私の恋人は異母兄で聖騎士団団長の凄い人

影葉 柚希

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10章

75話「申し子の肉体を狙って」

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 聖女アレスと聖騎士団ランスロットの力を以って、闇の瘴気を一時的に封じる事を検討していたランスロット陣営。エリッド達も体力は回復したが、ロドの回復や光の回復は思っている以上の時間を要する事に戦力が低下する事は免れない。
「瘴気を封じたとしても、戦力がこのままだとこっちが負け戦だ」
「かと言って援軍を期待する事も出来ませんし……弱りましたね」
「ここで本隊が引けば、ティクス国内での戦闘は免れません。なんとしてでも、踏ん張らないといけません」
 ガルド達の言葉にランスロットの眉間の皺も深く刻まれている。アレスも同じテント内にフィンとエリッド達といるが口を挟める雰囲気ではなかった。
 それだけではない、瘴気が広がりを見せているだけではない……異世界の魔王がその存在をこのガハランド大陸に出現させようとしている事で、騎士団の士気が下がり始めているのである。このままでは混乱は起こる事はないだろうが、思った以上の成果は期待出来ないと言ってもいい。
 どうしたらいいのだろうかと考えているとロルゾの声が聞こえてきた。まだ早馬で出て3時間しか経過していないのにもう戻ってきたのは何か異変があったのだろうかとランスロットの脳裏に嫌な予感が走る。
 テントに入ってきたロルゾの後に続いてガーベルが姿を見せた。ガーベルの姿を見たランスロットの瞳が大きく開かれて驚きを見せる。
「ガーベル、どうして君が」
「吉報とティクス国の動きをご報告しに参りました。ロゼット様の率いる援軍とルーディル様率いる援軍が間もなくこの地に到着されます」
「おぉ、ロゼットが動いたか」
「それにしてはタイミングが良過ぎると思いますが……」
「何か事情がある、そうだろう?」
「はい。実は……」
 ガーベルはランスロット達が出立した直後に、ロック王に神託が下されたと話す。その神託には異世界の魔王の復活と、それによるガハランド大陸の未曽有の危機が訪れる事が記されていた事が告げられたとロック王からのロゼットに話があった。
 そして、ロック王は父であるルーディルに王として同盟の立場を活かしてロゼット率いる援軍と共に援軍を出す様に願った。それをルーディルは聞き届けて今回の援軍となったという。
 アレスは胸の前に両手を組んで祈りを捧げて神々に感謝を告げて、フィンはそんなアレスと同じ様に神々に祈りを捧げる。ランスロットはロルゾが戻って来たのはガーベルと合流したからだと分かって、ガーベルに視線を向ける。
「ガーベル、少し聞きたい事があるのだが……いいか?」
「なんでしょうか?」
「近隣諸国はこの事については?」
「我関せずです。自国の防衛のみに力を注いでいます。これでは援軍もままならないでしょう」
「やはりか。まるで滅ぶのを待ち侘びていると考えられる様だ」
「実際、滅びを待っているのでしょう。そうでなくてはティクスに援軍を出さないという考えはない筈です」
 ガーベルはそこまで言うと近隣諸国の動きについてはあまり言いたくないらしい。そして、ランスロットの元に援軍の報告が届くのはその軍議から5時間後の夕方頃だった。
 ロゼット・ルーディルが率いてきた援軍を合わせてラオンの軍勢を大きく上回っている。だが、これだけの多さを連れてきたという事は自国の防衛には然程置いていない事を意味する。
 それを考えるとランスロットの頭が痛むのは仕方ない。そして、ロゼット達が兵を休ませている間、ランスロットはテントの外に出て空を眺めていた。
 その空に暗雲が立ち込める。雨雲だろうかとランスロットの瞳が細められていると暗雲から巨大な両手が伸びてきた。
「なんだ?」
『我が依代。逃がさぬ。逃がさぬぞ』
「ラオンか!」
『我が名はバルキット。異世界の魔王なり』
「!!」
『その肉体を寄越せ。我が魂の器として選ばれた申し子。お前は我が肉体となって、永遠の地獄を味わうのだ』
「ごめんこうむるな。ラオンもだが、お前の依代にもなるつもりはない!」
『逃がさぬ。お前は我が肉体となる運命なのだからな』
 暗雲はその場で散り、そして、両手も消え失せた。それを見ていた騎士達とアレスは不安から動揺を招いてしまうがそこはフィンが祈りで光を呼び寄せて落ち着かせる。
 申し子であるランスロットの肉体を狙っているのはラオンだけではない。異世界の魔王と言っていたバルキットも同じなのだと知るとランスロットは小さく溜め息を吐き出す。
「こんなにも人気だと、少々動きにくいな……」
「ランスロット!」
「アレス。どうした?」
「大丈夫? ランスロットの事は私が守るから……だから、無理をしないで」
「大丈夫だ。アレスの笑顔と支えがあればどんな事にも負ける気はしない」
「なら、いいのだけれども……」
「信じれないって顔だな?」
「そんな訳じゃないけれども……」
 アレスが不安に思うのも仕方ないと思っているランスロットの脳裏には、先程のバルキットとの会話が思い出される。アレスの事をバルキットは狙っている様には伺えなかった。
 ラオンの方はまだアレスを狙っているのだろうが、バルキットは純粋にランスロットの身体を欲しているのが分かる。このままいけばラオンとの決戦後にバルキットは間違いなくこのガハランド大陸に出現するのは確定だろう。
