私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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3章

21話「言い聞かせてなきゃ、自分に戒めを」

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 ランスロットが社交界での事件を解決し、そしてご令嬢達からなんとか解放されてから騎士団の棟に帰っていた時に見掛けたアレスの後姿。何故か1人にするのにはほっとけない印象を受けたランスロットは闇夜に消えていくアレスの背を追った。
 1人宿舎の反対側にある昼間にはメイドやコックが主に使用している休憩所でもある簡易的な建物の下にアレスは1人でいた。そして、その建物の下でアレスは声を殺して1人で涙を地面に落としているのをランスロットは見てしまった。
 どうして泣いているのか? 何がアレスに哀しい思いをさせているのか? それがランスロットには分からない。だが、このままアレスを1人で泣かせたくはない、そう考えて足を一歩動かそうとして他の気配を感じて動きを止めた。
「ア~レス」
「っ、あ、アル……」
「やっぱりここにいたか。社交界の会場に知らせに行ってから様子が変だと思って探していたんだよ。ほら、これで顔拭いて泣くの止めろ」
「ご、ごめん……」
「そんなに団長がご令嬢様達に人気あったのがショックなんだな」
「……でも、団長だっていつかはあの女性達と家庭を持つ方だもん。私が勝手に哀しむ権利はないよ……」
「それはあくまで騎士としての立場で言っているんじゃないのか?」
「……」
「”妹”としてはどうなんだよ。本当は嫌なんじゃないか? 団長の隣にいられなくなるの」
 アルの言葉にランスロットは眉を寄せてしまう。アルの口ぶりからしてアレスがランスロットが将来家庭を持つのは妹としては受け入れたくない事になると告げている感じだと受け取れるからだ。
 アレスはそれに対しては何も言葉を口にしない。だが、頬を伝う涙が闇夜の中でも分かる位に輝いて光るからランスロットにもそれがどんな意味での涙なのかは理解出来なかった。
 アルはアレスの兄が団長であるランスロットである事は兄であるハルウッドから聞いていたのであろうからこの際には目を伏せようとランスロットは考えた。それよりもアレスの本心がランスロットの今もっとも知りたい事ではあった。
「アレスさ、お前が団長の事を兄として慕っているのは周りの俺達でも分かるよ。でもさ、その先に抱えている想いを殺してまで自分を封じるのは違うんじゃないか?」
「でも……これは許されないんだよ……言い聞かせてなきゃいけないの私は私の心に……この想いは……この想いだけは戒めなきゃいけない……だって、それで今の幸せを壊す事になるなら……私は……私は動けなくなるっ」
「なぁ……誰かを愛する事は神々にだって止めれないと思うぞ。それが禁断だとしても、その想いは時に団長の魂を救う事に繋がるのであれば大事にするべきなんじゃないか? アレスの愛が神々が許さなくても、それは決して間違いじゃない感情だって俺は思う」
「……それでも私は殺さないといけない……あの人を……兄さんを想うのであれば……兄さんの幸せを心から望み、祝福して、そして見送らないといけない。それが妹の姿である私の……アレスとしての姿だから……」
 アルの言葉にアレスは胸の前で両手をキツく握り締めて吐き出す様に言葉を口にする。そこでランスロットの頭がすぐに動く。
 アレスはまさか自分の中にある想いを殺してまで”妹”としての立場を生涯演じるしか方法はないのかと考えている事に気付く。その考えと行動にどうして至るのか? それはアルの言葉を思い返せば簡単な答えである。
「……」
