私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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4章

33話「他国訪問」

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 ティクス国を出て3週間、ランスロットとアレスはティクス国と過去に同盟協定を結んでいたエドゥル国に到着する。一見すると門構えから異なる他国であるエドゥル国。
 アレスは初めて見る他国の姿に心無しか興奮していた。ランスロットも入国手続きをしている間にアレスが兵士の人に声を掛けられてエルンシア家で培った貴族の振る舞いで対応しているのを見て1つは安心していた。
 エドゥル国に入国してまずランスロットは宿屋に向かう事にしていた。荷物を置いて市内を回る予定を考えていたのである。それとこの国ではティクス国から着ている旅人の服は存外目立ち過ぎる事もあって、服の仕立てに行こうと考えていたのである。
「アレス、荷物を置いたら出るぞ」
「うん、洋服だよね?」
「あぁ、それと一応この国に暫く滞在する事になるから仮の家を探す必要がある。それも踏まえて出掛ける」
「分かった。なんだろう、このエドゥル国って不思議な国だね」
「そう感じるか?」
「うん、ティクスとは全く家の造りとか市内の人々の生き方とか色々と学ぶべき事が多い気がする。エドゥル国ってどんな国なの? 知識としてはあるけれど他国に来るのは初めてだから」
「エドゥル国は古代に栄えていた文明を蘇らせた古代国とも呼ばれている。その文明は古代では”トウホウ”と呼ばれていたそうで、古き良き文明だったと聞く。俺も前に訪れた時に気になって色々とこの国の有権者である方々に学んだ事もあるが、住んでみて初めてこの国の良さが分かると思う」
「そうなんだね。それじゃ暫くはこのエドゥル国に馴染む為の努力をしなくてはならないって事になるんだ。楽しみ」
「観光で来れたらまだ良かったんだが、あくまで今回は神託の内容を調べる為でもある。だからあまり浮かれない様に」
「あ、そうだった……。ごめんなさい」
「いいさ。少しは旅の疲れも取りたい。この国の風呂場に行こう」
「お風呂? え、そんなお店があるの?」
「”オンセン”と呼ばれる湯がこの国は豊富でな。大浴場として解放している見せもあれば、家族だけで入れる家族風呂などもあるらしい。ティクスとは異なるが湯には効能と呼ばれる身体にいい成分が含まれているそうだ。興味沸かないか?」
「沸いた! 行きたい! 入ってみたい!」
「決まりだな。服を仕立てたら腹を満たす前に風呂屋に行こう」
 ランスロットの説明を聞いてアレスは初めてこの国での生活を楽しみにする事が出来るまでのリラックスが出来る様になった。そもそもエドゥル国に入る際にティクス国のエルンシアとは名乗っていないので、あまり派手には動けないので緊張と諦めはあったのだが。
 服の仕立てに来た2人はこのエドゥル国にて流行しているという”ユカタ”と呼ばれる動きやすく体温調整もし易い服を仕立ててもらった。出来上がったユカタを見ると確かにエドゥル国に住んでいる人々が着ている服によく似ていた。
 アレスのユカタは小さな華達が彩る女性向けの中でもブルーの髪の毛と合わさった白地のユカタ。ランスロットは藍色と呼ばれるブルーよりも濃い色の生地を使った無地のユカタを仕立ててもらった。
「これで少しは馴染めるといいのだが……」
「ランスロットは何を着てもカッコイイ! 私の自慢の恋人だよ!」
「アレスも愛らしい。着方は習ったな?」
「うん。1人でも着れる様に教わったよ。それじゃお風呂屋さんかな?」
「あぁ、それじゃありがとうございました。失礼します」
「ありがとうございました!」
「またご来店をお待ちしております」
 服を仕立ててくれた店を後にして、2人はユカタ姿を楽しみながら家族風呂が楽しめる風呂屋に向かう。家族風呂屋は市民の間でも貴族達に人気があり、2人が行くと店の主が見晴らしの良さを口にしてどんな風呂がいいかと訪ねてくる。
 何系があるのかとアレスが店の壁に張られている風呂の内装一覧を見ている間にランスロットは、チラチラと感じる女性からの視線を何事だろうかと呑気に考えていた。アレスがランスロットの手を引いて壁の前に連れて行くとこれがいいと指差したのは「恋人の湯」と書かれている家族風呂であった。
 それが空いているか聞いてみると空いていると言うので、2人はその恋人の湯に入る事にする。タオルを受け取り案内された風呂場に行くと他の人間が入って来ない様にと、内側から鍵をしてくれと注意を受けた2人は脱衣場に入る。
「うわぁ~広ーい!」
「鍵をして……。どんなに広いんだ?」
「お屋敷の数倍はあるよ。騎士団の大浴場並みに広い」
「それは期待度が上がる。それじゃ脱いで入るとするか」
「うんっ」
 ランスロットはスルスルと帯を解いて下着姿になれば腰にタオルを巻いてから下着を脱いで裸になる。アレスも帯を解いて下着姿になれば少しランスロットに背を向けてブラジャーを外してからタオルを身体に巻いてショーツを脱ぎ裸になった。
 身体を重ねる事はするものの、こうして明るい時間に肌を晒すのは正直野営の時に傷口などの消毒時以外にはないので恥ずかしさがある。そんなアレスに微笑みながらランスロットは浴場に足を踏み入れた。
「これは……凄いな。これだけ広いなら身体を伸ばしても問題はないだろう」