 その時に今の戦力で戦えるかは不透明過ぎる。だが、これ以上長引かせて騎士達の疲労を増やすのも得策ではないのもランスロットの経験で分かっている。
「アレス」
「なぁに?」
「少し無理をする」
「……私はどうしたらいい?」
「サポートを頼みたい。こればっかりは信用出来る人間にしか頼めない」
「ん。分かったよ。それじゃハルウッド様とガルド様にも知らせてくるね」
「あぁ、頼む」
 アレスがハルウッド達の元にランスロットの無理を伝えに行くと、ランスロットの瞳には強い決意が宿り始めていた。ランスロットが無理をすると言っているのは騎士達全員に光の力を付与して、そして、その光を集中させてラオンの本陣を突破するという方法である。
 これは正直言えば、アレスの力を使わないでランスロットの力だけでやろうとしているのも無理の1つでもある。だが、今アレスの力を使う訳にはいかないといランスロットの脳裏にはそう考えていた。
「少しでも希望を繋ぐ為にも、温存出来る力は温存して、最期に使えるタイミングを計らなくては……」
「ランスロット」
「ルーディル様……なにか?」
「これを妻から預かってきた。聖なる武器についての真実だと聞いている」
「聖なる武器の真実?」
「あぁ、聖なる武器こそが異世界の魔王の力を削ぎ、そして、倒せるだけの存在の力を持つ武器であるという事はお前には知らせておくべき事だろうと李麗は考えたのだろう」
「エドゥル国のマリージュ達にも神託が?」
「さぁな。俺はティクスを出る前にこの手紙を受け取っただけだ。だが、李麗に関しては彼女は先の未来を”読む”力がある。それで見越したのかもしれないがな」
 ルーディルはそれだけ告げると手紙をランスロットに手渡して、兵士達の元に戻って行った。そして、手紙を受け取ったランスロットは手紙の風を開けて中身を確認していく。
 書かれていた聖なる武器の真実にランスロット瞳が大きく見開かれる。そこに書かれている事実を知らない方が当たり前だと言える内容であったからだ。
「まさか……聖なる武器に”自我”があって、その自我は刻がくれば覚醒し、人の姿を取って主となる者の元に来る……それが今起ころうとしているって事なのか」
 自我を持つ聖なる武器がティクス国だけではない。エドゥル国の聖なる武器にその予兆が見られていると手紙には書かれていた。
 それが本当であるならば、この戦いに聖なる武器の存在はかなり大事な位置になると考えていいだろうとランスロットは考えた。ティクス国の保管庫に保存されている聖なる武器は4つ。
 残りの1つはエドゥル国の李麗が持っている。李麗の持つ聖なる武器が擬人化した場合、その情態でこの地にやってくる事になるのだろう。
 そうなれば混乱が起きる事も考えられる。そうしない為にも情報の共有をした方がいいなとランスロットは本陣内のメインテントに足を向ける。
「それじゃ、聖なる武器の自我が目覚めて、しまいには人型になって強力な助っ人として来るって事か!?」
「それはそれで……摩訶不思議な感じがしますが……」
「だとしてもよ、それはそれで戦力が増えるって意味ではありがたい話ではあるよな」
「星の動きを見ても、そう遠くない未来にその聖なる武器達は合流すると思われます。心しておかないと、他の者達も動揺してしまいますからね」
「でも、李麗様はどうしてそんな事実をご存知だったのでしょうか?」
「調べたんだろう。インブルならば聖なる武器の事実も所蔵されていてもおかしくはない」
 ランスロットはアレス・ガルド・ロルゾ・ハルウッド・ローレンス・ロゼットのメンバーに話をしていた。ルーディルは念の為に監視役を担当してくれているので、後からロゼットが話をしてくれる事になっている。
 全員が驚きと困惑に満ちているがそこにフィンが姿を見せる。アレスがフィンに近寄るとフィンもアレスの髪の毛を撫でて微笑みを浮かべてランスロットに顔を向ける。
「ランスロット、天使達の力を借りては如何でしょうか?」
「天使達の力を借りる……それはありかもしれませんが、俺が呼べるのは天使騎士だけです。お婆様の様な純粋な天使を呼ぶ力はありません」
「それは大丈夫です。アレスの力と私の力を借りれば純粋な天使達の召喚も貴方なら出来ます」
「ですが、純血の天使を呼んでどうするのですか? 何の目的で呼ぶのかは分かり兼ねますが……」
「純粋な天使はその身体に秘めているロドと神気は神々には劣りますが、異世界の魔王がもたらす瘴気を浄化するだけの力は持ちます。浄化しなければ進軍出来ないのであれば、天使達の力を借りる事も考えていいかと思うのです」
 フィンの言葉にランスロット達も考える。確かに瘴気をどうにかしなくては進軍も出来ないし、このままだと死者が増えていくだけである。
 ランスロットは少し考えて天使召喚を執り行う事を決定する。その為にはまずアレスとランスロットは一時的にティクスに戻り、身体と魂の清めをする必要があるとフィンは告げる。
「清めさえしてしまえば後は私とアレスの力をランスロットに注ぐだけです。なのであまり気負う必要はありません」
「分かりました。それじゃ俺とアレスは一時的ではあるがティクスに戻る。後はロゼット、任せるぞ」
「分かった。気を付けてろよ」
「あぁ」
 こうしてアレスと共にティクス国に戻る事になったランスロットは、アレスを馬に乗せて本陣を後にするのであった――――。
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