私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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9章

66話「向かえ、異界へと」

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 ティズル湖へ向かっているランスロット達は道中に魔獣の襲撃も受けながら、これを退けながら進軍を続けていた。思っている以上に進軍の速度が上がっていないが、それでも確実に近付きつつある事は確かであった。
 先遣隊の勇ましい進軍のお陰で魔獣の襲撃の被害もある程度押さえられているのは確かで、ランスロットは少し本隊の主力部隊を先遣隊の補佐に回す決断をする。ロゼットとハルウッドがランスロットの背後に控え、ロルゾとガルドが先遣隊の補佐部隊を率いてくれる事になったので、ランスロットは馬の上で空を見上げていた。
「……」
「不安か?」
「いや、この空の上に神々がいるのは分かっているが、これから異界へと向かうと考えると不思議な感覚なんだ」
「不思議な感覚? それはどんな感覚なんだ?」
「……ラオンの事を地獄の果てにまで追い詰めて後悔させてやりたいなと思う位に、ラオンが憎くて仕方ない。アレスを穢した事、アレスを連れ去った事、それらが複合的に怒りを真似ているんだ」
「だが、それでも冷静さを欠かないのは団長としての経験故か」
「そうかも知れないな。だが、これは冷静でいられるのは意外とこの空のお陰かも知れない」
 ランスロットは青空を見上げながら静かに微笑みを浮かべている。この状況で微笑みを浮かべる事が出来るのは余裕の現れだとも考えられた。
 馬たちが静かに歩いている状態で前方から声が聞こえてくる。ロルゾが何かを知らせに戻ってきたらしい。
「どうした?」
「ティズル湖に行く道が大岩で塞がれているんだ。今アルディシアが魔力で破壊しようとしてくれているんだが、時間が必要だってさ」
「ラオンの時間稼ぎと思うか?」
「いや、こんな幼稚な手で時間稼ぎするなんて思えない。自然な障害だろうな」
 ロルゾに部隊の指揮を任せて、ランスロットは一時的に後方の部隊に向かって馬を移動させていく。フィンの様子を見に行くとロゼット達に告げてフィンの元に向かうランスロットは団長としてではない顔をしていたのを、ロゼットが確認していた。
 天使騎士達と馬に乗って移動していたフィンは前方からランスロットが来るのに気付くと、顔を向ける。ランスロットはフィンの馬の隣に自分の馬を合わせるとフィンに質問をする。
「お婆様に1つだけ質問したいのですが、よろしいですか?」
「私に答えられる事ならば」
「その……お爺様の事をお聞きしたいんです。父さんはお爺様の事を一切話をしてくれなかったので」
「それは仕方ない事でしょう。フルームが赤ん坊の頃にリーングルスは死んでしまいましたから、知らないから話せなかったと察してあげてほしいのです。それで、どうしてリーングルスの事を知りたいのですか?」
「俺にとって父さんの事も記憶にある中で……一度だけ父さんがお爺様の事で泣いていた事があったのを思い出して。その時の父さんはお爺様に一度でいいから「名」を呼んで欲しい、と言っていたんです」
「……あの子に、フルームは名を呼んで欲しかったのですね。天上界で再会をしていればいいのですが……。リーングルスは、本当に心優しい人間でしたよ。子猫の命を救おうとして雨の中腕に抱いていたり、天使の私を守る為に心無い人間達からの言葉や暴力から私を庇ったり……優しい人間です」
 フィンはリーングルスの事を思い出す事が辛くはないのだろう。話している横顔はとても慈愛に満ちている微笑みを浮かべている。
 ランスロットは祖父の事を少し聞けて嬉しかった。自分の祖父はどんな人間だったのかと、知らないままでいつも父親の求めていた「愛情」の正体を知る事が出来たから。
 フィンはランスロットの顔を見つめて眉を下げる。その顔にランスロットは首を傾げてフィンを見つめ返す。
「本当にランスロットはフルームに似ているのでしょうね。私とリーングルスは赤ん坊の頃のフルームしか知りません。でも、大人になったフルームの息子であるランスロットはどことなくリーングルスの面影を持っているので、それがフルームの面影なんだろうなと思います」
「お婆様にとってはお辛い、ですか?」
「いえ、嬉しいと思っています。愛する人の面影を持ってくれている孫とこうして一緒にいれるのは嬉しい事ですよ」
「なら良かった。……お婆様もアレスも、必ず俺が守って一緒に帰ります。それが俺の一番の目的でもありますから」
「ランスロット……ありがとう」
 フィンは小さく笑ってランスロットの左腕に触れると淡い光が左腕に宿る。そして、その光はランスロットの身体に飲み込まれていくと、身体の中から力を感じられる。
 ランスロットの瞳がフィンに向けられてフィンは小さく呟く。「お守り」だと言っていたがすぐに瞳を伏せると天に祈りを捧げ始める。
 フィンがいつか天上界に戻る日が来たら、ランスロットもアレスもきっと寂しさに心が悲しむだろうが、ちゃんと見送りは出来るだろうと考える。アレスは泣くかも知れないだろうが。
 ランスロットはフィンの護衛をしてくれている天使騎士達に一礼して、本隊に戻って行く。そして、進軍し始めて1週間が経過した頃、目的のティズル湖が見え始めて来た。
 あまりの大きい湖と水平線が見える事で海だと勘違いする新人達にベテラン騎士達が説明している光景があちらこちらに見られている。アルフォッドとオルベもハルウッドとロルゾにより説明を受けているが、2人はこの湖に違和感を感じる、とハルウッドとロルゾに告げていた。
