私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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9章

74話「不穏な動き、そして明らかになる目的」

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 アレスの夢の中、ただ、花の広がる場所にアレスは立っていた。その場所にアレス以外は存在していない。
 そこに1輪の花が咲いている。まるで多くの花の中で自分だけが特別の様な咲き方をしている花をアレスはそっと撫でる。
「綺麗だけれど、寂しいのかな……」
 花の1輪だけの咲き方に寂しさを感じ取ったアレスは花を見つめて小さく呟く。すると答えが戻ってくるかの様な風が吹き始める。
 アレスのブルーの髪が風に揺れてフワフワとする中で、その風の中にアレスは声を聞いた。その声には何故か神秘的な印象を受ける。
『御子様、御子様、御子様は何を願うの?』
「私が願う事?」
『そう! 御子様のお願い事を知りたいな!』
「私は……この戦いが終わったら大好きなお婆様と、ハルウッド様達と、そして……愛するランスロットの傍で静かに暮らしたいな」
『それが御子様の願い?』
「そうだよ。それが叶えようと今頑張っている途中なの」
『そうなんだね! 分かった! 私も力を貸すよ!』
「アナタはだぁれ?」
『私は……』
 そこで目が覚めたアレスは不思議と身体の疲れが取れている事に気付く。休んだお陰だろうかと思いながら身体を起こして背伸びをすると先程まで見ていた夢の事はあっという間に忘れてしまった。
 そして、ラオンのロド分断が成功した。その報告がローレンスとロルゾの部隊から上がってきた事でランスロットの決断は早かった。
 近接が得意な騎士達を前線に、中線には魔法騎士達が、後方には弓矢部隊の3段階の編成を組み上げて、ラオンとの主力部隊との戦いに備えようと決めたのである。そして、変性が進んでいく中でラオンの部隊にも動きが徐々に見られる様になった。
「どの様に動いている?」
「円を描く様に展開している模様です。取り囲む気でしょうか」
「それにしては派手に動き過ぎだと思うけれどな」
「ロドが断ち切られたから動きは派手にしてロドの消費を抑えている、とも考えられるね」
「どちらにせよ、ラオンの陣が完成する前に端から叩く。左翼はエリッドとアルディシアが。右翼はトールデッドとレーデアが。中央はガルドとロルゾの部隊で1点集中で行くぞ!」
 ランスロットの命令が全体に届くと速やかに動き始める騎士達。だが、ラオンはそんな騎士達を本陣から眺めながらニヤリとほくそ笑む。
 お互いの陣がぶつかり合う部分では戦闘が開始される。そして、近接部隊はガルドの指示の元でロルゾの援護を受けながら中央突破を行っていく。
 魔物自体はそこまで強くはないが、なんせ数が多いのもあって地道に削っていくしか方法がない。だが、それでもまだ士気の高さや気力の余裕さはまだランスロット達にあるといってもいい。
「いいぞ……そのまま余裕を持っていればいい。それこそが俺の狙いなのだからな」
「ご報告致します。魔法陣のロドの充填率が100%を超えました」
「相手には気取られていないだろうな?」
「ご安心ください。神々すらもこの魔法陣の存在は認識出来ぬ様にしております」
「ならば良き。それでは召喚の儀式を執り行え。狙いは……星導きの者達の力だ」
「御意」
 ラオンの部下である男達はすぐに命令通りの行動をし始める。神々すらも認識出来ない魔法陣の存在を造り上げているのは闇の導きの者達である。
 そして、ラオンはその魔法陣を用いて何かの召喚をし始めるつもりでいた。その為にもエリッド・トールデッド・レーデア・アルディシアの4名の力が必要である。
 魔物達が4名の星導きの者達に集中して力を使わせに掛かる。そして、ラオンの狙い通りに4人はロドを使ったり、光の力を使ったりとラオンの力になるとは知らずに力を使い始める。
 男達がラオンの背後に並んで魔法陣を輝かせ始める。そして、強力な闇の瘴気が魔法陣から溢れ始める。
 その闇の瘴気が触れた大地は腐り始め、瘴気に触れた生命は枯れ果てて死んでいく。その瘴気がエリッド達に迫る。
「なに……この瘴気……嫌な感じがする」
「これは……闇の瘴気だよね……?」
「光の力があればこんなの」
「皆! この瘴気に触れてはいけない! 逃げて!」
 レーデアがいち早く危険性を察知するが、もう手遅れだった。瘴気に飲まれ始めた部隊の騎士達は死に絶えていき、エリッド達は身体から急激に力が抜けていく事に気付く。
 レーデアが瘴気を浄化しようと水の力を使おうとするが、それすらも出来ない程に力が急激に失われていく。ランスロット達にもこの状況は伝えられた。
 死に絶えた騎士達は全員が骨になったというだけではなく、力のある者達には瘴気は力を吸い取っていくのか、エリッド達が行動不能に陥っているという。瘴気を生み出しているラオンの本陣がある方角を見ていた物見から報告が上がる。
「ご報告致します! ラオンの本陣に巨大な影を確認出来ます!」
「その影の姿は確認出来なかったのか?」
「それが、影だけしか判別出来ない程に、本陣が瘴気に包まれておりまして……」
「それじゃ判別出来ただけでも上出来って事ですね。どうしましょうか」