「俺はアレスを大事な友人で同期の仲間だからハッキリ言うな? 今のアレスは逃げている弱い人間だ。そんな人間が騎士なんていうのはおかしい。だって、自分の事も護れないで誰かの命を護る騎士なんてなれっこないんだ。誰かの未来を護る剣を握れるのは自分の事を大事にして責任が持てる人間だと俺は思う。……アレス、もう一度よく考えてみな? 本当の自分の心は何を求めているのか、そして、団長に伝えないといけない言葉はなんなのかをさ。……じゃないと本当の意味ですれ違って団長を苦しめるだけだぞ」
 アルはそこまで告げてランスロットのいる物陰に向かって歩いてきた。そして、ランスロットの方に視線を向けて小さく頭を下げる。
 アルは最初からランスロットの気配を察していたし、なんならいる事も知った上でアレスに話をしてくれていたようである事をランスロットは知る。アルが立ち去って1人俯いているアレスは暫くの時間地面を見つめたまま微動だにしなかった。
 ランスロットもその場から動く事が出来ないでアレスの考えや想いについて色々と考えへと想いを寄り添わせる。アレスがランスロットへ抱いている感情、それが禁断だと言われる感情である事はこの時点で明らかになった。
 アレスの事を今までの時間でそんな対象に見ていなかったか? そう自分に問うランスロットの心にも微かな戸惑いはあった。だが、すぐにその戸惑いは強い愛情へと生まれ変わって行く。
 アレスが静かに建物から離れて宿舎へと戻って行くのを見届けたランスロットの瞳には深い愛情が宿っているのが分かる。アレスの事を妹として見ていたと思っていた。
 だが、考えてみればアレスがあぁやってアルとこの時間帯で2人きりで会話をしていた事に対して胸の内に燃え上がる感情を認めてしまえば答えは簡単である。ランスロットもまたアレスを”妹”としてではなく”女”として求めていたのであるから。
「神々が許してくれないこの感情を俺は……アレスも同じ苦しみを味わっているんだな……」
 闇夜の星々が照らす夜の中で、アレスとランスロットの想いが同じだと気付く。そして、ランスロットの行動は早かった。
 翌朝、宿舎に出向いてアレスを呼び出すと指導役の騎士にアレスに今後は自分が指導を行うと告げてアレスの教育を担う事を告げる。これにはアルは微笑みを浮かべ、リディルとオルベは羨ましそうにアレスを茶化し、アレス本人は当然困惑した表情を浮かべてランスロットの決定を聞いていた。
「アレス、明日から屋敷に来なさい」
「えっ……で、でも……」
「これ以上お前を宿舎に寝泊りさせるつもりはない。家族としてあるべき姿も必要だろう。荷物を今日中に屋敷に運ぶ、帰りは一緒に帰るぞ」
「そんな急に……、一体どうしたんですか団長」
「これは団長として言っているんじゃない。兄として決めているんだ」
「っ」
 見せる柔らかな微笑みを見たアレスは頬を赤く染めて口を固く閉じてしまう。だが、それはアレスの想いを知っているランスロットの戦略でもある。
 団長として命じれば新人であるアレスには従わないといけない責任がある。だが、兄として、妹と一緒にいたいと言えば恋をしているアレスにはどんな理由であれ断る理由は考えられないのである。
 アレスのブルーの髪の毛にそっと右手を添えて上から優しく撫で下ろすランスロットの手から感じる愛情はアレスの決意を揺らがせる。ランスロットの決定にアレスは従い荷物を纏める為に一度離れて自室へと駆け出して行く。
 そこにハルウッドとアルが姿を見せてランスロットの両サイドを兄弟で固めた。ランスロットはアルにそっと視線を向けてこう告げる。
「経緯はどうであれ、君のお陰で妹の本心を知る事が出来た。お礼にはならないがハルウッドの指導を受けるといい。それに君には今後もアレスの事を見守ってもらう事になるだろう」
「団長とアレスが上手く行くなら協力は惜しみません。だって誰かを好きになるって素晴らしいと思うから。アレスには笑顔で団長の隣に立っててほしいだけです」
「我が弟がご迷惑をお掛けしていないならいいのですが……。しかし、ランスロット様の愛情を受ければアレス嬢も一段と成長麗しくなられましょうね」