「なんというか……威圧感を感じるっていうか」
「まるで、来る者を拒むって感じを受けます」
「お前達が感じるって事は他の連中も感じているのは間違いないだろうな。成長したな!」
「魔力がここに来て向上しているからでしょう。2人とも、着いてきて下さい。ランスロット様の元に行きますよ」
「「はいっ」」
 ハルウッドと共に先遣隊の部隊から本隊へ向かうアルフォッドとオルベ。ロルゾはハルウッドと同じ考えだからこそ、ハルウッドが連れて行った理由が分かる。
 このまま入口を開いたとして、全員で向かうのは得策じゃないのは明白である。だから、2部隊に分けるだろうとハルウッドとロルゾは考えていた。
 そして、その1部隊の方にアルフォッドとオルベを組み込ませてもらえないか? そうハルウッドはランスロットに進言する気で2人を連れて行ったのだろうと。実際、ハルウッドの考えはロルゾも分かるし、同じ親衛騎士のガルドも同じ事を言うだろう事も分かっている。
「本当、騎士としての顔しか今回は見せないねぇハルウッドの奴」
 アルフォッドがいるのに兄としての顔を見せない仲間に苦笑するしかロルゾは出来ないが。本隊のランスロットにハルウッドとアルフォッド達が合流すると早速ハルウッドが進言する。
「ランスロット様、異界突入組にこの2人を入れてみたいと進言させて下さい」
「アルフォッドとオルベか。新人達の士気に繋がるからか?」
「この2人もロドが向上しています。異界で更なる成長が見込めますし、戦力としても申し分はないかと。私とガルドがランスロット様のお傍を離れている間にランスロット様の護衛を任せれるかと」
「「!!」」
「お前はアルフォッドの兄としての意見ではないのか?」
「いえ、1人の騎士として平等にこの2人の実力を知っているので進言しています。この2人ならきっとランスロット様の護衛も勤まります」
「ハルウッドがそこまで言うのだ。信じていいのではないか?」
「お前達はどうだ?」
「僕達が全力で団長の事をお守りします!」
「1人の騎士として推薦してくれた兄さんの言葉を裏切らない様に、全力で守ります!」
 嬉しいのだろう、1人の騎士として実力を分かった上で自分達の事を推薦してくれたハルウッドが信じてくれた事が。オルベもアルフォッドも真剣な顔と瞳を団長であるランスロットに向けている。
 親衛騎士のハルウッドが進言するだけの実力があるのはロゼットもランスロットも知っている。だから、2人を突入部隊に組み込み、尚且つランスロットの護衛に付ける進言を受け入れる事にしたのは、この同期組の存在はアレスを救出する際に重要だとも思えたからだ。
「ならばアルフォッド、オルベ、異界への突入後はハルウッド及びガルドがいない時は俺の護衛を頼むぞ。間違っても自分の身体を盾にして守ろうと言うのは無しだ」
「はい!」
「分かりました! 騎士らしく、剣で団長を守ります!」
「報告! 湖の中央に続く道が出現! 我々の進軍を予知していたかの出現です!」
「誘われている、と考えていいようだ」
「その誘いに乗る気でいるがな俺は」
 ランスロットの瞳に揺らぐ炎が宿る。誘われているのであれば乗ってやろうという気概の現れ。
 そして、突入部隊にはハルウッド、ガルド、ロゼット、ランスロットが。待機組にはロルゾ、フィン、一部の騎士達が言い渡される。
 天使騎士達が空に舞い上がり異界への入口を開く為に剣を引き抜き、天上界からの力を剣先に集めて異界への干渉を始めた。フィンはランスロットの横に来て静かに見上げてくる。
 ランスロットの右手がフィンの左手に触れて優しく握り締める。それは待っててくれ、との願いと言葉を込めた触れ方であった。
 入口が徐々に姿を見せ始める。ランスロットのラインハッドが空に掲げられてランスロットの声が周囲に響き渡る。
「これより突入部隊は私に続いて異界へと突入する。残った者達は周囲に警戒し、入口が塞がれない様に守りを頼む。さぁ、我々ティクス聖騎士団の本当の戦いをしに、神々の名の下に向かうぞ!」
「おー!」
 入口が完全に開けば闇の力がすぐに異界へと導く様に広がり始める。ランスロットの馬が入口への道を走って開いた入口にへと突入すると、遅れてハルウッド、ガルド、ロゼット、エリッド達、アルフォッド、オルベ達も突入していく。
 入口に消えていくランスロット達を見送ったフィンは両手を胸に添えて神々に祈りを捧げて無事を願う。自分達は戻ってくる事を信じて、この入口を死守しなくてはならない。
 そして、そのフィンの祈りに答える様に天上界でも動きがあった。神々は2人の魂を地上へと向かわせる為に魂の2人に言葉を掛ける。
『リーングルス、フルームの両者。覚悟はいいか?』
「偉大なる神々の前で私達の決意など小さき事。私達の血縁がこの世界を光に満たさんとする為に異界へと旅立ちました。私達の魂を地上に行かせてもらえる、それはあの者達が戻る為の入口を守れとの事でございましょう?」
「俺と父がこうしてもう一度剣を握れる事をお許ししてもらえるだけでも奇跡。そして、母と父との再会をさせて下さる神々にはこの上ない感謝を捧げます。我が息子、ランスロット。我が娘、アレス。この2人をどうぞご慈悲を」
『貴方方の勇姿をもう一度このガハランド大陸に示す時の訪れです。さぁ、お行きなさい。そして、最期の勤めを果たすのです』
 ランスロットとアレスの祖父であるリーングルス、父であるフルームの魂が地上に解き放たれる。神々はこの両者の願いを聞き届けて、異界へと旅立ったランスロットへの力にする事にしたのである。
 今ここに、神々と破者の王ラオンとの激闘が始まろうとしていた――――。
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