「まずはこの瘴気をなんとかしなくては進軍もままならないでしょう」
 ローレンスとハルウッドがランスロットに視線を向ける。だが、ランスロットに迷いはなかった。
 テントを出てラオンの本陣から溢れ出る瘴気を浄化する為に天に祈りを捧げてから、腰に下げているラインハッドを引き抜き空に翳す。天から光が差し込み、ラインハッドに降り注ぐとランスロット達の本陣を中心に光が大地を包み込んでいった。
 腐り果てている大地は光のお陰で息を吹き返し、そして、瘴気に飲まれてしまった死んだ騎士達の魂は天に昇華されていく。エリッド達も光を受けてなんとか歩けるまでの行動力を回復させたので、本陣に下がり始める。
「これでひとまずは瘴気は浄化出来た筈だ。だが、ラオンの本陣で何かの巨大な影が何者の影なのかを把握しなくてはこちらも下手に動けないという事は間違いないだろう」
「まずは減少した部隊の確認を行います。ロルゾやガルドの部隊も少なからず減少しているとは思いますので」
「私は星読みをしてみて、影の存在を確認出来るか調べてみましょう。最悪、アレス嬢のお力を借りねばならないかもしれませんが」
「その時は神々が力をお貸しして下さるだろう。情報が集まり次第軍議を開く。そして、一気にラオンとの決着に向けて動くぞ」
「「はっ」」
 ランスロットは情報を集めるのと、今後の動きを考える為に戻ってきた騎士達の報告を受け取り、適時判断を下していく。星読みである程度の姿が絞れればいいだろうとは考えていても、最悪な事を考えてない訳ではなかった。
 ロルゾ・ガルドが報告に上がるとハルウッドも同席する。どうもあの瘴気にエリッド達は力を奪われて、ガルドとロルゾには体力を奪う効果があったと分かった。
 死んだ騎士達の殆どがロドを持たない純粋な剣技だけの騎士達だったと分かって、瘴気は何かの目的があって放たれていると考えていいと思われていた。だが、ローレンスが星読みの結果を持ってきた事でそれは覆る事となった。
「異世界の魔王を召喚している……と、いう事か?」
「はい。それもかなり強力な魔王だと星には出ておりました」
「それはそれで、どうしてそんな存在をラオンは呼べるんだよ」
「悪党には悪党のツールがあるんじゃねぇのか?」
「それとは別に、ラオンの器になっている人間の知識にそんな知識があったとすれば……考えられない訳ではありませんが」
「仮にそうだとしても、だ。魔王がこのガハランド大陸に降臨する事になってしまえば……ガルディア戦争とは比べ物にならない激戦が予想される。そうなれば国の1つや2つは滅んでもおかしくない」
「そうなる可能性もかなり高いと出ております。神々の力を借りたとしても魔王相手にどこまで対応出来るかは不透明になります」
 ローレンスの言葉にロルゾもガルドも言葉を飲み込む。ハルウッドはランスロットの考えが分かる事もあって、あえて言葉を挟む真似は控えた。
 魔王が仮にこのガハランド大陸に降臨するのであればティクスとエドゥル国の共同戦線だけでは正直対応は難しい。そうなってくれば近隣諸国の力を借りる必要性を考えなくてはならない。
 ランスロットの手がペンを持ち、サラサラとロゼット宛てに手紙をしたためる。そして、それをロルゾに私て一言付け足す様にロルゾに伝えた。
「ロゼットにはこう伝えてくれ。「近隣諸国に協力を仰ぐ。悪魔の再来と破壊の神の出現」とな」
「それで伝わるのか?」
「ロゼットならこれで分かるはずだ。お前なら早馬で行けるだろう。頼むぞ」
「あいよ」
 ロルゾが早馬にてティクス国に向かうのを見届けていたのはアレス。アレスも瘴気のせいで死んだ騎士達の魂の昇華を祈っていたのである。
 ルトはアレスの肩に乗り、静かにラオンの本陣を見つめる。その瞳には何かを考えているかの様な強い決意が秘められているのを感じ取るアレスだった。
「ルト……どうかした?」
『ラオン、もしかしたら、もはやあの男の魂は”食われ”ているのかもしれない』
「”食われ”ている? それってあの瘴気を放つ何かにって事?」
『そうだ。でなければこんなに手の込んだ動きはしないろう』
「何かのタイミングってルトは言っていたけれど、そのタイミングが近いから動きがゆっくりって事はないのかな? それしか私には分からないのだけれども……」
 アレスにはラオンの考えは分かるつもりはない。だが、あの男……ラオンが何かを企てているのは間違いないのである。
 そして、アレスはこの空の下で神々のいるだろう天上界へ視線を向けると小さく祈りを捧げる。どうかこの戦いで誰かが傷付く事のない結末になりますように、との願いを神々に捧げて。
 だが、それすらも嘲笑うかの様な瘴気の広がりが再度始まるのを報告で知るランスロットは瞳を細める。こうなってくるとランスロットだけの光の力ではあまり収まりが見られないという事である。
「……アレスを呼んでくれ」
「聖女の力を使うのですか?」
「それしか今の所、方法がないんじゃなぁ」
「瘴気を一時的でも封じなければ進軍もままならない。それは報告に上がっているからな。アレスの力と俺の力でどれだけ封じれるか分からないが、やるだけやってみるしかない」
 ランスロットの言葉にハルウッド達は頷いて、ハルウッドがアレスを呼びにテントを出て行った。アレスもまたハルウッドから呼ばれた理由を聞いて覚悟を決めるのであった――――。
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