議な事にアレスの姿も話も聞く事のないまま社交界の時間になりランスロットはロゼットに用意された正装着に袖を通して会場入りしていた。ケンベルトの傍でロゼットと共に貴族達の挨拶を受けているとある貴族の男性がランスロットの前に出てきて深々と帽子を脱いで挨拶をしてくる。
「お初にお目に掛かります。私はティクス国のアルノーベルという一族を纏めているヘルトと申し上げます。ランスロット様には覚えがあるかは分かりませんがお父上の支援を受けていた一族の者でございます」
「知識不足で申し訳ない。父の生前の関係を持っていたお方でしたか。父がお世話になりました」
「こちらこそ、急なご挨拶をお許し下さい。今回陛下のご厚意でランスロット様との会話をお許し頂きましてな。ランスロット様の事を私は支援したいと心より考えている所でございます」
「それはありがたいお話ではありますが……、父が生前何をしていたかはご存知でしょう? その息子の私も同じ道を歩むのです。正直明るい身ではありませんが……」
「それも承知の上でございます。そこで私の一族と懇意にしてもらいたく今日私の孫娘をご紹介させてもらいたい。キャシーと申します」
「は、初めまして。キャシーと申します」
「キャシー嬢、お初にお目に掛かります。ランスロット・エルンシアと申します」
 男性は孫娘のキャシーと名乗る娘とランスロットの2人に時間を設けてお互いの事を知る様に、とテラスへと導いた。正直キャシーはランスロットの事を完全に騎士団の団長のランスロットとしてではなく、エルンシア家の当主としてのランスロットとして見ているのが雰囲気で察する事が出来た。
 少しの間ランスロットはキャシーと会話をして交流を取っていたがキャシーがそっとランスロットの右腕に両手を絡ませて来て背伸びをして囁いてくる。年齢が幼いと思っていたがこの娘、手練れているとランスロットの脳裏は警鐘を鳴らす。
「このまま2人だけの時間をお過ごしになりましょう……? 祖父もそれをお望みです」
「……」
「それとも、お断りになられますか?」
「かなりご積極的ですね……生憎、私は今家の再興を考えてはおりません。私には貴女様は猛毒の華の様だ」
「あっ……ランスロット様!」
 ランスロットはキャシーを払い除けて室内に戻って行く。男性はすぐに戻ってきたキャシーから状況を聞いて渋い顔をするがランスロットは平然とケンベルトに進言する。
「やけにご機嫌取りが多くないか」
「まぁ貴族とはそんなもんだろうよ。なんだ、幻滅したか?」
「父上の事を出してくる連中は信用出来ないだけだ。俺の家が何をしていたか本当に理解しているかも怪しい」
「ロゼットと同じ事を言うんだな。それより行かなくていいのか?」
「何処にだ?」
「あの入口にアレスが来ているぞ」
「!!」
「ロゼットに迎えに行かせているが火急の用件ではないと見える。心配で様子を見に来たんじゃないか?」
「少し離れるぞ」
 ケンベルトに口早にそう告げて会場の入口に飛んでいくランスロットにケンベルトもクスクスと笑って見送った。ロゼットに何かを伝えているアレスの姿を視界にハッキリと捉えたランスロットは2人の近くに来て声を掛けた。
「アレス! ロゼット様!」
「あ、団長!」
「おぉ、ランスロット、丁度いい所に来た。急いでアレスと共にローレンスの執務室に行ってくれ」
「何があったのですか?」
「移動中にアレスから聞いてくれ。あまりよろしい話ではない。陛下には俺からお伝えする」
「団長、急いで下さい」
「分かった。失礼します。アレス、行くぞ」
 アレスの手を掴んで会場から飛び出したランスロットは少し足早な歩調で会場から騎士の棟へと移動する。その途中でアレスが事の話を報告し始める。
 ローレンスの占星術で今夜ケンベルト国王の命を狙う暗殺者の動きが出たという事と、ティクス国の国境付近で不審な魔法の余波を感知した、とローレンスの報告があった事を伝えてきた。
「こんな時にか」
「それで今ローレンス様とハルウッド様が全騎士を集めて対応に追われています。団長に知らせに私が走ったのも私なら怪しまれずにお伝え出来るとガルド様から言われて……」
