私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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8章

65話「届く、愛する者の声」

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 死者の塔が崩れていく最中、崩れ行く塔の中から天使の様な光が舞い降りているとの報告を受けて現地に駆け付けたランスロットとロゼット。アルフォッドとオルベをハルウッドが引き離す様に連れて行ってくれたお陰で光の主との対面を果たす。
『ランスロット、久しいな』
「ルトか。それでこちらの天使様は俺の」
「ランスロット……この様な形で再会を果たす事を許して下さい。そして、貴方に急ぎ向かってもらわないといけない場所があります」
「その地とは? あ、申し遅れましたな。俺はロゼット、前聖騎士団団長で今はティクス国の軍師をしておる者です」
「私はフィンと申します。アレスは死者の塔の王……ラオンの手により異界へと連れて行かれてしまいました。そして、異界に通じる門を物理的に封鎖してしまっています」
「ラオンも頭が切れる武人ではあるとは聞いていたが……。お婆様、何故アレスをラオンは連れて行ったのですか?」
「恐らくその身に開花させた天使の力に目を付けたのでしょう。何かに利用する気なのだと思います。異界への入口は私が知る限りこのガハランド大陸の最北部にある泉にあります」
「最北部の泉……ティズル湖の事か」
 ティズル湖と呼ばれている泉はかなり大きな湖であり、一見すると海の様な水平線すらも見える大きさを誇る。その湖に異界への入口があるとフィンは話す。
 ガルドとロルゾもやってきて塔の崩壊状況の報告をしてくれている間のランスロットを、フィンは瞳を細める。アレスを守れなかった自分を責めるでもなく、前向きに状況判断を行っている孫にフィンは心から尊敬してしまう。
 ロゼットがフィンに休む様に告げるとフィンは首を横に振り自分の使命を話し始める。それはフィンの生き残ってしまったが故の使命でもあると話す。
「私が異界への入口を開く事が出来ます。それを維持してこのガハランド大陸と異界を繋ぐ間は私の全ての力を使ってでも皆さんを異界に行ける様にします」
「それでは命を削られると申されるのですかな?」
「はい。それが私の出来る使命でありますから……」
「お婆様、その様に思い詰めないで下さい。貴女が生きている事は俺やアレスには物凄くありがたく、嬉しい事なのですから。お婆様の命を削らせる事は致しません。俺が……俺が神の申し子として神々の力をお借りするまでです」
「ランスロット……。ですが、私はアレスを守れなかった……その責任を私も取りたいのです」
「ならばこの戦いから生きて帰り、家族としてアレスの事を出迎えてくれる事が責任の取り方ではありませんか?」
 ロゼットがそう告げるとランスロットも同じ様に頷く。フィンはその言葉に涙を浮かべ流しながら自分の存在をそこまで受け入れてくれているランスロット達に感謝の言葉を告げる。
 ロゼットにフィンを任せてランスロットはルトを腕に抱くとこれからの事を話し合う。ルトはアレスが自分からラオンに連れて行かれた経緯を話してくれる。
『それでアレスは塔の崩壊にフィンや私を巻き込む事になるのを考えて、時間を稼ぐ為に自分からラオンの元に向かったのだ。本当にある意味健気な娘よ』
「だからこそ、聖女の力を目に付けられたと考えるべきかも知れないな。ルト、お前の本来の姿に戻るにはどうしたらいい?」
『私に神々から受けた力の一部を与えてくれればいい。そしたら私も本来の力を使う為に本隊の姿に戻る事が出来る』
「異界に行く前にお前を戻すぞ」
『分かった』
 ルトを腕に抱いたまま、報告に来た騎士達に最北部ティズル湖へ進軍する用意をする様に命じるランスロットは不意に空を見上げた。異界ともなれば神々の力を感じ取る事は困難だろう、それでもアレスは自分の身を餌に時間稼ぎに使うと決めたのは聖女の心になっているからだろうかと考える。
 そもそも、アレスの力は危機的状況の時に開花するのだろうと思っていたがやはり身体を穢された事で、その力のトリガーになったのではないだろうかと考えられる。そんな状態のアレスを支えたのは間違いなくフィンの存在でもあるのはランスロットは理解している。
 だからこそ、フィンの命を使って異界への入口を開く事は考えない。フィンもアレスも必ず無事に連れて帰る事をランスロットは目標にしていたのである。
「少々力任せにはなってしまうが……強引さも俺の性格だとアレスも知っているだろう」
「ランスロット様」
「ハルウッドか。準備は?」
「徐々に整い始めております。それとアルフォッドとオルベが先遣隊としてティズル湖に向かう申告をしておりますが如何しますか?」
「行かせてやろう。俺達本隊も直に動き出す。何があるか分からない以上、警戒は怠らない様に告げてやれ」
「はい、心得ました」
 ハルウッドがアルフォッドとオルベに先遣隊への派遣が許可された事を伝えに行くのを見届けていると空が光に包まれていく。神々が何かを伝えに来ていると感じ取ったランスロットは祈りを捧げる。