「本当にね。お屋敷のお風呂も大きいけれどここまではないから。騎士団の大浴場もなんだかんだで足を伸ばすのはあまりよろしくないし」
「……」
「どうしたのランスロット?」
「屋敷の風呂をもう少し広げるか」
「えぇ!? ほ、本気?」
「そしたら使用人の皆もゆっくり入れるだろう? 俺達を優先するあまり皆は最後に入っているし。1日の疲れはこういう広さのある風呂でなら癒せるだろうと思って」
「あぁ……。そうだね、執事の人やメイドの人もそれなりにお歳を召している方々だし、ランスロットがしたいならしてあげたら喜ばれると思う。私は少しお風呂の道具とかシャンプーとかを皆さん用に揃えてみようかな」
「きっと喜んでくれると信じよう。さぁ、アレス身体が冷えるといけないから入って温まろう。上がったら食事が待っているし」
「はぁ~い」
 広い風呂に2人で入ってみると適温という温かさで、長湯しても身体に疲労が残らない程の温度であった。それで身体を芯から温めた2人はしっかりと身体を拭いてユカタを着込み風呂屋を出る。
 他国の地でもあるが為に慣れない土地ではあるが、まずは腹を満たして次なる行動を起こす必要がある。それは騎士の時代から身体に染み付いている習慣というか考えでもあった。
 食事を軽く済ませた2人は空き家を探して土地や家を貸し与えているという店に出向く。このエドゥル国にはそういう店が多く存在しているらしく、外部の人間が定着しやすくしている政策であると思われる。
「すみません、ここで家を紹介してもらえると伺ったのだが」
「はい、いらっしゃいませ。どの様なお家をお探しですか?」
「2人で住んで、短いが2か月ほどの滞在を考えている」
「2か月滞在で、住むのは2名様……それでは市場に近く、このエドゥル国に最も外部の方々が多く住む通りに1件空いています。そこでしたらエドゥル国の政令で無償でお貸しできますよ」
「え!? なんで無償でお借り出来るんですか??」
「このエドゥル国に来られた方々はエドゥル国に住んでみないと良さはお分かりになられませんので、国王様が政令で旅人の方々には無償でお貸しする様に、と私達に命令されているんですよ。最も、国王様のお考えが私達はすごく支持しているので命令がなくてもお貸しするんですけれどね」
 店の女性がそんな風に話をしているとランスロットに家の場所を書いた地図を差し出す。それを受け取り鍵まで差し出されて2人はとんとん拍子で家を借りる事が出来た。
 店を後にして宿屋に戻った2人は今日は宿屋で過ごし、明日以降は新居で過ごす事で同意した。他国訪問でもあるがアレスには初めての他国訪問。
 エドゥル国に来るまでの間の疲労感も相まってベッドに横になって休んでいたアレスは、いつの間にかスヤスヤと寝息を立てて眠っていた。ランスロットはそのアレスをしっかりベッドの中に入れて寝かせるとブルーの髪の毛を撫でながら寝顔を見つめる。
「この旅で少しでもアレスが自分に課せられた運命と向き合ってくれるならば……俺はそれを支える為に剣を握ろう。それしか出来ない兄を許してくれ……」
 アレスの寝顔に瞳を細めて見つめているランスロットは1人心の中でアレスへの謝罪を浮かべていた。もし、自分がティクス国聖騎士団長でなければきっとアレスが騎士になる事も無かっただろう。
 そして、貴族としての振る舞いも生活も送る事も無かった筈だと考えている。だが、これは神々が自分とアレスに与えた試練でもあり、そして、これを乗り越えた先にアレスにとってはまだ明るいとは言えるか分からない未来が待っている。
 アレスはまだ20歳、対してランスロットは42歳。どう考えても先に死ぬのは自分だと分かっている。
 今の内にアレスの歳に見合った結婚相手を探してやるべきではないのだろうか。そう考えても、今アレスを手放せるか? そう問われても手放す勇気を持てないランスロットは頭を横に振る。
 今、アレスを手放せばそれはアレスの幸せを願うと口で言っても心がそれに耐えれないのは明白であり、同時にアレスからの信用も愛情も失う事に繋がるのをランスロットは知っている。だが、いつかは……いつかはアレスの為に相応しい相手を探すのもアレスを想うのであれば必要だとも理解はしているのだ。
「俺の心1つでアレスの未来を左右する……それが許されるのであれば俺は、まだアレスを……アレスだけは……」
 アレスの寝顔を見つめながらランスロットは瞳から透明な涙を一筋流す。この瞬間が、この旅が永遠に続けばこんな想いをしなくては済むのだろう。
 だが、それは神々が許しはしないだろうしアレスもまた許しはしないだろう。そう、結局アレスもランスロットも、いつかはティクス国に戻り自分達の運命を受け入れて向き合わないといけない事は理解しているのだ。
 けれども、このあどけない寝顔を見せる最愛の妹であり女性でもあるアレスを、今だけはこのまま安らかに眠らせていたい。自分がそう守れる間は、この安らかな時間を守り続けていきたいと願ってしまう。
 アレスの運命を知るのが神々であるとしても、それに従って生きるかはそれはアレスの心が決める事。それの判断を受け入れてランスロットは守る事でアレスと共に運命を受け入れようとしている。
 ランスロットはこの運命にどう抗い、そして愛するアレスを守り通せるのか。そして、神々がアレスに下す本当の神託をこのエドゥル国にて聞けるのかはまだ分からないままであった――――。
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