「悪い男達から守るのも兄として……男として愛する者の役目だと思うからな。それに……俺は思っている以上に心が狭い。アレスの傍にいるのが俺以外の男がお前達でも嫉妬で焼き切れそうだ」
 ランスロットの言葉には本気さが伺えてアルは軽く怯え、ハルウッドは苦笑しながらアルを連れてその場から離れて行った。アレスの荷物が屋敷に送られてアレスが仕事の終了時刻に団長室に訪れるとローレンスとガルドも帰宅の準備をしている所だった。
 ロルゾは城内の風読み場所に部屋を持っているので城内の警護を担当しているのもあって既に団長室からは姿を消していたが、ハルウッドは弟のアルとの食事を摂る為に城内の食堂へと赴いたとローレンスがアレスに教えている。
「待たせたか」
「あ、いえ……。それじゃローレンス様、ガルド様、お先に失礼します」
「あぁ、お疲れさん」
「お身体を冷やさぬ様にお帰り下さいお2人とも」
「お疲れ様。帰るぞアレス」
「はい」
 アレスを連れて下城するランスロットは普段と同じ徒歩で屋敷までアレスを連れて帰る。アレスは普段とは異なる雰囲気と初めて生家であるエルンシア家の屋敷に行く事に少し戸惑いと不安を感じている様だった。
 屋敷に着くまでにアレスの緊張を解してやろうとランスロットがアレスの得意分野である戦略について色々と質問をしているとアレスの受け答えは徐々にしっかりし始めて、いつの間にかランスロットの隣に並んで歩き、見上げては嬉しそうに話してくれていた。そんな他愛無い時間を過ごして屋敷の前に着くとアレスの左手をランスロットは優しく右手で包み込む様にして握るとそっと屋敷のドアをくぐった。
「お帰りなさいませ、ランスロット様、アレスお嬢様」
「今帰りました。今日からアレスもここに。色々とお願いします」
「あ、あの……これからお世話になります。よろしくお願いします」
「こうしてアレスお嬢様もお帰りになられる事になるとは……先代が見たらどんなにお喜びになられるでしょうか。さぁ、お2人はお着換えを。アレスお嬢様のお部屋にもメイドが掃除をしておりますので快適にお過ごし頂ける筈でございます」
 執事の男性がベルを鳴らすと数名の老女メイドが現れてアレスを誘導して部屋に導いて行った。ランスロットは執事の男性にそっと目配せをして今夜のアレスとの時間を邪魔しない様に命じて自室に上がって行く。
 初めての屋敷であり帰るべき家になった場所で用意されていた部屋は綺麗であり、そこまで派手な装飾もなく過ごしやすい部屋だった事もあってアレスは運んでもらっていた荷物からシンプルなラフな部屋着に着替えようとしていたが、老女のメイドがすぐに部屋に訪れてクリーム色の優しい色をしたワンピースを持ってくる。アレスは少し困惑した顔をしてメイドの言葉を聞いて少し恥じらいながらそのワンピースに袖を通した。
「それではアレスはワンピースを受け取ってくれたのですね?」
「はい、それはそれは恥じらいながらもとても嬉しそうなお顔をされておいででした。お食事の時にお見えになるかと」
「少しでも年頃の女性が好む色と服を用意してくれてありがとうございます。これからはアレスの成長と共に色々とご迷惑をお掛けしますが」
「ふふっ、ランスロット坊ちゃまの愛するお方です。私達も出来る限りのお手伝いをさせてもらいますので。さぁ、アレスお嬢様に喜んでもらう為にお髪を整えましょう」
「お願いします」
 メイドの手によりシルバーの髪を整えてもらうランスロットはこの後に見れるだろうアレスのワンピース姿を楽しみにしていた。ワンピースを選んだのはランスロットで、アレスの為だけに今日の午前中に城下に降りて選んだ代物である。
 ランスロットはこの屋敷での2人での時間を使ってアレスを知ろうと思っている。それはお互いの心を繋げる為の大事な行為だと信じているから――――。
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