 光が一筋、ランスロットの身体に差し込むと空から数名の天使たちが降り立ってくる。その姿を見た他の騎士達は天使たちの美しさに息を飲んだり、驚きの瞳をしているのが気配でランスロットは感じ取れた。
『ランスロット様』
「皆は天使騎士の者達か?」
『我々は主である神々の命により、異界への入口を開く為に遣わされました。フィンの事も神々は大層お気にお掛けになっておいでです』
「お婆様の事も神々は気に掛けているのか。ありがたいお心遣いだ。皆は異界の入口を開く為だけに力を貸してくれるのだろうか?」
『はい。我々天使の力を使い異界への入口を作ります。まずは4人ですが、状況が整えば他の天使騎士達も降りてきて力を貸してくれるでしょう。今は入口を作る為にもティズル湖に向かうのです』
 天使騎士達は光を纏ったまま地上に降り立ち他の騎士達の前で深々と一礼する。ランスロットの指示に従うとの意思表示をした天使騎士達にまた部隊の士気が上がる。
 フィンと共に行動を頼む事にしたランスロットは1人の天使騎士からある物を手渡される。それは白くて貝殻の様な小さなペンダントであった。
「これは?」
『聖女の元にランスロット様のお声を届ける事の出来るペンダントでございます。聖女様と少しですが会話が出来ます。どうか、それで聖女の心をお守りしてあげて下さい』
「感謝する。アレス……」
 ペンダントを受け取りランスロットは全体の進軍準備が整うまでは1人で少し部隊から離れた場所に立って、ペンダントに祈りを捧げる。少しでもいい、アレスの声が聞きたかったのである。
 祈りを捧げていると懐かしい声がランスロットの心に聞こえてくる。ペンダントを通して愛おしいアレスの声が届く。
『ランスロット……? ランスロットの声がする……』
「アレス、俺の声が聞こえているか?」
『っ、ランスロットなの? 本当にランスロット?』
「あぁ、俺だ。大丈夫か? ラオンにまた何かされたりはしていないか?」
『今の所は大丈夫。ねぇ、ランスロット……信じてていいよねランスロットの事』
「あぁ、信じていなさい。必ずお前を……アレスをこの手で取り戻すと誓う、騎士の剣に掛けて」
『うんっ、信じている……異界の中心辺りだとは思う。そこに大きな城があるの。そこに私は閉じ込められているの』
「城だな? 分かった。進軍したらすぐに救出に行く。それまで耐えれるか?」
『耐えてみせる。だから……お婆様の事も守ってあげて。私はランスロットの事を心から信じて待てるから』
「アレス……戻ってきたら2度と離さない。覚悟しておけ」
『……はいっ』
 そこで会話が途切れてしまう。長時間の会話が出来ないのだろうと気付いたランスロットはペンダントを優しく撫でてアレスの声を思い出す。信じていると確かにアレスは告げている。
 ならば、この腕に必ず取り戻す事を騎士の剣に誓ってランスロットは顔を上げる。その顔には一切の迷いは見られない。
 進軍準備が整った事を知らせに来た騎士と共にランスロットは全軍の前に姿を見せる。ラインハッドを掲げて士気を高める為に激励を飛ばす。
「これより異界へ向かう為に最北部にあるティズル湖に向かう。皆の勇姿を聖女は心より異界の地で待ち続けている事だろう。我々はこの異界の地にて破者の王、ラオンとの最終決戦に挑む事となる。皆の剣にて光を注ぐのだ!」
「おー!」
 進軍が始まり、先遣隊の進軍から始まる。そして、同時に天使騎士達はフィンの護衛を申し出てくれたお陰でフィンの光の力も回復を見せて始めていた。
 ルトはフィンの腕に抱かれてフィンに話し掛ける。それはランスロットは必ずこの戦いを制する事を示唆するかの様な予見だと前置きをして。
『ランスロットは神々の申し子として戦うと宣言している。それは神々の最も求めていた流れだと思うのだがな』
「神々はこの戦いにてランスロットとアレスの力を、魂を見極めるおつもりの筈です。だからこそ、私はこの2人の魂を守りたいと思っています。祖母としての役目だと思っているのですが……過保護とでも言うのでしょうか」
『それでもいいではないか。お前が溺愛するのは亡き夫と息子の願いでもあるだろうしな』
「あの2人の血を受け継ぐからこそ、私は守りたいのです。大事な、私の家族だから」
 フィンの言葉に愛情を感じる事が出来る。ルトはこのフィンが何故天上界を降りてリーングルスに惹かれたのか。
 それは当時の2人を知る者達の言葉を聞かねば分からない事ではあるが、それでもルトはフィンがきっとリーングルスに惹かれたのが運命だった、と思う事にする。それだけの運命だからこそ、この先に待ち受けているラオンとの戦いもきっと勝利を勝ち取る希望があるのを、ルトは感じ取っていたのだから。
『(だが、ラオンがこの先何も手を打たないとは考えられない。それがこの先の運命にどう繋がってくるのかは不透明ではあるが、警戒するべき事には代わりはないだろう)』
 ルトの神獣としての本能が直感的にそう警戒を促してくる。それが結果、ランスロットを救う事になるのは言うまでもない。
 ティズル湖へ向かうランスロットを止める者がいるとしたら、それは一体――――?
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