「ありがとう。これが事実なら社交界どころではない。アレスはすぐに他の騎士達に命令が届き次第の行動を早める様に伝達。俺はロルゾ達を率いて陛下の護衛に入る」
「承知しました!」
 アレスはランスロットと共に騎士棟に入ると同時に命令の遂行をする為に分かれて走って行った。ランスロットはロルゾ達の準備が整っているのを確認して腰に愛用のラインハッドを下げて号令を出す。
「陛下の御身を護る事を優先する。貴族には油断しないで警戒をしろ。会場の何処から暗殺者が入り込むか定かじゃない。怪しいと思った者には遠慮なく尋問を行え!」
 ランスロットの号令と共に騎士達は社交界の会場へとなだれ込む。既にロゼットか事態を聞いていたケンベルトはランスロットの姿を確認してロゼットと共に傍にやってきた。
 今は自分の命を狙う者達の存在を明るくしただけの事実だけでもありがたいとケンベルトの顔が安堵に包まれる。そして、少し間を置いて会場の中央から激しい金属音が鳴り響いた。
「敵襲! 暗殺者の一味がいます!」
「応戦しろ! 1人たりとも生かして逃がすな!」
「陛下はこちらに」
「ランスロット、ロゼット、すまない!」
「ここは俺に任せて近衛兵達とロゼット様と共に安全な玉座の間に行け!」
 ケンベルトの護衛を近衛兵とロゼットが引き受けて会場から脱出したのを確認したランスロットは暗殺者の一味に向かって言葉を掛ける。だが、予想に反して暗殺者一味はケンベルトを追うでもなく目の前のランスロットに攻撃を仕掛けてきた。
 会場が悲鳴に包まれる、ガキンと剣と刃のぶつかる音が響きランスロットの愛剣ラインハッドが暗殺者の一味の攻撃を受け止めて火花を散らした。ランスロットの1人に6人の暗殺者、分が悪いと貴族達は思っていたが暗殺者達はランスロットの強さを一撃で見抜いていた。
「どうした? 攻撃してこないのか?」
「っ」
「してこないのであれば……こちらから行くぞ!」
「!!」
 一瞬の出来事だった。ランスロットの身体が低い姿勢になったかと思った瞬間に周囲に展開していた暗殺者達は腹に深い切り傷を刻まれていた。
 ランスロットの振り抜いた剣が暗殺者達の腹を切り裂き、深手を負わせたのは暗殺者達の想像を超える素早さである事で理解したが、後の祭りであった。動くには深過ぎて、戦うにはまだ行ける程の深さの傷に暗殺者達の顔から死への恐怖が伺える。
 ランスロットの愛剣であるラインハッドは神々の主神であるラインハッドの加護を受けた剣で、その剣に宿る力は持ち主の身体能力を強化して剣の動きに威力を持たせるとも言われている。その剣に切れない存在はないとも言われている神剣でもあった。
 抵抗も出来ない暗殺者達を駆け付けたハルウッド達の部隊が抑え込み捕らえるとロルゾとガルドがランスロットの元に会場の中には既に敵意を感じない事を報告してくる。騎士団の素早い行動のお陰で被害も最小限に抑えられた事に貴族達から歓喜の声が上がるがランスロットの元には多くの貴族の女性達が集まり、ランスロットの勇姿を褒め称え今夜の時間を共に過ごしたいと猛烈なアピールとアタックの嵐を生み出した。
「あ、あの……」
「これは帰れないなランスロット様は」
「あーぁ、アレスが見たら幻滅するわな」
「見てないで助けてくれ!」
 ガルドとロルゾが冷めた眼差しでランスロットの事を見ている背後に、その光景を見てしまっていたアレスが悲しみに染まった瞳で見つめていた事は誰も知らない。ランスロットが社交界のご令嬢達から解放されたのは月が真上に上り、日付も変わり、そして団長室に戻ろうとして不意に誰かの後姿を見掛けた事で足を止める事になる。
 その後姿は月明りを嫌う様に暗闇に消えていくが、間違うことなどない……アレスの後姿である事をランスロットの視界は捉えていた。こんな夜に何処に行こうとしているのか? それが気になってランスロットは静かにアレスの後を追った――――。
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